第十六話 囮役
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第十六話です。
囮役として一人で森を歩くマサキの前に現れたのは・・・。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、なんでもするかもしれません!
レクサ村で起った失踪事件の捜査を開始した翌日、俺はで村の北側にある森を一人で歩いていた。前日は三人の見麗しい女性達と連れ立って捜索していただけに、落差によって孤独感がひとしおである。
それでも俺は自分の役割を果たすために敢えて森の奥に向って歩み続ける。一週間程前にこのエレンディアに送り込まれたばかりの状況を思い出させられるが、あの頃とは違い今の俺は武器戦闘スキルを身に付け、腰には剣を帯びている。ある程度の脅威には対応出来るはずだ。
それに本当のピンチとなれば俺には逃げ足スキルがある。あまり自慢できるようなスキルではないが、持っているのなら有効活用すべきだろう。今のところ俺の切り札とも言えるスキルなのだ。
前日、失踪現場となった地域をアリサの魔法〝サモン・エレメンタル〟で要所ごとに捜索した俺達は幾つかの手掛かりを入手した。それは精霊達が空からやって来た何者かが、男を連れ去るのを見たという事実だった。
もっとも、精霊と人間ではこの世界の見方が違うのであろう、その空を飛ぶ者の正体はアリサがいくら問い掛けても人型という以外はっきりとしなかった。
それでも、失踪事件の犯人とも思われる存在が空を飛ぶことがわかっただけでも収穫と言えた。これまで足跡のような痕跡を残さずに消えた失踪事件のとりあえずの解答であり、新たな対応を練る糸口となったからである。
その日は暗くなってきたこともあり、俺達は謎の空飛ぶ人攫いとこれからの対策を協議するために一旦村に戻る。
まずは空を飛ぶ犯人の正体について、ハーピー、有翼人、魔族、幽霊説などの様々な推測が成されたが、現時点では特定することが不可能であり、その正体よりもまずは接触し捕獲することが優先された。そして、幾つかの案の内、最も期待出来るアイデアとして採用されたのが俺自身を囮にするという作戦だった。
ちなみに主な発案者はアリサである。彼女は敵が飛行可能な存在で若い男を狙っている以上、自分達女がいるパーティーでは姿を現さないと結論付け、俺を囮役に指名したのである。
主な内容としては俺が牧童に変装して単独で森を徘徊し、犯人と遭遇したら後ろから隠れてついて来る本隊であるアリサ達が駆けつけて制圧する手筈になっていた。
正直に言えば村長の家で被害者が全員若い男であることを聞かされた時から、俺はこのような事態になるのではないかと危惧していたのだが、実際になってしまったというわけだ。
もちろん、危険な役目でもあるので拒否することも可能と思われたが、パーティー唯一の男でこれといった戦闘スキルを持たない俺が貢献出来る手段はこの囮役しかない。おまけに『絶対に直ぐに駆けつけるから、私達を信じてほしい!』とアリサに告げられてはやるしかないだろう。
そのような理由から俺は失踪者を五人出した森を一人で歩いているのだった。
襲撃に怯えながら森を歩く俺だが、頭上を覆う木々の青々とした葉の間から覗く陽の光と、腹の具合から正午を過ぎたことを確認すると、適当な岩に腰を降ろして昼食とする。その際、探索スキルを使って周囲の安全確認は怠らない。
アリサ達は彼女の魔法〝インビジビリティ〟を使って姿を消し俺の後を追って来ているはずだが、俺の探知スキルが低いためか、または範囲外なのかアリサ達の気配も感じられない。
本当に仲間が待機してくれているのか不安になりながらも、俺は村長の家で渡された弁当を取り出して、チーズを挟んだ黒パンに齧りつく。こんな時でも腹は減るのである。チーズは少し癖があるが濃厚で美味かった。
「「うふふ」」
食欲を満たした俺は例の泉で汲んだ水筒に口を付けるが、唐突に若い女性と思われる複数の笑う声を聞いた。
最初はアリサがやって来たのかと錯覚するが、その声に聞き覚えがないばかりか、彼女が決して上げたことのない下品な笑い方であることに気付く。嫌な予感を覚えつつも俺は声がした頭上を見上げる。
そこには二人の女性が宙に浮かんでいた。漆黒のような黒く長い髪をした女性と緩やかなウェーブした金髪をこれまた腰まで伸ばした女性。良く見れば彼女達の背後から蝙蝠の羽が突き出ている。その羽は身体に対して小さく、また特に羽ばたいているようには見えないが、確かに空を浮かんでいる。どういう原理で二人が空を飛んでいるのかは不明だ。
「男よ! うふふ」
「男だね! うふふ」
俺を見下ろしながら二人はお互いに笑い合う。その顔は整っているが淫靡な卑猥さがあり、二人とも豊満な身体を申し訳程度の革の胴着に包んでおり、地肌の多くを曝け出している。その姿は俺に混沌の女神を思い出させた。
「・・・な、何者だ?」
俺は時間を稼ぐために誰何の声を上げる。唐突の遭遇に驚いたが、この二人が失踪事件に関与しているのは間違いだろう。数で劣る二対一であり、直ぐにでもアリサ達に助けを乞いたいが、空を飛べる彼女たちに逃げられれば打つ手はない。まずは油断させる必要があった。
「何者かだってさ! うふふ」
「何者かだってね! うふふ」
二人は再び笑い合うと俺を挟むように隣へと着地する。腰の剣を抜く間もないほどの早業だ。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。獲って食おうってわけじゃないからね! うふふ」
「そうそう、むしろ私達はあなたの味方になりに来たんだから! うふふ」
目論見どおり、油断を誘い地面に降ろさせるが、剣を抜こうとする俺の右腕を黒髪女が掴み、金髪の女が反対側からもたれ掛かるように俺の半身を抑えつける。そこから逃れようと俺は抵抗するが、女達の力はまるで万力のようで成す術はなかった。先程の見せた敏捷性といい、殺す気があったならに簡単に俺を倒していただろう。どうやら油断をしていたのは俺のようだ。これでは逃げ足も使えない!
「お兄さん。なかなか元気があるじゃない! うふふ」
「こっちの方も元気かな! うふふ」
「ああ! ちょっとそこは!!」
金髪の方が片手で俺の下半身を撫でる。危機的状況ではあったが、若い女に身体を密着されながらそんなことをされたら身体が勝手に反応してしまうわけで、俺は変な声を上げる。
「お、お前達は混沌の女神の仲間だな?!」
このままこの二人に身体を委ねたい誘惑を振りきって、俺はその正体を突き止めようと必死に語り掛ける。混沌の勢力には女神の寵愛を色濃く受けた、魔族と呼ばれる種族がいることを昨日の晩に聞かされていたからだ。
「うん、そう。正確にはアシュロス様の眷属ね。あの方の代わりにこのエレンディアで混沌の力を広げる役割を負っているの。だから、あなたを私達の仲間にしてあげようってわけ! うふふ」
「アシュロス様は偉大なお方よ。天秤に加担した者でも、今から忠誠を尽くせば許してくれる。それに私達の仲間になってくれるなら、手取り足取り色んなことを教えてあげるわ。もちろん一回と言わず望むのなら何回でも! うふふ」
女達は自身の立場を悪びれも無く認めると更に俺へと身体に密着させる。胸の双丘が腕や背中に当って更なる肉欲が刺激されると思われたが、その膨らみの感触はネイリーンのそれと比べるといささか期待外れである。弾力と質量ともに彼女よりワンランク落ちる。その事実が俺を冷静にさせた。
「お前達が、村の若者達を誘惑して連れ去ったんだな?!」
「・・・誘惑したのは事実だけど、あの子達は自分の意志で私達について来ると決めたのよ! そのような誤解はごめんだわ」
「そう、あくまでも本人が混沌に味方すると判断したの。あなたもそうしなさい。仲間と一緒なら怖くないでしょ?」
俺が未だに首を縦に振らないためか、女達は絶えず浮かべていた笑みと余裕を消して誘惑を続ける。それを見た俺は機転を思いつく。二人が未だ俺のことを牧童の仲間だと信じていることに気付くと、それを利用することにした。
「・・・あいつらは、無事なのか? さんざん、もてあそんだ後に殺してどこかに捨てたんじゃないのか?!」
「味方を増やしたいのに、そんなことをするわけないじゃない。あの子達には近くの隠れ家でしばらく眠ってもらっているわ。でも明日の新月には〝幽門〟を開けてジェネルトに戻るから、そろそろ起きてもらうことになるわね! うふふ」
「そう、私達は明日の晩にはここから去るの、あまり長居すると面倒なことになるからね。あなたは最後の機会に恵まれたの。今からなら充分楽しめるわ。私達に任せてちょうだい。一緒にジェネルトに行きましょう! うふふ」
俺の誘導に従って黒髪の女がこれまで攫った男達のことを暴露する。彼らが無事であることが知れたことは大きな収穫と言えた。話の中に出てきたジェネルトについては不明だが、流れからすると彼女達の拠点だろう。もう少し遅れていたら取り逃がすところだったようだ。
「もう、無理やりやっちゃおうかしら? うふふ」
「そうね、そっちの方がこの子も嬉しそうだし。 うふふ」
はっきりしない俺の態度に業を煮やしたか女達は俺のズボンを脱がそうとベルトに手を掛ける。
「や、やめ!」
「マサキ! 良くやった!」
身を捩ってその手から逃れようとする俺の耳に、アリサの声と空気を切り裂く音が響いた。
「きゃ!!」
一瞬遅れて女の悲鳴と拘束されていた右腕が自由になる感覚を得る。見れば黒髪の女の肩には矢が突き刺さっており、杖を構えてアリサがこちらを睨んで仁王立ちしていた。その隣には長剣を構えてこちらに突撃するネイリーンと二本目の矢を弓に番えるルシェルの姿もあった。
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。
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