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あと15日 ②

 日和とティーが構える。審判はいない。その代わり、試合開始のブザーがランダムなタイミングで鳴る。両者がブザーが鳴るのを今か今かと待っている。




 試合は準備時間1分、試合時間5分だ。普通、公式戦では試合時間は短くても10分はある。普段の試合と比べて、圧倒的に試合時間が短い。



 この理由はシンプルだ。10分以上の試合時間では魔力の消費が激しく、連戦は不可能だからだ。



 魔力は摂取した食事から生成される。そのスピードはかなりゆっくりで、魔力を使い切った場合、回復には約半日を要する。10分を超える試合ではたいてい魔力の8割以上は使うため、一度試合をしたら、どんなに少なく見積もっても4時間は空けなければ、次の試合には出られない。(魔力を急速に回復させる方法はあるにはあるのだが、デメリットもあり、あまり使わない。)



 魔力の回復スピードは早くない。それにもかかわらず月末のレギュラー選抜戦の日程はたったの2日、それも、多い選手で5試合程度こなさなければならない。魔闘に使えるコートには限りがあるので実際は約3時間おきに試合することになる。とてもでないが、10 の試合をしていては魔力が持たない。だから、魔力が尽きないように5分制限になっている。



 そして、試合時間5分というのは戦う選手の少ない1on1であっても、短い時間だ。決着がつかない可能性も低くはない。勝ち星を上げようとするなら、速攻が求められる。









 ブザー鳴らぬまま、暫くがたった。ブザーは1分以内になるように設定している。もうすぐだ。






 そして、ブザーが鳴った。




 1分間の準備時間だ。





 準備時間が始まり、日和が魔力を高めていく。遠距離攻撃を主体とする選手は、一度に多量の魔力を出力する。魔力を高める過程を踏むことで、魔力を出力するための導線が組みあがり、魔力をより多く、より素早く出力できるのだ。扱う魔力の少ない近接戦闘を主体とした選手には不要な行為だが、遠距離攻撃を主体とする選手の戦闘には欠かせない過程だ。この過程を踏むのと踏まないのとでは魔力の格が一段変わる。



 対するティーは、左手に風の剣を生成すると軽く構える。その所作はとても自然で、少しの無駄もない。まるで自然の摂理に流されるかのようなその構えは、ティーが剣に熟練していることの証明だ。



 その姿を見た日和が、感嘆に目を開く。すでにここ数か月、何度も見てきた所作だが、いざ敵対してみると理解できるものがある。所作に余りに無駄がない。まるで、彼を取り巻くすべてのエネルギーが、彼に従っているようだ。日和は剣は素人だが、明らかにこの動きは、並みの中学1年生の構えではない。



(これは、本気でやらないとまずいかも知れませんね………)



 日和の高めた魔力に、日和の髪が少し浮き上がる。魔力が十分に高まった証拠だ。これでいつでも、フルスロットルで戦える。



 目の前にいる一年生は化け物だ。だが、負けるわけにはいかないし、負けるつもりも全くない。日和もまた、強豪蘭花の部員の1人なのだ。









 そして一分が経過した。先ほどよりも強くブザーが鳴る。試合が始まる合図だ。







 瞬間、ティーの姿が消えた。




 ティーの狙いはただ一つ。速攻だ。




(速いっ!!!!)





 余りの速さに一瞬怯んだ日和。日和がその姿を再び捉えた瞬間には、既にティーと日和の距離は半分にまで縮まっていた。



 1on1での試合では選手同士の位置は、普通の試合と比べてもかなり離れている。普通の試合の距離では、選手同士の距離を縮めるのが容易で、近接戦闘選手が非常に有利だからだ。



 その普段より長い距離の半分をこの一瞬で…。魔力による身体強化があったとしても、驚異的だ。尋常じゃない速さだ。いや、あるいは…



 近接戦闘は可能な限り避けたい。距離を詰めるティーに向けて両手を構える。





 ティーと日和の距離がほとんどなくなる。その瞬間、日和が叫んだ。




「爆炎花ッッ!!!!」



 日和の手元から炎が現れ、正面に爆発が起こる。規模こそそれほど大きくは無いが、それでも強い衝撃と爆炎だ。その衝撃にティーが急ブレーキをし、爆発を避ける。そして日和は爆発の反動を使って宙に飛び上がる。



 ティーは爆発の炎の合間から日和の位置を確認する。




 空中の日和が再びティーに狙いを定めている。そして、魔力を高め、叫ぶ。






五月雨火炎(さみだれかえん)!!」




 日和の周囲に小さな炎の塊が無数に現れる。小さな炎の粒が赤々と輝いている。そして、ティーのいる一帯めがけ降り注ぐ。



「くっ!!!」



 咄嗟にティーが距離を取る。火の雨の有効射程から離脱する。





 先ほどまでティーのいた一帯に、火の玉が次々と降り注ぐ。


火の玉が着弾する度、大きな爆発が次々と起こる。範囲もさることながら、一発一発の威力もかなり高いようだ。



 なんとか回避したティーだが、再び日和の叫び声が聞こえる。



「連装花ぁッッ!!」




 落下する日和の周囲を2球の火球が回っている。一球一球が人一人ほどの大きさだ。そしてその2球がティーめがけて放たれる。






「まずっ!!!」






 咄嗟にティーが魔力の風で体を後ろに押し出し、2弾の火球から大きく距離を取る。かつて、セラに打たれた火球はすんでのところで躱してきたが、これはそれではいけない。





 着弾した瞬間、大きな爆発が起こる。火球の周囲の広範が燃え上がる。





 十分に距離を取ることで躱したティー。だが、その顔は少し苦しげだ。



(くそっ……攻撃を規模が広くて、攻めるチャンスが見当たら…………)



「連装花ッッ!!」



「またっ!!」






 今度は右に跳ね、攻撃を回避。ティーの後方が爆発で吹き飛ぶ。既にティーの周囲のフィールドは炎の海だ。






―観客席―



「凄え…!攻撃の切れ目がねえ…!!」



 観客席のカイトが日和の弾幕の如き猛攻に驚嘆の声を上げる。



 それに、イチが同意する。


「うん………。それに攻撃の種類も多彩だ……ティーもやりずらいだろうな……」



「あれで2年生中最弱とか、マジで言ってんのかよ…!」



「だとしたら僕たちが目指さないといけないものは、相当高いね…」






 話は少し移り、ケイがイチに声を掛ける。



 「なあイチ。さっきイチが言ってた、ティーが日和先輩に挑んだ理由って、もしかして、火球での攻撃だからなのか?」


 「うん。セラと日和先輩じゃタイプは違うけど、同種の攻撃をしてくる相手と戦うことで、セラと戦うときの突破口を探そうとしてるんだと思う。でも、これはもうほとんど別物だね…想像以上に厄介だよ。」









―再びフィールド上のティー―



 日和の火球の攻撃が絶え間なく降り注いでいる。攻撃の糸口を見つけられず既に1分以上が経過していた。




(これが遠距離攻撃の強み、か…。)




 弾幕のように次々と放たれる爆炎の数々。射程、威力、範囲。どれをとってもティーの風の刀とは比べ物にならない。



 近距離での戦闘では圧倒的にティーが有利だろう。近距離で戦う限りは射程も範囲も意味をなさない。



 だが、その距離を詰めるチャンスが全くない。それほどまでに苛烈な攻撃だ。



 これなら最初の爆炎花をもらってでも強引に近距離で戦うべきだった。それ以降は完全に警戒され接近するチャンスが無い。




 実戦の2on2や3on3のような多人数での混戦で、このような選手が相手に1人いるだけで、やりずらい事この上ないに違いない。



 それに、会場がここまで燃え上がっていると、最初に距離を詰めるために使った『技』も効果が半減する。近距離まで詰めるのは難しいだろう。とりあえず今は躱し続けることに専念するしかない。






§





 立て続けに放たれる炎弾の雨を、なんとか躱し続けたティー。そしてしばらくして一時、攻撃が止む。止んだ猛攻の隙に、周囲の状況を確認する。



 既にティーの周囲は炎の海だ。そして再び日和先輩が火球を構えている。魔力を高めなおしているようだ。


 戦闘前に高めた魔力も徐々に弱まっていく。魔力を高めなおして攻撃を再開するつもりだろう。そして魔力を高めながらも火球を構え、警戒を怠っていない。



 現在準備時間終了から約2分。試合は残り3分、日和先輩の怒涛の猛攻が止む現在まで、攻撃のチャンスを全くなかった。



 火球の威力は一級品だ。まだたいして強度の無いティーの魔装では、2,3発で破られてしまうだろう。だが同時にスピードはそれほどでもない。前回のセラの普通の炎球と同程度。光速の炎球と比べたら、止まって見えるほどだ。だからこそ2分間躱し続けられた。



 もしこれからもこれまでと同様の攻撃だけなら、躱し続けることは可能だろう。勿論、他の技が無ければ、という話だが。


 それに、もしこれまでの攻撃だけだとしても、攻撃のチャンスが全くない。これでは良くてドローだ。


 逃げ回っていても練習にならないし、まだ、セラへの対抗策も思いついていない。このまま攻め込まないのでは意味が無い。



 試合の本番は5分だ。5分で相手に勝つことが求められる。なんとか倒すことを考えなければいけない。



 だが、同時に日和先輩も同じことを考えているだろう。ここからが本番だ。

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