格上?
「長渕君!!」
「来るな富田!俺は、大丈夫だ。」
「長渕君ッ、右足…」
「魔装がぶちぎれちまった。一発でこのザマかよ…」
長渕は岩槌を躱しきれなかった。右足が挟まれ、右足の下半分の魔装を失った。
魔装は二層構造だ。選手はバンクルの内側、外側の二層の魔装に守られている。外側の強度はそれなり、内側の強度は極めて高い。魔闘の勝利条件はバンクルの破壊なので、破壊すべきは外側の魔装だ。内側は試合で破壊する必要は無いが、その極めて高い強度で選手を怪我から守っている。
バンクルより内側の強度の極めて高い層により右足自体は無事だ。しかし、一部が壊れてしまった魔装は全体の耐性が落ちる。それに、右足も大きな負傷は回避したが、衝撃を全く受けないわけではない。動きは確実に鈍る。
一撃で魔装の一部が割れた。その光景を見た観客席のケイたちは驚きを隠せずにいた。
「すごいですね…!東先輩の攻撃。」
強烈な一撃に、ケイが呟く。
都大会決勝戦ともなると、覇王を交えた攻撃でもなければ、魔装が一撃で破けるなど早々ないことだ。一部でも一撃で破けたということは、それだけの高威力だということだ。
ティーが続ける。
「それに、魔力で身体強化したとしても、あんなにデカいハンマーを振り回せるなんて…」
それに日和先輩が答える。
「東先輩は、あのハンマーに持てる全てを賭けているんです。武器生成も、身体強化も、武器の扱いも、全て練習時間を、あの巨大ハンマーを使いこなすことだけに使ってます。」
「全てを?」
「ええ。坂先輩が多様性と柔軟性を武器にしているとしたら、東先輩は一点特化の強さが武器と言ってもいいでしょう。2人とも覇王こそ持ちませんが、その技術はどちらも他には真似できない、特別なものです。」
―蘭花 ベンチ―
「先輩!頑張れ!!」
「坂君も、東君もかっこいいよ!!」
静香が応援の声を上げ、顧問の浦和先生がそれに続く。他の5人は静かに、だが真剣に試合を観察する。
「坂先輩も、東先輩も、今日はかなり調子がいいみたいですね。」
「ああ、二人ともキレのある動きだ。」
坂と東の調子の良さに安堵する高石と軍神。
「つっても相手の動きも思ったより良くねえか。あの連携で崩せねえとはな」
「そうねえ。この日のために仕上げてきたのかしら。私の3戦目もなかなか大変かなあ?」
「ねえ、大阪君、ミキちゃん。」
「ん?」
「なんだ?」
「やっぱり二人も相手の調子、いつもよりいいと感じた?」
「ああ。」
「準決勝の動画とかと比べると別人って感じよね。まあ、東と坂の敵じゃあないだろうけどね。」
「そのね…調子が良すぎる、んだよね。」
「良すぎる?」
「ほら、西谷中学って予選通過、4位だったじゃない?」
「あーそういえば3位内じゃないって珍しいって話したたね…ん?あんなに動けて4位ってのはちょっと低くない?予選に星蘭でもいた?」
「ううん。それにトーナメントも5-2とか6-3とかが多くて、実際、試合内容も点数相応っていう感じだったんだよね…つまり、覇王のないあの2人はだいたい負けてた。それで、あの東君と坂君の連携を崩せるなんて、いくら調子がいいからって、あり得ないよ。」
「う、それってもしかして…準決勝まで、西谷が手を抜いてたっていうの?」
そこまで話した佐倉が立ち上がり、一歩前に出る。
「東くん!坂くんっ!!『武蔵野線の荒川』に気を付けて!!」
それを聞いた東と坂が驚き目を見開く。
(『川』のサイン…ってことは!!)
(…。この2人が格上だっていうのか!!)
ベンチの大阪が佐倉に尋ねる。
「佐倉、それ『格上』のサインだよな。西谷の2人が格上だっていうのか?」
「…思い過ごしなら、いいんだけど。」
そこで、他の選手にも佐倉の推論を説明する。
「じゃあなんだ?予選まで温存して、覇王を温存して、トーナメントから使うことでもう隠し玉は無いって思わせて、俺たちの油断を誘ってたってことか。」
「だとしたら随分手の込んだ歓迎ですね」
「俺たち、そんな西谷に恨まれることでもしたか?」
「先輩、去年の代表校決定戦で西谷倒したの、うちじゃないですか。」
「つまり逆恨みか。」
「恨んでるわけではないだろうが、相当なリスクだな。途中で負ける可能性もあっただろう。」
「でもメリットも小さくないよ。もしあのレベルの実力があったとしたら、私たちの練習メニューも、対策も、全然別物だった。それでも、点数を取られてでも実力を隠蔽するなんて、西谷の全国への拘りは、本物だね。」
どこの学校も通常の練習に加え、仮想敵校への、対策を欠かさない。今回の西町谷への対策もこれまでの強さで対策を設定している。もし、この強さが想定されていたなら、対策は違っていた。
リスクを負ってでも、勝ちに行こうとする西町谷に、ルミがぼやく。
「西谷は、そこまでしてでも、全国行きたいんだろうねえ…。」
―場面は再び、バトルフィールドに移る―
サインを聞いた東と大阪。攻撃を中断し、すぐさま距離を取る。そして、小声で話し合う。
それに応じ、西町谷の二人も距離を取り、話し合う。
「ねえ、長渕君、サインの意味、分かった?」
「いいや、蘭花は同じサインは使わないからな…」
2人は蘭花の2人が攻めてこないのを確認すると、西町谷側のベンチにちらりと視線を飛ばす。
「あたしたちのベンチはサインなしみたいだね。」
「いや、何か言ってる…」
「試合中にいちゃいちゃするなー」
「はやくたたかえー」
「うらやましいぞこらー」
「「だから違うって!!」」
そして、再び前を見る。
(だけどこの感じ…!)
(俺と富田なら、勝てる…!)
一方、東と坂。
「『川』のサインだったよな。佐倉のサインがほんとなら、こいつら、俺たちより格上ってことか?」
「そうみたいだね。正しくは、そういう気概で戦え、っていうサインだけどね。」
「こまけえことはいいよ。だけどこんなとこで格上と会えるなんてな!!」
「坂君、くれぐれも作戦通りに頼むよ。」
「任せろよ!格上と戦って、『勝つ』のが一番楽しいからな!」
「ああ、その通りだ…!」
両者、仕切り直しが済んだのを確かめると、坂と長渕が駆け出し、東と富田が臨戦態勢を取る。
4人が同時に、動き出す。
仕切り直しの前とでは動きのキレが違う。西谷も蘭花も全員だ。
(やっぱり西谷はほんとに強いみたいだな…)
射程距離一杯になると、坂と長渕が武器を構える。今回の坂の武器は槌だ。
(格上との戦い方はいくつかあるが…)
(俺たちの戦い方はこれしかねえ!!)
坂の槌は一見緩慢だが、瞬時に長渕の腹に到達した。
「があっ!!」
そして長渕が吹っ飛ぶ。
((やられる前に倒しきる!!))




