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決着

―2年前、どこかの住宅街―



桜舞う季節。都心を少し離れた郊外の一角。雲一つ無い晴れ模様に暖かく包まれた住宅街。整然と立ち並ぶ一軒家。



その一つの前に二組の家族が立っていた。一組の家族の両親の手には少し大きめのキャリーケース。



別れの季節だ。



 そして2人の少女が最後の言葉を告げていた。


「もう、行くんだね。なのは。」


「離れだぐないよぉぉぉ……ルミちゃぁぁん…!!!」


旅立つ少女が泣きながらもう一人の少女に縋りつく。もう一人がそんな少女の髪をくしゃくしゃになでる。


別れなど、たいして珍しいことでもない。出会いもあれば別れも当然ある。親しい中での別れもそれほど少ないことでもない。その度に大泣きしていては、体が持たない。


「ほらほら、泣くなっつーの。だいたい、携帯の番号だって交換してるし、今世の別れじゃないんだからさあ。」


「…………こんじょう…?」


 彼女が行くところはここからは少し離れた場所だった。交通の便もさほど良くはない。それでも、日本国内だし、遠く離れた離島に行くわけでもない。気軽に会えるというほどでもないが、その気になればいつでも会えるほどの距離。


 それでも、まだ13、14の少女らにとっては遠くも感じられたのかも知れない。


「…………あーーー。とにかく、ほら、なのはのところでも魔闘の大会なら見れるでしょ?あたしが出たら、それで私が、元気にしてるの、分かるでしょ?」


 思い返してみれば、適当な約束をしたものだ。


「…………うん。そうだね。それなら私が、どこに行っても大丈夫だね。でも、大丈夫かな…私が行くとこ、決勝とかしか、やらないかも知れないよ?」


「心配すんなって。決勝までいけばいいよ。あ、そうだ。せっかくなら優勝して、一番高いとこから、届けてあげよっか。」


適当な約束を、したものだ。


「…ほんとに?」


「ああ。」


「約束、だからね?」


「ああ。約束ね。」


「でも、ルミちゃんが元気にしてくれてたら!それだけで私、十分だからね!?」


「うんうん。分かってるよ。」




彼女が事故で命を落としたとの知らせを受けたのは、それから2週間後のことだった。





================================





それは左足の痛み、きりきり鳴る痛み。


思わず痛みに手をやる。血の巡りが鮮明に感じられる。どろどろ、どろどろと流れる血が、血を運ぶ血管の一本一本が、ルミの体を支える無二の骨が、悲鳴を上げているのが分かる。


骨が、折れたか。いや、この感覚だけでは分からない。ルミは当然医者ではない。そう判断するのは早計だ。




この痛みは石井の執拗な攻撃が直接的な原因なのは確かだ。だが、それだけでこんな痛みを起こすほど、魔装の強度はやわじゃない。


きっと長年に渡る無理な練習が、足にダメージを蓄積させていたのだろう。魔装の扱いに熟練している者が、怪我のリスクが大きく減るのは明らかになっていることだが、怪我のリスクが0になる訳じゃない。





だが原因などどうでもいい。問題は完全に詰んだことだ。この試合、完全に詰みだ。



脳裏によぎるのは、なのはとの約束。


(今更、なんでこんなこと思い出すんだろうね…)



高石は脱落した。静香は後衛、その上、覇王二人には決定打を持たない。そしてルミの足の痛み、再起不能というほどではないが、パフォーマンスは良くて半減。先ほどまでと同じ立ち回りをすれば、数分と待たずに足が使い物にならなくなるだろう。


相手はまだ3人残っている。どうあがいても、たったの1人も落とせないだろう。



(ほんと、適当な約束をしたもんだ…一番高いとこ、ねえ…)








「ルミ先輩……?ルミ先輩!!大丈夫ですか!!」



足に手を当てるルミに声を震わせながら静香が言う。



足を触れる手を離し、ゆっくりとルミが立ち上がる。


(なあ、なのは。一番高いとこからなら、空まで届くのか?)



数瞬、目を瞑り、そして目を開く。そして、静香に答える。


「…心配すんな。問題ない。」


「でも、先輩…」



「ちょっと痛んだだけだよ。考えてもみな。魔装の上から怪我させるとか、軍神でも無理だろ?」


「そう……そう、ですよね…!」





「ってことで、ちょっと西谷しばいてくるわ。静香はそこで見ててくれ。」


「え?何を………?」



「心配すんな。勝ってきてやるよ。」



「……………………先輩?もしかしてアレ、やる気ですか…?」



「それしかねえしな。」



「だって、そんなことしたら、先輩、全国、出れなくなりますよ!?」



「負けても出れないし、同じさ。それに、1か月もあれば治るだろ。」



「…先輩…。」



「さて…やるか。」



 覇王を持つものが誰もが使える『奥の手』が存在する。それは奥の手に相応しい、誰もが渇望するほど強烈な効果を誇る。が、その『奥の手』を誰も使わないのは、2つの致命的な欠陥があるからだ。



1つは、使いこなすのが極めて難しいこと。普段扱う魔力の数十倍、数百倍の魔力を一度に扱うため、たいていはコントロールができず、無駄に魔力を浪費したり、その魔力が暴走して、自身や味方の魔装を破壊して終わってしまう。これを使いこなすには武術の素養と、たぐい稀な魔力のコントロールが求められる。


そしてそれを満たしたとしても、2つ目欠陥が致命的だ。この能力は膨大な魔力を全身に流して使う能力だ。本来魔力の生成や保管に用いる以外の器官にも、明らかに過多な魔力が流れる。結果、全身の至る器官に傷がつき、短くとも数か月、長いと年単位での負傷になる。最悪の場合、日常生活にも支障がでかねない。



そのため、試合で使うのすら憚られるうえ、余りにも怪我のリスクが高すぎるため、『奥の手』の練習ができないのだ。一度の練習で数か月も休んではいられない。本番で暴走するかも分からない能力を使う選手などいないだろう。そして、仮に使ったとしても、たいていの場合、自滅で終わる事は、これまでの魔闘の歴史が証明していた。



そしてルミ自身も昨年末、悪ノリでこれを使い、3か月の休養を余儀なくされた。


だが、その時の経験から、ルミがこれを『怪我はするけど暴走せず使いこなせる』ことを知っていた。



前を向いたルミが目を瞑る。するとルミの覇王、『彦星』の輪郭が揺らぎだす。




『覇王術』




ルミの覇王の形がどんどん揺らいでいく。そして最後にはドロドロとした塊になり、ルミのからだに流れていく。



『覇王術』。巨大な魔力の塊である覇王の実体を壊し、自身の体内に流し込む。そして本来小出しに使っていく、覇王の魔力を全て自身の体に宿すことで、その全てを一度に使う奥義だ。




召喚された覇王は、魔力の塊だ、通常は、攻撃したり、身体強化した時にその魔力が少し取り出され、攻撃や身体強化の性能が上がる。そしてその魔力量は20分の試合でフルに使い続けても覇王の形が崩れないほど膨大だ。




それほどに膨大な魔力、本来は小出しにしか使えない魔力を一度に取り出す方法がある。それが覇王の召喚を解いたとき、本来消滅する魔力を身体にとどめる、覇王術だ。




勿論そんな膨大な魔力、長時間体にとどめておくことは出来ないし、魔力器官をフルに使っても入りきるはずがない。そうして体を隅々まで破壊しながらも、瞬間的に極限まで強化する。






ルミの体に魔力が満ち満ちていく。体の周囲に青い稲妻が、走りだす。



ルミの雷の薙刀から、青い稲妻は走る。余りに厖大な魔力が空気中まで、あふれ出す。






西町谷の森原のエンジェルの下で、森原に守られている岩屋が、森原に尋ねる。



「先輩、あれって、覇王術でしょうか…?」



「いや、そんなはず…」



呆気にとられる2人。





 覇王術で一度の攻撃に扱う魔力量は、普段の覇王の出力の二十倍といわれる。覇王を持たない選手と比べれば、百倍規模にまで達する。その魔力量で、これまでと同じ魔法を使うとどうなるか。





『身体強化』





ルミが消えた。森原も、岩屋も、石井も、静香も、会場の誰一人として、彼女の姿は追えなかった。



「「え…」」




それは岩屋と森原の呆気にとられた声。




パリン。とガラスが割れるような音が聞こえる。




岩屋のバンクルが、森原の魔装が壊れた。



「う、そ。…まだっ!!」




呆気にとられた森原が一瞬で正気に戻る。そしてそのあまりに強大な敵の行方を追う。




魔力は察知できないがその稲妻は目で追える。確か覇王術の持続時間は1分もなかったはず。それまで耐えれば…!



だが、もう遅かった。




動きを追うべく、後ろを向いた瞬間、森原のバンクルはすでに粉々だった。



森原とルミではそもそもルミが圧倒的に実力は上だ。格上が覇王術を使えば、その結末は明白だろう。



2人を戦闘不能にしたルミが、一時地上に降り立つ。そして、石井と向き合う。




(ちっ…足、痛いな。)





ただでさえ、身体を壊す覇王術。それをすでに万全でない体で使えばどうなるか。答えは明白だ。



だが、勝たねばならない。





石井は構える気配も無い。石井も覇王術を使ってくる可能性も考慮していたが、使うつもりが無いか、それとも使えないか、どうやら使うつもりは無いようだ。



ルミが構えたその次の瞬間、ルミが消える。





たった2撃。胸あたりを狙った初撃が魔装を吹き飛ばし、軽く切った2撃目が、バンクルを切り裂く。





決着だ。








レフェリーの声が響く。


「………。西町谷中学校 石井選手、岩屋選手、森原選手脱落!!蘭花中学校対西町谷中学校 最終戦3on3 3-1!! 全試合の総計は5-3!!よって勝者!蘭花中学校ッッ!!!」






 「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」






 観客達の声が鳴り響く。決着だ。結果は5-3。最終戦にもつれ込むことなく勝利した。文句なしの快勝だ。



 ルミの体から青い稲妻が散っていく。それと共に、全身に気怠さが襲い掛かってくる。



そんなルミに静香と高石が寄ってくる。



「「大丈夫ですか!先輩!!」」



「ちょっと疲れたかな…肩、貸して」



「「はい!!」」



ルミが高石と静香に肩を貸してもらいながら、控えベンチに向かう。





すると、佐倉が寄ってくる。



「大丈夫!?ルミちゃん!!」



「一瞬で終わってくれたし、なんとかね…それより、今日のMVPは私だからね?」



「もちろん!!」



後ろから東が泣きながら走ってくる。


「ルミ君!!無事なんだね!おじさんは、おじさんは!ルミ君が無事で本当に嬉しい!!嬉しいよ!!!」



「あはは、めんどくせえ。」


坂と大阪も、軍神もやってくる。



「ルミ、無事なのか!良かったぜ!!」



「ちっ、思ったより元気そうじゃねえか。まあここで脱落されたら困るしな。」



「その通りだ。」



そうしてレギュラーたちと少し話し、静香、高石にかばわれながらベンチへ向かう。


「ルミ先輩、本当にありがとうございます…僕たちも、もう、ほんとにダメかと…」



「私も、ルミ先輩、みたいに強い魔闘選手になれるよう、もっと頑張りますね…」



「そうだな。来年を背負うのは2人だからな。頑張りなよ。」


「「はい!」」



「それはそうと、もう一人であるけるからさ、もういいよ」



「「はい!」」



2人がルミを庇うのをやめる。






その瞬間、ルミが倒れる。



「「ルミ先輩ッ!!」」




咄嗟に倒れるルミを庇う2人。




そして静香は、血の気が引くのを感じ、ルミの左足を見る。



「ルミ先輩……」



左足が、腫れ上がっている。





病院に運ばれたルミは骨折、全治3か月と診断された。



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