第十九話 歓迎会そして一号
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第十九話です。
トリムに帰還したマサキ達はルシェラの歓迎会を開くのだが、そこに珍客が現れる。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、なんでもするかもしれません
二日の旅程を終えて俺達一行はトリムの街へ無事に到着した。途中で捕虜の奪還を目的とした襲撃も予想されたが、幸いにもそのような事態は起らなかった。
もしかしたら逃げたサキュバスの片割れが機会を伺いながら俺達を尾行していたのかもしれないが、トリムは天秤勢力の拠点である。ここまで来ればもう安全と言えた。
城壁に護られた街に入った俺達は仕事場であり我が家とも言える冒険者ギルドに戻り、依頼終了の報告と捕虜である一号の身柄引き渡しを行う。ギルドは義勇軍でもあるので、こういった類の手続きも行っているのだ。
次にルシェラがギルドへの登録を済ませて彼女は正式な冒険者となり、俺と同じように幾らかの支度金と上の宿泊施設に個室を得る。これでルシェラは冒険者として活動開始する準備が整った。
『ルシェラはれっきとした天秤の使者で私達の仲間です。もし何か言いたいことがあるのなら、まず私が聞きましょう!』
ちなみにルシェラがギルドに現れた際には彼女がダークエルフということもあり、ちょっとしたざわつきが起ったのだが、ネイリーンがそのように他の冒険者達に告げると騒ぎは簡単に収まった。こういった面では非常に頼りになる女性である。彼女の大きなおっぱいには度胸も高密度で詰まっているのだろう。
やるべきことを終えると、俺達は翌日にギルドの一階でルシェラの歓迎会を兼ねた食事というか酒盛りを行う約束をして一旦解散する。アリサ達と離れるのは寂しい気もするが、やはり皆、旅と冒険の疲れが溜まっているので早目に寝たいのだろう。
特にルシェラは、自分がこのまま故郷の村に居ると、家族とも言える村人達に害を与えてしまうと判断して旅立ったのである。外からは悩んでいるように見えないが、一人の時間が必要だと思われた。
「おはよう、マサキ・・・いや、こんにちはかな? 遅いから呼びに行くか迷っていたところだよ。まあ、こっちはもう軽く飲んでいるんだけどね」
「おはよう、皆。ちょっと寝坊してしまった」
翌日、朝と呼ぶには遅く、昼には少し早い時間に俺はギルドの一階に向うとテーブルの一角を占領しているアリサ達と合流する。アリサだけでなくネイリーンと主役のルシェラもおり、彼女たちは既に一杯目の麦酒に口をつけていた。
こんな時間帯から酒盛りとは日本人の感覚では早すぎる気もするが、命を賭けた冒険から戻って来て、なおかつ新たな仲間を迎えたのである。多少はハメを外したい気持ちになってもしかたないだろう。この時ばかりは俺も控えめにしている麦酒を口にする。自分にあった適量を守ればなかなか悪くない飲み物だ。
「じゃ、全員そろったし本格的に始めるかな。改めて乾杯!」
「「「おお!」」」
アリサの音頭に俺達は声揃えて盃を合わせる。その後は鶏のモモ肉の炙り焼きや油で揚げた芋などを肴に、改めてお互いの自己紹介やこれまでの冒険譚を語り合って親睦を深める楽しい時間が続いた。
「おい! なんでお前がここにいる!」
「そんな怒った声を・・・・」
良い気分で左隣のアリサと次に覚えるスキルについて相談していると、急にネイリーンが怒ったような声を発した。俺は彼女を宥めようと右側を振り向くが・・・予想に反して俺の右隣にいたのは赤髪のネイリーンではなく、艶やかな黒髪をした美女だった。
アルコールの効果で頭の回転が鈍っていた俺はテーブルを見回して人数を確認する。左回りにアリサにルシェラ、ネイリーン、そして黒髪の女性である。どう考えても一人多い。改めて謎の美女の顔を見つめた俺はやっとその正体に気付く、この美女は昨日ギルドに突き出したサキュバスの一号なのだ。
旅の間、陽の光を避けるため彼女はほとんど間マントのフードを被っていたし、変に近づいてはアリサを始めとする仲間たちに情が沸いたのかと誤解されるので、顔を見ないようにしていたが、それは紛れもないサキュバスの一号だった。しかも当たり前のように空いていた椅子に座っている。
「まさか、ギルドの拘置所から逃げ出したのか?!」
俺も思いついた考えをネイリーンが一瞬早く声にする。もっとも、そのわりには一号は随分と落ち着いていた。俺達に恨みがあるなら既に不意打ちを仕掛けているはずで、しれっと何もせずに同じテーブルに座っているのは奇妙だった。
「逃げていません! ついさっき解放されたの。天秤の使者には敵対行動を取らないという〝ギアス〟を掛けられて! ついでに昨日から何も食べてないので貰いますよ!」
一号は不貞腐れたような態度でそれだけを告げると、余っていた鶏の炙り焼きに手を付ける。よほど腹を空かせていたのか、骨まで被りつく勢いだ。
「・・・どうやら一号は尋問が終わったから、釈放されたみたいだね。ギルドは彼女を身代金や捕虜交換に使えるほどの大物ではないとして放り出しただろう。〝ギアス〟は掛けた者に約束を守らせる古代魔法で、これを破ると激しい痛みに苛まれる。この世界では釈放の条件に使われることがよくあるんだ」
アリサは仲間、特に俺に向けてこの状況の見解を告げる。
「それなら、さっさと混沌の拠点にでも帰りなさいよ!」
「無茶言わないで! 天秤相手にはほとんどの力を使えなくなる〝ギアス〟を掛けられたのよ! 飛行能力を使えないんじゃ、生きてジェネルトに辿り着けるわけないわ! あなた達が私の面倒みてよ! ねえお兄さん!」
直接の被害を被っているルシェラが抗議の声を上げるが、一号は俺の方に身体を寄せて甘い声を出す。美女に頼られて悪くない気分ではあるが、彼女はサキュバスであって人間ではない。
「いや、そう言われても・・・」
俺は自制心を働かすと、一号から離れ反対側に逃げる。このまま身を委ねてしまえば、俺の本命であるアリサに愛想を尽かされてしまうからだ。それにこれはスキンシップを好まないアリサに近づく良い口実になった。
「おい、一号! マサキに気安く、くっつくな!!」
幸いにもネイリーンは俺の意図に気付かず、一号の腕を掴んで自分の方へと引っ張る。
「ふふふ、一号、マサキに取り入ろうとしても無駄だと思うよ。なんてたってネイリーンが許さないだろうからね!」
逃げて来た俺と一号を引っ張るネイリーンを見ながらアリサは笑い声を上げる。どうも彼女は俺とネイリーンが特別な仲になりつつあると誤解しているようだ。
「いや、アリサ! 前にも説明したが俺とネイリーンはそんな関係じゃないぞ!」
「そ、そうです! 私は・・・この一号が男のマサキを誑かそうとしたのを止めさせただけです!」
「そうなのか? 私に遠慮する必要はないと言ったはずだよ。 ルシェラも二人が付き合っても構わないだろう?」
俺達の必死の訴えにアリサは微笑で答えるとルシェラに同意を求める。
「え! マサキとネイリーンはそういう関係だったの?! 私、気付きませんでしたよ! ひょっとしてネイリーンは私にも怒ってます? トリムへの旅の途中で何回かマサキと二人きりで相談しちゃったから!」
「お、怒っていません! むしろ私はマサキより、ルシェラの方が好みです! だから安心して下さい!」
ルシェラが驚きの声を上げると、ネイリーンは誤解を解こうとして本音を漏らす。
「ああ、それなら良いんだけど・・・ん? 私の方が好み?!」
「あ、いや! それは、な、仲間として頼りになって好ましいという意味です!」
墓穴を掘ったネイリーンは顔を真っ赤にして更なる弁明を繰り広げる。
「・・・お兄さん、女の冒険者達を引き連れて上手くやっていると思っていたけど・・・よくわからない関係なのね、大丈夫?」
ネイリーンから解放された一号は再び俺の隣に座ると、飲み掛けの盃を口にしながら不思議そうに呟く。それは俺を誘惑するというよりも、単純に心配しているようだった。
「「いや、お前のせいだし!」」
それを聞いた俺とアリサは即座に言い返した。
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。
一号はいわゆる黒髪ロング枠です。更に主人公にぐいぐい来るお色気担当でもあります。
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