開戦
6月20日、雨の季節、合間の快晴はこれからの季節を予感させるかのような、際限ない熱を降り注ぎ、都会のビル群さえ蒸気となって消えてしまいそうだ。
西都大会Bブロック決勝。全国大会への切符を賭け、ここまで勝ち残った2校が争う。西東京中の学校が集まり戦い抜いた西都大会。その西都大会から全国への切符を得る2校のうち1校が決まる。
ここまでたどり着くのにどれほどの練習を重ねたことだろう。どれほどの困難を乗り越えてきただろう。どれほどの死闘をくぐり抜けてきたことだろう。
だが全国への切符を手に入れるのは1校だけだ。そしてもう1校の夏はここで終わる。
西都大会 Bブロック 代表校決定戦 蘭花高校 VS 西町谷高校
決勝戦 観客席
12時より少し前。試合開始定刻までまだ余裕はあるが、決勝戦の観客席は既に超満員だ。観客席の様子も予選とは全くもって別物だ。鳴り響く吹奏楽部の演奏。チアや応援団の応援が会場を盛り上げる。観客席も一般のファンと両校魔闘部以外の生徒たちが大半を占めており、注目度が伺える。また、広い会場の端を注意深く観察するとテレビカメラが設置されていることも分かる。
そんな決勝戦の観客席の一角。
「フレーッ!フレーッ!蘭花!!」
ついに決勝戦となり他校の試合の偵察に行く必要のなくなった蘭花魔闘部の部員たち。今日は決勝戦の観客席にて自校の試合の観戦だ。レギュラーの静香と高石を除けば魔闘部25期、26期の国内組が勢ぞろいだ。
そんな女性の先輩の一人が蘭花を応援すべく、全精力をかけて叫んでいた。
「よおおおぅし!!てめえら!あと26期も!応援するぞおおおぉぉぉ!!フレーッ!フレーッ!蘭花!!」
「おいパイナップル頭。応援なら応援団がやってるだろ。」
「いいじゃねえか!応援は多い方がいいに決まってんだろおおお!!」
この活力あふれた先輩は寺口銭サチ、サチ先輩だ。個性的な髪形が印象的だ。
「26期は蘭花の試合を見るのは初めてだ。ゆっくり見させてやれ。」
「そうか!なら仕方ねえ!だが私は応援してていいよな!?あとてめえらもやるぞ!」
そう、26期ティーたちが入学してから生で蘭花の試合を見るのは初めてだ。
「うんうん、じゃあ僕もやろうかな。フレー、フレー、蘭花!」
「おお!いいぞいいぞクロ!その調子だああああ!!」
黒外套を纏った少年は天崎千、クロ先輩だ。彼もサチと同じく2年生。黒外套の中から色白の優しそうな顔が映る。
「サチ先輩!私も応援します!」
「お、セラちゃん、分かってるねえ~~!!そんじゃクロ、セラ、やるぞ!!」
「ちっ、好きにしろ。……おい、セラ以外の26期、この試合、目ぇかっぽじってみとけよ。俺らが蘭花の試合見れるのはここくらいだ。」
それに日和先輩が付け足す。
「あとは全国決勝まで行ければ、ですね。」
一年生も二年生もほとんどの試合で敵校の偵察に駆り出される。次確実に蘭花の試合が見れるのは、全国決勝だろう。
「あとは…おい、ティー。しっかり見とけよ。全国トップの選手の本気の試合なんて早々見れねえぞ。」
「全国トップの選手が、でるんですか?」
「!? 知らなかったのか!?軍神先輩は今年の『S』だぞ!?」
それを聞いたクロが言う。
「ああ、今年の『S』、でたんだ。やっぱり軍神先輩は入るよね。」
鎧井先輩に、ティーが尋ねる。
「『S』って、あの『S』ですか?」
「うん、月刊高校魔闘が毎年7月号に発表する『S』のこと。今年最強の3人の証だよ。」
高校生の魔闘をメインで扱う雑誌、月刊高校魔闘の発表する選手格付け。その頂点に立つ『S』は毎年決まって3人だけ。最強の称号に最も近い3人だ。
ベテランの記者たちが全国を横断してつけるその格付けは、非常に信ぴょう性が高いことで有名だ。選手の中にもその雑誌を愛読するものもいる。『S』の3人に選ばれることは選手たちの一種の憧れだ。
§
「両選手!入場!!」
蘭花、西町谷の両選手が入場する。全国へ駒を進めるべくここまで勝ち残った両校14人が握手を交わす。その姿は様々だが、誰からもどこか緊張したような、それでも自信に満ち溢れたような気迫が感じられる。
両選手がそれぞれ、握手を交わす。
握手を終えるとそれぞれ自校のベンチに戻る。先鋒2on2の出場選手を決めるべく、ラストミーティングだ。
―蘭花高校ベンチ―
ベンチに戻った選手たち。ベンチに残り西町谷を観察していた佐倉に、軍神が尋ねる。
「佐倉、選出はどうする?」
「ここから見る限り、西町谷に特別顔色の悪い選手はいないかな。みんなも握手した時、体調の悪そうな人はいなかったよね?」
「ああ。」
軍神が答えると、それに2年の高石、静香も続く。
「はい、僕の相手も好調でしたね。」
「私たちも!全員!元気ですよ!」
それに大阪と坂、東が続く。
「覇王がどっちかでも欠けてりゃ楽だったんだがな」
「絶好調の西町谷と戦えるなんて最高だぜ!!」
「天気にも恵まれて、みんな最高のコンディションで戦えるなんておじさんは嬉しいよ!!」
「えー、くもってた方が暑くなくてよかったけどねえー。あちぃー」
ルミが気だるげに言う。
「じゃあ選出は予定通りかな。それと…」
そこで東が立ち上がる。
「さて!ここでルールのおさらいだ!!」
「?? まーた、東がよくわからん事始めたよ…」
「魔闘の公式ルールは7人チーム、2on2、2on2、3on3の3連戦だ!そして相手を一人倒す、つまりバンクルを一つ破壊するごとに一点、すべての試合が終わった時に獲得した点数の多いチームが勝利だ!」
「ただし、すべての試合が終わって同点、または、一点差の場合は、別だ!この場合、両チーム最も自信のある一人は出場して決戦1on1を行う!そしてこの1on1の勝者が試合の勝利校になるってわけだ!」
「しかし、この最後の1on1には直前の3on3に出場した選手は出場できないので注意だ。あと、大会によっては、制限時間がある!都大会決勝は2on2が15分、3on3が20分だ!ルールの説明はここまでだ!」
東が席に戻ると佐倉が説明を再開する。
「…。さて、さっきも説明したけど体調の悪い選手がいなそうだから、予定通りの選出で行くよ。まず、覇王持ちは、二戦目2on2に軍神君、三戦目に3on3にルミちゃんにお願いするね。」
三試合目3on3は出場選手が多く、その分獲得できる点数が多い。もしそれまでが完敗で、4-0だったとしても、三試合目を3-0で乗り切れば、決戦1on1に繋げられる試合の要所だ。だが、ここに出場する選手は1on1に出場できなくなる。
そのため、この選出、三試合目に準エース ルミ、一試合目か二試合目にエース 軍神を置く、というのは王道中の王道、定石通りの選出だ。
「そして二試合目、三試合目の後のメンバーは一試合目の後で決めるとして…一試合目は坂くん、東くん、二人にお願いするね。」
「オーケイ!でも一戦目は覇王こねえだろうなあ。俺も覇王と戦いたいぜぇ…!」
すこし残念そうな坂に大阪がいう。
「まあ、勝ち進めばそのうち戦えるだろ。そんためにもしっかり勝って来いよ。」
「おうよ!任せときな!」
そして試合が、始まる。




