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とりあえず、目指すはお風呂



しばしの無言タイム。鈴は何も言わず、二人も何も言わず、タダ見つめあうだけで時間が過ぎていく。


「置いてはいけないだろう」


沈黙を切るようにグレンが小さく呟いた、チラリと隣へと視線を向ける。向けられたノアも参ったという風にため息を漏らした。


「そうですね、置いてはいけませんね。清い場所を好む精霊がこの旧神殿に居るのは危険ですから」


チラリとノアが精霊へと視線を向けた。礼拝堂で繰り広げられた戦い、返り血は凄まじいものであちらこちらが血で汚れていた。そのモンスターの穢れた血は清い場所を好む精霊にとって猛毒なのだ。綺麗な水の中でしか生きられない魚を汚い水の中に放せば、魚は死ぬ。精霊にとって、モンスターはその汚い水なのだ。


「返り血を浴びても、かなり危険だ。場合によっては、消失する。あそこに居る時も鼻が曲がりそうで、鼻から朽ちそうじゃったは」


モンスターの独特の臭いは人間には分からないが、精霊やイナトには分かるようで、精霊は臭そうに鼻を摘んでいた。


「……あれ??」


顎に手を当て、ふと鈴は考えた。シスターは毒に犯されていたが、先ほどの戦いで毒を吐くモンスターは居なかった。あの状況でレルムがそんな隠し玉を隠したままにするはずがない、もったいぶる必要はないのだから。という事は……。


「シスターは、人ではないでしょうね」


考えている事が筒抜けだったようだ。ノアも鈴と同じ意見のようで目が合った瞬間コクリと頷いた。


「まぁその事は後にして、とりあえず帰って眠る事にしましょう。お風呂にも入りたいですし」


ベトベトの髪を指で撫でたノアは心底嫌そうな顔をした。綺麗なブロンドの髪が艶を失っている、彼の目の光も。


「でも、大丈夫ですか??こんな夜明け前に宿、あいてます??」


前回はギリギリセーフだったが、この時間に宿を探すのはギリギリどころかアウトな気がすると不安そうな鈴に、ノアはフフンッと得意げに笑った。


「とっておきの場所があるんですよ」


さぁ行きますよ!!と意気揚々と歩き出すノア。かなりお風呂に入りたいようで、歩くスピードが尋常じゃないくらい速い。いや、むしろ走っているんじゃないか!?!?と鈴は駆け足で後追おう。


「精霊さん!!大丈夫ですか!?」


足早に宿へと向かうノアを必死に追う鈴はふと精霊がちゃんとついて来れているのかと後ろを振り返った。


「心配ない」


しかし、鈴の心配など必要なかったようで、呆気かからんと精霊は頷いた。その足は宙に浮きスイーッと平行移動している。楽そうだな、真顔になりつつ精霊の足元を凝視する。彼は精霊、人でない彼が宙に浮いて、平行移動していたってなんら不思議はない。そうだったと今更だが思い出した。


むしろこの中で、足で纏いは自分じゃないのか。と感じ始めた鈴の傍にイナトが走りよってくる。


「……主よ、我の背に乗るか??」


首をかしげ鈴の傍で止まると、乗りやすい様にと背を低くさげた。いいのかと一瞬躊躇したが、申し訳ないと思いつつ背に跨った。


「お、おぉ……」


乗った瞬間、イナトはボソリと声を漏らした。何だ重いのか!?と鈴は顔を覗きこむ。


「ごめん降りようか!?重かった!?」


降りようと言ったものの立ち上がったイナトの背の上は意外に高い。自らは下りられないと直ぐに悟った。下ろしてくれと頼む鈴だったが、イナトは嫌だと下ろそうとしなかった。それもそのはず、イナトは自分の背に鈴が乗ってくれたことが嬉しくかなり舞い上がっていたのだ。


「重くなどない、むしろ少しの重みが幸せで、幸せで。主を背に乗せるなど、嬉しくないわけがない」


ブンブンと千切れてどこかに飛んでいくのではないかと思うほど尻尾を振るイナトの頭を、とりあえず撫でた。尻尾を振る速度が速くなったのは言うまでもない。



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