覇王
森原の天使 エンジェルの能力はレーザー光のように光をあて、敵の視界を奪う。シンプルだが、極めて厄介だ。
選手たちは敵の動きを五感に頼って追っている。移動音や戦闘音、或いは空気の流れや地面の揺れなど、さまざまな情報を駆使して敵の位置を割り出すが、視覚は敵の位置を把握する基本中の基本、やはり重要だ。魔力そのものや『気』といったものを察知できればいいのだが、それは出来ない。人間は魔力を察知する能力や器官を持ち合わせていない。察知できるのは、魔力から生成された火の熱や、水の流れる音などだけだ。
(まずいね…僕も静香も相性が悪いな)
さっきは高石だけでなく、静香も光に妨害されたのだろう。結果、雷鳥と危うく衝突しかねないことになった。
魔力は察知できない以上、突然視界を奪われるのは厄介だ。オーソドックスな近接戦が主体のルミ先輩は兎も角、高石や静香の高スピードの攻撃は五感をフルに使ってこそ実現できるものだ。失敗すれば壁際の障壁にぶつかって自滅、最悪仲間まで巻き込みかねない。
こうなると高スピードの攻撃を安易に使う訳にはいかない。だが、このままエンジェルの好き勝手にさせるわけにもいかない。
最高スピードからは一段落として妨害するしかないだろう。相手は覇王。本来なら2対1でも勝つのは難しい相手だ。だが、相手は魔装の破れた選手を庇いながら戦わなくてはならないし、どうやら先ほどのレーザー光の攻撃は、翼を開きながらでないと打てないらしい。ルミ先輩が刀の覇王持ちを倒すまでの時間稼ぎならできるはずだ。
引き続きルミを狙い、光を打つ森原。ルミはそれをなんとか躱しながら、刀の覇王持ちの石井の攻撃を凌いでいる。拮抗した実力で、目潰しを受けるわけにはいかない。
そして森原は同時に空中のメイメイに光弾を散発的に打ち続ける。当たってこそいないが、行動の自由を奪っている。牽制目的だろう。
高石が接近する。それを察知した森原が呟く。
「ブライト・レイッ」
レーザー光が高石の目を潰す。距離のあるルミはかろうじて躱せているが、接近した高石に躱すすべはない。
(くっ…!)
先ほどは高石と静香、それにルミ先輩も同時に目潰ししたはずだ。ならば、今回もルミ先輩を狙い続けているだろう。もっと決定的な妨害が必要だ。
「ふんっ!!」
ジャンプした高石が、目潰しされたまま氷の槍を投げる。
そして、その槍は森原の足元に突き刺さる。だが、外れてると言わんばかりに何の反応も示さず森原はルミへの妨害を続ける。そして隣にいた岩屋は警戒してか少し距離を取っている。
高石の視力が戻り、槍の位置を確認する。
そして右手に魔力を込める。
「凍れっ!氷牢!!」
その瞬間森原の足元の氷の槍が変形し、森原に襲い掛かる。
「あっ!!」
即座に反応した森原がその場離脱し回避する。
森原の攻撃の手が止まった。チャンスだ。
「はああっ」
高石が即座に氷の槍と床を突っ込む。そして後方上空からはメイメイが突っ込む。
先に到達するのは好機を伺っていた静香のメイメイだ。
「雷鳥落とし!!」
だが、相手は覇王持ち。状況を瞬時に把握した森原が手を打つ。
「ブライト・ボール!!」
多数の光球が即座に現れる。一つ一つはサッカーボールサイズだが、球数は20を超え非常に多い。その上溜め無しの生成だ。防御(そして妨害)よりにも関わらずこの性能。やはり覇王というべきだろう。
その光球がメイメイに向け放たれる。
「メイメイ!突破するよッ!!」
トップスピードで急激に距離を縮めるメイメイに、光球を躱すすべはない。攻撃を受ければ、その分メイメイの体の魔力が飛散し、体は小さくなり、攻撃力も弱体化する。だが、狙いは森原の妨害と岩屋のバンクルだ。多少小さくなってもここを引くわけにはいかない。光球に当たりながらも、メイメイが突っ込む。
それを見る森原。
「しつこいね…光盾!!」
瞬間。衝突間際のメイメイと森原の間に、森原の身長の5倍はある、巨大な盾が現れる。光の魔力の盾だ。
宙に浮いた盾と、メイメイが衝突する。
静香が呟く。
「う…そ。」
光盾の完全勝利だ。盾の防御力を突破できなかったメイメイ。衝撃の反動を受け消滅する。光盾には一切傷がついていない。
メイメイはまた詠唱し、生成すれば、召喚できる。膨大な魔力こそ消費するが、静香なら、操縦に消費する魔力を除いても、あと2回は召喚可能だ。
だが、ほとんど最高火力の攻撃が、即座に作った盾に、傷の一つさえつけられなかった。これは余りにも苦しい。
とはいえ、勝つ必要はない。足止めできれば十分だ。
森原の後方から高石が迫る。
(光盾でかなり魔力を消費したはず……)
森原が気づいていない訳が無いだろう。だが、あれだけの大きさと強度の光盾を生成したなら、反撃は難しいはずだ。
トップスピードまで加速する。守らなければ、確実に強烈な一撃になる。
「氷撃突き!!!」
「光盾。」
「え?」
高石の目の前。巨大な光の盾が現れる。
もう、止まれない。
高石が光盾と衝突する。
「くっっ!」
直前で受け身を取るが、勢いは殺しきれなかった。強烈に光盾と衝突する。全身に強い衝撃が走る。
「はあ、はあ。」
盾はやはり無傷だ。防御力の次元が違いすぎる。
高石の全身の魔装にひびが入っている。もう一度重い攻撃を受ければ魔装は壊れてしまうだろう。状況は最悪だ。
「ブライト・ボール!」
盾が消滅し、森原がそう一言呟く。無数の光球が高石の目の前に現れる。
まずい……!!
高石が跳ねるように離脱する。
だが、間に合わない。そのうち数発をもろに受ける。
魔装の一部が吹き飛ぶ。
ブライト・ボールで高石を打った森原がいう。
「キミたちは本当に強いよ。まだ2年生なのにこれだけやるなんて。去年の私じゃ絶対勝てなかったな。でも、今年は私たちがもらうよ。」
吹っ飛ばされ倒れこむ高石を見ながら魔力を高める。追撃せんと光球を生成していく。
(……分かっていたつもりだったけど、これが覇王か。)
格が違いすぎる。魔法の生成スピード、生成された魔法の質、威力、そして魔力量。どこを切り取っても絶対的だ。これが、覇王の人数がそのまま試合の勝敗に直結するとさえ言われる理由の全てだ。最初1分間、無防備になってでも召喚したい理由だ。
高石と静香も校内の練習試合で軍神やルミの覇王を経験している。だが、どこかで、彼らの覇王が特別だと思っていた。彼らの覇王抜きの実力は全国トップクラス。そんな選手が覇王を使えばそれが圧倒的なのは言うまでも無いだろう、と。
事実、2人の考えは間違いではない。軍神とルミは特別だ。この2人の実力は今相対する森原と比べても一枚も二枚も上手だ。もし、森原と戦っていたのがルミなら、数分あれば確実に制圧出来ていた。
そして、森原が覇王を使わずにこの2人と戦っていたなら、これも、10分もあれば静香と高石が勝っていただろう。その事実をここまで圧倒的に覆すほど、覇王の力は強烈なのだ。
だが、蘭花もこのまま終わる訳にはいかない。再びメイメイの召喚を終えた静香が叫ぶ。
「高石君!!くっ…!回雷弩ッ!!」
再びメイメイが回転しながら突っ込む。トップスピードにはほど遠いがやむをえない。レーザーで妨害されてもいい。一人失えば先は無い。
森原がその一撃に気づいていないはずがない。
「光盾。」
3度目の光盾。
「う、そ、メイメイッ!!」
今度は直前で急旋回する。翼の一部が盾にあたり、メイメイの魔力の一部が飛び散る、が、なんとか盾を避ける。
(そんな…魔力は、尽きないの……?)
光盾の強度は非常に高い。あれだけの強度を実現するには、それ相応の魔力消費が必要なはずだ。だが、3度にわたっての生成に、森原は息一つも上げていない。これが覇王の力か。
「さあ、行くよ」
そして、森原の高石へのブライト・ボールが再開する。
その瞬間、遠くから叫び声が聞こえる。
「させるかああああっ!!!」
それに森原が驚きの声を上げる。
「えっ!」
森原の頭上で二つの「雷の弾」が輝く。
そしてそれが爆発する。
「静香ッ!高石ッ!一旦戻ってきな!」
「「ルミ先輩!!」」
ルミ先輩だ。二丁の「雷銃」を携えている。




