炎の精霊
黒凪を鞘にしまい、辺りに転がるモンスターに視線を向けた。ゴキブリの体に刺さった槍の炎は未だに消えることなく、亡骸を火葬するようにモンスターの体を包み込んでいった。
「……炎によって浄化され、奴らは天へと帰るだろう」
唐突に暗闇の中から聞こえた声に、ノアとグレンは身構える。しかし、リンだけは黒凪を抜くことなく声のした方へと視線を向けていた。
何度も助けてくれた声、何度も聞こえた声を聞き間違うはずはない。二人より一歩前へと出た鈴をグレンが止める。
「大丈夫です。多分、さっきの人たちの仲間じゃないですから」
振り返った鈴は二人を安心させるように笑った。声の主は暗闇の中から、くせっ毛の赤髪をフンワリと揺らしながら徐々に姿を現した。
「人族よ、それから雷獣。礼を言うありがとう」
小学生くらいの小さな体の彼はペコリと三人と一匹に頭を下げた。髪の色と同じく赤い目は零れ落ちそうなほど大きくより幼げな印象を与える。
「ワシは炎の精霊。この旧神殿に数千年以上住んでおったが、最近モンスターに荒らされて困っておったんじゃ」
幼げな見た目と声からは違和感を感じるような喋り方に、ポカーンとする。あー腰が痛いと腰を叩く姿はまさにお爺さん。
「出口までの近道を案内する。こっちじゃ」
「あの」
指先を暗闇の方へ差して歩きだろそうとする炎の精霊に鈴は声をかけ。ん??っと振り返る彼はゆっくりと首をかしげた。
「なんじゃ??」
「モンスターの弱点を教えてくれて有難うございました」
彼がゴキブリの弱点を教えてくれていなければ、今でも倒す事が出来ず苦戦していた。精霊はキョトンとした表情を見せフッと笑った。あどけない幼い子の笑い方ではなく、その笑い方はかなり大人びて見えた。
「良い良い、ワシ一人ではどうにも退治できなんだからな」
こちらこそありがとなーとホケホケ笑い始める姿は、温和でいつもニコニコ笑っていた自身の祖父にそっくりで、居るはずもない祖父が目の前で笑っているような気分になった。
「先ほどリンさんが言ったモンスターの弱点は、この方から」
きっと急にモンスターの弱点を言い始めた鈴を不思議に思っていたのだろう。ノアはつっかえが取れスッキリしたような顔をした。
「それだけ……ウワッ!!」
それだけじゃなくて食屍鬼に襲われたときにも助けてくれたと続けて言おうとする鈴を精霊が腕を力強く引いて止めた。体を屈ませる様に強く精霊は腕を引き、鈴の耳元でささやいた。
「いいか人の子。あいつらが悪い奴らだとは思わんが、ベラベラと喋るもんじゃない。あの一件はワシとお前の秘密じゃ」
「秘密」
何故秘密にするの??と問いかけようにもクルッと彼は背を向けたため聞くことは出来なかった。精霊は、完全に燃え尽きていないモンスターの一体に睨みを利かせた。正確にはそれを通してこの場所を見ているものをだ。
「……難儀なものに目を付けられおって」
ボソリと呟いた精霊は、今度こそ三人を引き連れて礼拝堂にある細い通路を進んだ。通路は人が横に二人並べば窮屈に感じるほどの広さで、数メートル間隔で付けられた古びた照明の灯りだけが道を照らしている。
「平気か??怪我でもしたのか??」
チカチカと消灯と点灯を繰り返す照明。ウワ~やだなぁお化けでそうと渋い顔をする鈴の横を歩いていたグレンは、どこか怪我をしたのかと心配そうに顔を覗きこんできた。
「いえいえ平気ですよ!!無傷です。グレンさんこそ、怪我とかありませんか??」
お化けでそうで怖いとか言えない……と鈴は全力で首を振って否定した。
細い通路は意外にも短く、中に入り礼拝堂まで行った道のりのおよそ半分くらいの時間で外に出る事が出来た。外は夜明け前のようで、星はあるけどボンヤリと明るい。
出られたと安堵のため息をついた。グッと背伸びをする鈴の腕にイナトが擦り寄ってくる。全員がお疲れ様モードになっているとき精霊の彼はジッと鈴を見上げ口を開いた。
「頼みがある、人の子よ」
精霊の頼みごととは一体どんなものだろうかとキョトンと目を丸めた鈴は、首をかしげた。
「一度モンスターに汚されたここでは、もう生きてはいけない。ワシを、連れて行って欲しい。足手まといにはならん」
鈴の手のつかみ見上げる彼からは強い意志を感じた。しかし彼の同行を一人で決めてしまう事は出来ない、鈴は困ったように眉をたらした。
レルムちゃんの一件もあるし、どうなんだろうか。二人は駄目だって言うだろうか……。チラリと二人の方へ鈴は視線を向けた。




