第二十三話 ドワーフの里
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第二十三話です。
秩序に属するドラゴン対策にマサキ達も動き出す。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、なんでもするかもしれません!
俺達はドラゴンの目撃情報を噂し合った翌日には、新しい依頼を受けてトリムから南東に位置するアゴン山脈に向けて旅立っていた。もちろんアリサが受けた新しい依頼のためである。
依頼主は冒険者ギルドそのもので、トリム周辺ではアゴン山脈に住むドワーフ族の匠グロードにしか作れないミスリル銀製の矢、正確にはその先端の鏃を購入し街まで持ち帰るのが俺達に課せられた任務だ。
ミスリル銀とは魔力を宿した希少金属で、それで造られた武器はドラゴンの鱗さえも穿つことも可能らしい。ゴルゾディーンの目撃情報を得たギルドは間髪を入れずに対応策に乗り出したわけである。
ドワーフの里メルデまでは片道五日の行程だが、旅は何事もなく順調に進み、やがて残り二日の終盤に入る。この頃になると主街道から外れ、傾斜しているのがはっきりとわかり道幅も狭くなったので、俺達はそれまでの大雑把な並びから襲撃に備えて隊列を組むようになっていた。
順番はパーティーの中で最も野外生活スキルが高く視力の良いルシェラ、リーダーのアリサ、俺、殿は後ろの不意打ちに対処してネイリーンの布陣だ。
まさか、例のドラゴンが俺達をピンポイントで狙ってくるとは思わなかったが、トリムの南側に向うため最善を尽くした結果である。
「しかし、ドラゴンを味方にしているなんて狡くないか?」
道が一時的に平坦となったので、俺はなんとなく心に思っていたことを口にする。
「・・・うん。私もそう思うよ。ただ、天秤の役割からすると仕方がないのかもしれないね。私達、天秤は秩序や混沌に比べると、どうしても戦力的にワンランク劣るんだ。抜きん出た力を持ってしまっては中立にならないからだけど。・・・そんなわけで私達は防衛戦に晒されることが多い。多くの場合、秩序と混沌のパワーバランスが崩れた時、強くなった方に狙われる」
俺の質問というよりは愚痴に近い声を聞いたアリサは隊列を崩すことなく、前を向いたまま答える。
「では、今は秩序が強いってこと?」
「うん。あのドラゴンがこっちにやって来たってことは、そういうことだろうね」
「なら、そのまま混沌を叩けば良いのに、なんでこっちに来るんだよ!」
ここで怒ったところでどうにもならないことはわかっていたが、俺は不満を漏らす。
「それはもちろん、私達が天秤であるからさ。天秤の目的は秩序と混沌の戦いを終わらせずに、長引かせることにある。どっちが勝っても、このエレンディア世界が終わってしまうからね。だから、天秤はこのまま秩序の攻勢が続くようなら、反対の混沌側と協調路線を取るのは間違いない。秩序はそれを見越して先に天秤の拠点に打撃を与えようとしているのだろう。住んでいる家を壊されたら、他人を助ける余裕なんてないからね」
「・・・そういうことだったのか」
俺はアリサの説明に納得する。均衡を目的とする天秤からすれば、このエレンディアでただ一つの存在として勝ち残る必要はないのである。『現状を維持する』それがもっとも中立的な考え方だ。
そして後半については彼女の個人的な見解と思われたが、おそらくは正解だろう。守るより攻める方が主導権を握れるからだ。
「アリサの言うとおりです。・・・あの怪物は秩序が攻勢に回ると思い出したかのようにトリムに攻めて来ます。前回の襲来も初めてではなく、トリムは過去に何度も攻撃に晒されていると記憶に残っていますから・・・」
「そういえば、ネイリーンはその化け物を実際に見ているんだったな。もしかして戦ったこともあるとか?」
「・・・いえ・・・私も戦いたかったのですが、その頃の私は未熟で父に足手まといになるだけだと、諭されて・・・」
ネイリーンも後ろからアリサの考えに同調するが、最後は思いつめたように言葉を飲み込む。実際にドラゴンを目撃した彼女は過去を思い出しているだろう。
今では優秀な戦士に成長した彼女ではあるが、当時は十一歳の少女でなかったのだから、トラウマを植え付けられても仕方ないがない。というか、以前聞いたとおりの化け物なら俺は泣いて逃げると断言出来る。
「じゃ、ネイリーンのお父さんはそのドラゴンと戦った・・・」
ここまで言い掛けて俺は自分の愚かさに気づく。ネイリーンがゴルゾディーンに持っているトラウマの元凶を今まで察してやれなかったこと。そしてそれを無闇に掘り起こそうとしている俺のデリカシーのなさにだ。
「・・・ええ、私の父はあのドラゴンのとの戦いで亡くなった冒険者の一人です」
「ご、ごめん・・・」
「いえ、気にしないで下さい。肉親を亡くしたのは私だけではありませんし、トリムの街を護って最後まで戦った父は私の誇りですから!」
謝る俺だが、逆にネイリーンに慰められる。
「なら、今回の依頼を早く済ませて、あのドラゴンを迎え討つ準備を整えないとね!」
それまでは聞き役に徹していた最前列のルシェラが気合を込めた声を上げる。
ミスリル銀の鏃はトリムの冒険者の中で射撃スキルに優れた者に分け与えられることになっており、既に彼女はその候補に入っている。自分の腕前を認められたからか、ルシェラは対ドラゴン戦にかなりのやる気を見せていた。もっとも、彼女の発言は俺からするとかなり楽観的に思える。
「うん、ミスリル銀の矢と優秀な射撃手の存在は、空を飛ぶゴルゾディーンへの有効な対抗策になるのは間違い。・・・だけど、相手は最強の魔獣と呼ばれているドラゴンだ。ルシェラの腕を見くびるつもりはないが、ミスリル銀の矢だけで倒せるとは思わない方が良いだろうね。あくまで対抗手段の一つに過ぎない」
俺の憂いをアリサも感じたのだろう。すかさずルシェラを窘める。
「・・・そっか、そうだね。私、ちょっとだけ浮かれていたのかも。これからは慎重にするよ!」
「まあ、ルシェラはネイリーンを励まそうとしたんだろう」
「ええ、私もそのように感じました。ありがとうルシェラ」
本人も認めていたが、俺は角が立たないように二人をフォローしネイリーンもそれに続く。
「ううん、気にしないで。私も言われてみてば、調子に乗っていたって反省したよ! ははは」
それで話は一旦収まり、再び道が険しくなり始めたので俺達は歩くことに集中する。 正式には四人で初めてとなる仕事だが、俺達はパーティーとして上手くやっていけそうだった。
それから野営を経た翌日、俺達は目的地のドワーフ族の里メルデに到着する。だが、そこは俺の予想外の場所だった。鉱山の採掘とそこから取れる鉱物の冶金が主な産業だとは聞かされていたが、まさか里全体が山の中にすっぽり収まっているとは思わなかったからだ。
それまで登って来た道の終点にある、山肌に埋め込まれた両開きの鉄扉が里の入り口であることを告げられると、俺はただそれを眺めるだけであった。
「では、旅の方々。我らの里にようこそ」
俺が驚いている間に、アリサがドワーフの門番達に話を付けたらしく門が開かれる。トリムとメルデは友好関係にあり、身分さえはっきりさせれば問題なく門を開けてくれるらしい。
もっとも、ドワーフ達が発した歓迎の言葉はその一言だけだ。彼らは身長こそ俺の胸ほどしかないが横幅は倍近くあり、がっちりした体格をしている。長柄の斧で武装し、纏っている鎧も細工が施された板金鎧や鎖帷子のような見事な金属鎧である。戦士としても、鍛冶屋としてもドワーフ族が一流であることは一目瞭然だが、その顔には見事な髭とともに厳めしい表情が浮かんでいる。気難しい種族であることが窺えた。
俺達はそんな強面の小人たちに見送られて地下都市の中へと足を踏み入れたのである。
「中は割と天井が高くて広いのね。換気もしっかりされているし」
背後で門が閉められると意外とばかりにルシェラが呟く、里の内部は小柄なドワーフに合わせた作りだと思っていたのだろう。
というか俺も中に入るまではそう思っていた。だが、門の中は広間となっており、長身のネイリーンが手を伸ばしても届かないほど天井は高い。また、空気もこもったような嫌な匂いはほとんどしないので、指摘のとおりなんらかの換気システムが用意されているようだ。
広間の中央には片手を突き出したドワーフの立像が飾れており、その手を光源とする魔法が掛けられているらしく周囲を照らし出している。像自体の出来も素晴らしく、なかなか凝った演出である。
「ドワーフの里ではあるけど、彼らの取引相手の多くは人間だから、こういった共用部分では人間の身長に合わせているんだろうね。あと・・・大きな声では言えないけどドワーフは見栄っ張りなんだ。ふふふ」
アリサがルシェラの問いに答えるが、最後は笑みを浮かべながら小声で告げる。それを聞いた俺も苦笑を漏らす。この仕事を受けるにあたって俺もドワーフの特徴を聞いていた。彼らは背丈こそ低いがその分、手先が器用で更に体力、勇敢さは人間を上回り、優秀な戦士、鉱夫、職人になりうると。たが、良いところだけではなく、短い足のせいでお世辞にも機敏とは言えず、勇敢さは時として傲慢に至り、欲深い一面も持つとのことだった。
そんな彼らからすれば里の入り口である門とその広間は多少の無理はしてでも天井を高くし、訪れた人間を驚かせたかったのかもしれない。
「なるほどね。やっぱりドワーフはエルフとは感性が違うかな。まあ、私はダークエルフだけどね。ははは」
「ルシェラみたいなダークエルフはあんまりいないと思うけど、種族にはそれぞれ良いところも悪いところもがあるってことかな。ふふふ」
ルシェラの自虐にも聞こえる冗談をアリサは笑って流す。
「え~、それじゃ私が変わり者みたいじゃん!」
「みたいじゃなくて、そう言ったんだよ」
「もう、アリサの意地悪! ははは」
ルシェラは不貞腐れたように頬を膨らませるが直ぐに声を上げて笑い出す。お調子者のルシェラと冷静な突っ込み役のアリサ。やはりこの二人かなり相性が良いようだ。
「素晴らしい・・・」
俺の横で二人のやりとりを見ていたネイリーンが、俺の気持ちを代弁するかのようにぼそりと呟く。
「全くそのとおりだが・・・なあ、アリサにルシェラ、そろそろ遊んでないで仕事に取り掛かろう!」
頷き掛ける俺だが、咄嗟に行動に起こす。このエレンディアに来て俺は待っているだけではダメだと学んだのである。
「うん、確かにマサキの言うとおりかな」
「そうだね。早くミスリルの鏃が欲しいし!」
俺は二人の美少女の同意を得ると連れだって里の探索を開始する。
「え、ちょっと! 私も行きます! 置いて行かないで下さい!」
後ろからネイリーンの悲痛な声が聞こえたような気がしたが、アリサとルシェラとの会話に夢中の俺には良くわからなかった。
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。
そろそろ書き溜めが尽きてきたので、毎日更新がきつくなってきました。応援があれば乗り切れるかもしれません。よろしければ感想や評価をお待ちしております!




