「森の悪夢」
「しかし、よりによってブロンズ地区まで呼び出されるとはな」
人気のない乗合馬車の停留所で、ジョナサンはぼやいた。
「おそらく確実に土地が確保できたのが、ブロンズ地区だったのでしょうね。
ケントルム市内でも、西の端となれば地価は安いですから」
そう答えたアリーナに対して、ジョナサンは頭をかいた。
「ま、金持ちの考えることなんて、俺にはわかんねぇよ」
「珍しく同意です」
そんなふたりの会話を聞いて、ユキナリとグロリアは今回もただでは済まないだろうと思い、顔を見合わせた。
ほどなくして、馬車がやって来た。
馬車は途中でいくつもの停車場に停まり、一行がブロンズ地区にたどり着いたのは、午後11時少し前だった。
辺りを見回すと、のどかな郊外の景色が広がっていた。
挑戦状に同封されていた地図を見て、アリーナは言った。
「こっちですね。
おそらくあの、森が広がっているあたりでしょう」
一行は地図の指示通りに進み、森の中に入った。
森と言っても手入れはされているようで、石畳の道が整備されていた。
木々もきちんと剪定されているようで、うっそうと茂っているというわけではなかった。
むしろ心地よい木漏れ日が差し込んでいた。
道沿いに森を進むと、唐突に大きな屋敷が現れた。
ただ屋敷全体は極彩色に彩られており、およそ森とは似つかわしくなかった。
「ここ、ですかね。
少なくとも、地図によればそうです」
アリーナは地図と屋敷を見比べてそう言った。
「なんだ、こりゃ!
まるで『森の悪夢』だな」
思わずそう漏らしたジョナサンに、グロリアが応じた。
「団長、そんなフレーズ、よく出てきましたね。
でも気持ちはわかりますよ。
なんだか色遣いが気持ち悪いですもん」
「顔料を適当にぶちまけたような感じだな。
秩序と言うものが、およそ感じられない」
ユキナリがそう同調すると、アリーナがその場を締めた。
「とりあえず、中に入りましょう。
ここであれこれ言っていても、なにも動きませんよ」
「それもそうだな。
よし、みんな行くぞ!」
ジョナサンはそう掛け声をかけると、屋敷のドアを開けた。
一行が屋敷に入ると、ドアはひとりでに閉まり、カチリと音を立てた。
最後尾にいたユキナリが、ドアノブに手をかけたが、ドアはびくともしなかった。
「閉じ込められたみたいだな」
ユキナリが表情ひとつ買えずにそう報告すると、ジョナサンはひと息吐いた。
「からくりを解かないと、出られないってことか。
しゃあねえ、やってやるよ!」




