火の粉
あの頃の震えていた少女は、もう居ない。
今ここに居るのは、天の声を聞く事の出来る聖女として、人々の平和を守る1人の勇敢なる女性であった。
インビシブルアサシンとの戦いは、思っていたよりも両国合併軍に、苦戦を強いられていた。
姿見えぬ敵だとて、数で押せば何とかなるだろう。そう誰しもが思っていた。
この地に平穏が戻るなら、多少の犠牲は仕方ないのだと。
そこに1人の少女が、来るまでは。
その少女は、あの手紙の返事を書き、その足ですぐに戦場へと向かった。
戦場へ来るなり装備を整え、馬で駆け、最前線で戦う顔見知りの部隊キャンプへと向かう。
そこへ到着すると兵士長を探す。
「ねぇ!ちょっと聞いて欲しい事があるのっ!」
突然、あの少女が現れ驚く兵士長。
「なに?!来て欲しいとは言ったが、こんなに早く来るのか?!返事はどうした?!」
キャンプの作戦会議中の兵士長は、驚いて椅子を転がしながら、立ち上がり叫んだ。
「出しました!後で見て欲しいです。それと…」
少女は、部隊へと話し始める。
「私が先頭に出ます。そして敵を倒しつつ囮になります。その間に皆さんは、敵を殲滅してください。私は大丈夫です。インビジブルアサシンの姿が、私にはハッキリ見えるので、敵の攻撃は受けません」
それを聞いた兵士長は、驚いた。
「何?!姿が見えているのか?!」
「はい。私には見えています。そして彼らの戦闘力は、見えているなら驚異にはならないのです。私の様な者でも一騎当千出来る程に…」
一同は、その話しに驚く。
「なるほど、信じ難いが…分かった…。言う通りにしよう。だが1つ条件がある。お前の護衛は、我々が務めると言う事だ。異論は無いな?」
少女は、少しだけ下を向く。
そして強い眼差しで兵士長を見る。
「お願いします!皆さんで私を守って下さい!」
兵士長の妻が、少女の肩に手を置く。
「あの時は、ありがとう。やっと恩返しが出来るわね」
そう言いながら、軽く微笑む。
「お願いしますね!」
少女は、笑みを返した。
「では明朝、ヒトマルフタマル。作戦を開始する。解散!」
そう兵士長が叫ぶと一同は、部屋から出て行く。
少女は、近くの簡易兵舎にある、一室を
借りた。すると紙を取り出す。
手紙の様だった。
- どうか聞いて下さい。私は、今頃居ないかも知れません。それは悲しみを生むでしょう。けれど、どうか笑って下さい。どうか楽しい思い出を、思い返して微笑んで下さい。私は、とても幸せでした。お母さん、お父さん。今までありがとう。後の事は、兵士長さんに頼んでいます。この戦いを終わらせた私の願いなのならば、きっと届くと思うんです。安心して、これからの生活を過ごして下さい。 -
その手紙に封をすると、外へと出る。
それを通信係に渡す。
空を見ると綺麗な月が出ていた。
「綺麗…明日も天気なら良いんだけど…」
そう呟いて部屋へと戻り眠りに就く。
少女は、雨音で目を覚ます。
窓から外を見て少女は、ため息をつく。
「…はぁ。そう上手くは行かないわね…でも…」
そう言って身支度をし兵士長の所へ行く。兵士長と、その妻。そして兵士達は、少し話合いをすると、宙に浮く乗り物に乗り込む者、巨大人型起動兵器、四角い箱に乗り込む者、様々だが、その数は1000を超える大軍勢となって居た。
その先頭には、馬に乗った少女が居る。
手には大きな旗を持ち、先頭を突き走る。
耳から伸びる通信機に作戦を伝える。
「足音や、自然の細かい動きに注意してください!そして、もしも声が聞こえたなら…その声を信じて進んで下さい!」
少し不思議に思う兵士達だが、雄叫びを上げる。
見えない敵インビジブルアサシンと、2国合同兵隊の戦いが今、始まる。
1つの街であれば数分で堕とせる程の兵隊である。
しかしインビジブルアサシンは、見えない。その規模は計り知れない。
(私の考えが正しいのなら…私は…そして、彼らは…)
少女は、旗の先に付いている槍の様になった部分を構える。
そして前進している兵隊へ、火矢が飛んで来る。
「作戦通りだ!こちらの思惑は、聞き耳を立てた姿見えぬ者共に悟られている!ここより先は、少女を護る事だけを考え、敵を可能な限り蹴散らせ!」
敵からの先制攻撃に、怯む事の無い兵士長からの伝達。そして、その内容は昨日の会議や、朝にも話されて居た。
よって先頭を走る少女へと、敵の攻撃は集中する。その時、少女の手の甲が強く光りを放つ。
「な、何?!これ?!」
それは少女自身を驚かせた。
- おいっ!何なんだよ!この作戦はっ!?お前、何考えてんだよ!あ!来るぞ!右からと前!あっぶね。しかも昨日の手紙何あれ?!あんなのもらって…うわっ!下から2人!てかめっちゃ居るぞ…気合い入れろよ。それでだな、あんな手紙で笑えるワケねぇだろぉがよっ!ったく、あのまま普通に事務で働いとけよって後ろから3人! -
突然の声。
それはあの日、あの時に聞いた声だった。
「来てくれるって信じてた…」
その声に言われるままに、旗槍をインビジブルアサシンへと、突きつける。
- お前、なんでそんな普通なんだよ!?まさか俺の事を覚えてんのか?!そんな事あってたまるか、また計画が狂うだろ… -
すると少女は、旗槍で空を切る。
飛びかかって来ていたインビジブルアサシンの2人は、地面へと叩き落とされる。
- は?俺、今、何も言ってないよね? -
その間も戦地を馬で駆け抜けながらも、的確にインビジブルアサシンを退けて行く。
そこへ兵士長から連絡が入る。
『目的地点近くだ。ここからは1人では危険だ。我々も前へ出る!』
しばらくすると四角い箱や巨大兵器隊が、少女を囲む。
- え?何これ?昨日、お前こんな作戦言ってたか?てか、どうやってアイツらを倒してるんだよ…お前…おい!俺の声、聞こえてるか?! -
少女の耳に、その声は届いてはいなかった。
『目的地、到着だ!一気に進めるぞ!』
「お願いします!」
円形に巨大な人型起動兵器は並び出す。
その中心に、少女は馬で颯爽と登場し、馬を返し、1人、その場で祈る。
少女を囲む巨大人型起動兵器達は、光る剣のような物を、大地に強く差し込んだ。
それは大きな魔法陣を浮かび上がらせ、少女を照らした。
『カウント開始!3...2...1...イグニッションッ!』
その掛け声と共に巨大人型起動兵器達は、差し込んだ光る剣を大地に回転させながら捩じ込んで行く。
そして巨大人型起動兵器達は、光る剣をその場に置き、離れて行く。
その中心には少女が居る。
大きな光る剣に囲まれ、1人。
少女は、手を組み祈る。
「どうか、お許しを…」
そう呟くと共に、巨大な光る剣は、一斉に爆発する。
辺りは、轟音、爆風と共にその輝きに包まれる。
- 真っ白で何も見えねぇ!どこだ!?おいっ!返事しろ!聞こえてんだろ!俺の声がっ! -
地鳴りがする。
土が落ちて行く様な音だった。
辺りと、兵士達が、1度静かになる。
その視線の先には、焼け焦げた大地。
そして大地に大きな空洞が、広がって居た。
その空洞の中には、土や岩で造られた建造物が、立ち並んでいた。
それを見た兵士達は、驚きを隠す事が出来ないでいた。
祈っていた少女の姿は、何処にも無かった。
- なっ?!あ、あいつ、コレでまた戻ったのかよ?!なんの死だよ!おいっ!アルテア!ゼウス!何なんだよ、これは… -
その時、その空洞から赤い燃えるような光が溢れ出す。空洞を覆う程に、光が溢れ出たかと思ったら、その赤い光は、縮小して行き、空中で球体を作る。
そして球体からと思われる声が、辺りに響き渡る。
「ユニリンク・フェニックスッ!」
その声と共に赤い球体は、割れる。
中からは大きな燃える翼のある、巨大な鋼鉄の巨兵と、燃える冠、燃えるミニスカートを靡かせ赤い服を着た少女が、現れた。





