第四十二話 二章第六話 港街メーゼレ
異世界を舞台としたハーレム冒険小説の通算第四十二話です。
港街メーゼレに到着したマサキは、この街独特の景観と防御体制に興味を示す・・・。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、作者のやる気が出て頑張れます!
「実は・・・私も海は初めてだから、ドキドキなんだよね」
あの後、ひたすら謝り続けることで、やっと機嫌を取り戻したルシェラが俺に語り掛けてくれた。
調子に乗って仲間達の機嫌を損ねてしまったが、ネイリーンとルシェラによって俺の海に対する恐怖心は本当にどこかに消えていた。
抱き締めて慰めてくれる仲間がいる。その事実は何よりも勇気を与えてくれたのだ。
「それは意外だね。ルシェラは泳ぎも上手そうだけど」
「いや、自慢じゃないけど、膝より深い水場に入ったことはないよ!」
俺の何気ない言葉にルシェラは恥ずかしそうに答える。
良く考えてみれば、この世界の住人は商人か冒険者でもない限り地元を離れることはない。だから、近くに湖か大きな河でもない限り、泳ぎを覚える機会もない。悪いことを聞いてしまったようだ。
もっとも、彼女の褐色の肌と銀髪は紺色のスクール水着にも映えると思われた。
「もう少しすると、メーゼレの街並と海が見えますよ。あの街は高低差を利用した造りをしているので、トリムとは違った景観をしていて面白いです」
「ああ、ネイリーンはメーゼレに行ったことがあるんだ?」
ネイリーンが会話に加わり、期待させることを呟いたので俺は問い掛ける。彼女はトリム出身の冒険者なので、このパーティーメンバーの中では最も周辺地理に詳しいのだ。
「ええ、私は駆け出しの頃にトリムとメーゼレ間を旅する商人の護衛を何回か務めたことがあります。トリムの東側は西を支配する混沌や南を支配する秩序から離れているので、活動を始めた冒険者が経験を得るには最適なのですよ」
「・・・なるほど。でも、それはかなり大変だったんじゃないか?」
俺はネイリーンが冒険者となったと思われる数年前の姿を思い浮かべると相槌を打った。
この世界では十五歳で成人として扱われるので、おそらくは今の俺と同じぐらいの年頃だろう。日本で言えば中学を卒業してそのまま社会に出るようなものである。苦労したに違いない。
「大変といえば大変でしたが、私には父の残してくれた装備もありましたし、父の冒険者仲間もいました。なので、その方のお世話になって、駆け出しの時期を乗り切ったのです」
「そういうことか、つ・・・」
「つ? つがどうかしましたか?」
思わぬ形でネイリーンの過去を知った俺は、口にしそうになった言葉を慌てて引っ込める。
ついでにその胸はいつ頃から大きくなり始めたのかと、思わず聞こうとしていたのだ。どうも俺はネイリーンに対して多少のセクハラは許されると思い込んでいる節がある。
先程の件で失った好感度を更にマイナスにしてしまうところだった。
「つ、ついでにメーゼレで美味しい料理を知っているのなら教えて欲しいなって! 港街なら魚介類は新鮮だろう?!」
「そうですね。 トリムでは干物くらいしか魚料理を味わえませんが、メーゼレでは新鮮な魚のフライが有名で美味しかったですね。依頼を終えたら皆で人気の店に食べにいきましょう!」
「おお、良いねぇ! 当たり前だけど私は川魚しか食べたことないんだよね!」
「うん、依頼を片付けたら一日か二日はメーゼレの食事を堪能するのも悪くないかな。魚のフライは麦酒にも合いそうだ!」
セクハラを誤魔化すために咄嗟に思いついた言い訳は、ネイリーンだけでなくアリサとルシェラも喜ばせることに成功する。・・・人生とは何がきっかけで好転するかわからない。俺は改めてそう思った。
やがて、先程のネイリーンの言葉を証明するように、街道を歩む俺達の前にメーゼレと思われる街と海が現れた。
その街は鮮やかな青色が広がる小さな湾に寄り添うように低い建物が密集している港地区と、それを見下ろすように佇む堅牢な石造りの建物が目立つ山の手地区の二つの区画で成り立っていた。
二つの異なるコンスラストは確かに独特の景観を作り出しており、なかなかの圧巻である。
当然だが、街の裕福層が住むのは山の手側に違いない。日本で生まれた俺は実際に体験したことはなかったが、津波や高潮の恐ろしさは充分に知っている。最悪の事態に備えて街の中枢を安全圏に置くのはごく自然の配慮と言えた。
もっとも、メーゼレという街の本質が港地区であるのは一目瞭然だ。湾内には波止場が設けられており、大小様々な船が係留されているのが街道からも窺えた。
俺からすると右側、方角では南側に位置する小さな船が集中している波止場がおそらく漁港だろう。隣接するように市場らしき大型の天幕が幾つも建っており、人々が蟻のように働いている姿が目に映る。
それに対して左側の大型船にも対応している思われる波止場は、随分と隙間が目立ち活気が感じられない。
普段からメーゼレにやって来る船の数を知らないので性急な判断は出来ないが、やはり海賊や〝狂った水の精霊〟を恐れて海運が滞っているように思われた。
「メーゼレの冒険者ギルドがあるのはこの下、港側のこちらですね」
トリムからやって来る訪問者のためだろう。メーゼレに至る直前で街道は山の手側と港側、このどちらかに最短距離で着けるように二つに別れていた。
今回の依頼はメーゼレの冒険者ギルドを通して依頼されていたので、街を知るネイリーンが港側に俺達を誘導する。
富裕層が住んでいるのは山の手側だが、トリムから来た俺達からすればそちらに目新しい物があるとは思えない。よって俺達はネイリーンの誘導に特に残念がることもなく、港側に向う緩やかな坂道を下って行く。潮の匂いはますます強くなっていた。
驚いたことにメーゼレの港地区には、これまで俺が訪れたどんな小さな村や集落にもあった外壁はなく、代わりに海水で満たされた堀で囲まれていた。
堀の幅は10メートルほどで街道の幅に合わせて木製の橋が架けられているが、緊急時には跳ね上げられるように工夫されている。
更に堀の中の水量はどこかの水門でコントロールされているらしく水面が低く抑えられており、地面までは人の背丈ほどの高さがある。これでは例え泳いで渡ったとしても這い上がることは極めて難しい。
この街に無断で入るには、何かしらの魔法スキルか達人クラスの盗賊の腕前が必要と思われた。
「なるほど、メーゼレではこの堀が城壁の代わりなのね!」
街中に入るために橋を渡るルシェラが、まるで俺の胸の内を代弁するように呟く。彼女もこの街、独特の防御体制に興味を持ったようだ。
「ええ、この堀は街中にも繋がって水路の役割も果たしているようですね。また、ここには魚を棲んでいるようなので、メーゼレではどこでも釣りを楽しめるようです」
「おお!」
「ほう・・・」
外敵を防ぐだけでなく、水路と釣堀を兼ねているとは一石三鳥である。俺もルシェラに合わせてネイリーンの説明に感心の溜息を吐いた。
「ああ、それともう一つ下水の役割も持っていますね。潮の満ち引きを利用して海水を入れ替えているのです。なので、私としてはここで釣った魚を食べるのはお薦めしません」
「「げ!」」
補足とばかりに付け加えられたネイリーンの言葉に俺とルシェラは揃って短い悲鳴を上げた。どうやらこの堀はメーゼレにとって一石四鳥の設備だったようだ。
「じゃ、いよいよメーゼレの港地区に入ろうか!」
「「「おお!」」」
俺達がそんな雑談している間に、アリサが街の衛兵達と話をつけてくれていた。今回はメーゼレの冒険者ギルドからの依頼なので、依頼状を見せただけで税金や通行料は免除されていた。
こうして俺達はアリサの掛け声に答えると、いよいよ海の街メーゼレに足を踏み入れた。
ご愛読ありがとうございました。二章からは一日ごとの更新を予定しております。
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