第三十四話 天秤の女神再び
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第三十四話です。
ドラゴンのブレスに包まれたマサキは・・・。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、なんでもするかもしれません!
「・・・マサキ殿!」
懐かしい声に呼ばれて俺は意識を取り戻す。身体を焼いていたはずの炎と痛みはどこかに消えており、体調は極めて良好だ。
だが、開いた目の先にフードを被った女性を見つけると、俺はまるで氷で出来た手で心臓を握られたような驚きと焦りを得る。その女性が天秤の女神であり、ここが以前に転生を選んだ選択の間であることを知ったからだ。前回と同じく俺は何かの審判を持つように、ただ椅子に座っていた。
もっとも今回は天秤の女神の一柱だけであり、秩序と混沌を司る女神達の姿はない。今回は前回とは勝手が違う、俺はそう感じ取った。
「目を覚ましたようですね、マサキ殿。私としてはあなたとは再会するのは、もっと後になることを望んでいたのですが・・・」
「・・・ああ、俺はまた死んだんだな。・・・いや、アリサ達は?! ドラゴンは倒したのか?! もう一度あの世界に転生出来るのなら、また天秤を選ぶ! だから早く転生させてくれ!」
女神の叱るようにも聞こえる発言で俺は状況を察する。なんとなくきまりの悪い思いとなるが、こちらとしてもアリサ達のことが気になって仕方がない。動向を待っていられずに質問を口にする。
「エレンディア世界に再挑戦はありません。あの世界で命を落とした人間は、蘇生の機会を失うと同時に本来あるべき輪廻、あるいは宇宙の法則に従います。・・・ですが、あなたの場合は非常に特殊なスキルを所持していたため、この選択の間に再び呼び寄せたのです」
「スキル?! 天秤の使者なのに暗黒魔法スキルを取得したからか?!」
「いいえ、違います。あなたがエレンディアに降り立った際に偶然性で手に入れたスキルのことです」
「なんだって・・・まさか! あの土下座スキルのことか?!」
「・・・そちらも違います。特異体質スキルの方です」
「え! そっち?! そういえば、そんなスキルもあったけ・・・」
天秤の女神に指摘されるまで、その存在を忘れかけていた特異体質50レベルを思い出すと、俺は驚きの声を上げる。完全な外れスキルだと信じていただけに予想外の展開だった。
「ええ、このスキルはその名のとおり非常に特異で、死後にその能力が開示されるタイプのスキルだったのです。・・・スキルの真の名は〝自動蘇生〟能力は絶命状態になるとスキルレベルの確率で蘇生を行ないます。つまり、あなたは二分の一の確率で再びエレンディア世界に戻ることが出来ます」
「・・・まさか、そんな・・・おお!!」
また、エレンディアに戻れる。アリサ達に会えると思えると俺は絶叫を上げていた。
「お静かに・・・確立は半分です。まだ確定ではありません。では、私のどちらかの手を選んで下さい。俗的に言いますが、片方が当たりで、もう一方は外れです。外れを選んだ場合は・・・言うまでもありませんね」
興奮する俺に女神は淡々に告げると、甲を上にして軽く握った手を平行に差し出す。そのどちらかに当たりがあるということなのだろう。
「・・・こっちだ!」
一瞬だけ間を置くと俺は女神の左手を両手で握りしめる。アリサの定位置はいつも俺の左側だ。それが選んだ理由だった。
「・・・ふふふ」
女神が小さく笑うと俺の視界は光に包まれ、再び意識が遠くのだった。
「・・・マサキ! 起きてくれ!」
左手に暖かい感触を覚えると当時に俺は自分を呼ぶ声を聞く。かつては清らかなせせらぎを思い起こさせた凛としたその声は、記憶と違いどこか濁っていた。それでも俺は声の主がアリサであることを知ると、彼女の存在を探し求めるために意識を覚醒させた。
「おお! 良かったぁ!!」
瞼を開けると目の前にアリサの顔が映り出される。可愛らしさと美しさを兼ね備えたその顔は涙で濡れていた。
「・・・ああ、アリサ!!」
アリサが俺のために泣いてくれていた! その事実は俺にとって再びエレンディアで息を吹き返したことよりも、俺の魂を揺さぶった。大抵のことには動じず、常に冷静でいた彼女が涙を流したのである。俺は嬉しくて仕方がなかった。
俺は勢いでアリサに抱き付こうとするが、自分が城壁の床に寝かされ、彼女に左手をきつく握られていたこと知る。そのため不自然な状態で身体を起こし、よろめいてしまう。
「・・・マサキとルシェラ・・・いや、皆のおかげでゴルゾディーンは倒したよ!!」
アリサには俺が立ち上がろうとしたように見えたのだろう。直ぐに俺を左側から支えてくれる。正直に言えば、立つには何ら問題はなかったのだが、アリサから抱きしめられる機会など今回が初めてである。その身を任した。
「「マサキ!!」」
立ち上がったところで俺は、タイミングを合わせたように俺の名前を呼ぶ二つの声を聞く。
「ああ、ネイリーン! ルシェラ! 良かった! 二人とも無事だったんだな!!」
「うん! マサキのおかげで助かったよ!!」
「・・・もう、本当に心配しましたよ・・・」
顔を上げるとやはり涙で顔を濡らしたネイリーンとルシェラがいて、二人は声を掛けながら俺とアリサに向って抱き付いて来る。ルシェラはともかく、ネイリーンを受け止めるために俺は足元を踏ん張った。
「・・・ところで、あのドラゴンは?! やっつけたとか?!」
俺としてはこのままの状態でずっと四人で抱き合っていたい願望があったが、胸に残る疑問が抑えきれずに質問を口にする。
「うん、ミスリル銀の矢をルシェラから口内に射られたゴルゾディーンはそれが致命傷となって街中に落ちた。さすがに、しばらくは暴れたみたいだけど、他の射手達が頭部を狙い撃ちにして止めを刺したよ。私もあいつが死ぬ瞬間を見たかったけど・・・それどころじゃなかったからね」
自然と抱擁を解いたアリサは、城壁から身体を半分乗り出すと杖で下を指し示す。俺も彼女に続いて下を見ると、城壁にもたれるようにして倒れるゴルゾディーンの姿があった。多くの兵士や冒険者達がその身体の回りや上に群がり興奮の声を上げているので、完全に絶命しているようだ。
「・・・マサキ達の居た砦の見張り台がゴルゾディーンのブレスに浴びせられたと思ったら、突如そのゴルゾディーンが下に落ちて、炎に包まれたマサキとルシェラが城壁の上に倒れた状態で現れましたからね。本当に驚きましたよ。なにせ・・・マサキは身体の半分が炭化していましたから・・・」
ネイリーンがアリサの説明を補足するが、当時の俺の状況はよっぽど絶望的だったのか、再び目に涙を浮かべる。
「うん、下にいたルシェラはともかく、マサキは・・・背中側が完全に焦げていたからね。私達は必至で〝ヒーリング〟を掛けたけど、マサキの身体は・・・ダメージを治しても生命活動を・・・いや、本当に良かった! まるでマサキは不死身だね!」
「ああ、それは・・・」
俺は意識に失っていた間に天秤の女神に会ったことと、これまで外れスキルと思われていた特異体質スキルが自動蘇生スキルであったことをアリサ達に説明した。
「そんなことが・・・凄いな。マサキ! そのスキルの存在を知った時は笑ってしまったけど、まさかこんな貴重なスキルだったとは!」
「・・・とは言え、蘇生する確立は半分です! 前にも言いましたが、マサキは無謀なところがあります! またこんなことをしたら半殺し、いえ三分の二殺しにしますからね!」
「・・・うん、わかってる。あの時は〝ショートリープ〟でなんとか逃げられると思ったんだよ・・・」
アリサには褒められたたが、ネイリーンには再び叱られてしまう。その物騒な発言に、お前は俺をどうしたいのかと聞きたかったが、彼女なりの愛情表現として受け入れることにする。
「・・・でも、マサキ、いえ、皆のおかげで父の仇を取ることが出来ました! ありがとう!」
一転してネイリーンはしおらしい態度を取ると、俺達に頭を垂れて感謝の言葉を口にした。
「いや、皆の力だよ! ネイリーンが時間を稼ぎ、アリサが敵を油断させ、ルシェラが命を引き換えにしてまでおびき寄せた! そうじゃ、なかったらドラゴンは倒せなかったはずだ!」
「うん、まさにマサキの言う通りだね。でも、マサキとルシェラの働きは特に誇って良いと思うよ! ふふふ」
「いやぁ、私もあの時は興奮しちゃって、ただゴルゾディーンを倒すには今しかないって後のことを考えずに射ることしか頭になかったんだよね。・・・そのためにマサキを身代わりにしちゃって・・・でも、本当に無事で良かった! ははは」
照れ隠しも兼ねて俺は仲間達の活躍を指摘する。それはアリサとルシェラも同じだったようで、俺達は笑い合いながらお互いの健闘を讃える。敵を倒し、全員が生き延びた。ただそれだけが嬉しかった。
「まあ、反省は後にしよう! 私達も下に降りてゴルディゾーンの死体を近くで見てみよう!」
「おおう!!」
アリサの提案に頷く俺だったが、唐突に隣にいた彼女に激しく背中を押される。意味がわからないまま床に転び掛けた俺は、そのわけをアリサに訊ねようと振り向くが、そこに見たのは槍で突き刺された彼女の姿だった!
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。
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