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劇的な一手

 ティーが大きく息を吸い、自信と緊張を抱きながら言う。


「『選抜戦』を行うのはどうでしょう。」






§






「はあ、はあ、ここからは、僕が、説明します。」



 ティーとともにやってきたイチがそういいながら前に出る。


 イチは上がっていた息をなんとか落ち着かせると、説明を始める。



「まず、ルミ先輩の実力にかなう選手、これはいないと思います。今いるメンバーの実力では、誰が埋め合わせに入ったとしても、蘭花が全国の猛者たちに勝つのは難しいと思います。」


 今の蘭花の状況に言及するイチ。それに先輩たちが異論を上げる様子はない。先輩たちも納得しているようだ。やはり今のメンバーでは全国を勝ち抜くのは厳しいというのは共通認識のようだ。



 更にイチが続ける。

 


「ですから、勝機があるとすれば…今いるメンバーの実力を全国に通用するレベルまで早急に高めることです。『選抜戦』という形でレギュラーの枠を争って競争させれば、急速なレベルアップが期待できるはずです。」



 競争は劇薬だ。競争は爆発的に人を成長させる。ライバルの存在や目標の存在は人に限界の壁を超えさせる起爆剤になり得る。そしてそれが魅惑的であるほど強力なインセンティブになる。


 勿論、メリットの反面、様々なリスクを孕む手法ではある。他者との競争は身体的にも精神的にも人々を蝕む。人間関係も悪化させるかもしれない。


 だが、魔闘の世界の本質は全て競争だ。今更この是非を議論するのは野暮かも知れない。




「それに……もし、万一、一年生を候補にするとしたら僕らはまだ実戦をほとんど知らないです。先輩方も僕らの実力はほとんど知らないと思います。ですから…」



イチが話し終わらないうちに大阪が少し困った声で話を遮る。



「あ、ちょっといいか、イチ。」



「…はい…?」



「その、なんつーか、もう、決まっちまったんだよな。その…お前らの言うところの、『選抜戦』をやるって。」




「…へ?」



ティーが思わず変な声を上げる。


大阪の発言に付け加えるように佐倉が話し始める。



「そうなんだよね。今のみんなの実力では正直全国優勝を狙うのは厳しい。それに、今年のレギュラー選抜に参加していない一年生にも有力な選手が何人もいるみたいだからね。」



 佐倉が日和を見ながらそう言う。




 軍神がさらに付け加える。



「明日、詳しい発表をするが、開催は今月末、7月30日と7月31日だ。1か月、練習期間があるから、それまでにレギュラーに匹敵する実力をつけてほしい。レギュラーになってからの連携練習の時間は減ってしまうが、1年生に可能な限りチャンスを与える形にした。」



 本来、連携の練習はレギュラーになった時点から始める。つまりティーたちが中学に入学した時点では既に連携練習を始めているのだ。


連携練習は各メンバー同士での連携、つまり自分以外の6人とするのは勿論、3on3を想定しての3人連携もいくつかパターンで行う。そうして、時間をかけて、それぞれの組み合わせで、連携練習を行う。これをすることで実戦で味方の狙いが、動きが、予測できるようになる。息の合った連携ができるようになる。


その連携練習を捨てるというのは大きなリスクを伴うのは言うまでも無い。8月1日から行うとなると猶予は10日程度。良くて一組、二組の連携が精一杯だろう。




そこまで詳しく実情を知らないイチにとってもこれは意外な決定だった。選抜戦の時期は精々今週末、良くて来週だと予想していたし、実際その時期を提案するつもりだった。


この決定はティーにとっては渡りに船だろう。時期が延びれば延びるほど勝機は生まれる。ティーにとってのライバルはセラだろうが、恐らく最大の敵は経験値のある2年生たちだ。そしてティーは2年生にも勝とうと立ち向かうだろう。ティーのライバルは彼の格上全てだ。



そこまで聞いたケイが、唖然としながら言う。


「え、じゃあオレたちが、わざわざ走って来たのは無意味だってことか?」



イチが答える。



「どうやら、そうみたいだね。」



残念そうに言うイチ。


そんな一年生たちに佐倉が告げる。



「こうやってみんなが真剣に考えてくれて、それもまだ一年生なのに私たちに意見を言ってくれるなんて、私は嬉しかったよ。それに、確かに、今回は無意味だったかもしれないけど、いつかあなたたちの選択が、未来を変える日が来るかもしれない。だからその姿勢を忘れないでほしいな。」







§







会議が、終了した。



随分と時間がかかってしまったが、なんとか良い落としどころを見つけられた。ようやく決まった結論に佐倉は少しだけ安堵していた。


自らの采配の甘さが親友の怪我を招いてしまった。確かに西町谷の持っているカードは余りに例年のケースから外れていたし、あそこまで巧妙に隠蔽されれば読み切れなかったのは、仕方ないと片付けたくなる気持ちもあった。だが、その姿勢で全国に臨むことは許されない。この雪辱は全国で晴らさなければいけない。


それを果たすにはたったの一月で劇的な飛躍を遂げなければいけない。ルミの代わりもそうだが、それだけでは足りないだろう。今のレギュラーメンバーは勿論、佐倉自身も変わらなければならない。


だからこれは……最初の一手だ。蘭花に変革をもたらすための、最初の一手だ。リスクを伴うことは分かっている。それでもやらなくてはならない。





話し合いが終わり、新校舎への帰路につく一年生一行が窓の外に見える。なにはともあれ、選抜戦の開催が決定したことの喜びを噛みしめているようだ。


「よしっ!!これでもう一度、セラと戦えるぞ...!!」


ティーが拳を握り喜びを噛みしめている。それを他の3人がともに喜んでいるようだ。




それを眺めている大阪が、少し憂鬱げにいう。



「本当に良かったのか。あいつらに何も言わなくて。確かに俺たちは『選抜戦』をやるつもりだ。でも俺たちが『選抜戦』をやる目的は別にあるだろ。」



それに高石もまた少し物憂げに続ける。



「選抜戦を通じてセラさんを成長させるのが目的、ですからね。セラさんは覇王が扱えるけど実戦の経験値が足りない。だから、緊張感のある形式で実践を積ませるために『選抜戦』を開催する。」



「それに試合は遠距離職も戦いやすい形式、おまけに覇王持ちが圧倒的に有利なルールときた。2年の奴らは兎も角、ティーたち1年には申し訳が立たないな。」



そうだ。この選抜戦の本当の目的は1か月という限られた時間でセラを成長させること。実戦を積ませ覇王の力モノにさせること、さらにその力を引き出すことだ。その上で覇王の力を扱いやすいルールをセッティングする。言ってしまえばセラが勝つことを前提とした出来レースだ。


少し物憂げな2人に軍神が真剣な顔でいう。


「だが、同時に、魔闘を始めたその日に覇王を使いこなすイレギュラー、セラの存在は俺たちの切り札になるかも知れない。」




魔闘開始初日から覇王を使いこなすほどの潜在能力。もし引き出す事ができれば、それは予想を超える大きな結果を生むかもしれない。


それに、1年生であることはデメリットばかりとも言い切れない。相手に一切のデータが漏れていないことも確かな強みだろう。そのうえ、誰も代打で出てきた1年生が覇王を使うなんて予想しないだろう。



「だから俺たちは、セラに賭けることにした。」




そこまで軍神が言い終えた後、佐倉が口を開く。



「でも、それだけじゃないよ。もし、セラちゃんが勝つように仕組んで、それでも……それでも、勝ち上がれる人が他に居るとしたら、その存在は、『劇的な一手』になるんじゃないかな。」








§






翌日 魔闘用コート



翌日の魔闘用コート部活の終わり。全部員がそろう中、軍神がレギュラー選抜戦の説明をする。形式など、細かい点を除けば、概ね昨日の説明の通りだ。


「ということで、7月30日と31日、最後のレギュラーを選抜するため、試合を行う!みんな、心して挑んでほしい!!」






会を終え、帰路につくティーとケイ、それにユリとマツ。ティーとケイはやる気満々だ。


「よしっ!今回こそセラに勝つぞ…!」


「オレもせっかくだしレギュラー目指してみよっかな…!」


「じゃあ明日から練習頑張るか!!」


「おう!!」





「ねえ、ティーさん。」



「なんだ、マツ?」



「その、明日から、テスト期間だよ。」



「え………?」



「だから明日から10日間、部活お休みだよ?」




「……………………………………………。あああああ!!!!れんしゅうがああああああ!!!!」





つづく


お久しぶりです…!


また、投稿再開していこうと思っておりますので、どうぞお待ちください!


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