第三十六話 どこか誰かが
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第三十六話です。
今回で第一章の完結です。ドラゴンと秩序の使者達を倒したマサキたちは・・・。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
今まで読んでくれた方には感謝を!
秩序の使者の身柄をトリムの兵士達に任せ、ゴルディゾーンの死を確認すると俺達は冒険者ギルドに引き上げた。
現場では戦死者の遺体回収や怪我人への回復魔法の用意など、やるべきことはまだまだたくさんあったが、俺達にそこまで手を回す余裕がなかったからである。物理的な怪我はその場で癒すことが出来たが、アリサとネイリーンの精神力はこの戦いで枯渇し、俺もルシェラもが疲労困憊で今にも倒れそうだった。特に俺は一度死に掛けた、というか死んでいる。活躍を讃えてくれる者達はいても、文句を言う者は誰もいなかった。
「どう? お兄さん、私も役に立ったでしょう? うふふ」
そんな中一番元気なのが一号である。今の俺は自力で歩くには困難なため、彼女の力を借りている。先程から二つの双丘が右腕と背中に当たりっぱなしだが、こんな時なので大目に見るしかない。そう仕方がないのだ。
「確かに、助かった。あそこで戦力が逆転したからな。・・・ところで、あのエルフ女には止めをしたのか?」
「ううん。〝エナジードレイン〟で精神力を吸い取ってから、止めをさそうと思っていたんだけどね。その前に気絶して倒れてしまったのよ。それまでに魔法をかなり使っていたみたいね!」
「・・・そうか、それで一号は元気なんだな!」
「ええ! でも女の精神力じゃあね! 私としては、やっぱり男の・・・お兄さんの方がいいわぁ」
俺としてはエルフ女への止めを今度こそきっちり刺しておきたかったが、今更引き返して昏倒している者を殺すには抵抗があり、それ以上は考えないようにする。トリム側もゴルディゾーンとともに襲撃した彼らを簡単に解放することはないだろう。それ以上のことは街に任せて忘れることにした。
「一号! マサキに色目を使うな! 死なない程度の精神力なら私がくれてやるから!」
俺と同じように歩くのもやっとのアリサとルシャラを両脇に支えるネイリーンが、一号に不満を漏らす。目当ての美少女二人に囲まれていながら俺に嫉妬するとは、なかなか欲深い女である。こんな状態でなければ、その役目は俺がやりたかった。
「ネイリーン、今日だけは大目に見てやりなよ。一号が助けに来てくれなかったら、今頃はどうなっていたかわからない。マサキが一号を誑し込んでくれたからこそだ。褒美をあげても良いだろう!」
「さっすが、リーダーさん、わかっているじゃない! お兄さん、早く帰っていいことしましょ!」
アリサの言葉に一号も乗り気になり、俺の身体を抱え上げる勢いで歩む速度を上げる。今更だが、彼女は見た目に反してかなり力が強い。とは言え、その言葉に乗るわけにはいかない。俺の本命はアリサなのだ。誤解を解く必要がある!
「いやいや、こんな言い方は何だけど、ゴルディゾーンを倒したのはこの私だよね! マサキを褒美にするなら私がその資格があるんじゃないかな!」
この手の話になると傍観者の立場を取っていたはずのルシェラが話に入って来る。もしかすると先程の戦いで、俺は彼女とのフラグを立てることに成功したのかもしれない! アリサの白い肌と金髪も魅力的ではあるが、白いシーツの上で横になる褐色と銀髪のルシェラの姿も素晴らしいよう思われた。
「ルシェラの働きが第一の戦勲であることは認めますが・・・マサキは・・・」
相手がルシェラだからか、ネイリーンの言葉も一号相手ほどはっきりしない。もっとも、このまま放っておくと、彼女達は俺を取り合うことで仲間割れを起こしてしまうだろう。それは何としても避けなければならなかった!
「ま、待ってくれ! 俺のために喧嘩は止めてくれ! 皆どうだろう? 今晩は皆で仲良く五人で俺の部屋で楽しむというのは?!」
俺は最善と思われる案を提示した。
「・・・マサキ。なんで、そんなことが許されると思ったのかな?」
「もう、マサキは直ぐに調子に乗る! さっきも注意したばかりではありませんか? 馬鹿ですか? あなたは?!」
「それはないよ・・・マサキ、はあ・・・」
「お兄さん、それは私もちょっとねぇ・・・」
アリサには呆れられ、ネイリーンには叱責され、ルシェラとは立ったばかりのフラグを圧し折ってしまい、更には一号にまで引かれた俺は、自分のノリの軽さと愚かさを後悔する。
こうして俺はギルドまでの道のりを気まずい思いをしながら凱旋するのだった。
「そちらは任せます!」
「ああ!」
ネイリーンの声に俺は子気味良く答えると剣を振るう。切っ先が迫りくる大蝙蝠の羽を捉え、鈍い手応えとともに地面へと叩き落とす。更に襲って来た二匹目の鉤爪を躱すと、返す刀で胴体部を切り裂いた。
三匹目の敵を求める俺だが、人の背丈もある大蝙蝠達は既に散らかるようにして森の奥へと逃げて行った。
「二人とも頼りになるけど、魔法を使う機会が減るのはちょっと物足りないかな」
「うん、私達の出番がなかったね!」
「まあ、雑魚の相手は任せてくれ!」
アリサとルシェラは残念そうに言葉を漏らすが、この程度の相手に二人の手を煩わすまでもない。
「ええ、これくらいは私達に任せて下さい!」
最後にネイリーンも俺と同意見とばかりに会話に加わった。彼女の足元にも大蝙蝠の死体が二体転がっている。どうやら、俺の接近戦能力はネイリーンに迫りつつあるようだ。
「では、先を急ぐことにしよう」
リーダーのアリサに促されると俺達は移動を再開する。今回の目的は大蝙蝠退治ではなく北の森の先にある、魔女の薬草園に目当ての薬草を取りに行くことにある。こんなところで、もたついているわけにはいかないのだ。
ゴルディゾーンの襲来と秩序の使者を撃退した戦いから十日が過ぎた頃、俺達は再び一般的冒険者としての活動を開始していた。あの戦いで一度死んだ俺は大量の経験値を獲得し、各種のスキルを延ばし一人前を越えて熟練冒険者の域に達しようとしていた。
また、防衛戦で特別な活躍をした俺達にはギルドから日当の他にも恩賞が与えられ、少なくとも一年は危険な仕事をせずに街中で暮らせる金を手に入れた。だが、アリサはその境遇に甘えることなく冒険者として活動することを選ぶ。
その判断に反対するつもりはなかったが、なぜアリサがひたむきに冒険者として、彼女ほどの実力があっても決して安全とは言えない冒険に赴くのか、俺は尋ねずにはいられなかった。
するとアリサはこう答える『どこかで誰かが困っているなら、少しくらいは助けて上げるべきじゃないかな?』と、思えばエレンディアに転生した頃の俺はその〝誰か〟の一人だったのである。
「ああ、あれが薬草園のようだね! 早く目当ての薬草を手に入れて戻らないとだ!」
木々が薄くなり、森の中に突如開けた空間が現れるとアリサが告げる。俺達の視線の先には、ちょっとした館とその回りを取り囲むように造られた様々な菜園があった。
「ええ、早く管理人の魔女と交渉を終わらせてトリムの街に戻りたいですね。特殊な病気を患ったあの子のためにも!」
「うん、急がないと!」
ネイリーンがこの地を訪れた目的を改めて口にして、ルシェラも同意する。この二人はアリサの理念にも共感し、パーティーメンバーとしてこれからも活動を続けることを選択していた。
「ああ、早く薬草を持ってトリムに帰ろう!」
もちろん俺もこの意見でだけでなく、アリサの考えそのものに同調するように頷いた。力を持っているなら、少しくらいは助けてあげよう。それは特に気負いもせず、奢りもせず、丁度良い感じに人間的な発想だと思えたからだ。
「ふふふ、マサキはトリムに一号を残しているからね。早く帰らないとだ!」
「いやいや、一号とはまだ何もないし! お、俺はアリサと一緒に居られる冒険の方が性に合っているよ!」
そんな俺をアリサはからかう。冗談とはわかっているが、きっちり反論せずにはいられなかった。
「・・・まだ? まだと言いましたかマサキ? つまりこれから予定があるということですか?!」
「いや、こ、言葉のあやだよ!」
「本当に? それにアリサと一緒ってことは私とネイリーンはどうでもいってことなのかな?」
「そんなことはない。ルシェラがどうもいいわけないじゃないか!」
言葉尻を執拗に攻めてくるネイリーンとルシェラに俺は必至に訴える。
「私は?!」
ネイリーンが肩を掴もうとする気配を感じたので、俺は素早くそれを避ける。
「むむ! ちょこまかと!」
怒りの声を上げるネイリーンだが、回避特化スキルを俺に伝授したのは彼女自身だ。なかなかの皮肉と言える。
「まあ、ネイリーンもそんなに怒らなくても。男の子は好きな女の子ほど意地悪する生き物らしいよ! それにマサキはそのくらいにしておかないと後が面倒なんじゃないかな? ふふふ」
「「・・・・確かに!」」
アリサの指摘を受けると俺とネイリーンは同時に納得していた。
「じゃあ、冗談はこれくらいにして魔女との交渉を始めるかな。いざとなったらマサキにはアレを頼むかもしれないね」
「ん、アレ?」
緩んだ空気を締めたアリサの言葉に俺は真顔で問い掛ける、その意味がわからなかったからだ。
「アレだよ。土下座だよ! ふふふ」
アリサはその凛とした声で笑い声を上げると俺達を導くように歩き出した。
異世界に転生したけど、俺の初期スキルが色々おかしい! 第一章 終劇
ご愛読ありがとうございました。今回で一区切りとなって第一章の完結となります。
もっとも、マサキ達の冒険はこれからも続きますので、これからもよろしくお願いします!
そんなわけで、よろしければ感想や評価をお待ちしております。




