捜査記録 事件を追う2人
1週間前
愛知県 名護屋市 市街 某所
愛知県名護屋市の中心。仕事に向かう人々に埋め尽くされた真夏の市街。そのスーツを羽織った人々の中に、2人、軍服をまとった男がいた。
その明らかに場違いな2人は、手近なカフェを見つけると、そこに入り、アイスコーヒーを注文する。テラスに空きの席を見つけると、その席に座り、コーヒーを飲む。
軍服の男たちは一人は少し背の低い男で、もう一人は長身の男だ。
一通り、コーヒーを楽しむと、背の低い男が、少し困り顔で長身の男に尋ねる。
「で、どうする、せっかくあんな辺鄙な場所に向かったって言うのに、収穫なしで名護屋に戻ってきちまったぞ。」
「そうだな…」
「ようやく見つけた織田山寺事件の手掛かりが、本当に甲冑の仕業だと分かったこと、そして、生存者がいると言うことが分かっただけ。それにその生存者が誰かも分からないときた。これじゃ、ほとんど振り出しだ。」
「ああ、やはり事件録の類は大半が廃棄されているようだ。あの警察署に残っていたのもほとんど奇跡と言っていいだろう。」
長身の男はそう答えると、アイスコーヒーを飲む。
2人は織田山寺事件を追っていた。いくつもの警察署をたどり、ようやく手がかりを手にしたが、そこで得られたヒントはごく僅かだった。特に次につながるような情報はほとんどなかったと言っていいだろう。
小柄な男が事件録を思い出しながら、舌打ちする。
「ちっ、なんで当時の日本の政府は、ここまでして事件のことを隠蔽したんだろうな。甲冑が動いたなんて、訳の分からない報道をするわけにも行かなかったんだろうが、たかが寺にテロなんて、無理のある話だろ。」
10年前、織田山寺での事件はテロ組織よる攻撃だと報道された。100を超える死者を出したあまりに凄惨な事件に、世間は随分沸いたそうだ。だが、すぐに首謀者が判明し、その首謀者が逃亡中に事故で命を落としたことが報道され、世間はあっという間に鎮静化した。
だが、本来の犯人は織田の甲冑だ。当然テロの首謀者などいるはずもない。政府がニセの首謀者をでっち上げたのだ。政府は事件や事故のもみ消しを専門とする“裏”の人間を雇った。その者に偽の戸籍を与え、そして死んだかのように偽装した。ただ一つの事件を偽装するためだけに、国家がここまでのことをするなど普通は考えられない。国家だってそれほど暇ではないだろう。
それを聞いた長身の男が通りを見ながら、こう答える。
「政府が何か知っているのは間違いないだろうな。まあ、俺たちが聞いても教えてはくれないだろうが。」
「……………せめて、生存者が誰か分かればいいんだがな。」
「ああ。その通りだ。100名以上の死者を出した事件のたった2人の生存者。実に興味深い。敵であるかもしれないが、何かを知っている可能性は高いだろうな。」
「だが、今の俺たちの持っている情報じゃ、候補は日本国民全員だ。まあ、俺ら二人とあの悪ガキは流石にないとしても、あとの人間全員を、3か月で調べるのは無理があるぞ。」
「……。何も手がかりが無ければ、な。」
「……何かあるのか、手がかりが。」
「まだそうと決まったわけではないが、生存者を知っている者に心当たりがある。」
「本当か。」
「行ってみようじゃないか。事件の現場、織田山寺に。」
§
コーヒーを飲み終え、カフェを出た2人が名護屋駅を目指して歩く。
「で、その織田山寺には俺もついていかなきゃいけないのか。そういう捜査はお前が向いてるだろう?俺は戦闘が専門だし、いても役に立たんぞ。」
「ああ、加治、お前の力が必要だ。俺は正面から捜査する。お前は裏から捜査してほしい。」
「裏から…ね。分かってると思うが、俺は捜査は素人だ。そんな俺でもできる仕事なのか。」
「ああ、むしろ、お前にしかできない仕事だ。お前には、『結界室』の調査をしてほしい。」
「『結界室』……。そんな高級品が、あの古寺にあるっていうのか。」
「俺の予測が正しければ、な。」
結界室。端的にいえば、尋常でないほど強度の高い金庫だ。
結界は魔法の中でも覇王と並んで特別だ。作る結界の条件次第では、魔力を数十万倍に増幅できる。この結界を利用して、金庫を作るのだ。部屋をまるごと特別性の結界で覆い、中身の物を守る。その強度は特別で、対応する『鍵』なしで破壊することはまず不可能だ。
だが、この結界室、作成するのに非常に金がかかる。何十万倍もの増幅率を誇る結界の常時展開など、普通の結界師では困難だ。結界術に深い造詣のある結界師が多数集まって、長い年月をかけて作らなければ、結界を組むことができない。予算は安く見積もっても数十億といったところだろう。
だから、どんな貴重品を保管するにあたっても、まず普通は結界室など使わない。国家レベルで見ても、国直属の銀行に、一部屋あるかといったところだろう。
「つまり、『結界室』を使ってでも保管したいものが、あの織田山寺にあるっていうのか。」
「ああ。……例えば、『無差別に人を殺す、殺人甲冑』を保管するには、最適な場所だと思わないか。」
「…………なるほど、な。確かにそれは、俺にしか出来ない仕事だ。」
「ああ。期待しているぞ。世界最強の戦士よ。」
「任せとけ。お前にも期待してるぜ。最強部隊の隊長さんよ。」
名護屋市の中心。無数の人に溢れるその街の片隅で、2人のアルカタ戦士隊員が、今、ひそかに動き出す。




