お風呂シーンなんてものはない。
椅子に座り数分もたたぬまに、ノアが戻ってきた。彼は申し訳なさそうに眉をたらしている。もしかして、部屋が取れなかったのだろうかと鈴は心配になったが、どうやらそれは違うようだ。
「もう一部屋借りれないかと聞いてみたんですが、今日は満室みたいで」
「あぁ、そうだったんですか」
吃驚したぁッとため息を漏らす。ここまできて、部屋が無かったら辛い。部屋があるだけ問題ないだろう。ノアが思っているほど同室であることを鈴は気にしていなかった。
「いまからでも、他の宿屋を」
「いやいや、大丈夫ですよ。お二人が問題ないのであれば、同室で構いません」
町長の屋敷を出た時には日は沈み始め、今はもう暗くなっている。そんな中、今から宿屋を探しに向かうより早く眠って疲れを取った方が二人のためにもなる。それに、そこまでしてもらうのは気が引けた。
まだモゴモゴいいたそうなノアの背をおし、部屋に急いだ。今日はさっさと眠りましょう、そうしましょう。ノアの背を押す鈴の後ろをグレンがついて行く。
部屋へ向かい、そうそうにお風呂に入ってた。お風呂は思っていたほど変わった事はなかったのだが、脱いだ衣服をお風呂から上がるまでに、洗い乾かしてくれる魔法道具には目を見開いた。
大きな袋があり、そこにポイッと入れると渇いた綺麗な衣服があがる頃には綺麗に畳んで用意されているのだ。本当に便利な装置だ、発明者には拍手を送りたい。
もちろんそんな便利な魔法道具があるとは、鈴は知らない。たまたま通りかかった親切なお姉さんが教えてくれたのだ。丁寧に説明してくれているお姉さんはそれはそれは巨乳な方で、説明をするため体を動かすたびに、揺れる大きな胸にチラチラと目が行ってしまった。
説明を終えたお姉さんにお礼を言い別れ、ふと自分の胸に視線がいく。かなり心にダメージがきたがそれはまぁいい。
「おや、おかえりなさい。ゆっくりできましたか??」
「ただいま戻りました。はい!!良いお湯でした」
「ここの湯は疲れを癒してくれるんです。……それで、これを見てくださいませんか??」
なんだかんだとお風呂を終え部屋に帰ってきた鈴に、同じく風呂から上がってきていたノアはある本を見せてきた。少し前、彼が気になっていると言っていた件についてのようだ。という事はこれは歴史書かと本を受け取る。
「ここです。貴女と契約を交わしたという獣にそっくりではありませんか??読んで見てください」
受け取ったはいいが、まぁ何一つ解読は出来ない。ただ写真で乗っている獣はイナトにとてもよく似ているのはわかる。真偽を聞くにも、当の本人はベッドの上で大の字になって寝ていて聞く事はできない。
「あの」
「なんでしょう??」
キョトンと首をかしげるノアに、気まずそうに鈴は視線をそらした。
「……文字が読めません」
ハングル文字を少し複雑にしたような、変わった文字。読めるわけもなく、ものの数秒で白旗を揚げた。ここで嘘をついても仕方ないし、素直に言ってしまったほうが良いと判断したのだ。
ノアは驚いたように目を丸め、無表情で二人のやり取りを聞いていたグレンも少し驚く仕草を見せた。
「お勉強会をしましょうか」
唐突に、ノアはパンッと手を叩き提案した。グレンもそれがいいと同意するようにコクリと頷く。ただ一人鈴だけは、え??っと動揺したように視線を泳がせた。こうして、急遽読み書きの勉強会が幕を開けたのだ。




