第二十話 暗黒魔法スキル
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第二十話です。
買い物に出掛けるマサキだが、彼の後を追う謎の人物に・・・。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、なんでもするかもしれません!
ルシェラの歓迎会から三日後、俺は一人でトリムの街に出向いていた。一般的に冒険者は仕事を終えると一週間程度を休息期間として英気を養い、新たな装備の購入などの準備に費やすらしい。そんなわけで俺は新しい武具探しも兼ねて、まだ慣れていない街へ探索に出たというわけだった。
アリサ達を誘っても良かったのだが、毎回買い物に付き合わすのは気が引けるし、帰りには以前チラっと聞いていた歓楽街の見学もするつもりでいたので、一人の方が色々と都合が良いのである。
冒険者ギルドは中心に近い南東地区にその敷地を構えており、まず俺は街を東西につなぐ大通りを西に向かう。実は東に向えば直ぐに歓楽街に出るのだが、さすがにそれは後のお楽しみにとっておいた。
昼過ぎのやや強い陽を浴びながら俺は街中を闊歩する。トリムでは正午以降は馬車の運用が制限されているため、大通りを行き交う人々は皆、徒歩である。
買い物カゴを下げた年かさの女性や子供、若い夫婦か恋人同士と思われる連れだって歩く男女、そして武装した同業者と思われる冒険者達とすれ違う。トリムで暮らす人々の日常の光景がそこにはあった。
「お兄さん、どこ行くの? 私も一緒に連れて行ってよ! うふふ」
「うお!」
そんな異世界の平穏を横目で見ながら進む俺の肩を後ろから叩く者がいた。思わず悲鳴を上げてしまったのは、要所ごとに使っていた探索スキルで気配を全く察知することが出来なかったからである。5レベルの探索スキルでは通用しない相手ということだ。
「なんだ、一号か。驚かすなよ! お前、仕事はどうした?!」
自信の未熟さを感じつつ反射的に振り返った俺は、声を掛けて来た人物の正体を知ると安堵の溜息を漏らす。後ろにいたのはフードを目深に被った一号だったからだ。
不意を突いて来た相手がサキュバスなのに警戒を解くのは不自然な気もするが、彼女が〝ギアス〟でその力の多くを封印されているのは知っているし、何よりも既に顔見知りの仲なのだ。
また、ルシェラの歓迎会に割り込んで来た一号はその後、俺達の口利きで冒険者ギルドのウェイトレスとして雇われていた。これは混沌の都に帰るための路銀を本人に稼がせるためである。
もっとも、単純に金を稼ぐならば、それこそ歓楽街で働いた方が手っ取り早いだろうという意見もあったのだが、やはりサキュバスをその手の仕事に就かせるのは問題があるとして却下になった。能力が封印されているとは言え、その美貌で男を誑し込んで混沌の仲間にする恐れがあるし、これからトリムの冒険者の間でサキュバスの生け捕りが流行るとも限らない。怪しい先例は作りたくなかった。
「お昼が終わってから夕方までは暇だから休憩時間なのよ! うふふ」
そう告げると一号は俺の腕に自分の腕を絡ませようとするので、反射的に避ける。初遭遇では簡単に捕まっていたが、今の俺はその頃とは五倍はレベルが違う。
「もう! お兄さん、逃げることないじゃない!」
「休憩時間なら、ギルドの屋根の下で休んでいれば良いだろう。なんで俺に付いて来るんだ。それに俺の方が歳下だろう? お兄さんは止めてくれ!」
一号は見た目こそ18から20歳程度の美女であるが、実年齢は間違いなくそうではない。以前の会話からすると100歳は軽く超えていると思われる。ダークエルフのルシェラとの交流で見た目と年齢のギャップには慣れ始めていたが、さすがに祖母より年上の女性にお兄さんと呼ばれるのは恥ずかしい。
「もう! お兄さんだって私のことを一号って呼んでいるじゃない。お互いさまよ! 私にもメルロンデって名前があるんだから。私をメルロンデって読んでくれたら、私もお兄さんを止めてあげる!」
「う・・・じゃ、お兄さんでいいよ。・・・そんなわけで一号はギルドに早く戻れ!」
一号が正論を口にしたので俺は絶句する。どうするべきか悩むが、彼女を本名で呼んだらこのままズルズルと誑かされそうなので却下した。仕方ないのでお兄さんで我慢する。
「もう! そんなにあの金髪の娘が好きなのかい? それとも赤毛の大女の方? 私は別にお兄さんを混沌に引き込もうとか、独り占めにしようっていうつもりはないよ! 助けてくれたお礼をしたいだけ!」
「お礼?」
話を打ち切ろうと俺は再び歩き出すが、一号は素早く隣に並び主張を続ける。無視するつもりでいたが、意外な言葉出たので思わず問い返す。彼女が俺に絡んで来る理由は、自分を捕虜にしたアリサ達への嫌がらせだと思っていたからだ。
また、話が長くなりそうなので俺達は通りをはずれて適当な路地裏に入る。ここなら往来の邪魔にならず、会話を聞かれることはないだろう。
「うん、そう。私はお兄さんが最初に助命を口にしてくれたのと、旅の間に気づかってくれたのを忘れてないよ。混沌は借りを必ず返すの! 私といいことしようよ! お兄さんは貸しを返してもらっただけだから好きな娘を裏切るわけじゃない。私は二番手、いや三番でも四番でも構わない。お兄さんを少しでも満足させたいの!」
「むむ・・・」
自然と俺は一号の話に耳を傾けていた。その話術はさすが、サキュバスというべきだろう。真実である保証はないが、愛人でも構わないという彼女の主張は男心を色々な意味で刺激する。
健気でもあり、欲望に身を任せるハードルを下げさせる効果もある。ましてその吐息が届く距離に魅惑的な肢体を持った本人がいるのである。ほとんどの男が一号を受け入れる違いない。
「・・・気持ちは有難いが、受け入れらな・・・あ、いや! ま、まずはお互いが信頼出来るようになってからだな。かつて敵だった女に好意を寄せられても、はい、そうですかとはいかないだろ!」
俺は一号に自分の気持ちを告げる。やはり、俺の本命はアリサなのだ。エレンディアで初めて会った時から俺は彼女に魅せられ憧れている。いつかアリサの隣に並び立つ優秀な冒険者になることが俺の目標だ。もっとも、そう決心しつつも、途中で泣きそうな顔を見せた一号に釣られて完全に拒否出来ないのが、俺と言う人間でもあるのだろう。
「なら、まだ私にもチャンスはあるわけね!!」
「期待はしないでくれ・・・」
「それじゃ、私が本気の証を見せて上げる!」
念のために釘を刺す俺だが、一号は笑みを浮かべると例のステータス表を俺に見せる。
「ここに暗黒魔法スキルがあるでしょ。これをお兄さんに上げる。これは混沌でもエリートしか持っていない結構レアなスキルなのよ! 秩序に属していたら習得不可能だけど、天秤の兄さんにも扱えるはずよ!」
「暗黒魔法37レベルに、格闘28レベルか・・・やっぱり一号はなかなかの使い手だったんだな。・・・ああ、申し訳ないけど新しいスキルは経験値のやりくりもあって、どうするか考え中だから伝授してもらうかどうかは、もっと考えてからにするよ」
せっかくの提案ではあるが、魔法スキルの取得に関してはまだ考慮中だったので俺は一号に断りを告げる。だが、せっかくなので彼女のステータス表は拝見させてもらった。
さすがに実年齢とステータスはオフ表示になっていたが、所有しているスキルのレベルはやはり俺よりも軒並みに高い。接近戦闘スキルは二倍以上の差があるので、さっき躱せたのはまぐれに近かったようだ。
「ううん〝教える〟んじゃなくて、そのまま〝分けて上げる〟の! スキルは伝授者側が経験値を負担することも出来るのよ。知らなかった?」
「え、そんなことも出来るのか?!」
「うん、だからそのやり方も教えてあげるからお兄さんのステータス表を出してみて」
「なるほど」
興味を惹いた俺は言われるままにステータス表を出す。
「ねえ・・・この、土下座と特異体質って何?」
「それは・・・この世界への転生時に天秤の女神から貰った使い道のない外れスキルだよ」
「ふうん・・・お兄さん本当に変っているよね! まあ、そこが可愛いんだけど。・・・とりあえず約束どおり取得側が経験値を消費しないスキル伝授を教えるわね」
「・・・ああ頼む」
俺の取得済みスキルを見た一号は笑みを浮かべて疑問を伝えるが、それ以上は何も言わずに本題に入る。年上だけに懐が深いようである。
「まず、お兄さんの経験値を長押しして色が変るのを待つ。赤になったらこれがロック状態ね。この状態だとスキルを伝授されても経験値が消費されないの。で、私のステータス表を隣に並べてこの暗黒魔法スキルを長押ししてからお兄さんのステータス表に移動させる。ほら、伝授完了。経験値も減ってないでしょ!」
「おお、本当だ! 俺の残っていた経験値1100が減らずに暗黒魔法レベル1を取得している!」
「うん、これでお兄さんは暗黒魔法の使い手だよ。レベル1で覚える魔法は〝ドレイン〟と言って標的の体力を吸い取る魔法だね。ダメージ量は多くはないけど、相手に手傷を負わせながら自分の体力も回復出来るから、決定力はなくても攻防一体型の使い道がある魔法だと思うよ! うふふ」
「おお、凄いな!・・・冷静に考えたら・・・禍々しいけど、確かに覚えていて損はない魔法かな」
思わずノリで暗黒魔法スキルを覚えてしまったが、ステータス表にある俺の属性は天秤のままなので、これを習得したから混沌に変るということはなさそうだ。今更だが・・・罠だったらヤバかった! というか一号はわりと本気で俺に気があるのだろうか?
「うん、ちなみにスキルレベルの上昇に消費する経験値は20レベルまでは1000でその後は20上がるごとに倍に増えていくよ。まあ、この辺は知っているかな?」
「ああ、それは知ってい・・・あれ、一号の暗黒魔法レベルが36に下がっているけど、これって俺に分け与えたから下がったのか?」
「ああ、うん。ステータス表はさっさと片付ければ良かったね。まあ、気にしないで、これは私の気持ちなんだからさ! ふふふ」
「そう言われても、せっかく上げたレベルが下がると知っていたら断ったのに!」
説明を続ける一号はわりと重要なことをさらっと告げる。彼女の暗黒魔法スキルは37レベルだったので経験値2000を俺に提供したことになる。
「ああ、だったら、お兄さん! 私をギルドへ連れて帰ってよ。陽の下にいたからちょっと疲れてきちゃった。スキルのことはそれでチャラにしてあげる!」
「・・・まあ、それくらいなら」
何かスキルを餌に上手くやりこめられた気もするが、俺は一号の身体を支えてやるとギルドに連れて帰ることにする。彼女の真意は不明だが、ここまでしてもらって邪険に出来るほど俺も冷徹ではいられない。いずれにしても俺は新しいスキル、念願の魔法系スキルを入手したのだった。
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。
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