そんなの聞いてない
ひとしきり笑い続けたレルムは、突如無言になるとうつ向き気味だった顔を上げた。タラリと垂れていた髪の隙間から覗いた瞳は、先ほどまでとまるで別人の物。鋭く射抜くような瞳から鈴を遠ざけようとイナトが前に出た。
「あ~あ、残念だわぁ」
先ほどまでのレルムの声とはまったく違う大人びた艶かしい声。本気で残念だと彼女は思っていないだろう声からはまったくといっていいほど焦りを感じない。
グレンは剣を抜き、レルムをにらみつけた。
「ちょっと、ヒントを与えすぎたわねぇ。ワタシって、優しいから」
フフッと笑ったレルムの肉体がメキメキと音を立てて変形し始めた。かなり変形はトラウマになりそうなほど気持ちが悪い。骨から変形しているのか時折ゴキッと耳に残る不快な音が聞こえた。
変形の不快な音はすぐにやみ、幼い少女は何処にも居なくなった。その代わりに、声に似合ったグラマラスな姿体を持った女性が立っていた。その目は鮮血の様に紅く、額からは鋭い角が生えていた。
「……やはり、魔族でしたか」
舌打ちまでしそうなほど顔を歪めるノアに、レルムは「ピンポーン!!正~解ッ!!」とからかう様に手を叩いた。
「さ、答えも分かった所で死んでいただきましょうか」
ニッコリと笑みを浮かべるレルムの背後から、息を潜めていたモンスターが姿を現した。愛くるしいテディベアは一瞬動きを止めたかと思うと、勢いよく大きな口をあけ襲い掛かってきた。
向かってきた一体を、黒凪できりつける。力なく倒れたモンスターの後ろから仲間を踏みつけて新たなモンスターが襲い掛かってきた。繰り返し倒したが、一向に数が減らない。
スッと息を吸い込んだ鈴は黒凪の柄を握りなおす。
「……《纏え》」
黒凪を構え、呟くとバチバチと電気を帯び始める。ワラワラと沸いて出てくるモンスターへ向け、睨みを利かせると鈴は大きく振りかぶった。
「ふっとべぇぇぇ!!!!!」
鈴の大絶叫と共に繰り出された雷はモンスターたちを切り裂いていき、一筋の道を作り上げた。怯んだように動かないモンスターの一瞬をついて鈴、グレン、ノア、イナトは一気に攻撃していく。
汗とモンスターの体液にまみれて、もうすでにお風呂に直行したい。かなり気分が下がりつつ鈴は額を拭った。刀を構え、苦虫を潰したように顔を歪めるレルムに視線を向けた。
聖堂内にいたモンスターの殲滅が完了し、全員の視線はレルムへと向く。彼女は、近くに転がるモンスターを蹴り飛ばした。
「使えないわぁほんと」
役立たずと再び近くのモンスターを消し飛ばし、鈴達のほうへ向かって笑みを浮かべた。
「これで勝てた思ってないよねぇ??」
その声を合図に暗闇の中、何かが蠢くような音がした。ガサガサと音が聞こえる、床を張っている寒気を感じる不快な音。鈴は、暗闇から姿を現したソレにヒィッと小さな悲鳴を上げた。
アハハッと甲高い笑い声を上げるレルムの後ろから現れたのは、大きなゴキブリだったのだ。




