痛み
「高石ッ!!」
ルミが叫ぶ。
「があ!!」
石井の刀が高石の魔装を切り裂いている。
「クソッ!!」
高石に目掛けて駆け出す。まだ、バンクルは壊れていない。ぎりぎり間に合うか。
「ブライト・ボール!!」
森原がルミめがけて光弾の雨を降らす。
(やっぱくるかッ!!)
「雷弾ッ!!」
2弾の雷が光球を散らす。
「もう一回!ブライト・ボール!!」
再びの光の弾幕。
「メイメイッ!回雷弩!!」
これは静香のメイメイが間一髪で相殺。
「メイメイ!そのまま突っ込むよ!!」
光弾を散らしたメイメイが森原めがけて突っ込む。
一方の高石。
(たった数秒で残り左手の魔装だけだなんて…でも!ここでやられたら…!)
ただでさえかなりの劣勢。もし一人でも欠ければ、勝敗は確実に決するだろう。
「……。終われないッ!!」
高石が強く拳を握る。そして、左手に氷の槍を生成する。
相対する石井の動きには無駄が無い。圧倒的な格下の高石と相対するにも関わらず警戒を怠っていない。
近接戦での覇王との戦いには経験がある。ルミ先輩とも、軍神先輩との戦ったことがある。だから覇王持ちと戦えば、どうなるか、結果は知っている。だが…
「はああああああっ!」
「影縫い切り」
氷の槍が、左手の魔装が、一瞬で砕け散る。だが、0.1秒は稼げたか。
石井の後ろから叫び声が聞こえる。
「はああああああああ!!六叡流!『天門一往切』ッッ!!」
たった一切り。だが痛烈な一切りが石井の背中を襲う。
「ちっ、間に合わなかったか。」
石井が跳ね、再びルミと向き合う。
石井の背中の魔装に大きな一太刀が入っている。背中の魔装は完全に壊れていると言っていいだろう。ここで一撃、大きな負担を与えられたのは大きい。
(なんとか間に合ったか…)
高石のバンクルはまだ無事だ。ぎりぎり間に合った。森原もこちらを警戒し、光球を構えているが、動く様子はない。だが、どうする。ルミに魔装を壊された高石を守りながら戦う余裕は無いし、そもそも後衛の静香も守らなくては…
ふと森原のほうに目をやる。そこで、ルミは気づく。森原の天使エンジェルの足元に、岩屋がいない。そういえば、メイメイも…
「静香ッ!?」
前衛がいなくなり、無防備だった静香を、岩屋が岩拳で攻撃している。岩屋の存在が完全に意識から抜け落ちていた。
(岩拳でバンクルを覆って守っているのか!)
魔法でバンクルを覆うことは確かに可能だが、強度は魔装の足元にも及ばない。何かの拍子でバンクルが壊れてしまってもおかしくない。だが、今の岩屋の相手は、後衛職の静香だ。壊せないと踏んでの特攻だ。
メイメイは既に先ほどの光弾への特攻でかなり消耗していた。恐らくあの後森原によって壊されたのだろう。静香の再召喚には時間がかかる。となると、静香を守る物は本当に何も無い。
静香も魔力で雷の剣を生成し応戦しているが、完全に劣勢だ。
静香も高石も天才だ。2年生にして蘭花のレギュラーに入り込むばかりか、現3年レギュラーの何人かの実力はすでに上回っているだろう。試合の要所の1つである、3戦目を任されているのは、試合相手との相性もあるが、彼らの実力が確かだからだ。
だが、2年生であるゆえ、どうしても補えない欠点がいくつかある。最も大きいのは踏んだ場数の少なさ。そしてもう一つ、非常に大きいのが、技のバリエーションの少なさだ。
静香は攻撃のスピード、威力、ともに抜きんでている。事実、覇王のエンジェルの生成した光弾を相殺に近い形で潰した。あのような芸当ができるものは、全国でもそう多くは無いだろう。だが、逆に言えば、彼女にはそれしかない。静香は一人になった時、近接選手を失った時、彼女自身を守る手段を持ち合わせていない。
いや、それが普通なのだ。遠距離からの攻撃を行う選手に求められるのは、守りを捨ててでも敵をせん滅する攻撃力だ。
近距離でも遠距離でも戦える選手が異常なだけなのだ。静香が悪いわけではない。だが、同時に、どちらかしかできないことが欠点であることも、動かしようがない事実だ。そして、その欠点が今、致命的なものになろうとしていた。
岩屋の岩拳の強烈な殴りによって、静香の右手の魔装が壊される。
「静香!!」
一刻も早く助けに行かなくては静香の魔装は壊されてしまうだろう。だが、ここで助けに行けば高石のバンクルが壊されてしまう。それにそもそも助けに行けるのか。今、ルミは石井と森原の覇王2体にマークされている。
(どうする…?両方助ける方法は無いのか!)
考えれば考えるほど、時間は失われていく。静香の魔装は壊されていく。石井と森原がいつ攻撃を開始するかも分からない。もう考える時間は残されていない。
「高石。すまないが私たちに任せてくれないか。」
「そうですか…任せましたよ。ルミ先輩」
「絶対勝つからな。」
その瞬間ルミの姿が消える。
(先輩…任せます…)
その直後、高石の目の前に黒い覇王が現れた。
蘭花中学校 高石 藤也 脱落
「ブライト・ボール!!」
静香のところに急ぐルミに光の球が降り注ぐ。その攻撃も防ぐことなくルミが駆ける。そして、変形していた雷銃を構える。
「雷弾!!」
岩屋めがけて放った雷弾が岩屋の頭上で破裂する。
そしてその衝撃の下、倒れ伏し雷弾の衝撃を凌ぐ静香を救出する。
西町谷の選手から距離を取った位置で状況を確認する。
岩屋は、仕留め損ねたか。岩拳が壊れているが、まだ、バンクルが無事なようだ。直前で離脱したか。
他の2人はいつ動いてもおかしくない。じりじりと距離を詰めてきている。
「大丈夫!静香!!」
「…はい。」
「それは、良かった。」
壊されていたのは右手の魔装だけだ。他の場所もひびが入っているが、大きな傷は無い。
少しして、静香が言う。
「…ごめんなさい。私の判断ミスです。あのあと、すぐメイメイを手元に戻すべき、でした。無防備になるのは分かっていたはずでした。」
「心配ないよ。私たちが勝てばいいんだ。」
「…はい。」
「静香もう一回、メイメイ、行けるか?援護、頼んだよ。」
「…………はい…!」
抱きかかえていた静香を下ろし敵陣を見る。
ここまでの交戦で敵陣の損耗は岩屋の魔装全て、それに石井の背中の魔装といったところか。森原は無傷だ。
「さて…」
一方の自陣。高石は脱落。静香は左手の魔装、ルミ自身は左足の魔装が壊されているといったところか。あと、少し左足が痛むが、たいした痛みではない。やはり魔装の上から攻撃されても、それほど痛みにはならない。
3on3においては通常、人数差は、2on2と比べれば、それほど致命的にはならない。人数差がついても、早い段階で相手を一人仕留め、再び同数に持ち込めばよい。そしてその難易度もそれほど高くない。
だが、この試合では覇王が2人、残っている。それもうち一人はルミと同レベルだ。岩屋一人がほぼ戦闘不能だとしても、これでは、突破口が見えない。
(やってみるしかないかな…)
「行くぞッ」
ルミが突っ込む。
それに石井が応戦する。
両者の武器が衝突する。その実力は互角、ルミがやや上か。やはりこれは序盤と変わらない。
「ブライト・ボール!!」
「メイメイ!雷鳥落とし!!」
飛び道具同士も衝突する。
だが、森原の手数はこれだけではない。
「ブライト・レイ!!」
ルミの視界が閉ざされる。
(ちっ!やっぱりなにか策が無いと厳しいか!)
しばらく視界が戻らない。止むをえず、ルミが距離を取ろうと下がろうとする。が、石井が距離を詰めてくる。
「影縫い切り」
「しまっ」
再びルミの魔装の壊れた左足が切られる。攻撃をもろに受けるがなんとか相手の攻撃後の隙をついて離脱する。
「大丈夫ですか!?ルミ先輩!!」
「ああ、心配すん…うっ!」
「ルミ先輩!?」
思わず、左足に手をやる。痛みだ。左足にキリキリと痛みが走っている。
次で試合ラストです!




