返事
少女は、とある世界の、とある街に産まれる事となった。
母は優しく、父は働き者である。
大きな壁が立ちはだかる事もなかった。
成長し、14の時を迎える。
急に父が、仕事の都合で引っ越しをすると言う。
少女に、友達は少なく別れを悲しむ事も無いまま、次の街での暮らしを始めた。
それから1週間後である。
移住前の街は、インビシブルアサシンという、見えない賊の集団に襲われ、壊滅する。
母は言う。
「あの街には悪いけど、ここへ移住して来ていて良かったわ…。あなたも無事で居てくれて…」
少し震えた温かい手で、少女は母に包まれた。
けれど少女は、
「…そうね」
と答える事しかしなかった。
ある日、巨大な人型機動兵器が、街を囲んでいた。
この国は、戦争で負けたのだった。
けれどこの街は、自然資源が多く、貿易も盛んな為、条約に基づき進撃される事は無く。現状を維持する事になる。
しかしある日突然、少女の父が、他国の兵士により、徴兵されてしまう。
四角い箱に入って行く父が、少しだけ笑いながら振り返る。
「また、帰って来るからな…」
そう言い残すと、四角い箱に見えた物体は、少しだけ宙に浮き、前進し始める。
その後を、母が止めるのも聞かずに少女は追いかける。
(お父さんっ!待ってよ!私、まだ何もっ!もっと一緒に居たかったよ!幸せだったのにっ!)
四角い箱との距離は、縮まらない。
けれど少女は、止まる事など考えていない。走らなければという想いだけで、今は何も考えずに走り続けた。
すると四角い箱との距離が、縮まって来ていた。
光を失いかけた少女の目に、光が戻る。
「お父さん!」
そう叫びながら四角い箱に、近づいて行く少女。
けれど四角い箱の様子が、おかしい。
宙に浮いていた筈の四角い箱は、地面に着いて静止している。
(どうしたのかしら?私が追いかけているのを知って、止まって、くれたの?)
息も荒く、その先へ進もうとした時だった。四角い箱から徴兵された人々が、沢山慌てた様子で出て来る。
少女は、その中に父親を見つけ叫ぶ。
「お父さん!」
父親は、驚いた顔をして少女に駆け寄って来る。
「何をしている!逃げるぞ!」
少女は、訳も分からないまま四角い箱から遠のこうとするが、気になる光を見つける。
中から出て来た、違う国の防護服を着ている兵士は、何かと戦闘をしている様子だと、少女は感じた。
その1人に、何かの光が近づいていた。
少女は、咄嗟にそちらへ走る。
そして、その光を放つ何か、よりも先に、父親を連れ去ろうとした兵士に体当たりをする。
兵士と少女は、一緒に倒れる。
そして、兵士を狙っていたかに思われた光は、姿を消した。
周りで戦っていた兵士達も、何かと戦う事はしなくなった。
「くっ、なんなんだ…!姿が見えんっ!お前は何だ?!離れろっ!」
「いてて…す、すみません。何故かあなたを光から守らないと、と思って体当たりしちゃいました…すぐに退きます」
すると兵士は、フェイスガードを外し少女を見る。
「すまんな…まさか、こんな少女に守られるとは…」
2人は、起き上がる。
そこへ父親が、慌てて駆け寄る。
「何をしているんだ!危ないだろ!」
それを見た兵士は、少女に状況を問う。
「何?!父親を追ってここまで来ただと?!そして私をついでに助けた?!面白い…いや、感謝しよう。そうだな…感謝を形で表したい。我が隊のキャンプへ来ると良い。いいモノをやろう…」
少女は、首を傾げ、父親は、驚いていた。
「お父さんは、これからどうなるの?!」
すると兵士は、四角い箱へと進路を取り、少女達を見ず、片手を上げて去って行く。
「ありがとう、お前のおかげだ…」
四角い箱は、発進する。
徴兵された人々は、帰路に着く。
その間も少女の話で人々は、持ちきりだった。
勇敢だと言う者、父親想いだと泣き出す者、様々だった。
街へ着くと人々は、家へ戻った。
少女達も、家へと着く。
中では母親が、泣きながら待っていた。
3人は、お互いを抱きしめ合い、その温もりに涙し、笑顔を作る。
数日後、街に再び兵士達がやって来る。
街は騒然としたが、どうやら徴兵に来たのでは無い。
兵士達は、1人の少女を探していた。
この街の英雄、そして兵士長を敵から救い出した英雄でもあった。
少女の家族は、丁重に兵士達のキャンプで饗される事となった。
「やぁ、ようこそ。我が兵士キャンプへ、今日はこの前の礼だ。思う存分、楽しんで行ってくれ」
数日前に助けた兵士は、この隊の長であったのだ。
「しかし、あの見えない者共は何なのだ?」
少女の父が、その答えを出す。
「彼らはインビシブルアサシンと言われる、この辺りでは有名な賊です。私達が以前居た街は、その者共に壊滅的なダメージを負わされました。ただ姿が見えないという事で、その正体や、構成、人数なども把握しきれてない、恐ろしい存在です」
兵士長は、それを聞き首を傾げる。
「何故、その様な者共を、この国はのさばらせているのだろうか?それに我々を狙ったのは何故なのだろう?」
少女の父も母も少女も、その答えは出せない。
「すまぬ。普通に暮らす、あなた方に聞くのが間違っていた。どうか許して欲しい。さぁ、遠慮無く料理を平らげて欲しい!」
家族と兵士達は、世間話をしながら賑わっていた。
するとそこへ1人の兵士が走って来て、兵士長へ耳打ちをする。
それを聞いた兵士長は、顔色を変えて立ち上がる。
「あなた方は、ここでゆっくりしていて下さい。私は急な用事が…」
そう言っていた時だった。
キャンプから少し離れた場所にある、巨大な人型機動兵器が、突然爆発した。
その場に居た兵士達は、騒然とする。
その中の1人の女性兵士が、少女達へと駆け寄って来る。
「皆様、どうぞこちらへ。安全な場所へお連れします。早く!」
女兵士は、兵士長へ目配せすると、家族を爆発から反対側にある、四角い箱へと誘導する。
中は、後ろに窓も無く暗い部屋の様になっており、長い椅子が2つある。
そこへ腰掛けて安全ベルトを着ける様に指示される。
女兵士は、四角い箱の前へと乗り込み、その物体を発進させる。
四角い箱は、キャンプを離れ、街へと向かう。
四角い箱の前と後ろを隔てている、壁と思われていたが開き、運転席と繋がる。
「すみませんでした。急な事態ゆえ、何も説明せずに、お連れしてしまって。我々のキャンプが、恐らくインビシブルアサシンの襲撃を受けた模様です。あなた方を安全に街までお送りし、私はキャンプへ戻ります。どうか、お許しを…」
それを聞いた少女たちは、身を震わせながら、母と娘は手を繋ぎ、父はそれを眺めている事しか出来ずにいた。
少し進んだ所で突然、四角い箱は横転する。
地面が、爆発したのだった。
強い衝撃を受け、叫び声を上げながら家族は、安全ベルトを外して、四角い箱から外へと出る。
運転していた女兵士は、額から血を流し、四角い箱の傍で横たわっていた。
「大丈夫ですか?!」
少女の母が、女兵士へと走る。
少女と父親もその後を追う。
「私の事はいいので…お逃げ下さい…」
父親と母親は、困惑する。
少女は、辺りを見回していた。
月夜に、少し雲が出ている。
辺りは広い草原で、月明かりと転がった四角い箱から漏れる、僅かな光だけが視界を作る。
あの時と同じ微かな光が、少女の目には反射していた。
草を踏む音。
何かが近づく気配。
そして声がする。
- しろ…だ…う…しろ… -
少女は、その声が聞こえた瞬間、女兵士が腰に着けているビームナイフを手に取り、振り返ると同時に、空を切った。
その刹那、何も無かった所から、1人の男が現れ、目を押さえながら身悶えていた。
「な、なんだ!?」
少女の父親は驚いて、母親と女兵士の前へと出て、2人を守る体勢をとる。
- あ…と…ふた…り… -
その声が聞こえたと同時に、少女のナイフを持った右手の手の甲が薄らと輝き、少女は引っ張られる様に、走り出す。
「危ない!ここに居なさい!」
少女は、父親達から死角になる、四角い箱の向こう側へと消えた。
少女は、その先で空を切る。
すると、また目を押さえながら悶えて地面を転がる男が、2人現れる。
「わ、私…何を…」
少女は、足を震わせながら、家族の元へと急ぐ。
父親は、女兵士を抱え、母と少女は、お互いに手を繋ぎながら、キャンプへと戻る事にした。
足は震えて鼓動は落ち着きを取り戻さない。しかし右手には、ビームナイフが握られたままだった。
(私、なんでこれを手放さないの…?)
キャンプまでは距離もあり、父親と女兵士は、途中で疲れて進めなくなってしまった。
キャンプから爆発音と、煙、空は夜だというのに赤く染まっていた。
家族は、その場に留まり休憩する事になる。
「ここは、安全なのかしら?」
母親が、少し心配そうに父親へと問いかける。そして少女を抱きかかえる。
「ここは身を隠す様な場所が無い。キャンプへ戻ろうとも思ったが、この様だ。どうしたものか…」
そこへ街から来た騎馬隊の集団が、通りかかる。
「どうした?!お前たち。そいつはこないだの兵士の仲間か?何があった?」
父親は事情を話した。
「そうか…我々も空が赤いので様子を見に来たのだ。インビシブルアサシンによる仕業だろう…」
それを聞いた少女は、騎兵隊へ先程の話をする。
「なに?インビシブルアサシンを切っただと?!…目を押さえて…なるほど。奴らは、噂によると光に弱い一族で、全身に光を強反射させる何かを纏っていると言われている。そのせいで我々は、奴らの姿を見ることが叶わない…。しかし、それをどうやって…」
少女は、声の事を話す。
「声?そんな事が…それよりも、我々はこれよりキャンプへと向かう。交友的になった彼らを見過ごす訳にも行かん。それに街へと被害が拡大するやもしれん。お前達はどうする?ここで助けを待つか?それとも一緒に行動するか?」
- …い…け -
「行けって、声は伝えてます。私は行きます…」
それを聞いて母は驚く。
「え?!ここに居る方が安全よ?!そうよね?」
母親は、父親へと賛同を求める。
「いや、行こう…。さっきもキャンプ外で襲われた、ここに居ても安全とは思えん…」
家族は別々に、女兵士も胴体を縄で縛り、騎兵の後ろに乗る。
「行くぞっ!」
キャンプへと駆けつけるも、兵士が転がり、巨大な人型機動兵器も簡易兵宿も燃えている。
奥の方では声がしていて、動く光が見える。
その声が、兵士長の声だと気付いた少女は、馬から飛び降り、奥へと進む。
「クソっ!何処だ!正々堂々、姿を表せっ!卑怯者!」
少女は、兵士長へと凄い勢いで駆け寄り、兵士長の顔面へとビームナイフを向け、一気に切った。
何かが弾かれる音がして、しばらくすると何もない闇から、1人の男が現れ目を押さえながら悶えている。
「な、何だ!?こいつはっ!?」
兵士長は、驚く。
その間も少女は、闇を数回、移動しながら切る。
次は、3人の男が闇から現れる。
松明を持った騎兵隊が、少女と兵士長の所へ駆け寄って来る。
インビシブルアサシン達は、その松明に照らされると、身体が乾燥し、粉々に割れ塵となる。
一同は、その現象に言葉を失う。
しばらくすると辺りは、静けさを取り戻す。
インビシブルアサシン達は、撤退した様だった。
「また、助けられてしまったな。しかも、今度は私の妻までが…。これには感謝のしようも無いのだが…」
そう言って兵士長は、少女へと膝まづき手を差し出す。
少女は、その手を自身の両手で取り包み込む。
もうその手に武器は、握られていない。
「いえ、私は…何も…」
(あの声は…何だったのかしら…)
そう思いながらも、キャンプで再開されるパーティは、街の騎兵隊や、目を覚ました兵士長の奥さんも混じり、賑やかに朝まで続いた。
それから数年が経ち少女は、自国の近衛となっていた。近衛と言っても内勤である。主に事務を担当とし、書記などを務める。
あの出来事がきっかけとなり、推薦でこの地位に苦労する事無く進んで来れた。
あれから不思議な声も聞こえず、その存在すらも忘れて居た時だった。
少女が働く事務所へと訪ねて来る1人の男が居た。
「こんにちは、失礼致します。私は、兵士長の遣いで、あなたにお手紙を渡しに来ました。どうぞお納め下さい…」
その手紙には、インビシブルアサシン討伐戦についての概要と、兵士長から直筆の手紙が添えられていた。
『久しぶりだな。元気にしているか?妻もすっかり元気になって、今では戦場に復帰している。資料は読んでもらえただろうか?急な願いですまないが、我々に協力してもらいたい。我が国とそちらの国は、協定を作り、今では和平合意の元に、合同国家になりつつある。が、インビシブルアサシンの脅威を我々の兵力とそちらの国で討伐する事になった。前線に立てと言うのでは無く、知恵を貸して欲しい。良い返事を待っている。』
(インビシブルアサシンの…討伐…)
「あの、すぐに返事を書きますので、お待ちいただけますか?」
そう言って少女は、すぐにペンをとった。
「え?!もう返事を頂けるのですか?!」
その声は、もう、少女に届いてはいなかった…。





