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偵察部隊

エリア予選当日 背山(はいやま)魔装競技場




東京23区外、郊外エリアの一角、開けた広大な敷地。そこに3つのドーム状の建物が建てられている。小型ドーム2つに少し大きめのドームが1つだ。ただ、よく見ると各ドームは円弧の部分が接触している。3つのドームを有する1つの建物、といった方が正確かも知れない。


各ドームでは様々な競技が行われているのだが、この競技場の最大の役割はその名前が示しているだろう。3つのドーム全てに魔闘用結界装置が設置されている魔装闘技向け競技場なのだ。


 そして今日、ここは都大会西ブロック エリア予選の会場の一つだ。


 そんなドームの一角、第一試合中の配置を言い渡されたティー、マツ、そして2年生の鎧井先輩はそこへ向かうため、会場内を歩いていた。




「すげー、これ全部人なのか…」



「さすが魔闘はエリア予選でも人気だね!」



「おい、ティー、小松、感慨に浸るのもいいがはぐれるんじゃねえぞ。俺は別にお守りのために一緒に来てるわけじゃねえんだからな?」



「はい!でも、蘭花中が“スパイ”活動をするなんて意外でした!」



「ああ、だがその呼び方、悪事働いてるみたいだし、あんま言わねえほうがいいぜ」



「はい!」



「まあ、ひでえ名前だが、蘭花が勝つには欠かせないことだ。日和からも聞いたろ?」


「はい!」



「俺達が第一試合偵察するのは背山第三VS明穂中学だ。背山もまあそこそこだが、明穂は確実に都大会本戦まで残ってくるだろうからな。しっかり見るべき試合だ。」




これからの活動の重要性を説く鎧井先輩。それにティーが呟く。



「でもよくやるよね、情報収集したって別にレギュラーの先輩が強くなるわけでもないのに。」



「ティーさん?日和先輩言ってたじゃない、スパイのお陰で格段に勝率が安定したって」



$$$$$$$



―先日の練習にて―



「新入生の皆さんにエリア予選でしていただきたいのは蘭花の試合以外の“スパイ”活動です。」



 後ろで喧嘩を始めたカイトとティーをよそに日和先輩が説明を始める。



「スパイ?」



「ええ。まあ、平たく言ってしまえば他の学校の試合を見て、その内容を記録してほしいのです。」



「これは非常に重要です。魔闘は選手同士相性がモノを言う戦いです。」



「例えば、今年のうちのレギュラーの高石君は氷の足場と槍を使って戦います。高石君は、2年生の中では相当の実力者ですが、炎の術師とは極めて相性が悪いです。もし、周囲を燃やされてしまえば、攻撃力が大きく落ちるのは、想像がつくと思います。」



 日和先輩の説明する通り、魔闘は相性がものをいう。大半の選手の魔法には属性があり、属性毎の優劣は勝敗に直結する。



「もちろん、高石君自身、何の対策もないわけではないですが…私たちとしては、出来れば戦いたくない相手です。そこで、スパイ活動が役にたつのです。」



「誰がどんな魔法を使うのかはもちろん、戦い方、技の威力、それだけでなく相手の選出やパートナーとの連携、それに癖やピンチの時の立ち回り、果ては彼らの会話まで、試合の映像を見るだけでは分からない、ありとあらゆる情報を収集して、全国優勝を狙うのです。」



「私たちの先輩が初めて優勝した時、覇王が4人もいたことが大きな優勝の要因だとよく言われたそうですが、実際は、このスパイ活動を始めたのが決定的だったといいます。」



「当時の断片的な映像情報だけで対策していた頃より、選出の不利をはじめ、本番の事故が大きく減って勝率が安定したそうです。」



$$$$$$$



「つっても、大々的にやりすぎたせいで、今やどの学校もやってることだがな。」



 鎧井先輩が、試合会場と2チームの選手と顧問たちの座るベンチがよく見える席を見つけると、三人が席につく。


「まあ、この偵察がどんだけ役に立つかはこいつみてみればわかるだろ。」



 鎧井先輩が文字の詰まった紙の束を二人渡す。それを受け取るマツ。

 


「鎧井先輩、これは?」

 


「去年の明穂のデータだ。上の方が各選手のデータで、下の方が各試合のデータだ。」



『中原 兼 2年生 短評:火属性のハンマーを振り回し戦う。機動力が重要な近接戦闘でハンマーは使い勝手が悪いが、ハンマーそのものを盾にすることで、デメリットを補う。武器の損耗を覚悟のうえで攻撃を受けに行くスタイルであることから、保有する魔力は多いと予想される。各試合の立ち振る舞いから2年生の選手メンバー中では中心的な存在のようだ。 実力面も考慮して、次年度エースの可能性が高い。 水系への対策を用意していない。』



 その紙束1枚1枚にはそれぞれ、選手のデータが事細かに記されていた。



「他には各技に…組んだ相手に…ティーさん、これ、凄いね…!」



 更に、次のページをめくると、その選手の各試合での振る舞いなど、さらに詳しい情報が載せられている。



「これが全員分……ここまで、やるのか…」



「去年2年生で出てたってことは今年も出てるだろうしな、去年の、つってもそんだけ情報あれば対策もしやすいだろ?」



「じゃあ逆に私たちの先輩も、他の学校から対策されてるってことですよね?」



「ああ。なんせ全国常連だからな。今ごろ三毛市の試合会場は大人気だろうよ。」



「あー、俺、せっかくなら蘭花の試合見たかったなあ」



「私たち、まだ先輩の試合見たことないもんね」



「意外だな、ティー。あいつらの試合に興味あるのか。」



「せっかくなら強い人の試合みたいですから。」



「ああ、そういうことか。なら次の試合は面白いかもな?」



「次の試合?」



「ああ、俺たちがわざわざこっちの会場に来たのはあいつらを見るためだからな。お、そろそろ始まるみたいだぞ?」



「ティー、マツ、お前ら二人はとにかくあいつらの使った技やらなんやら試合の情報書けるだけ書け。俺は控えの会話を記録する。」



「え、ここから控えの声なんて聞こえないんじゃ?」



「読唇だ。」



「……独身?」



「え!?先輩、独身なんですか…きっと先輩ならいい人見つかると思います!」



「読唇だ!!つーか14で結婚してるわけねえだろ!!」








§








試合後



明穂―背山第三 7-2 (スコアは倒した人数)





「やっぱ明穂が勝つか。」



「7-2、圧勝、でしたね。」



 鎧井先輩の呟きにティーが答える。試合結果を書き込む手は止めない。



「それにしてもアレ!情報の通りでしたね!」



「ああ、中原 兼が大将みたいだな。頭一つ抜けてやがる。」



「今年、水魔法の対策を用意してるかはわかりませんでしたけどね」



「そこは明穂の選出勝ちだったな。まあ、水魔法は珍しくねえし、その内分かるだろ。どちらにしろ、あれぐらいなら問題ないはずだ。」



 たとえ、手の内が分からなくても勝てる、それくらいの自信があるのだろう。



 それを確認するかのようにティーが尋ねる。



「レギュラーの先輩なら余裕なんですか?」



「ああ。なんなら俺でも勝てるだろうな。」



「え?」



「ほら、早く次の試合に行くぞ、お待ちかね“西町谷”の試合だ。」






§






 満員の会場。無数の魔闘ファン、選手たちの保護者、これから戦う2校の応援の生徒たち、そして敵情視察に訪れた中学生たちに埋め尽くされた観客席。立ち見の少年も数多くいる。全国出場のため、討つべき相手の姿を思い思いに待ち受ける。試合を熱気と緊張感が包み込む。



 狂騒と緊張の中へ、実況の声が放たれる。



『さあ!都大会西ブロックC会場第2試合!!まもなく始まる試合に会場のボルテージは最高潮です!!』




『みなさまお待ちかね、『彼ら』、今季の初陣ですっ!!!都立西町谷中学校の登場だ!!』



『去年は全国出場まであと一歩のところまでたどり着くも、惜しくも全国への切符を逃してしまった西町谷――――』



 満員の会場の一角、ティーたち3人もこの試合の観戦だ。ティーたちが訪れた時にはだいぶ席も埋まっており、席はだいぶ後方になってしまった。だが、この超満員では座れただけよかったといえるだろう。



 西町谷の登場に盛り上がる会場をよそに、鎧井先輩が説明を始める。



「ティー、マツ、いいか、東京西から全国に行ける学校は2校だが、ここ数年は俺たちも含めて実質3校でこの2枠を争っているといっていい。その1校が“西町谷”だ。」





『対するは、千原中学!彼らも、今年こそ念願の全国出場を勝ち取るべく、力をつけてきました!!』



『昨年のベスト16!その悔しさを胸に――――』




「俺たち、蘭花、この試合で戦う西町谷、そしてもう一つの強豪、星蘭が他の高校と決定的に違うのは、毎年、“覇王”持ちがいることだ。」



「覇王…!」





「最近は覇王持ちも珍しくねえが、それでも安定的に出せるのは西東京ではこの3校だな。」



 それを目を輝かせながら聞くマツ。



「覇王!やっぱり覇王があるチームは強いですね!!」





 『―――今年も“覇王”を持つものがいるのか、果たしてどんな能力を持つのか、注目が集まります!!だが!対する千原も強豪を前に戦意は十分!ここで勝利を収めれば全国出場へ大きな一歩となりますっ!!!』






 「ああ、覇王の力は個の実力を爆発的に高める。だが、覇王の力は絶対じゃない。性能は元の人間の力次第だし、覇王を体得できなくても遥かに強い人間もいる。それにこれはチーム戦だ。1人が強けりゃ何とかなるもんでもねえからな。」



 それを聞いたティーが何か思案するように鎧井先輩に尋ねる。



「つまり、経験があまりなくても覇王を習得できる人もいる、と。」



「そう、だな。覇王の習得のスピードは個人差が大きいらしい。………………………ああ、ティーは、セラのことが気になっているんだな。」



「あ…!」



「……あれは、俺にも分からねえ。普通は、早くても、3年生、余程特別な奴でも2年だ。少なくとも、魔闘を始めてすぐ覇王を使えるなんて聞いたことがないな」





 暫くの沈黙が訪れる。





 次に口を開いたのはティーではなく、マツだった。



 「………あの、先輩、配られたパンフレットと去年の西町谷のデータを見てるんですけど、少し、ヘン、なんです。」



「ヘン…?なんだ?」




―魔装闘技展 東京都大会―

 全国出場をかけた都大会は西と東二つのエリアで開催される。西東京各地で行われるエリア予選は全4日、各校はこのうち2日間に出場し一日2試合、計4試合を行う。この4試合でのキルスコア(倒した人数)の合計上位32校が西都大会本戦トーナメントに出場できる。このうち32校のうち2校が決勝戦への切符を手にすることになる。※決戦1on1はキルスコアに含まない。

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