レヤック
2週間前
「今日はこのバンクルの壊し方について説明、そして実践しようと思います。」
「日和先輩!バンクルの壊し方って、魔装を壊した後にバンクルに魔法をぶつけるんですよね?」
「はい。ですがバンクルの壊し方にはもう一つあるんです。」
「?」
「レヤック、と呼ばれるテクニックで、簡単に言うと、バンクルを魔装の上から壊すんです。」
今日の実践は2人1組で向かい合う。
今回は全員が魔力を剣型に生成する。これがレヤックが狙いやすい形状だからだ。
それぞれがバンクルをつけ魔装を装着している。
「さて、みなさん、バンクルを見てください。そのバンクルの中には緩衝材が入っていて、普通魔装の上からは破壊できないようになっています。ですが皆さんの手の甲の側の左上、小さい穴があると思います。実はこの穴の部分、緩衝材が入っていないんです。」
「そして、ここをだけに強烈な衝撃を与えれば魔装の上からでも破壊が可能なのです。」
そこまで聞いたケイが練習の相方のマツにいう。
「魔装を壊さないで勝てるってことだよな!スゲエじゃねえか!」
「うん!これは頑張らなきゃね…!」
―30分後―
「るああああああ!!全然だめだ!!穴ちっちゃすぎだろ!!!」
ケイが全くバンクルを壊せず声を上げる。
「うん…それに、たまに当たっても全然壊れない…」
マツもそれに賛同する。そもそも、穴が極めて小さいというのに、魔装を突破するくらいの強烈な衝撃を与えないといけないのだ。
「もしかしてこの練習、レヤックとか、こそムズイから、やめとけってことなのか…?」
「これだったら普通に魔装壊した方が、手っ取り早いよね…」
その話に気づいた日和先輩が二人に言う。
「はい。その通りですよ。少し、意地悪な練習でしたね。こういう剣のような扱いやすい近距離の武器でも、ほとんど成功しません。全国でも戦術として生かせるのは、覇王持ちの人数より少ないかも知れないですね。」
「でも使いこなせるようになったらレギュラーも夢じゃないと思いますよ?」
「おおっ!じゃあやるしかないじゃん!マツ!もっかいやるぞ!!!」
そこで、少し離れたところで練習していたユリが声を上げる。
「え…割れた、割れたで!!」
「どうした?ユリ?」
ケイが近寄り尋ねる。
「ほら、私のバンクル…!!」
「あ!!壊れてる!!レヤックじゃねえか!ってことは…!」
マツも遅れて寄ってくる。
「これ、ティーさんがやったの!?」
ティーはユリの隣で座りこんでいた。よほど消耗しているようで息も絶え絶えだ。マツの問いかけに小さくうなずく。
「さすがティーちゃんや!最近ティーちゃんいいとこ無かったけど、やっぱティーちゃんは違うなあ!!」
ユリが満足げに言う。
気づくと他の26期、それに日和先輩も集まっていた。
「これは…ほんとに凄いですよ!!本当に凄い衝撃を与えないといけないのに…!」
それに、ティーが答える。
「でも、これ、実用的じゃないですね。そもそも当たらないし…ほんとに重い攻撃じゃないと壊れない…もう、へとへとです…」
(それでも、初日で当てるなんて…!)
§
格上との戦闘。本来負ける相手との戦闘だ。魔闘の世界で上位にいる彼らの戦いは、ほとんど格下との戦いということになる。そのため、格上との戦いの経験が多いわけではないが、それは対策を持っていないことと同義ではない。
相性の関係で格下に苦戦することもあるし、いつも万全とも限らない。腹を下したまま戦わなければいけない時だってある。何より、全国に行けば自らよりも強い者など星の数ほどいる。そういう戦いは避けられない。むしろ重要な局面というのは、半分くらいは格上との戦いだ。
強者と戦うときの立ち振る舞いにはいくつかあるが、彼らの戦い方は一つ。やられる前に倒す。全力を出すことだ。
どの選手も常に全力で魔力を出していれば5分と持たない。魔闘はいわばマラソンだ。マラソンを短距離走のペースで走れば、いつかは力尽きる。そのスタミナ切れは魔力切れという形で明確にやってくる。
だが、その5分間は通常以上の力が出せる。5分で倒しきれれば、話は別だ。
「おらああああっっ!!」
「がはっっ!!」
槌の一撃で、腹の魔装にひびが入った長渕。ひびの入った部分から魔装を割るべく、槌で追撃を繰り出す坂。これを長渕がなんとか腕を挟んで凌ぐも、姿勢が崩れる。
坂は身体強化に割く魔力を大きく高めていた。これも長くは続かないが、そのうちに一人でも倒すことができれば、大きなアドバンテージだ。大きく魔力を消耗しようと、2対1は極めて有利なのだ。
だが、西町谷も黙ってはいない。反動で動きの止まっている坂を富田が狙い撃つ。
「雷鳥の弓矢!!」
その時坂の左手から大盾が現れる。矢が弾かれる。威力が売りの富田の弓術が通用しない。
(嘘!さっきより全然威力、上げているのに!!)
地に伏した長渕が立ち上がりながら考えていた。
(温存してたのは俺達だけじゃなかったのか…!!)
想像以上の力に長渕がうろたえる。
だが、長渕の予想は的を射ているようで、当たっていない。西町谷は今まで通常以下の力だったのを、通常の力まで引き上げたが、蘭花は今、通常以上まで力を引き上げている。
もし、試合が長引けば蘭花は確実に敗北するだろう。
「行くぞ!!」
東が再び飛び上がる。狙いは富田だ。槌と大盾を捨てた坂が富田を組み伏せようとゆっくりと迫る。
そして坂がダッシュで攻め込む。
それを抑え込もうと割り込んだ長渕。剣を生成した坂と打ちあう形になる。
その隙に逃げようとする富田。
「行かせないぜ!」
打ち合いの途切れた隙に坂が剣を投げつける。
「あっ」
そして富田がこけてしまう。
「岩の槌!!!」
岩槌が地におちる。
(感触が、無いな…避けたみたいだね)
槌のほんの少し前方、何とか槌を躱すも、尻餅をついている富田が東の目に入る。
「逃がさないよ!!」
「えっ」
東がその巨大な槌を持ち上げるとまるで普通の槌を振るように横に大きく振る。東ができるのは飛び上がって落とすだけじゃない。当然、普通の槌のように振り回すことだって可能だ。
「富田ッ!避けろッッ!!」
だが、間に合わない。
東の大振りの槌が直撃し、富田が吹き飛ぶ。そして端の結界に直撃する。
「どうだ…?」
「はあ、はあっ……!」
端で倒れこむ富田。だが、少しよろめきながらもすぐさま立ち上がる。
直前で受け身を取った。魔装が破れはしなかったが、全身の魔装に小さなひびが入っている。だが、まだまだ戦えるようだ。やはり彼らの実力は偽物ではない。せっかくの一撃にしてはあまり大きくない成果だ。
そこで長渕が坂との戦闘から離れ富田による、守りに入って仕切り直すつもりだろう。
守りに入ったところを無理に攻めて、時間と魔力を浪費するのは賢くないと判断した二人も、小声で作戦会議だ。
「坂君、どうだい、彼らの強さは。」
「佐倉の言ったとおり、想像以上に強いな。けど、いつものペース配分でもオレらがギリ勝ってるんじゃねえか。」
「僕もそう思うね。でもペースを落とす必要はなさそうかな。」
「ああ。あと3,4分で落とせそうだしな。」
一方の西町谷。
「大丈夫か!富田!!」
「うん。長渕君こそ。」
「俺も大丈夫だ。それより、蘭花の二人…。」
「うん。私たちよりも、強いね。それも一枚も、二枚も上手。」
蘭花が魔力消費を高め、実力にブーストをかけていることに彼らは気づいていない。自分たちが温存していたという事実。それが、相手も同じことをしているのではないかという、要らぬ邪推を招いている。
「くそっ、こんなに練習しても、まだ蘭花の方が強いのかよ…!」
「でも…」
「ああ、分かってる。それでも全国に行くのは俺達だ。富田…!」
「うん…アレ、やるんだね………」
少し憂鬱な目の長渕が頷く。
そこまで話して両者は前を向く。
蘭花の二人の残り魔力は着実に減っていっている。西町谷の二人の魔装も徐々に破れつつある。決着はそう遠くない。




