分水嶺
第一試合決着。東と坂がベンチに戻る。
「すまない、みんな…負けてしまったよ…」
「……マジで、すまん…!!くそっ、まさかアレに当たっちまうなんて…」
ベンチに戻り、謝る二人を佐倉がねぎらう。
「二人とも、お疲れさま。二人はよくやってくれたよ。」
それに二年の高石が続く。
「そうですよ。あのレヤックが当たるなんて、ほんとに運が悪かっただけですよ。」
続いて大阪が憤るように言う。
「ああ!その通りだ!西谷のやつらマジでふざけんじゃねえ!都大会決勝で運ゲかましてくるなんていい度胸だな!!!おい軍神、ルミッ!!西谷ベンチ蹴散らしに行くぞっ!!」
それをルミがなだめる。
「はいはい、熱くならないの。試合で蹴散らしてやればいいでしょ。何が何でも勝ちたいっていう西谷の気持ちも分かるけど、後悔させてやんなきゃ。」
軍神が続く。
「確かにどうしようも無くなった時のために奥の手を持っておくのは悪くないが、とはいえ、このままやられるわけにはいかないな。佐倉、次の試合、どうする?」
「それなんだけどね…これは私の予想なんだけど…西町谷には覇王がもう一人いると思うの?」
「?」
「もう1人って、え、3人いるってことか?」
「うん。西町谷は決勝戦まで、先鋒2人の選手の力を温存してた。そして恐らく後の選手も同じ。でもこれって、決勝に温存しておくものとしてはインパクトに欠けると思うの。」
「インパクト?」
ルミが尋ねる。
「うん。西谷は全国1戦目まで覇王を温存して、決勝まで選手たちの力を温存してた。でもこれって普通逆だと思うの。」
「選手の力はたしかに重要だけど覇王の力はもっと重要。覇王が1人いれば、試合をひっくり返せるしね。私が西町谷の監督だったら確実に覇王は取っておくよ。それでも勝ち抜けるだけの実力もあるしね。」
佐倉に軍神が尋ねる。
「つまり…決勝戦に相応しい何か、まだ覇王を温存してるってことか?」
「うん。考えすぎかもしれないけど、今の西町谷ならやってもおかしくないと思わない?」
大阪が唸る。
「う~~ん。確かにあり得ない話でも無いが、流石に3人は多すぎじゃねえか?支援の俺は兎も角、高石でも使えねえんだぜ。」
大阪のいう通り、覇王はそんなに簡単に習得できるものでは無い。全国トップクラスの学校ですら良くて2人、3人といったところだ。それもそれは全国大会の時期の話だ。都大会や他道府県の同様の予選から全国大会での1月少々で発現する選手も多いことを踏まえれば、この時期に3人は異常だ。
「僕らもセラちゃん含めれば3人ですけどね。」
「あと二月入学が早ければ、うちも覇王3人だったかもねえ~」
セラはいくら覇王を使えるといっても、流石にレギュラーにするのは非現実的だ。基礎の戦闘能力がそれほど高く無ければ覇王の性能も落ちる。その上、まだまだ技術が甘いし、他の選手と連携を取るのも難しいだろう。一人が強ければいいという物ではないのだ。
だが同時に、ルミがセラにあと数か月あれば、セラがレギュラーメンバーになれるかも知れないと思うほど、覇王は強烈だ。
大阪が佐倉に尋ねる。
「で、どうする?もしあと3人いるんだとしたら、相当きついぞ。」
「うん。心配しないで。みんなにはすごく負担をかけちゃうけど…。この試合、まだ勝機はあるから。」
§
「次鋒2on2!選手入場ですっ!!」
選手たちが入場する。蘭花からは軍神と大阪だ。それに合わせて実況、解説の二人が選手紹介を行う。
「蘭花中学校からは本校エースの3年生、軍神選手と、同じく3年生、大阪選手が入場です!」
「やはり来ましたね!軍神選手!」
「軍神選手は蘭花中学校3年生。属性は炎、武器は剣と弓の二刀流です!そして!覇王、『炎帝 カイザー』の持ち主です!剣を扱う近接戦では、手数、スピードともに優れ、数々のライバルをうち破ってきました!そして、軍神選手の主力武器、弓の扱いについては間違いなく、本年、全中学生中トップでしょう!」
「特に弓ついては今大会未だ一度も披露していませんからね。この試合で弓初披露なるかも注目です。」
「全射程に対して圧倒的な攻撃力を誇る彼を、西町谷は打ち破る事ができるのでしょうか!?」
「続いて同じく蘭花中学校3年の大阪選手。彼の能力は魔力付加。味方に魔力や属性を付加して支援します。また、大阪選手も自身も槍術を扱い、相手に付け入る隙を与えません。これまでの試合では坂選手の無属性武器に属性付加を行い、支援してきました。今回は初の軍神選手とのコンビ。どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!?」
「彼の付加は強化量が凄まじいですから、軍神選手とのコンビは本年最高の攻撃力を見られるかも知れませんね。」
少し遅れて西町谷から二人、入場する。
「さて、一方本日絶好調の西町谷中学校からは、2年生の今間選手、そしてこちらもエースが来ました。3年生、佐々木選手です!」
「西町谷中学校3年生の佐々木選手は、属性は炎。武装は大槍と大盾を両手に構える重装歩兵スタイルです。そして覇王は『烈要塞 グラコス』です。近接戦闘職にしては機動力に欠けますが、それを補う圧倒的な攻撃力と防御力で立ちはだかる敵を薙ぎ払ってきました!」
「相手の蘭花コンビは今大会と最強コンビといってもよいでしょうが、想像以上の快進撃を魅せる西町谷なら、何かしてくれるんじゃないか、と、期待も高まりますね。」
「最後は西町谷中学校2年生、今間選手です。今間選手は遠距離攻撃を主体とし、氷で生成した巨大なつららを落として戦う、一風変わった戦闘スタイルの選手です。その巨大つららの質量攻撃は強力で、2年生とは思えない高い攻撃力で戦闘の流れを作ります。」
「彼は2年男子にしては非常に恵まれた魔力量を持ちますからね。そこからの遠距離攻撃の嵐は、蘭花といえど、苦戦を強いられることになるでしょうね。」
「さて、両選手!試合の準備が整ったようです!」
そして場面は再びフィールド上に戻る。
フィールドに立つ両選手。両選手が会話も無く睨みあう。
会場の緊張も高まる。この試合の結果次第では勝敗が決定的なものになる。もし大阪か軍神1人でもやられれば、ここから巻き返すのは至難の業だろう。
審判が試合の準備を終える。どうやらもう時間いっぱいのようだ。
審判が呼吸を目いっぱいに吸う。
「それでは代表校決定戦、第2戦、2on2!! はじめ!!!」
試合が、始まった。だが両者ともに動かない。両者ともに出方を伺っているようだ。
覇王持ちがいるときと居ないときだと、試合序盤の定石は大きく変わってくる。特に覇王がいるときは相手の出方に応じた対応をするのが重要だ。西町谷が様子を伺っているのは、そのためだろう。
そこで、軍神が西町谷にも聞こえるよう大阪にいう。
「大阪。」
「ん、なんだ?」
「すまないが、下がっていてくれないか。俺が一人でやる。」
「おう。しゃーねえな。いいぜ。」
その会話に西町谷の佐々木が割り込む。
「は?お前、今なんて言った?」
「聞こえなかったか?お前ら二人、俺一人で十分だって言ったんだ。」




