◆覗き見る男の笑み
「バレたみたいだな」
命尽きたモンスターの双眸から様子をうかがっていた男はクツクツと喉を震わせた。金の装飾をしたカウチに座っている男の横に立っていたレルムは、申し訳なさそうに眉をたらし男の肩に指を沿わせた。
本来あの旧神殿を拠点に町を襲う予定であった。しかし、現状モンスターは全滅、レルムは負け逃げ帰った。計画は失敗したことになる。
これは完全な失態だ。彼女は自分は厳罰に処されてしまうと怯えていた。男の肩に沿わせる指も心なしか震えている。
厳罰は怖い。しかし、それよりもこの男に失望される方が何倍も怖かった。震えるなと自分に言い聞かせるが無意味なようで、より指先は震えた。
「王よ、申し訳ありません」
媚を売るような声ですり寄るレルムに、男は鋭い瞳をより細くした。
「良い、面白いものが見れた」
男の視線の先には、グレンとノアに不安そうに視線を向けている鈴の姿。あの女からはほかとは違う力を感じる。炎の精霊が力を貸すことなどかなり珍しいことだ。あれはこちらに気づき、女に口止めしていたが察しはついた。男の笑みがより深まる。
「少し前、人間を襲わせた食屍鬼が返り討ちにあって数十体消失したな」
鈴を興味深そうに見て笑う男に嫉妬で悔しそうに唇を噛んでいたレルムは我にかえったように、は、はい王よっと頷いた。
「あの炎の精霊が力を貸したのは恐らくそのときか。おいレルム、この者たちのことが気になる。今後の行動を逐一報告しろ」
「お言葉ですが王よ!!あなた様が気にするような人間どもではありません。なぜそこまでッ!!」
驚愕の色に染まるレルムは、立ち上がる男にすがり付くように腕を掴んだ。この男が気にしているのは鈴のこと。それがレルムは嫌で仕方なかったのだ。
男はつかむ手を払い除け、払い除けられたこと驚いているレルムの顎を掴み上げ自分の方へと引き寄せた。掴み上げられたことによりレルムの足は地につかず宙ぶらりん、苦しそうに歪める顔を見た男は鬼のような形相で口を開いた。
「命令するな」
その一言だけレルムに告げた男は、興味をなくしたかのように掴んでいた手を離した。重力に逆らうことなく床へと崩れ落ちたレルムは、ガタガタと体を震わせていた。
男の殺気に、本気で殺されると感じたのだ。彼の逆鱗に自分は触れてしまった。震えるレルムに視線を向けた男は不快そうに顔を歪めた。
「俺を失望させるなよ。次はないぞ」
乱暴に吐き捨てるように言い放った男は、暗闇へと消えていく。残されたレルムは、悔しそうに床を何度も殴り付けた。
レルムを残し、歩く男の機嫌は良好。失態をおかしたレルムを始末しなかったのも、機嫌がいいからゆえだ。男は新しい玩具を手にいれたように嬉々とした笑みを浮かべた。
「さぁ、俺を楽しませてくれよ」
クツクツと笑う男の声が暗闇にこだました。




