『死』の匂い
『彦星』のルミと『ナガマサ』の石井が相対する。
ルミがニヤリと嗤い、いう。
「行くぜ。」
一言も答えない石井。だが、既に臨戦態勢だ。
睨みあうこと数秒。そして、両者が動く。
「はあっ!」
「ふんっ!!」
ルミの薙刀と、石井、黒い刀が衝突する。
(こいつ…!?)
ファーストコンタクトはほとんど互角だ。数撃を交わした後、いったん両者が一旦距離を取る。
予想以上の実力にも驚きを覚えるルミだが、だが、違和感を覚えたのはそれだけではなかった。
(何…この違和感…?)
再び両者が一撃、打ち合う。そして、さらに数撃打ち合う。
(こいつ…強いね…薙刀のパワーに剣で打ち負けないし、射程の長さも、手数の多さで凌いでる…)
薙刀は近接武器の中でも強力な武器だ、手数はそれほど多くないし、剣ほど小回りが利く武器でもないが、その分威力と射程は圧倒的に上だ。射程の短い武器を持つ相手を寄せ付けず、それでいて大槍ほど隙が大きく無い。相手の武器種によっては一方的に潰せる優秀な武器だ。
前戦で佐々木の扱っていた大盾と大槍のような武器には不利になってしまう。槍に射程のアドバンテージを潰され、盾の防御力に隙の小ささも活かしきれないからだ。だから、佐々木との戦闘は回避した。だが、刀のようなオーソドックスな射程の武器は、そもそも間合に入れない。抜群に有利だ。
2人の攻防はほぼ互角。正確にはルミがやや有利といったところか。だが、武器種の不利をここまで潰してきているのだから、油断はできない。
(けど、それは大した問題じゃない…それより、気になるのは…)
その瞬間、薙刀の隙をついた石井が、一歩踏み込み切り込む。
「くっっ!!!」
それを、後退し、間一髪避ける。
(はあ、今の、なんだ?骸骨…?死神…?)
きっと幻覚だろう。だがその一振りは、まるで、死神が鎌を振るうような…
その切り込んだ石井の顔。無駄のない剣筋。そして、まるでそこに何も宿らないかのような黒い目…
「なあ、あんた、これまでどんな世界で生きてきたんだ…?」
その問いに、石井は、答えない。
「答えなきゃ、それじゃ死人じゃないか。生きてるなら、なんかしゃべってみなよ。」
それでも、石井は答えない。
(ちっ、煽っても無駄だね…)
何か情報を出さないつもりか、はたまた話すのが致命的に苦手なのか。どちらにせよ、違和感の正体は突き止められなさそうだ。
(少なくとも、これは、魔闘競技の出ではない、ってとこかしら…)
これは恐らく、普通にスポーツをやっていては、持ちえない雰囲気だ。ルミたちとは何か違う世界で生きてきたことには間違いないのだろう。
それとも、ルミ自身が経験したことが無い何かを極めたりすると、こういう振る舞いをするようになるのだろうか?と思いを巡らせる。つまり、実は多少珍しいくらいのもので、それほど危険なものでは無くて、考えすぎではないか、ということだ。
例えば、剣道のある流派を極めると相手に自分の策を悟られずになり、その上得体も知れない圧を相手に与えるようになるとか。あるいは、棋士が数百手先に思いを巡らせるとき、あんな顔になるとか…そこまで考えて、馬鹿げた考えだと思い、考えを打ち切る。
だが、この違和感は前にも覚えたことがある気がする。そう、あれは…
(いや、何考えてるんだろ、わたしは。)
ここまで、数瞬。そうだ。私がやるべきことは、こいつを倒す事だけだ。
「行くぜっ…!」
今度はルミが先制攻撃だ。石井に切り込み、次々と攻め立てる。難なく凌いでるように見えるが、やはり武器の差は無視できないようだ。徐々に攻撃の重さに押し込まれ始めている。
先ほどは違和感に気圧されすぎていただけだ。確かに高い実力の持ち主だが、ルミの敵ではない。
(けど、高石と静香の方に行かせたい相手ではないね…)
覇王抜きにしても実力ある敵には間違いない。今の高石と静香には荷が重い相手だ。
ルミが堅実に攻め立てる。得体の知れない相手に、攻め込みすぎるのは危険だが、かといって守りに徹するのは賢明ではない。確実に、確実にアドバンテージを取っていく。そして相手がボロを出すのを待つ。
高石と静香の様子も、耳から入ってくる情報で、ある程度把握できる。優勢とまではいかないが、覇王相手にあれだけやっていれば、十分だ。むしろ最初の想定より順調といってもいいだろう。やはり防御寄りの覇王がいたことは大きい。だが、油断は禁物だ。
相手のバランスが崩れる。ここだ。攻め込む。
その時、ルミは、強烈な光に包まれた。
(なっ…)
一瞬、光に視界を奪われる。
視界を奪われ攻撃を中断するルミ。その瞬間、左足に鈍い音が走る。
(やられた…!)
強い光によるブラックアウトの隙をつかれた。左足の魔装が切られた。ひび程度だが、今の光は…
石井の後方、エンジェルが強く輝いていた。
§
静香のメイメイは召喚魔法と呼ばれる魔法だ。この魔法、一見すると生き物、或いは死者のような、意思を持つものを召喚する魔法のように聞こえるが、実際はそうではない。
魔法は体内の魔力というエネルギーを、火や水、あるいは光や闇といった物質に変換して出力する能力だ。魔力の増幅を行う結界術や覇王の召喚は例外的だが、生命を呼び出すといったような、『魔術的』なことは出来ない。
これは召喚術も同じだ。召喚術も魔力を物質に変換して出力しているに過ぎない。そしてその物質を体外で操作しているに過ぎないのだ。
だが、体外で魔力を操作するのは難度が高い。事実、武器や火球のような攻撃も、体外で魔法自体の方向や形を変えることはほとんど行わない。坂の武器の変形も手元で行うからこそ成り立つものだ。
そこで、生命体や現実にある機械をまねたような形を形成させる。すると、風や水のような不定形のものを操作するのに比べ、繊細な操作ができるようになるのだ。例えば車のようなものならば、四輪の動きを操作すれば、ある程度の動きは出来るようになるし、鳥ならば、両翼、それに体の上部、中部、下部の動きを意識して操作すれば、あたかも鳥が飛ぶような動きを再現できる。
こうして、繊細な魔力操作を行う攻撃が、生き物のような形を持つようになり、それがあたかも生命を召喚しているように見えるようになったことから、これらの攻撃は召喚術と呼ばれるようになったのだ。
「氷槍一閃!!」
「メイメイ!!回雷弩!!」
意地でもエンジェルの守りを突破する。高石が、静香のメイメイが、全力で突っ込む。
その瞬間、森原と岩屋を守っていた天使エンジェルが、包んでいた翼を解き、強く光った。
「なっ!」
高石の前方が真白に包まれる。突然の強烈な光に、数秒、視界が戻らない。
(まずい!!)
恐らくエンジェルの能力か。これは、まずい。視界が無くては敵位置を確認するのは困難だ。このまま突っ込めば、エンジェルたちがいた位置に到達することはできるが、既に敵は移動しているだろう。
「くっ!!」
止むえない。相手にあてるのを失敗するばかりか、壁際の結界に衝突してしまっては意味が無い。氷床を、弧を描くように生成し、減速する。
「ふう…」
ようやく視界が戻り始め、状況を確認する。
「!?」
(まずい!雷鳥!!)
メイメイ、雷鳥が突っ込んでくる。
なんとか躱そうとするが、間に合わず、右足の魔装に当たる。
「高石くん!!ごめん!!大丈夫!?」
遠くから静香が高石に声を掛ける。
「うん、心配ないよ」
問題ない。右足の魔装に当たるが、壊れるまではいかなかった。それよりも問題なのは、エンジェルの出した光だ。
「ルミ先輩!!」
ルミ先輩の顔に、レーザー光のように、強烈な光が当てられている。そして、敵、石井の位置が確認できず、押されている。
(あれが今の光の正体だ…!それより、光を止めないと!)
高石が駆け出す。




