軍神②
全身をフードで隠した大男。その体は業火の如く燃え上がり、その身の全てを焼き尽くさんとしていた。
「炎帝 スス」
軍神が一言呟いたその直後、その覇王は現れた。
「………は?」
佐々木はただ茫然としてその顕在を見ていることしかできなかった。
「覇王……?」
観客席 蘭花中学校
その光景に思わずケイが声を上げる。
「え?なあ、ティー。軍神先輩、今、力溜めてたか?」
「いや、溜めてなかった…」
「覇王の即召喚ってプロとかの話だよな…?」
「そうだったと思うんだけど…。鎧先輩、あれ、どうなってるんですか。」
「どうなってるも何もないぜ。ただ、軍神先輩が化物だってだけの話だ。」
§
フィールド上、佐々木はただひたすらに困惑していた。
(何が起こった?あれは間違いなく覇王だ。力を貯める隙は無かったはず…)
困惑する佐々木。だが軍神は待ってくれない。
「行くぞ!!」
軍神が2本の炎剣を携え突っ込んでくる。佐々木は咄嗟に炎の大盾を生成して、応戦する。
軍神が盾を切り裂く。
「がっっ!!」
佐々木が盾ごと押し出される。何とか姿勢を整えるも軍神が再び切り裂く。その度体ごと押し出され、盾の炎が散っていく。
本来、大盾は手数の多い武器と相性がいい。どっしりと構えていれば剣を容易に弾き、攻撃を凌ぐことができる。そして、弾いてバランスが崩れたところを反撃すれば、優位に試合を進めることができるのだ。双剣はその代表と言ってもいいだろう。手数が多いがそこそこの攻撃力しか持たない以上、盾に対して決定打を持たないのだ。
だが、その盾が、自らの体ごと押し出されている。あまりにも歴然とした力の差だ。おそらく、覇王が無かったら、武器種の優勢も踏まえれば善戦出来たかも知れない。だが、こうなってしまった以上、もうどうしようもない。
あるいは、まだ、相方がやられていなかったら、勝機はあったかも知れない。挑発にのってしまったのが全ての失敗だった。
考えてみれば軍神はあんなことを言うタイプの男じゃないはずだ。軍神のことをあまり詳しく知るわけではないが、これまでの試合映像での行動や言動を踏まえても、試合後のインタビューのようなメディア露出時の映像を踏まえても、あんな、あけすいた挑発をするような人間ではないのは分かっていた。完全に嵌められた。
(だが、この試合せめて、一人でも…!!!)
認めるしかない。ここまでしても軍神には一歩も及ばなかった。後藤先生のいった通りだ。たかが一年、努力したところで、辿りつける次元に軍神は居なかった。
でも、2-0にするわけにはいかない。長渕と富田の頑張りをムダにするわけにはいかない。せめて、一人、一人だけでも...!
軍神は無理だ。だが、今、軍神の後方で悠々と立っている、大阪なら、まだ、できるかも知れない。いや、やるしかない。そのためにも、軍神のこの攻撃の嵐から抜け出さなくてはならない。
(俺は…)
「負けるわけにはいかないんだあああ!!!」
一瞬の隙を見て槍を突き出す。
だが、その槍は空を切った。
あっさりと躱した軍神が剣を強く握りなおす。その両手が燃えている。
「花演乱舞」
燃え盛る業火を纏った双剣が無防備になった佐々木の魔装を真っ二つに切り裂く。その一撃で魔装にひびが入る。
だが、攻撃はこれで終わらない。「乱舞」の名を冠する技である以上一撃で終わるはずがない。
再び軍神の双剣が佐々木の魔装を切り裂く。それは連撃とは思えない重い、重い一撃だ。擦り切れるように魔装が切れていく。
「くっ!!!」
だが、佐々木も終わるわけにはいかない。双剣の攻撃の合間、咄嗟に大盾を挟み込む。
「はあああ!!」
盾が、切り裂かれる。
そして、たった一振りで、盾が真っ二つに割れた。
「ばか、なっ!!」
佐々木を守る物はもう何もない。
「はああああっっ!!!」
軍神の双剣が佐々木の魔装を切り裂く。そして、魔装が割れる。最早勝敗は確定した。
「はっ。」
軍神が軽く剣を振る。佐々木のバンクルが砕ける。
「く、そ。」
「勝負あり!!!蘭花中学校の勝利!!!第2戦2on2 2-0です!!!」
会場が沸き立つ。想像以上のワンサイドゲーム、中学生の覇王の即顕在に、会場の流れが完全にひっくり返る。一戦目まで、西町谷側の応援の沸き立ちが凄まじかったが、それが完全に逆転している。西町谷側の観戦エリアからでさえ、感嘆の声が聞こえてくる。
あっけない結末に倒れ伏す佐々木。呆然とする佐々木に軍神が言う。
「ひどいことを言ってしまってすまなかった。もし、覇王を出されたら厄介だったからああせざるおえなかった。」
「作戦だろ。気にしてねえよ。それに、覇王出してたところで、どうにかなったとは思えねえよ。」
「今年の西谷を警戒しない訳にはいかなかったからな。とはいえ、俺も負ける気は無かったがな。」
軍神が小さく笑う。
「はは、違いねえ。…つーか何だあれ、即顕在って、お前、ほんとに中学生かよ。出る大会間違えてんじゃねえか?」
「残念だが俺も中学生だ。」
「ははっ、冗談きついぜ。」
少し間をおいて、軍神が言う。
「いつになるが分からないが、今度戦える時を楽しみにしているぞ。」
「こんなに実力差があるってのにか?お世辞はいいよ、お世辞は。」
「今年一年だけで、これだけ強くなったんだ。それなら、今度戦うときはもっと楽しめるかも、知れないだろ。」
そこまで言って、軍神が立ち去る。
(ちっ…そこまで言われて、このまま終わるわけにはいかねえよな…。)
佐々木がゆっくりと立ち上がる。そして、そして試合結果が映し出されるボードを見る。
2-2 同点だ。そして残すはあと一戦だ。
(軍神…お前には勝てなかったが、それでも、全国に行くのは俺たちだ…!)
§
蘭花中学校 ベンチ
「軍神、お疲れー」
ベンチに戻る軍神を、ルミがねぎらう。
一方、同じく試合に出ていた大阪は、とっくにベンチに戻っていた。
「軍神、西谷ボコるの譲ってやったんだから、これで貸一な。」
「大阪先輩、それ、軍神先輩がやったというよりか、作戦、だったんですよね…」
高石が苦笑いしながら言う。
「ああ、じゃあ、佐倉に貸一か?まあ、なんでもいいな。それにしても、こんだけ一方的な試合になるんだったら、俺が出る必要なかったんじゃないか?3戦目がきついんだろ?」
佐倉が答える。
「うん。でも、2戦目に万一のことがあったらどうしようもなかったからね。それに、最終戦にもし覇王2人なら、静香ちゃんと高石君の方が適任かなって。」
「それもそうだな。よし、神原、高石、怪獣退治、任せたぞ。」
それに高石が苦笑いで答える。
「はい。」
しばらくしてルミが言う。
「さて、静香、高石、行きますかっ!」
「「はいっ!!」」
最終戦の出場メンバーは2戦目までで出場したメンバーを除いた3人だ。つまり、最終戦のメンバーはすでに確定している。
蘭花は、覇王『雷星 彦星』を持つ3年ルミと、2年静香、同じく2年の高石だ。
西町谷は、覇王『天の使い 天使 エンジェル』を持つ森原、そして2年の岩屋、3年の石井だ。
出陣前の3人に佐倉が告げる。
「既に覇王を使用している森原さんは勿論、残りの2人も今までの情報があてになるとは限らないから、みんな注意して戦ってね。」
ルミが自信ありげに言う。
「任せときな。佐倉。しっかり逃げ切ってやるよ。」
そんなルミに大阪が茶々を入れる。
「はは、こんだけかっこよくやっといて、作戦が時間切れ狙いだからな。西谷に聞かれたら笑われるぜ。」
そんな大阪に高石が言う。
「勝つのに手段を選ばないのは西町谷だけじゃないですからね。」
ルミが続く。
「そうそう!全国行ければ、何でもいいんだよな!!さて、行くか!!」
決戦が、始まる。




