勉強会
長方形の小さな机。対面しあう形でノアと鈴は椅子に腰を下ろした。グレンが立ったまま見下ろす形で鈴の傍に居た。
何処からか出してきた紙に、ノアはスラスラと文字を書き始めた。すべてを書き終えると、鈴の方向へと紙をひっくり返し渡し、受け取るのを確認するとノアは一番最初に書かれた文字に指を指した。
「これは“あ”と読みます」
「……あの、これに書き込んでも良いですか??」
この世界の言語は、文字の形こそ違えど発音は日本語と同じ50音が基礎になっているらしい。となれば文字の読み方を覚えればいいだけ、英語の様に文法から勉強する必要はなさそうだ。
鈴の申し出に、ノアはコクリと頷きペンを差し出してきた。それを受け取り、文字の下に“あ”と書いた。あいうえお表を作ろうと考えたのだ。こうすれば、ゆっくりではあるが文字を照らし合わせて読む事が出来る。
「これは何だ??」
グレンは鈴の書いた文字に指を指した。真正面に座っているノアも不思議そうな表情を浮かべていた。
「私の国の文字です。これを私の国では“あ”をこう書くんです」
説明を聞いたノアは、驚いたように声を上げた。
「これは変わった形ですね。初めて見ました」
ノアは表の文字を次々に指差し、発音していく。それを聞き鈴は書かれた文字の下にひらがなをふっていった。
静かな部屋にノアの声とペンを走らせる音だけが響く。しばらくその時間は続き、謎の緊張感に息をするのすらも躊躇してしまう。
最後の“ん”にたどり着くと謎の達成感と、謎の脱力感を同時に味わった。ンーッと背伸びをし、鈴は出来上がったあいうえお表を見直した。
「難しい歴史書よりも簡単な本から勉強した方が良さそうですね。とりあえず読めるようになるのが先です」
「そうですね、しばらくは簡単なもので覚えていきます。あの、凄く助かりました!!有難うございます!!」
何度もペコペコ頭を下げる鈴に、ノアは気にしないでくださいと朗らかに笑った。さっそく部屋にある文字を表に照らし合わせて読んでみる。
“だ”“い”“よ”“く”“じ”“ょ”“う”“の”“り”“よ”“う” “よ”“る”“2”“3”“じ”“ま”“で”【大浴場の利用 夜23時まで】
ゆっくりではあるが読める事にちょっとした感動を覚える。一人はしゃぎながら、文字を読む鈴をノアとグレンは穏やかな子供を見守る親のような表情で見つめた。
「……なんじゃ、さわがしい」
少し騒がしくなり始め、イナトが目を覚ます。ムクリと起き上がると、寝起きとは思えないほど軽い足取りで鈴の肩に乗った。そして、あいうえお表を興味津々に見下ろした。
「主よ、なんじゃそれは」
「あいうえお表だよ。私、文字が読めないから教えてもらってたの」
言ってくれれば我が教えたというのに、と少し不満げな声を漏らし、イナトは鈴の肩の上から机に移動する。フワリと揺らした尻尾の先にあった歴史書にイナトは視線を向け、オォッと小さく声を漏らした。




