第二十一話 共犯者
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第二十一話です。
一号から暗黒スキルを手に入れたマサキはネイリーンとの交流も進める。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、なんでもするかもしれません!
一号を冒険者ギルドの裏口に送り届けた俺は、改めて工房や店が並ぶ職人通りを目指すため街に出る。去り際に彼女は自分の部屋まで送ってくれと頼んできたが、さすがにこれは女性経験のない俺でも罠だと気付き断った。
二人きりで部屋に入った以上、同意したと見做されても仕方がないし、一号に押し倒されでもしたら戦闘スキルで劣る俺では成す術がないからだ。そんなわけで、俺は逃げるように大通りに戻ったのである。
とは言え、一号のことが簡単に頭から消えるはずもなく、俺はそれを忘れるために彼女から与えられた新しいスキル暗黒魔法について考えを巡らせるよう努力した。
このエレンディアには幾つかの魔法スキルが存在する。アリサが得意とする精霊魔法にネイリーンの回復魔法、そして取得は難しいが万能魔法とされている古代魔法である。それ以外にも一部の分野に特化した召喚魔法や付与魔法等の多数の魔法スキルが存在しているらしいが、冒険者に人気があるのは、やはり取得難易度が比較的に低く汎用性の高い精霊魔法と回復魔法の二種であるらしい。
そのような事情もあって俺は汎用性を求めるか、アリサ達とは別系統の特化型魔法を習得するべきかで悩んでいたのだが、思いがけずに一号から暗黒魔法を伝授されたというわけだった。
正直に言えば、俺は一号のステータス表を見るまで暗黒魔法スキルが存在することも知らなかった。まあ、彼女の説明では混沌のエリート達が使う、攻撃に特化した魔法らしいので無理もないだろう。アリサなら存在を知っていたとかもしれないが、天秤の使者が習得出来る魔法スキルとは思っていなかったに違いない。
今になって冷静に考えてみると俺は一号から、かなりの恩恵を授けられたことに気付く。現在使える魔法は〝ドレイン〟だけだが、スキルは20レベルに達すると他者に伝授出来るようになる。俺がその気になれば天秤に所属する冒険者達の間に広めることも可能なのだ。
もちろん俺にそんな気はないし、現時点で暗黒魔法スキルを延ばす予定もないが、後々のことを考えると俺がこのレアスキルを所持していることは可能な限り秘密にしておくべきだろう。
他の冒険者達に知られれば、教えてくれと頼みに来る者が現れるかもしれないし、暗黒魔法が俺から天秤の使者達に広まれば、いずれそのルートが解明され俺にスキルを伝授した一号が混沌側で糾弾される可能性もある。それは彼女の好意を裏切りことになる。
「厄介なスキルを貰ってしまったな・・・」
結論に辿り着いた俺はそう呟く。経験値的にはリスクなしで手に入れた暗黒魔法スキルだが、一号との間に共通の秘密を作った代償とも言える。今では俺と彼女はちょっとした共犯者のような関係だ。『タダより怖いモノはない!』という言葉があるが、まさにそのとおりだったわけである。
まんまとしてやれたわけだが、それでも俺は一号を憎む気にはなれなかった。彼女には俺が見捨てて暗黒魔法を天秤側に広めるリスクもあるわけで、一号としてもかなり危ない橋を渡っていたのだ。そして、それは俺を、仁義を護る男として見込んだ証拠でもあった。
「・・・まあ、それはまた考えよう」
目当てにしていた職人通りに辿り着いた俺は気分を変えると、今回の目的である刀剣を扱う店探しを開始する。一号のことは気になるが、今は本来の要件を済ませるべきだろう。
前回の依頼で気付いたが、冒険者は小型の刃物を必要される機会が多い。野外で食事をする際の包丁、捕虜を縛るロープの余りを切る、道に迷わないように木に目印を付ける、または隠しやすい予備の武器として。これまでは一緒に行動するアリサ達に任せていたが、俺も自分用の短剣を持つ必要があった。
何件かの工房と店を回り、これはという店を見つける。冒険者としてはまだ日が浅い俺ではあるが、優良な店はなんとなくわかる。これはおそらくどこの世界でも同じなのだろう。お客で賑わっている店に外れは少ないのである。流行るということは、それだけの理由があるということなのだ。
しばらくして店を出る俺の腰には、目的の短剣だけでなく新しい剣も帯びられていた。剣は既に持っていたが、これはその場しのぎの安物だったのでついでとばかりに新調したのだ。
結構な金額、具体的には銀貨12枚と銅貨10枚を使ってしまったが、自分でも新しい剣が明らかに以前よりも優れた業物であることがわかる。腕前はともかく武器に関しては一足先に一人前になったと言えるだろう。
当初は歓楽街への見学も予定していた俺だったが、衝動買いしたことで財布も寂しくなり、一号との件もあって暗くなる前に冒険者ギルドに戻ることにする。
良く考えれば俺の回りには眺めるだけでも価値のある女性達が身近にいるのである。歓楽街がどんなところなのかは気になるが、焦る必要はないだろう。
俺はアリサ達と夕食で話す話題を考えながら帰路に着く。暗黒魔法については、しばらくの間は様子を見て仲間にも内緒にしておくつもりだ。
冒険者ギルドに戻った俺は、仲間達と合流するためそのまま一階の食堂へと直行する。そこには盃や料理を運ぶ一号の姿があり、俺に気付くとウィンクをしてくる。
先程はさぼっているように思えたが、どうやら繁忙時間はしっかりと働いているみたいである。背中から生える羽を小さく畳んで服の中に入れて隠しているのか、一見すれば普通の美人なウェイトレスさんだ。
俺は軽く頷いて一号にさりげない挨拶を返すと、定位置としているテーブルに向った。
「待っていましたよ、マサキ。おや? 剣を新調しましたね?」
盃を片手に一人で飲んでいたネイリーンが、俺を見つけると声を掛けてくる。優れた戦士職である彼女は、やはり仲間の武具の変化も見逃さないようだ。
「ああ、ちょっと高かったけど奮発した。ついでに短剣も買ったから、前よりかなりましになったと思う!」
「そのようですね。良かったら新しい剣を見せてくれませんか?」
「いいとも」
ネイリーンの正面に腰を降ろした俺は承諾すると、新しい剣を鞘ごとネイリーンに手渡す。
「おお、樋も入れ方もしっかりとした良い剣ですね。全体のバランスも悪くない・・・いくらでした?」
剣を鞘から慎重に拭いたネイリーンは、室内を照らすランプの一つに切っ先を合わせて剣を吟味するが、その顔は新しいおもちゃをもらったような子供のように活き活きしている。
「短剣と合わせて、銀貨12枚と銅貨10枚だったかな」
「なるほど、それはまあまあの買い物ですね。でも、一声掛けてくれれば、私の馴染みの店を紹介することも出来たのですよ。まあ、マサキの目がしっかりしていたので取り越し苦労でしたが」
「それは俺も考えたんだが、街の探索も兼ねていたし、何から何まで仲間を頼るのも悪いと思ってさ。そうだ、良ければネイリーンの剣も見せてくれないか?」
「なるほど、マサキも色々と考えているのですね。剣はもちろん構いませんよ」
「ありがと・・・おっと!」
ネイリーンは俺の剣を返しながら、今度は自分の長剣を俺に差し出す。それを受け取った俺は驚きの声を上げる。予想したよりも軽かったからだ。片手でも両手用でも扱えるタイプの剣で俺のより長く、幅広だから重たいと感じるはずなのだが、同じ程度かむしろ軽いように感じられる。また鍔と柄頭には薔薇をモチーフにした細かい象眼が彫られており芸術作品のようでもある。値段は見当も付かなかった。
「凄いな! これほどの業物の剣だといくらするんだ?」
しばらくその長剣の出来栄えを吟味した俺はネイリーンに返しながら問い掛ける。
「それは私の家の家宝なので、値段はわかりませんね。金貨100枚積まれても売る気はありませんし」
「ええ、そんな大事な剣だったのか!」
「ああ、気にしなくても構いませんよ、マサキは戦友ですからね。そもそも剣を見せて欲しいと言ったのは私ですし」
家宝を気安く触ったことを謝る俺だが、ネイリーンは特に気にしてないようだった。また、その説明で、彼女が俺やアリサのような転生者ではなく、エレンディアで生まれ育った現地人であることを思い出した。
「こんな宝剣が家にあるって、ひょっとしてネイリーンってこの街のお嬢様だったりするの?」
「そ、そんなことはありません! 父も冒険者だったので装備を受け継いだだけです!」
「そっか・・・」
半分は冗談のつもりだったが、ネイリーンが必死になりはじめたので俺はそれ以上の質問は止めることにした。まあ、彼女がどこぞのお嬢様だったとしても、俺にはあまり関係がないのである。ネイリーンは男に興味がないのだから俺達はあくまでも、彼女の言う通り戦友なのだ。
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。
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