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第2部 プロローグ 事件録 織田山寺事件

10年前



 中学魔闘の決勝戦の決着後、その会場から少し離れた場所の高速道路を一台の車が走る。その車の車内。


「なあ、ティー、『魔闘』は凄かったろ…!」


「うん。凄かったよ…!僕も魔闘、やってみたい!!」


「中学生までは魔闘はできないが、それまで、他の競技をやっておくといいらしいぞ。魔闘の選手はだいたいみんなやってるみたいだからな。ティーは何をやってみたい?」






「僕は…!」


 ティーの父がある場所を目指し、車を走らせる。この日の彼らの本来の目的地を目指していた。







第2部 プロローグ 事件録 織田山寺事件








愛知県 某所 織田山寺



 愛知県市街地をだいぶ離れた山奥に佇む一宇の寺。かなり大規模なその寺は、人で溢れかえっていた。ある高名な武将をまつるその寺は、普段から観光地的な性質を持ち、多くの参拝者、観光客がいるが、その日の人流は普段の比ではない。その一帯が人で埋め尽くされていた。



 ティーを乗せた車はその寺の裏側へと回り、関係者用の通用口を抜ける。ティーと父が車を降りると、一人の女性と少年が待っていた。ティーの母、佳代と兄、隼人だ。


 「お母さん!」


 ティーが巫女服姿の母に駆け寄っていく。母はティーを受け止め、笑顔で尋ねる。


「ティー、『魔闘』は面白かった?」


「うん!!僕も『魔闘』やりたい!!」


「そう。川三法の子なら一番を、目指すのよ。」


「うん!」


 母とじゃれるティーとそれを少し羨ましそうに見る3つ上の兄、隼人。その後方から声がかかる。


「佳代さん!そろそろ時間ですよ!」


「ああ、すみません!今行きますね!」


声をかけた女性は少しせわしなさそうにしている。その女性の手は、1人の少女の手を握り、連れている。



「ティー、ごめんね。お母さんとお兄ちゃん、少しやらなきゃいけないことがあるから、お父さんと待っててね。」


「うん!」


ティーが母から離れ、父のもとへ戻る。父が母に、少し残念そうな声色でいう。


「『受龍の儀』か…僕も一度、見てみたかったのだがね。」


「ごめんなさい。血縁者でも、儀式の関係者以外は入れられませんから。」


父が隼人の頭を撫でる。


「隼人、しっかり受龍、してくるんだぞ。といっても僕は何をするか、何も知らないのだけれどね。」


 「うん。僕、頑張るよ…」


 






 「さて、私たち、そろそろ行きますね。」


「いってらっしゃい。」


父が答える。


そこで、先ほど母に声を掛けた女性が戻ってくる。再び、少女も一緒に戻ってきた。


「佳代さん、そろそろ…あ、佳代さんの旦那さんですか!?」



その女性は少女を連れて寄ってくる。


「旦那さん、少しお願いがあるのですが…儀式の合間、この子見てくれる人が居なくて…良ければお願いできませんか。」



「ええ。構いませんよ。」


「ありがとう、ございます!ほら、ユリちゃん、挨拶、できる?」


「はい。坂元、百合です。よろしくおねがいします。」



「よろしく。ユリちゃん。ティーも挨拶できるか?」


「川三法 呈です。よろしくおねがいします。」







§





ティーの母と兄が儀式に向かう。残された三人。


「さて、僕たちは、織田の甲冑の見学に行くとするか!」



「かっちゅう?」


ティーが尋ねる。


「ああ。己の武力一つで人類の時代を作り上げた武将、いうなれば最強の魔闘士、織田信長。その織田信長が着ていたといわれる甲冑が、特別に展示されてるらしいんだ。ティーも見てみたいだろ?」


「…うん!!」


「ユリちゃんは見てみたいかな?」


「私は、………分からないです。」


「そうか。まあ、見てみて分かることもあるだろうし、いってみようか。」


 そうして3人が歩き出す。


 「ユリちゃんは、甲冑、見てみたくないの?」


 ティーがユリにそう尋ねる。


「…私は、分からないかな。ティー君は、どうして見てみたいの?」


「だって、世界で一番強かった人の甲冑だよ?見てみたいにきまってるよ!世界で一番だよ!」


「世界で、一番?」


 「うん!それで、次は僕がそれになるんだ!!」


「ティー君が、世界で一番に?」


「うん。世界で、一番!!」





 そう話しているうちに、本殿の関係者出入り口にたどり着く。関係者出入り口の扉を開き、中に入ると、そこは人で埋め尽くされていた。


 「おお、やっぱりすごい人だな。ティー、ユリ、はぐれないようにな。」



 そして、本殿へと入る。本殿の中心には黒い甲冑が置かれている。ティーの父の目には遠くに黒い甲冑が見えたが、余りにも遠い。小粒程の大きさだ。それにティーやユリの身長では、人だかりに阻まれ、当然、見えるはずもない。


ティーとユリにも見えるようにと、人で埋め尽くされた本殿内部を進むべきかと考えるが、子供2人を連れてここを進むのは危険だ。確実にはぐれてしまうし、最悪怪我をしてしまうかも知れない。



少し考えたのち、父はティーとユリにいう。



「よし、2人とも、おんぶしてやろう。そしたら甲冑も見えるはずだ。最初はティーでいいか?」



「うん!」




そうして、父はティーを担ごうとする。





その時、それは起こった。




最初は、本殿の前方、甲冑のよく見える位置にいる男がそれに気づいた。



「なあ、今、あの甲冑の頭、動かなかったか?」



「動いた?風かなんかだろ?」



「いや……ほら!今、鞘が…!!」


「鞘?あ、ホントだ!あれか?魔法を使ったイベントかなんかか?」


「国宝を使って魔法イベントなんて、そんな馬鹿な…」



だが、確かに鞘が、甲冑についた鞘が動いている。そして、小手が浮く。甲冑に近づいていく。









その動きは…そう、まるで、剣を抜く、構えのように………






本殿左後方のティーは、父に肩車をしてもらった。ティーの黒い目に、甲冑が、写る。








その瞬間、刀が抜かれた。






甲冑が台座から姿を消す。







その代わりに本殿内部に血の雨が降り注いだ。






たった一度の抜刀が、本殿に居た人の約半数を八つ裂きにした。










呆然とする生き残った人々。血の雨の中から黒い甲冑が現れる。





「「きゃあああああああああああ!!!」」






本殿中から悲鳴が起こる。一刻も早くこの場を離れようと人々が逃げ惑う。



ティーの父も一刻も早く逃げようとユリの手を掴む。




だが、もう、遅かった。




「え…?」




再びの抜刀。



「があああっ!」



 その叫びはティーの父の声。父の体は、真っ二つに刻まれた。




「父さん…?…ユリちゃん…?」



そして、ユリの体も切られている。そして自身の両足に違和感を覚える。


「え…」


両足が切られている。


「父さん…ユリちゃん…う、うわああああああああああああああっっ!!!」






















「どうかしたん?ティーちゃん?」









「え?…ああ、大丈夫さ。」


 


そこは蘭花の真夏のグラウンド。部活の時間の真っ最中だ。


どうやら練習の休憩中に眠ってしまったらしい。ユリの膝の上で眠っていた。介抱してくれていたのだろう。


 (また、この夢だ…)




 父さんが殺されたあの日、生き残ったはずのユリの体が切られ、ティー自身の足が切られる夢。


 「ありがとう。助かった。ユリ。」


 ユリに礼を言い、立ち上がり、練習に戻るティー。



 父さんは殺された。でも、いいのだ。少なくとも、ユリは生き残ったのだから…










『20xx年x 月x日、織田山寺本殿を訪れていた369人中、367人がその日展示されていた黒甲冑によって殺害された。生存者 2名。』





「凄まじい事件だな。だが、この事件、闇に葬る必要があったのか?」


「いいや、私にも、その必要は感じられないな。」


 富山県某所の山奥の警察署の一室。存在ごと抹消されたはずの事件録を読む二人の男。1人は小柄で鋭い目つきをしている。もう1人は大きな体と澄んだ大きな目をしている。


「これだけの死傷者を出した事件の事実をねじまげるなんて、政府、マスコミ、その他関係各所が躍起になって取り組んでもほとんど不可能だろう?いくら甲冑が動くなんて馬鹿げたことだとしても、もっとスマートなやり方があるんじゃないか?」


「だがわざわざその手法を選んだ。そこがこの事件の最大の違和感だ。」


「つまりなんだ…そこまでして隠したい何かがこの事件にあるってことか?」


「ああ。例えば、甲冑が本当に動いた、とかな。」


「そんな馬鹿げた話…あり得るのか?」


「先代部隊長が死の間際まで調査していたことを知らなければ、俺もそんな馬鹿げたこと考えないだろう。だが、少し似ていると思わないか?俺達の戦う敵と。」


「なるほどな…まだ、日本に3月は滞在できる。もう少し調べてみるか」


「ああ。そうしよう。」

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