決着
「坂君……?」
東が小さく声を出す。
坂は左手をぼんやりとみている。そして、少し経つと東に告げる。
「………すまねえ。壊されちまった。」
「……坂君、心配しなくていい。僕が、僕が二人とも、倒すさ。」
「……おう。」
坂がゆっくりと手を下ろし目を閉じる。そして一息つくと立ち上がり、歩き出す。そしてフフィールドの端の結界の外側。脱落者待機地点に出ていく。
蘭花中学校 坂 脱落
魔闘2on2において、もっとも重要なことは、どんな手を使ってでも、相手よりも早く、1人敵を倒すことだ。理由は単純。2対1になると2人側が劇的に有利なるからだ。
もし遠距離攻撃を主体とする選手を失えば、遠距離からの支援や攻撃を失う。こうなってしまうと近距離戦闘だけで相手に勝つのは難しい。同じ近接戦闘を得意とする選手に足止めされ、遠距離からの攻撃を一方的に受けることになれば、余程の実力差が無ければそのままジリ貧で負ける。
逆に近接戦闘を得意とする選手を失った場合、結末はより明白だ。遠距離攻撃は基本的に大きな溜めを必要とする。武器種の差はあるが、基本的に近接戦闘を得意とする選手に守ってもらいながら、大きな攻撃を当てることを想定している。それこそが遠距離攻撃の最大の強みだからだ。
つまり近接戦闘を得意とする選手を失えば、身を守る手段を失う。そして力を貯める隙を得る手段も失う。敵に近距離まで攻め込まれ反撃の暇すら与えられず敗れる。そんな結末が決定的となる。
そしてこの場面の蘭花、坂と東はどちらも近接戦闘職ではあるが、先の話に当てはめるなら、東は事実上、遠距離選手の役割をこなしている。坂が小回りの利く攻撃を活かして、敵を足止めし、東が小回りは効かないが一発で魔装を葬れるような一撃を当てに行く。東の取っている戦法はほとんど遠距離選手の戦法と言える。
つまり、坂が落とされたとき試合の結末はいうまでもない。
(坂君…。)
東がハンマーを強く握りなおす。
だが、まだ終わっていないはずだ。東は自身にそう言い聞かせる。
先ほどの東の一撃で富田の魔装を完全に破壊することに成功している。つまり、富田は、あと一撃でもバンクルに攻撃をもらえばその時点で退場だ。つまりなんとかして富田のバンクルさえ壊せさえすれば、残りは1対1。まだ勝機はある。
だが、同時に、それが希望ではないことは、東自身がよく分かっていた。
長渕はいつの間にか魔装の破れた富田と東の間に立っている。富田のバンクルを壊されないよう守るつもりだ。
魔装が壊れていたのが、近接戦闘職の長渕なら、まだ勝機はあったはずだ。遠距離職は基本防御手段を持たない。つまり、富田が長渕を守りながら戦うのはほとんど不可能だ。かといって、長渕が前に出れば、あっけなくバンクルは壊れるだろう。バンクルそれ自体は魔法的な耐性をほとんど待たないからだ。同程度の実力なら身体強化を軽くかけて殴ればあっさり壊れる。そんな程度の強度だ。
だが、魔装が割れたのは遠距離職の富田だ。2対1の状況で、近接戦闘のプロである長渕を振り切って、富田のバンクルを壊しに行けるだろうか?答えは言うまでも無い。
それでも、東はハンマーを持ち上げ、構える。
そして、ベンチに聞こえるように叫ぶ。
「みんな!心配しないでくれ!!おじさんが勝って見せるとも!!!」
策はある。可能性は低いがやるしかない。
呼吸を整え槌を構える。
最後の攻防が始まる。
「うおおおおおおお!!」
そして東が長渕に振りかかる。
だがひらりと躱される。
そして長渕の反撃の一刀。これをすんでのところで躱すと、再び槌を構え、振る。
だが、当たらない。理由は明白だ。巨大槌は全く近接戦に適していない。身軽な長渕のような選手に振りの大きい一撃など当たるはずもない。
その次の一撃も、そのまた一撃も当たらない。一方、長渕の反撃も未だクリティカルには当たっていないが、それも急所、紙一重の一撃ばかりだ。
長渕は先ほどまでより慎重に東を攻める。勝利が確定的な盤面で闇雲に踏み込む必要は無い。相手がミスするか、魔力が尽きるまで、確実に富田を守ればいい。
富田の矢は飛んでこない。東が、可能な限り東と富田の射線上に槌が来るよう立ち回っているからだ。だが、いつ隙を見て撃たれるかは分からない。
あるいは、東の武器が、小さなハンマーならもう少し食らいつけるかもしれない。無論、東は小さなハンマーも扱える。だが、それでは東の技術を活かしきれない。
東を東たらしめるのは巨大ハンマーを扱うからだ。東は練習の全てを巨大ハンマーを扱うことに賭けてきた。身体強化も武器の扱いもそれに適応した練習しかしていない。
東には、才能が無い。だから小さなハンマーを扱った時の東は、どこにでもいるただハンマー使いになってしまう。はっきりいって、凡庸な選手としか言いようがない。そして、凡庸な選手が凡庸なことをして勝ち抜ける世界ではない。
ここにいる誰もが大なり小なり才能を持ち、その上で命懸けの努力をしてきたからこそこの場に立っている。だが、東は才能がほとんど無かった。だから、一点突破、巨大ハンマーを使いこなす事だけを練習し、皆に追い付いた。
東は巨大ハンマー使いとして、非凡になったのだ。
「うおおおおおお!!!」
東の槌が急激に加速する。魔力消費を限界まで高めた、一振りだ。
「大岩振りっ!!!」
「うおっ!!!」
東がフルスピードで岩の槌を振り回す。スピードはすなわち破壊力だ。これだけの質量をこのスピードでぶつけられれば、長渕も一溜りもないだろう。
「よっと。」
一瞬驚いた長渕だったが、軽々飛び上がる。渾身の一撃は当たらない。
これが武器の差。戦闘スタイルの差だ。東には相性が悪すぎる。
だが、長渕が飛び降りたその時、東はすでにいなかった。岩の槌はおいたままだ。
そして長渕が叫ぶ。
「やられたっ!!」
武器を捨てた東が富田に飛び込む。富田が矢を放つ。
この一撃に東の体右の魔装が吹き飛ぶ。だがバンクルの着けている左手は無事だ。撃たれるのが分かっていれば、左手をずらすぐらいなら可能だ。
もうすでに打撃戦の射程だ。
「さ!せ!な!いっ!!」
富田は雷弓を武器がわりに振り回す。東はそれを避けながらチャンスを伺う。
弓は近接武器ではないが、武器を持たない東を振り払うには十分な射程だ。攻める隙が、見いだせない。
長渕が迫る。そして東に切りかかる。
「これで!終わりだ!!!」
長渕が全力で東に打ち込む。やむを得ず引く東。
(思ったよりあの弓がやっかいだね…。)
長渕は追撃してこない。富田のバンクルを守るのを優先しているようだ。富田のすぐ前に立ち警戒を走らせている。
東は長渕と距離を取りながらタイマーに目をやる。レヤックが成功してから、まだせいぜい1分半強か。
2-0になると次の試合以降、ここから巻き返すのは特段に難しくなる。自陣にはまだ軍神とルミがいるが、相手もエースを温存している。せめて自分だけ逃げ切り1-0にすることも考えたがまだ、時間は十分に残っている。逃げ切るのは難しいだろう。
(やっぱり時間切れは狙えそうにない…だが、もう一度意表を突ければっ!)
今年はかなりのリスクを取った西町谷だが、彼らの本質どこまでいっても安定志向なのだ。優勢になってからの行動は絶対安全な策をばかりだ。そこに付け入る隙があるはずだ。
先ほど捨てた槌の位置に戻る。そして、槌を掴む。
「行くぞおおおおお!!!………お?」
そして、槌を振ろうとした瞬間、両手が何かに急激に引っぱられるのを感じる。
槌を握った両手を見る。両手に異常はない。確かに槌掴んでいる。いや、引っ張った正体は槌だ。槌が動かなかったのだ。
槌が動かない。身体強化がかかっていない。
(……………魔力が切れか)
魔力が切れている。
魔力が切れた魔闘選手にもうできることはない。
勝負は、決した。
「僕はまだ!諦めていないぞ!!!」
東が西町谷の2人に突っ込む。そして、魔装が破れるまで、バンクルが壊されるまで、抵抗を続けた。
結果はいうまでもないだろう。
蘭花 VS 西町谷 先鋒1on1 0-2 西町谷優勢




