第四十一話 二章第五話 トラウマそして抱擁
異世界を舞台としたハーレム冒険小説の通算第四十一話です。
潮の匂いを嗅いだマサキは転生前の事実を思い出す・・・。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、作者のやる気が出て頑張れます!
旅の四日目、もう少しで太陽が頂点に達する頃、街道の先から吹き付ける潮風が俺のマントの裾をからかうように弄んだ。
日本でも嗅いだ事のある潮の匂いは俺の記憶と違い、変な癖がなくあっさりとしている。・・・だが、かつては爽やかだと信じていたその匂いは、俺の運命に重大な結果を齎した記憶を呼び起こす。
そう、俺はエレンディア世界に転生する前に海で溺れ死んでいたのである。死の瞬間まで肺に侵入する海水の塩辛さと苦しさは、確かな現実として俺の脳裏と胸を疼かせた。
「どうした? マサキ?!」
気付いた時には俺は立ち止まってアリサに声を掛けられていた。その声には気遣う調子が含まれており、彼女は俺が普通でないことに気付いたに違いない。
「・・・良く考えたら、俺は・・・海が怖いかもしれない」
「え?! なんで?!」
俺の告白にアリサが驚きの声を上げる。まあ、無理もないだろう。
トリムで今回の依頼を告げられた時は、俺も高額の依頼料もあってノリノリだったのである。今更、海が怖いなんて『いきなり何を言ってんだ! こいつ?!』である。
「今、潮の匂いを嗅いだら・・・前に海で溺れて死んだことを思い出してしまった・・・」
とは言え、俺としては事実を告げるしかなかった。
「まさかそんな・・・」
「さっきまで、元気だったのに・・・」
「いや、匂いや音で昔のトラウマが蘇るというのは聞いたことがあるよ・・・」
その頃にはネイリーンとルシェラも俺の異変に気付き、アリサを含めた三人で俺を心配そうに見守ってくれている。
「残念だが、今回の依頼は・・・」
「いや、それは!」
アリサが依頼を断念する素振りを口にしたので、俺は声を上げる。ここまで来て俺一人のために予定を変更させるわけにはいかない。
「俺のことは・・・」
さらに否定の言葉を告げようとした俺だが、突然大きな何かが覆い被さって顔と身体を圧迫する。
「・・・あの時、マサキはこうやって私にゴルディゾーンに立ち向かう勇気をくれましたよね?」
「え、いや! ちょっと!」
それがネイリーンの身体で、鎖帷子の上からとはいえ彼女の豊満な胸に顔を埋めていることを理解した俺は慌てた声を出す。
彼女が告げたことは事実であったが、まさかアリサとルシェラが見ている前で、こんな大胆なことをするとは思ってもいなかった。
「ええ! 何それ! 二人はもうとっくにそんな関係だったの?!」
「いや、これは・・・・ゴルディゾーンを見て昔の恐怖を思い起こしたネイリーンを、勇気付けるために抱き締めたことがあって・・・・そ、そのお返しなんだよ! きっと!!」
ルシェラが非難めいた驚きの声を上げたので、俺はネイリーンから離れる・・・のは、もったいないから顔を横にして今の状況を説明する。
鉄の特有の匂いと冷たさもあったが、その下にある双丘の弾力と感触は離れがたい魔力を秘めていたのである。
「・・・つまり以前にマサキの方からネイリーンを抱き締めったってことだね?!」
「あ、あのときは緊急事態だったから!!」
俺はルシェラとその後ろで興味深くこちらを窺っているアリサに対して必死に釈明をする。もはや海に対する恐怖心はどこかに消えていた。
「私達の知らないところでそんなことがあったのか!」
「ええ、あの時マサキが勇気をくれていなかったら、過去の記憶に負けてゴルディゾーンに立ち向かうことは出来なかったでしょう。それで、私も海に怯えるマサキを励まそうと咄嗟に・・・」
しばらくしてネイリーンから解放された俺は、彼女と二人でパーティーメンバーであるアリサとルシェラにゴルディゾーン戦での出来事を説明した。
「だからって、ネイリーンもいきなり抱き付くことはないでしょう!」
「それは・・・私も・・・マサキが怯える姿を見ていたら、焦ってしまって・・・」
ルシェラの不満は俺からネイリーンに移り始め、彼女を糾弾する構えを見せていた。
「ま、待ってくれ、ネイリーンから勇気を分けてもらったが、恐怖を克服するにはもう少し必要っぽい! 出来ればルシェラも分けて欲しい!」
その場を収めるため、俺は悪ノリしたようにルシェラに向って腕を広げる。これで彼女の不満は俺に戻るはずだ。
「も、もう・・・マサキは仕方ないなぁ」
だが、予想は外れ、怒ると思われたルシェラは俺の身体を受け止めるように抱擁する。
まさかの事態に驚かされたが、こんな機会は滅多にないので俺はルシェラの感触を堪能する。銀髪から漂う女性らしい甘い匂いが鼻腔を刺激し、俺はまさに幸福感に包まれた。
もしかすると俺はネイリーンルートだけでなく、ルシェラルートも本格的に開拓していたのかもしれない。
「いや、もうそのくらいで・・・」
今度はネイリーンが機嫌の悪い声を上げたので、俺とルシェラはお互いの抱擁を解いた。
「どう? 勇気が出た?」
「・・・出た。・・・でも、まだほんの少し足りないかもしれない! だから最後はアリサから分けてもらわないと!」
ルシェラの問いに答えつつも、俺は最後の一人で本命のアリサに催促する。
「・・・マサキは本当に面白いな。心配して損したよ! ふん」
だが、俺はこちらを見つめるアリサの蔑んだ瞳とこれまで聞かせたことのない、せせら笑う声で少し調子に乗りすぎたことを知る。心底あきれ果てたという感じである。
「なんでしょう・・・なんだか私は騙されたような後悔に苛まれています」
「うん。私もマサキを甘やかしてしまった・・・」
その空気はネイリーンとルシェラにも伝播し、俺はそれまで溜めた貯金を全て失くしてしまったような気分になるのだった。
ご愛読ありがとうございました。二章からは一日ごとの更新を予定しております。
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