七不思議
「で、ケイ、こんな夜中に俺たちたたき起こして、その七不思議を調べに行くって、マジで言ってるのか?」
「おう!マジだ!大マジだ!夏と言ったら、肝試し!!肝試しと言ったら七不思議だからな!!」
月末のレギュラー選抜戦まであと10日を切ろうとしていたある日の晩。この日、魔闘部は泊まりでの練習だった。部室のある旧校舎の2階で眠っていた一年生たちは、ケイに起こされ、旧校舎の教室の一つに集まっていた。
「昼間は練習ばっかで、七不思議を調べるチャンスなんてないからな!ティーを気になるだろ!?呪いの甲冑!!」
ケイが調べたいという七不思議は、蘭花中学七不思議 第三『旧校舎 地下13階、ケタケタ嗤う、呪いの甲冑』、だ。普段は地下に居る甲冑が、夜な夜な旧校舎に上がってきて、驚いた生徒を嘲笑うという。甲冑のやる事はかなりしょうもないが、この微妙さが七不思議には肝心なのかも知れない。
「え、全然気になんないけど。」
「ティー!?マジかよ!?」
「それに甲冑にはあんまいい思い出ないしなあ。……なあ、ユリ。」
「まあ、せやなあ……。」
甲冑、と言われると、ティーの脳裏には織田山寺のあの事件がよぎる。もうとうに10年も前のことだし、本当に生徒を嘲笑う甲冑がいるとも思えないが、こう、喉に小骨が突っかかるような、どうにも言えない気分になる。
同意を得られず、少し慌てるケイが、カイトに尋ねる。
「……じゃあ!カイト!カイトは興味あるだろ!?呪いの甲冑!!」
「…俺も別に。まあでも、起こされちまったし、行ってやってもいいけど。」
「おう……!?それは、賛成ってことでいいんだよな!!??」
「さあな。」
カイトの賛成?に戸惑うケイ。どうも、場の雰囲気的には、多くはそれほど乗り気ではないらしい。
微妙な空気の中、声を上げたのはカイトの後ろにいた金髪の少年、イブだった。
「僕は興味あるな。呪いの甲冑。」
「…ホントか!?イブ!?やっぱ気になるよな!?呪いの甲冑!!」
「うん。呪いの甲冑…というか学校の歴史に興味があってね。旧校舎にそんな七不思議があるなんて知らなかったよ。」
その発言に驚いていたのはカイトだった。
「まじか、イブ。日本の歴史にも興味ある、って言ってたけど、そんな事にも興味があるのか。」
「うん。歴史は面白いからね。」
「そうか……。」
「おう!!マジありがとうな!!イブ!!!」
ようやく真っ当な賛成を得られたケイは、とてもうれしそうだ。
「せっかく探すなら人手がある方がいいよね。カイトは手伝ってくれるんだよね!?」
「ああ。手伝ってやるよ。で、お前らはどうすんだ?」
「迷惑かけちゃうけど、よければ、手伝ってほしいな。」
カイト、イブの呼びかけに答えたのはマツ、セラ、イチだ。
「私もいいよ。」
「私もっ!!夜の学校も面白そうっ!!」
「僕も参加するよ。」
更に3人の同意を得られて、ケイは満足げだ。次いで、再びティーとユリに尋ねる。
「あとは……ティーとユリは参加してくれるか……?」
「俺は……」
「ティーちゃん。せっかくやし、参加せえへん……?私も甲冑はちょっと嫌やけど、夜の旧校舎を探索するのも面白そうかな、って。」
「そうか…。ユリがそういうなら…俺も、参加するよ。」
「マジか!!よっしゃああああああ!!!!!!」
こうして一年生たちの旧校舎探索が始まった。
§
ティーたち一年生の七不思議調査が始まった。七不思議の説が本当ならば、甲冑は夜中に旧校舎の地下から出てきて、生徒のところにやってきては驚かしてくるはずだ。そう予想した8人は、二手に分かれて調査を始めた。
探索を進める中で、カイトとティーが意外とビビリなのが判明するなど、それなりに盛り上がったが、肝心の嗤う甲冑は影も形も無く、手がかりのかけらもないまま一時間以上が経過した。
全く進まぬ調査に、二手に分かれていた8人が一階の下駄箱裏の踊り場に集まる。
「や、や、や、やっぱいねえんじゃねえか!呪いの甲冑なんて!!早く切り上げちまおうぜ!!」
「カ、カ、カイトのいう通りだ!!早く教室にかえろうぜ!?」
既に一時間が経過したにも関わらず、相変わらずビビりまくっている2人に、マツが呆れたように言う。
「2人は先に帰ってもいいけど……私たちの寝てる教室に甲冑、来るかもよ?」
「「!?」」
固まる二人をよそに、ケイ、イブたちはこの何も見つからない状況をどうすべきか悩んでいた。
「う~ん、本当に見つからないね。七不思議、興味深いものかと思ってたけど、何も無いのかなあ。」
呪いの甲冑が見つからないことを残念がるイブ。一方マツは、別の意味で残念がっていた。
「ほんとに呪いの甲冑がいれば、ティーさんとカイトさんがもっと面白いことになりそうなんだけどな~。」
「噂に妙に具体性があったから、全くのデマではないと予想していたんだけど、見当違いだったかな。」
やはり都市伝説など、ただの噂に過ぎないのだろうかと思う一同。そうしてマツが言う。
「ティーさん達じゃないけど、やっぱりこの辺で引き上げる?明日も練習あるし。」
残念そうに撤退を提案するマツに、ケイが自信ありげに告げる。
「まあ待て、マツ。オレに秘策がある!」
そう言って、ケイはポケットから一枚の紙を取り出す。
「ケイさん、何それ?」
「ふふん。これには、地下13階への行き方が書いてあるんだ。」
§
―そのころ、旧校舎2階では…―
「みんなっ!!大変だあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
三年生男子たちが眠る教室。東先輩の叫び声が響き渡った。
余りの大声に、目を覚ます一同。大阪先輩が突然の大声に、怒りの声を上げる。
「東ああぁ!!何時だと思ってんだああああぁ!!!」
「大阪君!それどころじゃないんだ!!大変なんだ!!」
隣の部屋で寝ていた三年生女子(といっても、ルミ先輩は入院中なので、佐倉先輩だけである。)も驚いて、何事かとこちらの教室に入ってきた。
「東君…?…何があったの…!?落ち着いて説明してくれない?」
佐倉先輩にそう言われると、東先輩は一息おいて、説明を始めた。
「さっき、目を覚ましてトイレにいったんだ。その帰りにふと、一年生男子の部屋が見たら、誰もいなかったんだ!!慌てて、女子の部屋もノックしたが、返事が無かった!!大変だよ!一年生が消えてしまったんだ!!」
東先輩が、一年生がいなくなったことに気づいた。それを聞いた大阪先輩が、あまり興味なさそうに答える。
「一年生が全員…ねえ。大方、どっかで遊んでるってとこじゃねえか。心配ねえよ。今年の一年はだいぶ強いらしいし、何かあっても、大事には至らないだろ。」
一方、佐倉先輩は少し心配そうだ。
「大阪君のいう通り、優秀な子もいるし、その子たちは何かトラブルがあっても大丈夫だとけど…そうじゃない子もいるから、探しに行った方がいいかも知れないな。」
「そうか…ならしゃーねーな。ちょっくら探しに行くか。東、一年の行き先に心当たりはあるか。」
「あるっ!!」
「お、マジか。」
「ああ!夏の夜の学校と言えばっ!!!!肝試しに決まっているだろう!!!!!」
「……………マジで言ってんのか。」
「ああ。なんせ、この旧校舎にも七不思議があるからなっ!!ずばり!!『旧校舎の屋上で、ケタケタ嗤う、超巨大人体模型』だっ!!!」
「……なんか壁壊してそうな七不思議だな。」
そうぼやく大阪。それを聞いた坂がどこか不思議そうにこう言う。
「あれ?俺は『旧校舎 地下44階、ケタケタ嗤う、呪いの甲冑』って聞いたぜ。」
「ケタケタ嗤うのは一緒なのか。」
「七不思議だから、いろいろ脚色されて伝わるんだろうね。」
そう話していると、三年生たちのいる部屋のドアが開いた。入ってきたのは2人、魔闘部の顧問の蘭花里奈先生と副顧問の仙田先生だ。
「どうかしたの?こんな夜遅くまで起きてたらお肌に悪いわよ?」
「里奈先生、肌気にするなら、お酒の飲みすぎを控えた方がいいかと……」
「わたしとお酒は愛し合ってるから問題ないのっ!」
「でも、一日で32本はちょっと…。」
入ってきた2人に、佐倉先輩が状況を説明する。
「え!?じゃあ一年生が行方不明ってこと!?まずいじゃない!!それ!!」
かなり焦っている里奈先生。それを見た仙田先生は少し意外そうだ。
「里奈先生って意外と生徒思いなんですね。ただの飲んだくれかと思ってましたよ。」
「何言ってるの?もし生徒に何かあって、お給料減らされたら、お酒が減っちゃうじゃない!!」
「ああ、そこですか……」
「とにかく、私たちも協力するわ。一年生がどこに行ったか、心当たりはあるの?」
「それなんですが……」
続いて佐倉先輩が、先ほどの都市伝説の話をする。
「そう…ほかに心当たりがないなら、校舎内を探しながら、屋上に向かってみる?」
「そうですね…そうしましょう。」
こうして三年生5人と顧問たちが、一年生を探し始めた。




