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違和感



予定通り一行は日が沈む前に旧神殿へとたどり着いた。そこは石造りの冷たい雰囲気の場所で、空に向かって大きく口を開いた竜のオブジェが入り口の両脇に鎮座している。夜になるとその竜の口元に灯りをつけているようで、壁には煤の黒い痕がついていた。


入り口から中を覗き込みは下が、一寸先は闇で足を踏み入れれば闇の中に吸い込まれそうだ。鈴は躊躇うように踏み入れようとした足を止めた。


ノアは鞄の中からランプを取り出すと火を灯した。ぼんやりとしたオレンジ色の灯りが、これから向かう暗闇に揺らめいた。ノアの近くに立っていたグレンもゴソゴソと鞄の中を手探りで何かを探し、二本の短剣を取り出すと一本は自分の腰にさしもう一本を鈴へと差し出した。


「持っていろ」


渡された剣を受け取ると、グレンはそれを確認し視線を旧神殿のほうへ向けた。


「お前の持っている武器は長い。万が一旧神殿内が狭ければ、不利だ。持っていて越した事はない」


黒凪の刀身は大体七十センチほど、それを狭い場所で振り回せば刃先が壁や天井に当たってうまく攻撃できない場合がある。旧神殿内部がどれほどの広さか分からないが、もしもの時に備えてグレンは短剣を渡したのだ。


短剣を受け取り黒凪の横にさす。腰紐を力強く閉めると、グレンに頭を下げた。


「有難うございます」


「……無理はするな」


そっけない口調ではなるが、彼はもとからそんな言い方が多いので気にはしない。ハイッと小さく頷いた。


グレンがランプを持ち先頭を歩いて神殿内へと入った。その後ろを鈴とレルムがついて行き、その後ろをノアが歩いた。ヒンヤリとした空気に、ゾクリと全身が粟立つ。前方のグレンの持つランプだけで照らされた薄暗い道はモンスターと言うよりお化けが出そうだ。


「レルムちゃん、大丈夫??」


一言も喋らないレルムに、鈴は様子を伺うように声をかけた。先ほどまでの勢いが身を隠している彼女に、怯えているのではないのかと心配したのだ。


「平気よ。……この道の先に礼拝堂があるの、そこまでは直進よ。わき道が多いから迷わないようにね」


しかしレルムは平然とした様子で返答した。恐れているような声色ではなく、しっかりとはっきりと答える辺り強がっていると言うより普通に平気そうだ。


見た目は幼い、小学生高学年ほどではあるが本当に彼女は冒険者なのだろう。鈴は握っている小さな手を握りなおした。


四人の歩く音だけが、響く。細いわき道が現れるたび、ビクリと肩を強張らせた。物影に隠れたモンスターがいつ襲い掛かってくるか分からない緊張感の中ふと違和感を感じた。


「それにしても、気配を感じませんね??」


辺りを見渡しつつ、ノアがボソリと呟いた。前方を歩くグレンも感じていたようで「あぁ」と頷いた。二人の話を聞いて、鈴は感じた違和感の正体に気づいた。といっても気配だなんだというような話ではなく単純にモンスターが一匹たりとも出てこない事に違和感を感じていたのだ。


旧神殿へ入ってかなり時間がたった今、一匹も出てこないのはおかしいとノアは考え込んだ。普通、俊敏に反応し排除するため襲い掛かってくるはず。それなのに、一匹も姿を現さない。


「もしかしていない??とかですか??」


といってはみたものの、シスターが毒に犯されているところを見た手前、鈴の言葉は知りつぼみになっていく。


「いえ、それはないでしょう。あの肌に現れていた特殊な皮膚の変色はモンスターの毒によるものです。それにモンスターの毒は回復魔法でしか解毒できませんから。回復魔法で癒えたのであればその毒はモンスターのもの。いることが確証されるはずなのですが」


言いきるノアに、リンはそうだよなと納得した。


「旧神殿じゃないところで、そのシスターがモンスターに接触した可能性もあるは」


レルムは、灯りで照らされた所を腕を組みながら見つめた。彼女の言っている事も一理あると、グレンもノアも考えるような仕草を見せた。


「それもそうだな」


短くグレンが声を漏らした。


旧神殿に限らず、人があまり来ないヒッソリとした場所をモンスターは好んで巣にする。その事はこの世界の人間全員が知っている事。チェスターが勝手に思い込んだだけということもある。彼女には直接聞いていないのであくまで憶測ではあるが。


難しそうな顔をした二人を遠巻きで見つめる鈴の手をギュッと、レルムは引いた。なんだろうと視線を落とすと、見上げていた彼女の視線とぶつかる。


「それよりあなた!!回復魔法が使えるの!?」


レルムはグイグイと詰め寄られ居場所を失った体が一歩二歩と後ずさる。小さな子供が、ヒーローショーのヒーローを見ているときのようなキラキラとした目を彼女はしていた。

出会って数時間しか経っていないが、彼女から初めて好意的な視線を向けられた瞬間だった。


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