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覚悟


沢山の観客で埋め尽くされたドームの中央、整備が行われるバトルフィールドの両サイド、最終ミーティングを終え、これから戦う選手たちがその時を今か今かと待ちわびていた。



そんな西町谷の控えベンチ前方で試合の準備をする選手たち。その少し後ろ、観客席からは死角になる3列目ベンチ。少し影がかかるそこに座るのは一人の大人の男性と一人の少年。



その男性は細身だがよく注意してみると、無駄なく鍛えられていることが分かる。少年は明らかにガタイが良い。男性は落ち着いて準備する選手たちを眺めるが、同じように選手を見る少年の目には、少し不安が映っているようにも見える。



「後藤先生、本当によかったんですか、僕が出なくて。」



「もう決めたことだろ。それとも、あいつらが信用できないか?」



「いえ、ですが、全力を尽くさずに、万一でも負けたら…」



「ああ、後悔は尽きないだろうな。俺も、あいつらも、そして君も。………だが……………」



「……ええ、分かっています。僕だって、覚悟ぐらい、しています。」



「ああ。…それでいい。」







§





  観客席の一角、蘭花の3人、西町谷のデータの眺めるマツが鎧井先輩に疑問を投げる。



「これ、見てください。去年の、いえ、これ今年の冬のデータみたいなんですけど、西町谷のデータ、この“佐々木 誠二”っていう選手、チームのエースだってかいてあるんですけど、今年のパンフレット、西町谷の出場選手に、この佐々木選手、いないんです。」


 それをきいた鎧井先輩が答える。


「そうか…確かに変だな。今年の冬の段階でエースの奴がレギュラー漏れするなんて考えづらい。ましてやレギュラー級の怪我なんてありえないからな…」



 中学生の成長は早い。落ちこぼれだと思っていた選手がいつの間にかその学校の顔になるなんてことも珍しいことではない。だが、その逆はほとんどないといっていいだろう。スランプがあったとしても、エースがレギュラー漏れするなど、余程のことが無ければあり得ないだろう。



 怪我の可能性も低いだろう。選手の全身は魔装に守られている。それに、魔装が無くとも、生きとし生けるものそのほとんどすべては、その肌を、体を、常に魔力で守っている。魔闘は激しい競技だが、同時に魔力の扱いにもたけた者が多い。レギュラーの怪我など中学生全体で見ても1年間でせいぜい数人といったところだ。そのなかでも上位の選手だけ見ればもっと少ないだろう。




「だとすると…温存しているとかでしょうか。それこそ情報を得られないために。」



「いや、ティー、それもないな。各試合で倒した人数が多ければ多いほど本戦トーナメントで有利な配置が得られる。それに負けちまったら元も子もないだろ。蘭花も技や戦術を温存したりはするが、選手の温存はしないな。ましてや相手は前大会ベスト16だぞ?格下だとしても流石にリスクが大きすぎだ。」



 上位校にとって、予選では本戦の切符が得られればそれでいい、というものではない。予選の戦績が良ければそれだけ、一戦目にあたる相手が下位の相手になる。一位が最下位と戦うといったような形式だ。順位が上がれば上がるほど、強敵と戦うリスクを避けられる。



「……もし、仮に、温存だとしたら、今年の西谷は相当自信があるってことになるぞ…」






 そして、試合が始まる。






『先鋒2on2!!西町谷中学は森原選手、長渕選手の二人だ!対する千原中学は高田選手と田淵選手だっ!!』



西町谷の二人。



「長渕君、この試合、必ず勝とうね…!」



真剣な表情で相方の長渕にそう告げる森原ちさと。



「そんなに身構えなくても余裕だろ。まあでも、佐々木に俺たちだけでも大丈夫だって、見せてやんねえとな。」




千原の二人。



「いきなり西谷のなんてついてないですよねええええーーー」



 あくびをしながらそうぼやく千原の田淵。どこか気だるそうな態度だが、この場に立っている、ということは相応の実力者に違いない。ちなみに、「西町谷」のことを選手たちは「西谷」と呼んでいる。呼びづらいからだ。



「あくびしてんじゃねえよ、田淵。…だが、ここで勝てれば全国は決まったようなもんだ。」



 それに答える高田。田淵の先輩だ。こちらは少し緊張した趣きで西町谷の二人を見ている。



「そうですねぇ。どちみち超えなきゃいけない壁ですよね。早く超えて、あとは楽したいですねええええーーー」



「……楽、にはならないと思うが、超えなきゃいけない壁には違いないな。」





レフェリーが声を上げる。



「両者、準備はよろしいでしょうか!?」



それに両者は応答しない。だが、彼らの構えから、準備が整っていることは明らかだった。



「それでは西ブロックC会場第2試合、先鋒2on2!始めっ!!」




  両者が身構える。動き出さず睨みあう。切り込むチャンスを見つけるべく、注意を張り巡らせる。


 先に切り込むべきか。カウンターを狙うべきか。シーズンの序盤の試合では相手の情報は去年のものに限られる。全く情報のない選手も少なくない。一つのミスが命取りだ。




 千原の田淵が動き出す。



「来た!長渕君お願い!!」



「任せろ!!!サンダーブレードッ!!」


「アイスランス!!」



千原の田淵選手の氷の槍と、西町谷の長渕選手の雷剣が衝突する。



そして氷槍が押し出される。



『最初の衝突は西町谷が優勢だ!だが、千原の田淵選手もそのまま引き下がるつもりはないようだっ!!』


 西町谷の長渕が余裕げに言う。



「お、今年の千原はその程度か?それじゃ全国はきついと思うぜ?」



「西谷こそ、その程度じゃ足元救われちゃいますよ?ん…あ、あーーーーー」



 気だるそうに答える千原の田淵選手。



「……行くぞっ!」



「はっ!!」



 再びの衝突。



 今度は千原の田淵選手が踏ん張り衝撃をこらえる。



「……次は耐えるか…でもこのままじゃその槍、折れちまうぞ…」



「……ええ。」



 西町谷の挑発に怯むことなく、田淵選手が耐える。



「!?長渕君!!!!」



「えっ」



 つばぜり合いをする長渕選手が突然横に吹き飛ぶ。



 倒れる西町谷の長渕選手。だがすぐに起き上がる。



「くっそ、二人とも近接職だったって訳か。俺が気づかねえなんてちょっと油断したな。」



 後方にいた高田選手が素早く接近し炎の槍で攻撃を仕掛けていた。



「いいぜ。二人まとめて相手をしてやる。」





 その時、後方の森原が突然叫ぶ。





「はあああああああ!!!!」







 それをみた千原の2人が全てを察する。


 

「まさか!覇王!!」



「先輩、やばいですよ!!俺たちで、覇王を抑えるのはさすがにきついです!!」



「止めるぞ田淵!!俺が奴を足止めするからお前は覇王の召喚を阻止しろ!!」



「了解です、先輩!」





「だから、二人まとめて相手してやるっていっただろ?」


「何!」




 森原選手のもとに行こうとする千原の高田を阻む長渕。



「だから、いかせないっつたろ」



 強引に突破しようとする田淵と高田を長渕の流れるような剣技が阻む。



 なんとか隙を作ろうと探るも、2対1にもかかわらず、隙が作れない。ただ徒に時間だけが過ぎていく。



(こいつ!くそ!二人がかりで抜けれないのか!!)



(これが西谷…!……だけど!!)



「はああ!!」



田淵が激突する槍を投げ捨て西町谷の岡山の横を滑るように駆け抜ける。



「残念、もう遅いぜ。」



「はああああああああああ!!!!」





 光が、駆け抜けた。










 煙が晴れ、覇王がその正体を現す。




「『天の使い 天使エンジェル』、行くよ…!」



 身長5メートルはあろう巨大な光輝く金色の女性天使が舞い降りる。魔力でできたその体から放たれる煌きが会場を包む。




「メロム・ライト」




 森原選手が魔力を高めるとエンジェルが光のハーブを奏でだす。するとエンジェルの周囲に無数の光の玉があらわれる。


「降り注げ…!」




 その瞬間、無数の光の玉はフィールド全体に降り注ぐ。



「くそ!田淵!!全部は無理だ!可能な限り避けるぞ!!」



「はい!!」



 降り注ぐ光の玉を少しでもよけようとする二人、森原選手がコントロールしているのか、味方の長渕選手には当たる気配がない。



「先輩!これやばいっす!魔装がどんどん!削られてる!!」



 田淵の魔装に光球が当たるたび、魔装にかすり傷がついていく。



「くそっ!!なんつー魔力量だ!!」



 高田の魔装も同じように削られている。



 一撃一撃はそれほど重くはない。それこそ魔装が少し削られる程度だ。だが、光球はフィールド全域に、それも絶え間なく降り注いでいる。これでは、避ける術がない。このままでは、ここに居続けるだけで、いつかは魔装が破られてしまう。



 いくら一撃が軽いからといって、全域を覆い続けるような魔法など、普通は考えられない。近接戦闘を中心とする田淵や高田だと、一試合で使える魔力量はせいぜいこの10秒分といったところだろう。魔力による武器生成と身体強化をある程度繰り返すのがやっとだ。そしてそれは平均的な都大会出場者の持つ魔力量でもある。



 そして、この全域攻撃は、全国常連校の生徒であっても普通、魔力切れになってしまうだろう。これは召喚さえできれば魔力が劇的に増える、覇王持ちの特権ともいえるだろう。



 そしてこれこそ覇王が絶対的と言われる理由だ。




「くっ、なんつう魔力量だ!なんとか止めねえと。行くぞ!田淵!!」



「はい!!」



 2人が駆けだす。






「忘れんじゃねえよ、俺が相手だ。」



 西町谷の長渕が田淵と高田にが切りかかる。



 森原まで到達させないため、2人の前に立ちふさがる。



「くそっ!!」



 田淵が長渕を突破しようと攻める。それに高田も続くが、2対1にも関わらずほぼ互角だ。



 そして、魔装がだんだんと削られる。一刻も早く突破出来なければ、敗北は必至だ。



「クソオオオオオォ!!!!」



 だが、魔装が削られる焦りの最中、冷静に攻め長渕を突破する余裕は2人には残っていなかった。









§




夕刻 背山魔装競技場 外


 



「ティーさん、すごいキレイだったね!『エンジェル』!!」



「うん、すごい眩しかった。それに、厄介そうだ。」



 今日の試合の観戦を終えた3人は溢れかえる人の中、帰路につくところだった。



 結局試合は西町谷の勝利で終わった。7-1、圧勝だ。



「ティ―のいう通り、あれは厄介だな。だが、ある意味戦いやすい相手でもある。」



「戦いやすい、ですか?」



「覇王の一番厄介な使い方はあの強大な魔力を一気にぶつけること、それでたった1発、2発で魔装を壊してしまうところだ。あれはあれで厄介だが、対策のしようはいくらでもある。」



「レギュラーの先輩方は勝てますかね?」



「勝つために俺らがデータ集めてんだ。あと、今日はしっかり2勝したらしいぜ。」



 携帯を送られてきた試合結果を眺めながら鎧井先輩が言う。



「「お!」」


それを聞いた2人が歓喜の声を上げる。



「明日あと1回勝てば本戦は固いが。さて…」





試合記録



西町谷―千原 7-1


全試合危なげない試合展開で西町谷が優勢を守りきった。本年の覇王は森原選手の『天使エンジェル』。広範への全域攻撃に長期戦は避けたい。攻撃力はそれほどでもないようなので、遠距離攻撃や範囲攻撃で十分に相殺してやれば、危険は小さいか。だが、ある程度持続力にも優れているので、確実に優位な選出をしたいところ。



尚、午後の試合でも西町谷は勝利しており、都大会本戦出場は堅いだろう。




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