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 魔法は普通、術者の手元や周囲で顕在するものだが、別の場所で起こすことも不可能ではない。あらかじめ魔力を顕在させたい地点に送り、そこで物質に転換する。そうすれば、好きな地点で魔法を起こす事が可能だ。静香先輩が雷鳥メイメイをコントロールするときや、高石先輩が氷槍を氷の檻に転換するときもこの方法を使っている。



 ただし、デメリットもある。魔力はそのまま空気中を伝達させると、徐々に霧散してしまう。そのため、この手法はより多くの魔力を消耗する。距離が遠くなれば遠くなる分、霧散する魔力も増えてしまう。それに遠くの魔力はコントロールするのも難しくなるので、そう容易く使える技術ではない。



 だが、人間は魔力そのものを感知することはできない。だから、使い方次第では大きな効果を発揮する。







 ティーの周囲を日和先輩の炎の粒が囲んでいる。前後左右、それに空中まで、完全に囲まれた。恐らく五月雨火炎の炎の粒と同じもの、触れたら爆発は避けられない。


 





(ここまで、奥の手を温存していたんだ…!)




 恐らく、これが日和先輩の奥の手だ。日和先輩自身のいる場所から遠くにこれだけの数の魔法を起こすのは、日和先輩でさえかなり魔力を消耗するはずだ。ここまでこの技を使わなかったのは日和先輩とティーの距離が遠かったのもあるだろうが、連発の利かない技だからというのが大きいはずだ。




(まずいな……)





 ここまで囲まれると、爆発をもらわずに回避することは不可能だろう。逃げる隙間など当然無い。ティーの魔装はかなりダメージを食らっている。まだ数弾なら耐えきれるかもしれないが、良い状況ではない。




「千年花っ!!!!」




 そう日和先輩が叫ぶと同時、ティーの周囲を囲っていた炎の粒が急速にティーに迫る。




(くそ、どうにかして逃げなきゃ…………。いや、違う!これはチャンスだ!!!)




 ティーが日和先輩の方へ突っ込む。勿論、その方向にも炎の粒がある。 





 炎の粒とティーが衝突する。そして、大爆発が起こる。





 ティーの進路で次々と爆発が起こる。そして、進行方向上の炎の粒の爆発を抜け、ティーが現れる。




 (やった、ぎりぎり耐えられた!)




 ティーの魔装はすでにボロボロ、だが、かろうじて形を保っていた。もう一撃でももらえば確実に崩れ落ちるだろうが、何とか無事だ。



 千年花は、対象の全方位を囲む。その炎の粒は数えきれないほど多いが、一方向だけを見れば炎の粒は多くない。



 敢えて炎の粒に突っ込むことで、衝突する炎の粒の数を少なくし、魔装の被害を最小限に抑えた。そして大技を打ち終えた日和先輩は今完全に無防備だ。



 瞬時に日和先輩の目の前に到達する。すでに近接戦の間合だ。最早こうなると日和先輩にできることは無い。



 ティーが日和先輩の脇腹部分をめがけて切り込んだ。





「破あああああああぁぁぁ!!!!」





 ティーの一撃は完全に日和先輩に命中した。



 日和先輩が吹き飛ぶ。



 倒れ伏した日和先輩の魔装はボロボロだ。それに今回は受け身をとりきれず、完全に態勢が崩れている。絶好のチャンスだ。




(あと一撃ッッ!!!)



 ティーが駆け出す。その瞬間…






ピーーーーーーーー!!!!






 フィールド中に甲高いブザーの音が響き渡る。試合開始から5分が経過した証拠だ。試合終了の合図だ。




 ティーが減速し、日和先輩の前で立ち止まる。



ティーは息をあげながら、日和先輩に尋ねる。



「日和先輩、大丈夫ですか…?」



「ええ、大丈夫ですよ。」



 日和先輩はそう答えながら、態勢を立て直し、その場に立ち上がる。



 魔装の割れがひどいので、本人にも多少ダメージが入っているようだが、たいしたことないらしい。バンクルで展開される魔装は2層構成、試合で壊される外側の魔装とは別に、内側で体を守るために展開されている強固な魔装がある。内側の魔装が衝撃を逃がすため、激しい戦いでも選手はほとんど怪我をしないが、外側の魔装が大きく損壊している時や、魔装の一点を集中して攻撃されると身体にも僅かだがダメージが通る。(内側の魔装は攻撃を防ぐというよりも、衝撃を分散させて、大怪我を避けるのが主な役割だ。そのためダメージ自体を全く通さないという訳ではない。)



 立ち上がった日和先輩は、満面の笑顔で笑っていた。






「ティー君、あなた…すごい………凄いですよ!!まさかこんな、入ってすぐに、私たちに勝てるなんて…!!」



「引き分け、じゃないですか?先輩のバンクルは壊せませんでしたし。」



「いえ、もしあと試合が10秒あれば、ティー君が勝っていましたよ。実力は間違いなく、ティー君が上です。それに、これなら、もしかすると……」




 「……もしかすると?」




 「あ、いえ、なんでもないです。それよりティー君、早く水分補給と、食事にしましょう。お互い魔力枯渇寸前ですし。」





 「ああ。そうですね。」




 そういうと、歩き出し、一年生たちのところへ戻るティー。その後ろ姿を眺める日和先輩。




 (佐倉先輩。もしかして、これが、選抜戦をする理由、なんですか……?)






 いつもより少し勇ましく感じる後ろ姿。その力強い歩みに、日和先輩は少し、新たな可能性を感じていた。





「これは、私も、負けてられませんね。」









§







「ティーちゃんお疲れ!!まえよりずっと技上手なってるやん!!練習してたんや!!」


「まあね。」



 試合を終えたティーをユリが出迎える。そしてティーはユリと話しながら2人で他の一年生の元へ戻る。



 戻ってきたティーにケイが声をかける。




「お疲れ、ティー!なんなんだあの技!?ユリから聞いたぞ!?剣術で習った技なんだろ!?」



「うん。まあね。魔闘のために習ってた剣術だけど………実際に通用するみたいだ。師匠には感謝しなきゃいけないな。」



 冷静に感謝を口にするティーに、微妙な苦笑いを浮かべながらユリが言う。



「でも師匠、だいたい稽古サボってたから、いっつも自主練やったやん。」



 2人の会話を聞いたケイが、ティーに、ある疑問を口にする。




「ティーはすげえな…。でもよ、ティー。そんな昔っから魔闘にこだわって、お前、プロプレイヤーか、それか魔装警団にでもなりたいのか?」



「プロ、か…。」



 中学、高校と魔闘の世界で活躍してきた者の中にはいわゆる「プロ」になる者がいる。この「プロ」には二つの職種がある。そのうち一つはプロプレイヤー、そしてもう一つは魔装警団だ。



 プロプレイヤーはその名の通り、プロの魔闘選手のことだ。サッカープレイヤーや、野球選手がそうであるように、魔闘のプロチームが数多く存在し、その一つに所属する。そして全国の、あるいは全世界のプロチームと戦い、その頂点を目指す、そんな職業だ。




 一方、魔装警団という職業も、字面からなんとなく想像がつくであろう、そのままの意味の職業だ。端的に言えば、魔法戦闘を本業とした警察部隊だ。



 魔法のその便利さゆえに、犯罪行為に魔法の存在はつきものだ。軽犯罪から非常に重い犯罪まで、魔法なしで語れる犯罪はほとんどないといっていいだろう。だが、その中でも、魔法を「武器」として使う場合、極めて危険なものとなる。



 もし、魔闘のプロ選手がたった一人で犯罪に手を染めたとして、そこそこ魔法の使える、普通の警察官が制圧に向かう場合、警察官が何人いれば取り押さえられるか。



 答えは取り押さえられない、だ。



 プロクラスの魔闘士となれば、一対一の戦闘ならまず負けることは無いし、そもそも警官全員を振り切るまで、全力で身体強化をかけ続け、逃げきることができる。なんなら警官たちの包囲を正面突破することもできるし、遠距離攻撃ができる者なら、一キロ先に居る一般人を人質にすることもできる。




 そんな犯罪者を圧倒的な武で制圧する少数精鋭の部隊、それが魔装警団だ。魔装警団に属するものは全員、プロクラスの実力を持ち、その実力を持って、魔法を用いた危険な犯罪行為の制圧をする。人々の平穏を守る、この世界になくてはならない部隊だ。プロプレイヤーが子供たちの憧れであるのと同じように、魔装警団もまた、子供が目指す職業の一つだ。



 そんな「プロ」になりたいのか尋ねるケイに、ティーが答える。



「うーん、考えたことも無かったなあ…」



「まじかよ!?じゃあなんで魔闘やってんだ!?」



「いや、俺は世界で一番強くなれれば、後はなんでもいいかな……そういうケイは、何になりたいんだ?」



 ティーにそう聞かれたケイが、少し考えてから、答える。



「オレはやっぱプロプレイヤーになりたいかなあ……でも、魔装警団も捨てがたい!!」



 その2人の会話を他の1年生たちも聞いていた。そのなかでも、カイトがケイに突っ込む。



「ケイ、悪いこと言わねえから、魔装警団はやめとけ。」



「カイト!?なんでだ!?」



「決まってるじゃねえか。危険だからだよ。魔装警団の殉職率、知ってるか?」



「ジュンショクリツ??」



「………………………。まあ、簡単に言えば、仕事で死んじまう人数、だよ。特に最初の一年はヤバいって話だ。最初の一年で10人に1人は死ぬ。つまり俺たち1年が全員魔装警団に入ったら、だれか1人は死ぬってところだ。いくら金がいいからって死んじまったら意味ねえだろ。まあ俺たちの中で死ぬとしたら……ティーだろうな。」



 それを聞いたティーが驚き、喧嘩腰に言う。



「………ああ!?なんで俺なんだよ?」



「あんだけ格上にばっか挑むやつが、どうやったら生き残れるか、俺の方が知りたいね。」



 ティーを煽るカイト。そのカイトにケイが尋ねる。



「じゃあカイトはプロになりたいのか!?」



「当然だろ。安全に金を稼げるプロ一択だ。世の中金がありゃ楽できるんだからよ。」



 プロになりたいらしいカイト。安全に金を稼ぐことが目的らしい。金にこだわるカイトに、いつもカイトと一緒にいる金髪の少年、イブが付け足す。



「カイトはお金稼いで、母さんを楽にしてあげたいんだよね。」



「なっ!?そんなんじゃねえよ。………ただ、貧乏は不自由で仕方ない、からな。」



 慌てるカイト、それを見たユリが面白そうに言う。



「カイトちゃんも可愛いところ、あるんやな~。」



「……ちっ。そういうユリはどうなんだよ?」



「……う~ん、私は、……………私は、そういうの、あんまりないかもなあ。みんなは、将来、何したいとか、考えるもんなん?」



 ユリは何かを思案するようにそう尋ねる。ユリは、将来の夢など、考えたことも無かったようだ。



 将来について尋ねるユリに、イチとセラが答える。



「僕もやっぱり、プロプレイヤーになりたいな。やっぱりプロには憧れるよ。」



「私は魔装警団でも、プロプレイヤーでもいいから、ずうっと魔闘がやりたいな…!」



 次いでカイトがイブに尋ねる。



「イブ、お前はどうなんだ。やっぱプロプレイヤーか?」



「…僕も、そんなこと、考えたこと、無かったな………」



「……。ちっ、つまんねえな。でも、もし何もねえなら、プロプレイヤーがいいと思うぜ。魔闘が得意なら、これよりいい仕事なんて、そうそうありやしねえよ。」



「…………あ、でも…」



「ん、なんだ、イブ。」



「……でも、こんな平和な日々が、ずっと続いたらいいな…………なんて。」



「なんだそれ。お前、なんか変なものでも食ったか?」




 その会話を聞いたユリが呟くように言う。



「…イブちゃん、確かに、私もそう思うな。こんな日々がずっと続いて欲しいわ…。」



 ユリの同意を聞いたカイトが虫の居所が悪そうに唸る。



「う~ん…。」



 そして、カイトがはぐらかすかのように話題を変える。



「そういや、マツ、お前の目標だけ聞いてなかったな。マツ、お前は何がやりたいんだ?」



「…。ええっと、私は………“アルカタ戦士隊”に入りたいかな、って。」










 その言葉を聞いた瞬間、一同が驚きに目を見開く。




 そして、カイトが口を開く。




「マツ…。今、アルカタ戦士隊っていったのか!?…………冗談、だろ…!?」










 アルカタ戦士隊。とある辺境の国の魔装警団の一部隊だ。だが、その一隊の役割は犯罪者や事件の制圧ではない。



 かつて、この地球は幻獣たちに支配されていた。英雄織田信長が、全ての幻獣を滅ぼし、人間の時代が訪れた。



 だが、その覇者たる信長でさえ、全てを手にいれることは出来なかった。信長が侵略を諦めた地が、この地球には残されている。



 そこは、地球の裏側だ。未だ、未開の地である地球の裏側、そしてそこに住まうとされる、敵対種族 アルカタ。



 アルカタから、人類を守り、そして、この世界の残り半分を開拓すべく戦う9人が居る。




 アルカタ戦士隊。正真正銘、世界最強の9人だ。


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