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エピローグ 歓迎

―後日―



 代表校決定戦から数日。蘭花中学校共用グラウンド。少し暑さの引いた夕方ごろ。うすらと燃える夕焼けを背に一年生たちは走っていた。


 セラが先頭をそれを走り、ティーがそれを追うように走る。カイトは余裕そうに、だが、前より少し真剣に走っている。イチは相変わらずへとへとになりながらも走り続けている。


 いつもと変わらないそんな光景だ。


そして、ケイとマツ2人も相変わらずの走りだ。だが、少し楽に慣れてきたか、どこか余裕があるようにも見える。


「なあマツ、ルミ先輩、大丈夫かな。」


「ひどい骨折らしいよ。昨日の朝のニュースで、もう魔闘出来ないかも、って…」


「そんな、冗談だろ…?」


「ルミ先輩、取材は受けてないみたいだから、確かでは無いだろうけど、軽い怪我では無いと思うな…」


「確かにな…3年生の先輩に聞けば分かるだろうけど、先輩、忙しそうだしなあ。」


「今日の夜なら聞けるかな?」


「あ、合宿練だもんな。今日。」


今日は学校に泊まっての合宿練だ。魔闘部では時々行う。今日の夜から明日の創立記念日の休日にかけて、ハードな練習が待っている。


「でも聞く前にぶっ倒れてそうなんだよな…魔闘部の合宿練は地獄って話だぜ。」


「合宿練前の部活も普通にやってるもんね。こっちだけでもヘトヘトだよ。」


そんな2人の後ろからユリがやってくる。


「ヘトヘトっていう割にはだいぶ余裕そうやない?2人とも、ここ何ヶ月かでめっちゃ体力ついたやん…!」


「だって魔闘部入ってから、ずっと走ってるじゃない…!そりゃ体力もつくよ。」


「ああ。それに俺の目標はティーだからな…!負けてらんねえぜ。」


「ああ〜またケイさん、ティーさんみたいなこと言ってる!!」


「それやったら、ティーちゃんとあと12周差!頑張らんとな!」


「先は長いね。」


「しゃあねえ!もうちょっと頑張るか!じゃあマツ、行ってくる!」


ケイがスピードを上げる。


「うーん、じゃあ私ももうちょっと頑張ろうかな?」


マツもケイには及ばないが少し加速する。


(みんな頑張ってるな…わたしも…)


それを眺めるユリは、規則正しく走っていた足を、もう少し先にと力を込めてみた。





§






「はあ、はあ。もう、歩きたく、ねえ…!」


「ああ、頑張るんじゃ、なかったよ。もう、死に、そう」


 部活時間が終わり、練習を終えた1年生たちは、重い荷物を抱え、部室のある旧校舎へと向かう。今日はとびきり頑張った2人は、文字通り、死にかけている。


 「なんで、オレたちの部室は旧校舎にあるんだよ!!なんで、隣町の、旧校舎にしやがった!!」


 それにこれまたヘロヘロのティーが答える。


 「なんでも、昔、部室棟を、ぶっ壊したことがあるんだって。というか、片道3キロ以上歩くの、分かってたんだから、温存しといたら良かったんじゃない?」


 「ヘロヘロのティーに言われたくねえ!」


一方、こちらも疲れ果ててるマツは少し笑っている。


「でもその代わり、旧校舎丸ごと、部室らしいよ!どんなとこなのかなあ…!」


「でもよ。出るらしいぜ。アレ。」


「え?もしかして、お化け……!?」


ケイが声を裏返しながら答える。


「ああ。蘭花中学七不思議 第三『旧校舎 地下13階、ケタケタ嗤う、呪いの甲冑』だ。夜な夜な地上に上がってきて、驚いた生徒を嘲笑うんだってさ」


「怖いというより、なんか気持ち悪いお化けだね…」


「甲冑、か…」


ティーがぼそりと呟く。







そんなことを話しているうちに、旧校舎の目の前へと辿り着く。



「怖いといえば、私、これから待っている練習内容の方が怖いかな。」


「オレもそうだな…」





そして旧校舎の敷地へと足を踏み入れる。


そこで彼らが抱いた感想は2つだろう。広い。そして新しい、ということだ。


 そう、この敷地は、まだ授業で使わなくなって7年程度。それにもとの校舎だったこともあり体育館なども残っている。マンモス校となった今と比べると少々手狭だが、それでも十分すぎる広さだ。


 それに放棄されたのが最近ということもあり、旧校舎という名ほど古めかしい校舎でもない。いくら蘭花が私立とは言え、なぜ未だに放置されているのか不思議なくらい、恵まれた土地だ。





 一行は旧校舎の中へ入り、とある一室の前に辿り着いた。


 旧校舎職員室。広い旧校舎の中でも、一回りサイズの大きいこの部屋を魔闘部は拠点としていた。そして今日の集合場所でもある。


ティーがぼそりという。


「これから練習するのかな?」


先輩たちは先にこっちにいるという話だ。


「え、もうやめてくれ…今日はもうめちゃめちゃ頑張ったんだよお…!!!」




「さあ、入るか…」


「もうちょっと待ってくれ!まだ心の準備が…」


職員室の扉を開け、入る。人の気配は感じる、それに何かいい匂いが漂う。が、真っ暗だ。








そして、部屋の明かりがつく。







「「魔闘部 26期のみんな!入部おめでとう!!!」」




「?」




パンッ!!



たくさんのクラッカー鳴る。目の前には先輩達と、机の上には大量の料理。ステーキに、オムレツに、カレーに…。大量の食事が文字通り山のように積んである。職員室の面影など最早、どこにもない。




訳の分からない光景に、呆然としたケイがいう。


「これは…??」



鎧井先輩が答える。


「日和から聞いてなかったか?都大会が終わったら歓迎会をやるって。」



「え、じゃあ、合宿は…??練習は…??」



「もちろん、今日は休みだ。明日もな。」




「マジかよ…やったあああああ!!!」



ケイが飛び上がる。




歓迎会が始まる。




「うまっ!めっちゃうまいぞ、これ!」


「オムレツもいいぞ!オムレツも!」


 肉を貪るティー。一緒にオムレツを食べるケイ。他のところでも、1年生も2,3年生も思い思いに食事をしている。




 「ちゃんと食っとけよ。体づくりも魔力づくりも飯食ってこそだからな。」


鎧井先輩が肉の乗ったフライパンを持ってきながら言う。




 「これ、全部鎧井先輩が作ったって、マジすか!?」



「全部ではないが、料理は好きだからな。さあこれも食いな。」



鎧井先輩が2人の近くのあいている皿に肉を乗せ、厨房に戻っていく。



 入れ替わりに東先輩がやってくる。



「見つけたよ!ティー君!ケイ君!入部おめでとうぅぅぅぅ!!おじざん、うれじいいよおおおお!!!」


2人と肩を組み、涙を流す東先輩。


突然のことにティーが困惑しながら言う。


「先輩、気持ち悪いです。」



「うんうん!!ティー君も、うれじいんだねええええ!!」



ケイも困惑している。



「先輩、気持ち悪いです。」







別の場所ではセラとマツが、静香先輩と食事をとりながら、会話していた。



「先輩の雷鳥、凄かったですね!!カッコよかったですッ!!」


セラが食い気味に言う。


「ありがとう。決勝ではあんまりいいとこ見せなられなかったけど、全国では、もっとすごいの、見せてあげるからね…!」



「全国決勝!楽しみです!!」



マツが静香に気になっていたことを聞く。


「ルミ先輩は大丈夫だったですか…?その、テレビだと、凄い大怪我って…」


静香先輩が少し苦笑いしながら答える。



 「ああ、ルミ先輩ね…もうすぐ『来る』と思うよ。」



「来る?」



その時、職員室前方の扉が空く。




「ひっさしぶり!ご都大会MVPの登場ですよ!」


ルミ先輩が車椅子で入ってくる。


「「ルミ先輩!!」」



皆がかけよる。


一番に駆けよった静香先輩が、ルミ先輩に尋ねる。


「ルミ先輩!足、大丈夫だったんですか!?」


ルミ先輩が笑いながら答える。


「この通り!ダメダメよ!今日も病院抜け出してきたんだから!」


「え、病院抜け出してきて、大丈夫なんですか!?」


「大丈夫、大丈夫!この世に歓迎会より大事な物なんてないんだから!さ、続きやるよ!」



その後ろから、2人のスーツ姿の男性と女性が入ってくる。


「あれ?みんな何集まってるの…ってルミさん!!なんでここに!」



2人は顧問と副顧問の蘭花里奈先生と仙田先生だ。普段は蚊帳の外だが、こういう時の手配など、雑用は全て2人がしてくれている。


「まあ、本人が大丈夫っていってるならいいかしら。さて、仙田先生!私たちはパーッと飲むわよ!!」


「里奈先生!?生徒の前で飲む気ですか!?」





§




そうして夜が更けていく。


職員室前方。10人あまりが絵しりとりをしている。


その一端で、軍神が怪訝な顔をしながら大阪に言う。


「おい、大阪。あのもじゃもじゃはなんだ?これは絵しりとりだぞ…!?」


「もずく。」





一方、職員室中心辺りでは。


「私、合宿って聞いて、お菓子作ってきたんです!静香先輩、日和先輩、佐倉先輩、良かったら食べませんか!?」


マツがカバンからチョコケーキの詰まった箱を取り出す。


チョコケーキを受け取った佐倉先輩が一つ、口にする。


「どれどれ、わあ!美味しい!!」


続いて静香先輩と日和先輩。


「うん!これめちゃくちゃおいしいじゃない!もう一個いい?」


「凄い!こんなおいしいケーキ!うまれて初めてですっ!!」




通りすがった東先輩と高石先輩、それに鎧井先輩がそれに気づく。


「なになに!……おじさんにもくれるのかい!…………何!!!なんだこの美味は!!!」


「うん!確かにこのケーキ、美味いですね!」


「信じられないくらいおいしいな、どんなレシピで作ったらこんなに美味くなるんだ?」


「お母さんに教えてもらったんです!チーズケーキもあるんですけど、どうですか?」


「何!!チーズケーキももらっていいのかい!?おじさん!!幸せだあああああ!!」


「今、出しますね。」


東先輩や他の5人の歓喜の声に絵しりとり組も気づき、軍神先輩や里奈先生、それ以外にも人が集まりだし、人だかりができる。



その人だかりに、遠くにいたケイが気づく。


「…?………マツ!?……先輩方!やめといた方が!!!」




だが、集まった人々誰もケイの声には気づかない。気づいたのはちょうどケイのとなりにいた大阪先輩だけだ。


「ケイ、何かあるのか?」


「はい。マツのお菓子は天国と地獄というか、天国と天国というか……」


「?………天国と天国…??」




「それではいただきます!!」


東先輩が、軍神先輩が、佐倉先輩が、チーズケーキをほおばる。







「「「きゅぴん」」」





瞬間、チーズケーキを口にした全員の全身が硬直し、そのまま、地に倒れ伏す。





「ケイ!?なんだあれは!?」



「マツのお菓子は当たりの時はめちゃくちゃおいしいんですけど、外れの時はめちゃくちゃまずくて…」



「じゃあなんだ、あいつら、まずいだけで倒れたのかよ!?」



「はい……」






「みなさん!倒れるくらいおいしかったんですね!私、嬉しいですっ!!」












更に夜はふけ、職員室前方の入り口から、大きな荷物を抱え、坂先輩が入ってくる。


 坂先輩にケイが尋ねる。



「先輩、それ、なんですか?」


「スマ〇ラだ!やるぞ!!第3回 魔闘部最強決定戦だああああ!!」






「さいきょう…!?けってい、せん…!?」



ユリの隣の席から、ティーが一瞬で姿を消す。



「ティーちゃん!?」






激闘と激闘の合間、つかの間の休息。新入生歓迎会は、夜が明けるまで続いた…






 ―翌日 お昼の12時ちょうど―




「ふああああああー。サクラちゃん、おっはよー。」



「おはよう。ルミちゃん。」



旧校舎の2階の廊下。歓迎会明けのルミが目を覚まし、ある部屋を目指す。



「校舎、だいぶ静かだけど、もーみんな遊びに出ちゃった?」


「うん。みんな、びっくりするくらい元気だね。」



魔闘部は今日も練習はお休みだ。そして、いつも休日返上で練習している魔闘部のメンバーのほとんどが、一同に集まって遊びにでる、数少ない機会だ。昨日あれだけ遅くまで遊んでいたというのに、まだまだ元気らしい。


 だが、それもルミ含め6人を除いて、だ。



2人がスピードを揃え、進み始める。


 「早く終わらせて私も早く遊びに行きたいなあ~。でも、私がわざわざ病院抜け出してきたもう一つの目的だし、しっかりとやんないとね。」


 「ルミちゃん、執行会議なくても抜け出してきてたでしょ?」


「バレた?」


執行会議。それが彼女らのこれから参加する会議だ。魔闘部の部長と副部長が集まり、あることを決定する。佐倉は副部長、ルミは部長でも副部長でもないが、今回の会議には参加する。


旧校舎2-4の教室にたどり着く。


2-4の扉を開ける。


「お、みんなそろってるじゃん。おっはよー」



「ああ、おはよう。」


そこには部長の軍神、副部長の大阪、高石、日和がいた。


 「さて、みんな集まったな。できれば、こんなこと、決めたくはないが、時間は待ってくれないからな。」


 そういって軍神が皆の目を見る。5人が声を出さずに頷く。


「今日の議題は、『7人目レギュラーの再選抜』だ。」








§











―都大会決勝戦の翌日 夜 西町谷中学校 宿直室―



「で、後藤先生、なんですか。こんな夜遅くに呼び出して。」



後藤先生に呼び出された石井が宿直室に入ってくる。



「来たか。石井。昨日の決勝戦、どうして最後、覇王術を使わなかった?勝てなくとも、あと1人は落とせたんじゃないか。」



「何馬鹿言ってるんですか。暇つぶしに覇王術使って、任務に支障をきたしては、話にならないでしょう?」


「ああ、その通りだ。そして、お前の判断は正しかったといえるな。」



後藤先生が一通の封筒を取り出す。



「ようやく見つかりましたか。」



「ここ、西町谷の結界室の場所と侵入方法だ。半年以上かかったが、ここを解除すれば残り一カ所だ。」



「それで、西町谷の結界室にはあったんですか?『入り口』は。」



「いいや。確認した限り、なかったそうだ。」



「そうですか。ということは、制圧の必要があるのは蘭花、ということですか。」



「まあまだ蘭花は結界室を発見できてないようだがな。」



「ちっ、使えませんね。」



「仕方あるまい、『入り口』があるとすれば、入念に隠しているだろうからな。それより石井、仲間のいる西町谷を攻撃せずにすんで、良かったな。」



「仲間?豚共と仲間になるわけないでしょう?」




「ああ、そうだったな。さて、結界室に行くとするか。」



「ええ。」



そうして、2人が宿直室を去る。



夜の闇が、東京の外れの街を、昏く、昏く飲み込んでいく。

ここまで読んでいただきありがとうございました!魔闘の頂点、一章、完結です。


まだまだ序盤という感じではありますが、ここまで、いかがだったでしょうか。


2章以降も、ゆったりとですが、投稿していこうと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いします!(2章プロローグ~序盤辺りは近いうちに投稿できると思います。)


最後に、ここまで面白いと思ってくださった方、早く続きが読みたいと思ってくださった方は評価、ブクマ、コメント等いただけると更新ペースにも繋がってくるはずですので、どうぞよろしくお願いします。

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