彼女の物語
ロッシーは、時空魔竜騎アースガルンプロットの、パイロットとして選ばれた。
と、いうより。
ロッシーにしか、パイロットは務まらなかったのだ。
これはProf.ロランと、ロッシーの約束でもあった。
2人で立ち上げたプロジェクトである。
他の者を巻き込む事になろうと、2人以外で、それを遂行する事に意味は無かった。
神と呼ばれる幻の世界を、現実世界とリンクさせ、再び、そして初めて、人として生きるという事。
ロッシーは、あの日、その尊さに気付き。
そして、そのチカラが宿る自身の胸の中に誓ったのだった。
繰り返される消滅と復元。
その中にある悲しみを。
彼女は、その世界で1人抱えていたのだ。
ロランが、消滅するまでは。
- 彼女が人だった頃 -
ここから語るは、1人の女神を否定し、天使になった少女の物語である。
彼女は、とある村で産まれた。
14の時、村を戦争が襲う。
それまで平穏だった現実は、突如として不穏へと変わる。
彼女には、親族と呼べる者は、今現在、1人と無い。
荒れ果て焼けた村に、頼れる者は1人として居ない。
けれど彼女は、強く生きていた。
村から少し離れた山の中で、狩りをし、草木を育て、1人で朽ち果てそうな小屋に住む。
彼女を訪れる者など居ない。
ただ1人で黙々と毎日を生きるだけで、精一杯だった。
突然に1人となった彼女の心は、何も求めず、その現実を受け止める事が、ただ一つの救いであった。
そんな中、彼女の唯一の楽しみは、本である。
焼け爛れた瓦礫の中にある本や、兵士が捨てたと思われる本。
そんな物を見つけては、持ち帰り、小屋で読むのである。
所々、本が焼けたり破れていたりする事がある。
そんな時、彼女は目を閉じ、世界を創るのだ。その世界の続きは、ページを捲れば消えてしまう。どうしても彼女の世界と、その次のページは繋がらない。
また彼女は、ため息をつく。
そしてページを進めて行くのだ。
彼女は1度読んだ本を、再び読む事は無かった。それを火にかけ、燃やしてしまうのだ。だから彼女は、1度読んだ本の内容を忘れないようにした。
生きる為、それを作った人の為に。
そろそろ冬が近づいて来る。
1人になって、初めての冬だ。
本に落ち葉を挟み、顔を上げた彼女は、立ち上がり小屋を出る。
星空を見上げ、少し寒い風に身を震わせる。
すると星の1つが、弧を描き、流れた。
それを見た彼女は、胸の前で手を組み合わせ、目を閉じて口から言葉を紡ぐ。
「どうか。世界の全ての人が、幸せでありますように…」
そう呟くと彼女は、小屋に戻り暖炉の火を消し、眠るのだった。
ある日の事である。
森の中を、足早に駆ける彼女の姿が見える。
その後方には、黒い服を着た大柄な姿が、3つ見える。
「待てよ!こんな所で1人で寂しいだろう?!」
「俺たちと来たら楽しいぜぇ!」
「待てって行ってるだろ!田舎娘!!」
「チッ、あいつなんでヒョロっとして青白いのに、こんな速いんだよ!?」
「絶対に捕まえて楽しんで、売り飛ばすぞ!」
彼女の平穏だった1人の日々は、また突然、不穏へと変わってしまったのだ。
彼女は、何も考えずに、ただ走っていた。逃げれば良い。それだけを考えて。
しかし彼女は、転げてしまう。
足が痛み、起き上がるも、再び走れそうには無かった。
けれど諦めはしない。
手を使って這いつくばってでも逃げようとする。
1人の男に、足を掴まれる。
「さぁ、遊びは…終わりだ…」
息を切らしながら、男達は迫って来る。
彼女は、抵抗をしなかった。
その代わり、その男の目を見つめていた。
その透き通った目からは、強い意志を感じとる事が出来た。
それを見た男は、少しだけ足を持つ手の力を弱める。
その瞬間を、彼女は逃さない。
両手に握った石を、男の1人に投げつけた。それは男の顔に当たる。
足の痛みは、もう感じない彼女は、また走り出す。
助けてくれる者は居ない。
1人で、生き延びるしか無いのだ。
全ては敵なのだと、感じていた。
人も、自然も、世界も、何もかもが、ただただ生きる邪魔をして来る、平穏を脅かすものなのだと感じていた。
しかし、この山を知るのは、彼女だった。彼女は、自身の狩場へと、彼らを誘い込む。
自身が仕掛けた罠を避けながら、ひたすらに山の中を駆け巡る。
1人の男が、足を木の槍で刺され、転げながら叫ぶ。
残りの2人は、見向きもせずに、彼女を追う。
もう1人が、落とし穴に落ちた。
男は1人だ。額から血を流し、血眼でただ彼女を追う。
すると彼女の足は、動きが鈍くなって来ていた。足が痛み出したのだ。
その速さは、男をどんどん近づけてしまう。
木に寄りかかり、額からは汗が浮き出し、前へ進むのがやっとだった。
顔は蒼白で、息も荒い。
とうとう彼女は、木の横で膝をついてしまう。
男は、もう彼女のすぐそこまで来ていた。
彼女が振り返る瞬間、男の足に、縄がかかり、木の上へと引っ張り上げられる。
彼女は、息を整え、目を見開きながら、ただ森の奥へと消えて行く。
どれくらいの時が経ったのだろうか。
彼女は、森の中で目が覚めた。
胸の鼓動が早くなる。
足の痛みは、少しだけ軽くなっていた。
辺りは暗く、月の明かりが、彼女の頬を照らしていた。
「世界の全てに、安寧と平穏を…」
彼女は、冷たい地面に膝をつけ。
胸の前に手を組み合わせ、目を閉じると、月に願いをかけた。
その頬には、涙の雫が、流れた。
その場で一夜を明かし、川を見つけた彼女は、その流れに沿って、森を抜ける。
すると、そこには小さな村があった。
しかし、彼女はその村に近寄らず、山を歩く。
川の水を飲み、木の実を齧り、飢えを凌ぐ。
小屋へ戻ろうと、何度か考えた彼女だが。
恐ろしい記憶が、彼女をその場へと導く事を否定した。
人を頼る。
村を眺めた時に、ふと思った事だが、彼女は自身について考えた。
恐らく、私を受けいれるなどという、親切な人は居ないだろう。
寒さを防ぎ、どうにか、この先へ進まなくてはならない。
そして、また本を読むのだ。
平穏を取り戻す為にも。
ボロボロになってしまった服。
彼女が持っている物は、それしかなかった。
それでも尚、彼女は生きる事を望んでいたのだ。
幸せだった、あの日以前の記憶を頼りにしていた。
いつか、そんな日が来るのだと、信じて。
彼女は、見つけた小さな獣が作ったであろう穴を、休む場所として、周辺を探索し、食料を集める。
火種が無くなってしまい、食料と言っても、山菜や、果物などだが、冬が近いせいか、今までの様には行かなくなってしまっていた。
そんなある日、雨が続き、思う様に動けない日々が続く。
寒さも酷くなり、彼女は熱を出す。
元々の細い身体は、更に痩せ、熱にうなされ、彼女は遂に、意識を失ってしまう。
眠りについたのだった。
彼女は、その澄んだ瞳を、開ける願いは、もう二度と叶わなかった。
唐突に、願いは掻き消され、世界はそれを呑み込んでしまう。
何も無かったと言わんばかりに。
彼女が、世界から消えた後も、彼女の物語は続くのだ。





