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第二十四話 秩序の使者そしてドワーフの匠

異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第二十四話です。

ドワーフ族の里に辿り着いたマサキ達はさっそく任務に取り掛かるのだが・・・。

初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!

読んでくれたら、もしかしなくてもなんでもするかもしれません!

『本当に思っていたよりもずっと快適だな』

 ドワーフの里を進みながら、俺は改めてそのように評価した。大通りとも言える主通路は人間なら十人は並んで歩けるほどの幅があり、天井も先ほどの広間よりかは低くなっていたが、それでも圧迫感を覚えるほどではない。

 空気の新鮮で温度も外に比べて涼しく過ごしやすい。冬ではどうなるかはわからないが、雨風または雪の影響がないので外で暮らすより遙かに寒さを防げると思われた。また壁と床は綺麗に磨かれていたし、ゴミらしいものはほとんど落ちていない。ドワーフ族は綺麗好きのようである。

 内部は幾つかの区画に分かれており、所々で脇道や十字路に遭遇するが、酒樽や鍛治に使う金床、斧などを描いた木の板が掲げられており、通路の行き先が絵でわかるような配慮がされている。酒樽は酒場、金床は工房、斧は武器屋か兵士の詰所だと思われた。

 唯一残念なのが、照明が少ないことだろう。要所に魔法と思われる照明が灯されているが、その数は俺からするとやや少なく内部は薄暗い。もっとも、ドワーフは暗所でも目が効くらしいので、この程度で充分なのだそうだ。

 そんな少し暗い地下空間を俺達は里の奥に向かって歩く。途中で一度、主婦らしきドワーフの女性に目的の人物グロードの居場所を問い掛けたところ、彼は鉱山地区に近い区画に工房を構えていると教えられ、そこを目指しているのである。


「どうやら・・・先客がいるようだ」

 目的地と思われる区画に入ったところで、先頭のアリサが警戒を促す声を上げたので俺達の間に緊張が走る。

 グロードの工房を兼ねた住居と思われる扉の前、いわゆる庭先に三人の人影が立っていた。彼らは体格からするとドワーフ族ではなく人間だろう。どれも制服のように白を基調としたマントを羽織っている。嫌な予感しかしない。

「あなた方もグロード氏に会いに来たのですか?」

 当然ながら相手側も俺達の存在に気付き、先頭にいた男が声を掛けて来る。彼の年齢は二十代中頃くらいで、なかなかのハンサムである。だが、どこか慇懃で芝居じみた様子が癇に障るのは、イケメンに対する俺の嫉妬だけではないと思いたい。

「そんなところかな。あんた達は秩序の使者だね? ここは天秤の縄張りのはずだけど?」

 アリサが相手まで6メートルほどの地点で足を止めると、応答するとともに質問を返す。この6メートルは相手が襲って来た場合に備えたギリギリの間合いだ。俺にもそんな細かい駆け引きがわかるようになっていた。

 そして、アリサの声の調子からあまり機嫌が良くないのも感じ取る。彼女もこの男を快く思っていないのだ。やったぜ!

「ええ、私達は秩序の使者です。もちろんメルデの里の中には客として入れてもらいましたよ。ドワーフの方々は商売を重んじているようですからね」

「なるほど、つまりあんたらもミスリル銀の鏃を買いに来たってことだね?!」

「いえ、正確には私達もではなく、私達だけが、ですね・・・」

 お互いが相手の正体に薄々気づいていたと思われるが、この言葉で俺はこの三人が明確な敵であることを理解する。彼らは秩序側の大戦力であるドラゴンに対抗出来るミスリル銀製の武器を、その製作者であるグロードから買い占めるつもりなのだ。

 秩序側に与(くみ)する者なら味方のドラゴンに対抗する手段を前もって取り除こうとするのは当然だろう。トリムの周辺でミスリル銀を加工できるのはグロードだけなのだから。そして天秤の使者である俺達がミスリル銀の武器を持ち帰ることも阻止したいはずだ。

「もっとも・・・ここであなた方と戦う気はありません。ドワーフの方々にも嫌われてしまいますし」

 俺達・・・特にネイリーンがアリサの隣に移動して開戦の緊張が一気に跳ね上がるが、男は戦意がないことを伝える。真意は不明だが、ドワーフの里の内部で争いを起こせば彼らの不興の買うのは間違いない。そうなれば取引は中止となり、里から追い出されることになるだろう。それは双方にとって都合の悪いことだった。

「なら、私達がドワーフの匠と取引するのを邪魔される筋合いもないね?!」

「もちろん、そのとおりですが、今は我々がグロード氏と交渉中でして・・・」

「むむ・・・」

 その言葉でアリサは口を閉じて、俺達は対峙する。おそらく工房の中では彼らの仲間とグロードが購入について話し合っているのだろう。先に来たのだから当然、交渉権の優先は彼らにある。

 彼らの取引を腕ずくで妨害することも考えられたが、それを行うとグロードの怒りを買って、こちらの取引が破綻するのは間違いない。迂闊なことは出来ないとアリサは判断したのだ。


 お互いが相手を牽制する間、俺は秩序の使者達を吟味する。男はマントの下に鎖帷子を着込み腰から剣を下げている。背中には下側が尖った、いわゆるナイトシールドを背負っており明らかな重装戦士だ。

 秩序の使徒は回復魔法スキルを持つのが基本なので、ネイリーンとほぼ同タイプの戦士だろう。つまり防御力に秀でており、自分と仲間の怪我を癒すヒーラーでもある。もし戦いになったら、今の俺で敵う相手とは思えないのでネイリーンに任せようと心に決める。

 残る二人の内一人は杖を持った中年の男性で、その様子から回復魔法の他にも魔法スキルを所持していると思われた。こちらは特にイケメンでなく地味な顔をしている。そのため俺は少しほっとした。

 最後の一人、この人物は長い金髪が特徴のエルフで、性別は外見からでは区別が出来なかった。超が付くほどのイケメンにも見えるし、精悍な美女にも見える。槍使いらしく、自分の背丈と同じ長さの槍を右手に持ち、革鎧を纏っている。

 こちらのルシェルの存在が気になるようで、彼女を親の仇のような目で睨んでいた。エルフとダークエルフはお互いを裏切り者と見做(みな)しているので無理もない反応だろう。まあ、ルシェラの方はそんなこと気にしていないと思われるが、敵意を向けられて良い気分ではないはずだ。


「それ以上は売らん! もう出て行け!」

 幸いにして俺達の緊張は長く続かず、突然の大声によって破られる。それと同時に工房の扉が開かれ、白いマントを羽織った女性が追い出されるように出てきて、更にドワーフの男性が現れた。このドワーフがミスリル銀職人のグロードに違いない。

 グロードはこれまで見掛けたドワーフの中でもさらに横幅が広く、長い髭を生やしていた。革製の足元まであるエプロンを掛けているが、上半身は薄着で赤銅色の筋骨隆々とした肩と腕が目立つ。

 特に腕の太さは目を見張るほどで、旅の合間で盗み見たネイリーンの太腿くらいはありそうだ。もっとも、同じ筋肉の塊でも、やはりネイリーンは女性だった。太いながらも白い肌に浮かぶ静脈の青い筋は、艶やかな記憶として俺の脳裏に残っている。具体的にはその・・・いや、今はそんなことを思い出している場合ではない!

「・・・おたくらは何者じゃい?」

 秩序の使者はともかく俺達の存在は予想外だったらしく、グロードは一瞬だけ驚いた顔を見せるが直ぐに問い掛けてきた。

「私達はトリムから、あんたの作品を買いに来た客だよ」

「なんじゃ、また客か! 今日は良く来るのう! まあ、客なら工房で話を聞こう。ただし、中に入るのは代表の一人だけだぞ! うすらでかい連中に儂の工房の中でうろうろされたくないからな!」

 アリサがいつもの調子でぶっきらぼうに答えるが、グロードは特に気にする様子もなく、早く中に入れとばかりに扉の先を指で示す。

「では、私が」

 アリサは俺達に目配せをすると、早速とばかり頷いた。

「ま、待って下さい! こちらの話はまだ終わっていません! 我々はあなたの作品を全て買うと申し出ているのですよ! それも相場の倍で! 売って頂けるのが、合計四個だけとは少な過ぎます!」

 ここで最初に出てきた白マントの女性がグロードに訴える。言葉こそ丁寧だが、彼の判断が信じられないとばかりに非難している。黒髪をやや短めに切り揃えた快活な美人だが、独善的な気配を漂わせていた。

「儂が手塩にかけた作品を売るのは一人につき一つだけ! お主達は四人で来たから四つ売る。そして次に売るのは暦が変って新しい年になってからじゃ。儂は誰にも対しても公平に売っておる! 文句があるなら今売った四本も返してもらうぞ!」

 グロードは訴えた女性を一喝する。彼女はまだ不満がありそう顔をしていたが、これ以上は無駄と悟ったのだろう。それ以上は何も言わなかった。

 どうやら話の内容からするとグロードの作品は〝お一人様一点限り〟らしい。どこかのスーパーの特売のようだが、ミスリル銀が希少品であることを考慮すると、確かに公平な条件だと思われる。

「それに客同士で揉められても困るからな、お主達はここ早々に立ち去るが良い!」

 更にこのようにグロードから告げられた秩序の使者達は互いに相談を交わすと、俺達に敵意の目を向けながらこの区画から出ていった。

「さてと、ではお主達の番じゃな!」

「うん、お願いするよ」

 改めて告げたグロードにアリサは笑顔を見せて頷く。グロードは職人気質の見本のような人物ではあるが、これで少なくとも四本分の鏃は購入出来ると思われた。

ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。

そろそろ感想や評価をくれてもいいのよ!

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