修練
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「バトルスタイル、ですか?」
「ああ。」
セラとティーの練習試合が決まるより少し前の昼休み、この日、ティーとイチは軍神先輩に稽古をつけてもらっていた。稽古を一通り終え、昼休みの終わりまで話し込んでいた時のことだ。
「魔法は闇雲に使っても強いが、その力を引き出す戦い方をしなければいけないんだ。野球で速い球を投げれば打たれにくいし、変化球だって、いろいろ投げられれば強いだろう。けれど、いつも同じ球を投げてれば打たれてしまうし、いつも全力で投げてれば、いつかはばててしまうだろう?」
「それは魔闘だって同じだ。強い魔法をぶつけているだけでは勝てない相手ばかりだ。投手が自分自身を分析し、最適な投球スタイルを確立していくように、自身に合ったバトルスタイルを確立しなければならない。」
「だから俺たちが魔闘に慣れてきたら最初にやるのは自分のスタイルを探す事、そしてそれはレギュラーになった今でも皆、続けていることだ。」
「つまり、今の剣術だけじゃなくて、魔法を生かして戦うってことですか?」
「ああ。……あと、そうだ、もう一つ。セラに勝ちたいなら…格上に勝ちたいなら、練習し続けることだ。考え続けることだ。」
§§
「バトルスタイルかあ…」
「ティーは何か思いついた?」
「いいや、今まで考えたこともなかったから…」
「ほんとに?入部テストのアレ、すごかったじゃないか!アレが思いつくなら、何か思いつくんじゃない?」
「目的が明確だったからなあ…。あの時はどんな手を使ってでも一撃当てればよかった訳だし。凄かったといえば、イチの方が凄かったろ。入部テスト、何回受けたんだよ!?」
「あはは…。30回は受けたかな…。それより、目的が明確だったらいいのかい?」
「ああ。そうだけど…」
「なら簡単じゃないか。ティーの目的は、セラに勝つことでしょ?」
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「火球の雨っ!!!!」
「当たるかあっ!!」
再び4つの煌きが、全てを焼き尽くさんとばかりにティーの眼前に迫る。両者の距離が縮まるりつれて回避の難度も高まるが、それは同時にティーの間合が眼前に迫っているということでもある。
「いいぞ、ティー!あと少し詰められれば、攻撃を当てれる!」
「それに、近距離なら、詠唱よりも剣術の方が速い!勝てる!勝てるよ!」
その様子をカイトは黙って凝視していた。
(ティーの奴、知らねえうちにあんなに腕を上げていたのか…)
4連の火球を避けられたセラが間髪いれずに詠唱を始める。
「光速の炎球っ!!」
「はっ!!!」
風がティーの体を押し出す。光速の炎球をいなしたティー。そしてついにセラの眼前に迫る。
「あっ…火球の…!」
だがもはや間に合わない。
ティーが小さく跳ね風を纏い急激に全身に回転をかける。
「くらえ!!!!!」
回転切り。
ティーの回転切りがセラの魔装を大きく切り裂く。隙は大きいが、重い、重い、一切りだ。
(はあ、はあ、割り切れなかったか…硬い魔装だ…けど…)
セラの魔装に大きな跡が入っている。
(あと1回、2回回転切りを当てれれば割れるか…?)
一方セラは今の隙を使って大きく距離を取ったようだ。今の一撃に小さくない驚嘆を覚えているようだが、まだまだ戦えるようだ。そして、距離を取ったセラ。今は再びセラの間合いだ。
「ティー君!!私はまだまだいけるよっ!!」
「そう来なくちゃ…!行くぞ!!」
「はあああああああ!!!」
ティーが距離を詰めるべく構え、駆け出す。
セラもすぐさま応戦すべく、魔力を高める。
(炎弾が4発…いや、6発!多い…けど…!)
問題はない。完全に躱しきるイメージが鮮明に浮かび上がる。幼いころから磨き上げてきたスピードに、魔力を乗せればいいだけだ。
今日までの練習は、全てセラの攻撃を躱すことに焦点を当ててきた。覇王の攻撃であろうと当たらなければ脅威でない。6球という火球の多さは想定外だが、そういう可能性だって考慮に入れてきた。
だって相手は一年で、覇王を使う相手だ。それも魔闘を始めた初日にだ。さらに予想を超えてきてもおかしくは、無い。
煌く炎の雨。幾多の炎弾を躱すため、ティーが両足に魔力を込める。
だが、次の瞬間、ティーの視界が赤に染まった。
(………え??)
どがががががががっ!!!
ティーの全身を熱と衝撃が襲った。
やがて、紙切れのように吹き飛ばされ、地に墜ちる。
「やった、できた…!」
セラが息を上げながら、呟く。
観戦していたケイは余りに突然の出来事に困惑していた。
「なんだ!?あれ…?」
それにカイトがつぶやく。
「信じらんねえ……6球、6球の「光速の炎弾」だ…!」
「うそだろ!?そんなの、どうしろって言うんだよ!?」
「次元が、違う…」
倒れ伏すティー。その左手にバンクルは無かった。魔装は6連撃に耐えきれず、途中で焼け落ちてしまった。
「勝負あり!勝者!川崎世良!!」
§
次の日
セラとティーの一戦を終えた次の日の昼休み。ケイとティーはトレーニングルームにいた。トレーニングルームにはイチや鎧井先輩、軍神先輩といったいつものメンバーもそろっており、それぞれ、思い思いのトレーニングを行っている。
「で、なんでケイがトレーニングルームにいるんだ?」
「昨日の試合見たら、いてもたってもいられなくてな。あんなスゲエの見せられたら、オレも負けてらんねえよ…!」
意気込むケイ。それに渋い顔でティーが答える。
「セラ、凄かったよな」
「ティーも凄かったろ。でも確かに、最後のアレはヤバかったよな…よく無事だったよなティー。」
「バンクル様様だな…正直、死ぬかと思ったよ。」
「そういや、日和先輩スゲエほめてたぞ、一年であんなに魔法を使いこなしてる人は見たことないって。ティーもスゲエよ。セラがヤバすぎるだけでさ。」
「確かにそうかもな。けど、次こそ勝つのは俺だ…!」
「ティー!?あれに勝つ気かよ!?」
「もちろんだ…!」
「けど、どうすんだよ」
「考えは…あるさ」
「?」
「あれは連発できないはずなんだ。最後の一撃の後、セラはだいぶ息を上げていたんだろ。一度、躱しさえすれば、勝てるはず。」
「なるほど…で、その一発はどうすんだ?」
「……」
「……ティー?」
「…それは、これから考えるさ。俺も今すぐ勝てるとは思っていないよ。だからこうやってトレーニングしてる…」
「……そうだなっ!なら今度はオレがセラに勝ってやるぜ!勿論ティーにもな!!」
「大きく出たな!俺は負けないぞ?」
「あ、ケイさん!それティーさんみたい!」
「あ!マツ!それに……げっ、ユリ。」
「ティーちゃんこんなとこで奇遇やな!!」
「どこがだよ…。」
「2人もトレーニングしに来たのか?」
「私たちも2人に負けてられないからねっ!」
「それに先輩ももうすぐ本戦で、気合入ってるからな。後輩がサボってるわけにもいかんで。」
「本戦…もうすぐ都大会か。」
「3年の先輩にとっては最後の夏や。今年こそはって思ってるやろなあ。こっからは全国優勝まで一敗もできひんからな。」
「一敗でもしたら終わり…怖いね。」
§
数日後 日々山国立スポーツの森公園(魔闘競技エリア)
都大会本戦 開催日 当日
都大会開催日当日、出場選手が一同に揃う開会式。その開会式、そして、都大会初戦を目当てにやってきた観戦客に会場の公園は埋め尽くされていた。人混みでごったがえした、公園だが、その誰もが魔闘競技場を目指している。各所で観戦客へのインタビューが行われていることも伺える。
その一角に、観戦客と同じように会場を目指す三角フレームの真黒のサングラスをかけ、新聞を読みながら歩く怪しい男性とそれを追いかけるジャージ姿の少女がいた。
「監督、待ってくださいよ~~」
「おい、降矢、お前ほんとなんでついてきた?優等生のくせに学校サボってどうすんだ?」
「ん~じゃあ今日から不良優等生ってとこですかね?」
降矢がとぼけるように答える。
「それに今年の蘭花はヤバいって言ってたのは監督じゃないですか!」
「だから、俺がこうやってきてんじゃねえか…!学生が平日にわざわざ関東までくる必要ないだろ…それに、今日は決勝じゃねえ!初日だ!!」
「それにお前ももう有名人だろ。ちっとは自覚しろ。」
「大丈夫ですって!まさか初日に天海の監督とレギュラーが来てるなんて誰も思いませんよ!」
「おい!なにいってんだ!関東のやつらにばれたらどうすんだよ!」
「監督、そのダサいサングラスやめた方がいいですよ!?そんなのなくたってバレませんって」
「ダサ!?……マジか…」
「それで、今年の蘭花はそんなにヤバいんですか?」
「蘭花は例年高い総合力が売りだが、絶対的なエース格はいないことが多い。」
「だが、いるんだよ、今年はな。まあ、見たらわかるぜ。」
「絶対的な…ですか…じゃあ今年の“S”は一人は蘭花から、ってことですか。」
「間違いなく、そうだな」




