最終戦 3on3
時間は少し遡り、軍神、大阪の試合中…蘭花のベンチにて
6月の終わりの炎天下のベンチ。暑そうにうちわを仰ぐルミがだるそうに言う。
「やっぱ軍神は強いねえ。あそこまで強いと相手が気の毒ね。……で、サクラちゃん、3戦目警戒すべきなのはこの、石井って選手だっけ?」
「うん。この選手、二年生までの試合の出場歴が一切ないんだよね。」
「一切…ってことは、1年の冬の大会も出てないってこと?」
「そう。気になって調べてみたんだけど、直前でキャンセルしたとかそういう訳でも無いみたい。」
「つまり、今まで一切試合をしてないどころか、最近入部したってこと?そんで入部して、いきなりレギュラーになったってこと?そんな、シンデレラじゃあるまいし…」
冬の全国大会の予選は一校当たり複数のチームを出せる大会だ。そして、ほぼすべての魔闘部員が参加する。強豪校であれば、間違いなく部員の全員が出場する大会だ。そこに去年も、今年も参加していない、というのは、実質魔闘部員でないと言っているようなものだ。
2年の冬であれば戦力がばれることを恐れて温存した線もあるが1年の冬もとなると明らかに作戦ではない。
そしてそんな実戦経験のない選手が強豪校でレギュラーになるなど、夢のまた夢だ。
「そう。で、ありえるとしたら転校生って可能性なんだけど…どんなに探しても、転校前の学校の情報が出てこないの。」
「え?それ意味わかんなくない?普通今年の選手名鑑に載ってるでしょ?」
「だからやっぱり、西谷の生徒だったけど魔闘部には属していなかった線が濃厚なんだけど…」
「はー。なんか今日、気持ち悪いことばっかね。オッケイ、とにかく、警戒しとくわ。」
§
時間は現在に戻り、西町谷ベンチ
ベンチに戻る佐々木が森原と岩屋に声を掛ける。
「頼んだぞ。2人とも。」
「うん。任せといてよ。」
「はい。任せておいてください!」
「それと…」
佐々木がベンチの後方を見る。そこに直立不動で立つ石井に声を掛ける。
「石井も頼んだぞ。」
「………」
石井は答えない。いつものことだ。
(後藤先生に優勝したいと話したあと、後藤先生が石井を連れてきた…強いのは助かるんだが、半年経っても得体が知れねえな…)
最終戦の準備をする森原と岩屋たちをよそに、ただ立ち尽くしている石井に後藤先生が話しかける。
「おい、ほんとに頼むぜ。石井、お前にかかってるんだからな。」
それまで無表情だった石井が顔を歪める。
「ハア…分かってますよ。ちゃんとやりますって。先生は暇つぶしに付き合ってるんですから、もっと感謝してほしいものですよ。」
石井が他に選手に聞こえないようにそう答える。
「分かってる、分かってるって。だが、何事も気合入れてやらないと損だしな。暇つぶしなら尚更だ。」
「はいはい、分かってますって。」
「それに、お前、もっと他の選手とコミュニケーションとった方がいいじゃないか?大会終わったら引退なんだぞ?」
「お断りします。後藤先生は僕に家畜と会話をしろとおっしゃるのですか?」
そんな話をしていると、試合の準備を終えた森原と岩屋が呼びかける。
「おーい、石井君?もう試合始まるよ?」
「そうですよ。先輩、はやくいきますよ!」
石井が立ち去り、フィールドに向かう。
試合が、始まる。
§
蘭花のルミ、高石、静香、西町谷の森原、石井、岩屋がフィールドに集まる。最終戦のメンバーがそろう。
高石がゴーグルをつける。ルミは長い髪をポニーテールにくくっている。
ここまでの戦況は2-2、同点だ。この試合の結果、2点以上の差がついた場合そのチームの勝利が確定する。もし、同点、或いは1点差なら決戦1on1に突入する。
蘭花の勝利条件はそれほど厳しいものでは無い。何故なら決戦1on1に突入した場合、蘭花の勝利はほぼ確定するからだ。決戦1on1では最初の2戦で出場した各チーム4人のうちから1人が出場選手になる。これまでの出場選手の中では軍神がぶっちぎりで強い。つまり、決戦1on1まで突入すれば勝利は確定したようなものだ。
蘭花は1点差以内でこの試合を終えればいい。そのため、今回は『逃げ切る』ことに特化することになった。
もし、西町谷の覇王が森原1人なら、普通に勝てばいい。特にルミは軍神がいない年ならば余裕でエースを張れる実力だ。たかが覇王一人に後れを取る事は無い。
だが、覇王が二人いたら話は別だ。覇王2 対 覇王1では勝ち目がない。覇王が使える選手はその時点で全国でも上澄み、その上、覇王分の魔力が上乗せされる。いくらルミが上澄み中の上澄みだとしても、数の分を覆せるほどの実力差が無いのは明白だ。
だから作戦は『逃げ切る』事、具体的には制限時間20分、時間切れを狙うことだ。
出揃った両選手が向き合う。もう、言葉を交わしあう必要もないだろう。
「西都大会Bブロック決勝戦 最終戦 はじめ!!」
「「「はあああああああっっ」」」
試合開始の合図とほぼ同時、3人が力を溜めだす。蘭花のルミ、西町谷の森原、そして石井だ。
それを確認した高石。
(やっぱり覇王が2人いるね…!)
「いくよ!静香!」
「了解。はあ!!!」
高石が走り出す。静香が力を溜め、詠唱を始める。
一方西町谷の覇王を持たない岩屋は力を溜める2人を前に立ち、力を溜める。すると岩屋の両手が岩の拳に覆われる。
「覇王を召喚するのを凌ぐつもりでしょうが…行かせませんよ?」
覇王の召喚が終わるまでの時間は術者の力量に依らず約1分。覇王の種類によってはやや早いものもいれば、やや遅いものもいるが、どの覇王も目安は1分だ。この間はほとんど無防備。そして、妨害されれば力の溜めなおしだ。
つまり、覇王がいる試合では、この一分の使い方次第で、勝敗は大きく分かれることになる。
(2人を守り切れば私たちの勝ちですからね…この一分間に私の全てを賭けましょう!!)
対する高石。
(佐倉先輩の作戦通り!あの人が1人ででてきてくれたっ!)
高石が小さく飛び上がり小さく呟く。
「氷床」
そういった瞬間、高石の直線状。氷の床が現れる。
「氷刃」
続いて氷がスケートの靴状になり現れる。そして、それで氷の床に飛び乗る。
「氷槍」
そして、氷の槍を生成すると、姿勢を下げ、スピードスケートのように、急激に加速する。
そして、後方で詠唱を続ける静香の周囲に雷が走り始める。
「ほんものの雷鳥、見せてあげるね」
「雷鳥陣 雷雷」
瞬間、紫電が走り、巨大な雷の鳥が現れる。
これは召喚術だ。その巨鳥は覇王ではない。魔力体として現れる覇王とは違い、雷が鳥の形として現れている。
「メイメイ!行くよ!」
静香が指を空高く差すと、それに呼応するかのようにメイメイが上空へ飛んでいく。
そして、ある程度上空に到達するとその高さで飛び回る。
一方、高石は急速に加速し岩屋に迫る。
スケートは地上をただ走るのに比べてスピードが遥かに速い。その速さは魔力による身体強化抜きでも自動車に匹敵するレベルだ。そしてそこに身体強化が乗るのだ。直線上での最高スピードなら、彼の右に出る者はいない。
その直線上、立ちふさがる岩屋はそれを見ても怯まない。
(そのスピードで後ろの2人に到達するつもりですか…!行かせませんよ。)
「来なさいっ!!」
高石がそのスピードのまま、岩屋に突っ込む。対する岩屋は岩拳でそれに応戦する。
「行くよっ!!!」
スピードに乗っていた高石の勝ちだ。岩屋が大きく後ろ吹き飛ぶ。
(いくらスピードがあるとはいえ、不安定な氷上でこの威力ですか…!ですが、後ろには行かせませんよ!)
立ちあがろうとする岩屋。
だが地面に手を付けたはずの手がするりと滑る。
(氷床!!いつの間に!!!)
岩屋がバランスを崩した瞬間、高石が追撃せんと滑りながら迫る。
「氷牢突き!!!」
再び高石の突き。間一髪、岩拳で凌ぐ岩屋。
岩拳に氷槍が刺さる。
高石は、氷槍を捨て、離脱する。
「凍れ…!」
高石がそういった瞬間、氷の槍は形を失いジェルとなり岩屋を襲う。
「なっ!」
そして氷が岩屋を閉じ込める。
「静香!」
高石が叫ぶ。
「行くよ!メイメイ!!雷鳥落とし!!!」
静香の雷鳥が急速に降下すると地面すれすれで滑空する。
そして次の瞬間、トップスピードのまま凍り付いた岩屋に突っ込む。
「どうだ…!」
直撃した雷鳥は再び上空に上る。岩屋は…無事だ。だが、岩拳は壊れている。
それを見た静香が高石にいう。
「さすが、覇王2人の護衛選ばれているだけあるね…防御特化ってことかな?」
「うん。それに相当魔力消費量も上げてるみたいだ。」
岩屋は立ち上がると再び岩拳生成する。魔力消費を高め生成している強度の高い岩拳は、そう何度も生成できるわけではない。だが、今の一撃だけで魔装にも小さなひびが入っている。この1分間を凌ぐには魔力消費を気にする余裕はない。
「なるほど、そういうことですか。」
(彼らの狙いは後ろの二人ではなくて、私みたいですね…)
そう。蘭花の狙いは岩屋を一分以内に倒しきることだ。もし、岩屋を倒すことができれば、蘭花は1点獲得できる。あとは、もし覇王が2体召喚されてしまっても、防御や回避に専念し、20分間、1人でも逃げ切ることができれば、試合は1点差、つまり決戦1on1に持ち込むことができる。そして、覇王が2人いようと、ルミなら間違いなく逃げ切ることができる。
つまりこの試合、あと35秒、高石と静香にすべてがかかっている。
「行くよっ!!」
「了解!!」
すみません、遅くなりました。更新再開します!!




