羽
超時空フィールドエリア000内部。
ロランは、1人。
大きな光る六角形で形成された球体の中に居る。
ロランは、頭が揺さぶられる様な感覚に陥る。
目眩がし、その意識は、遥か彼方へと誘われる。
そして、あの日へと遡る。
- 始まりの園 -
そう名付けたのは、Prof.ロラン。
その人だった。
「どうですか?作業は順調ですの?」
そう声をかけたのは、助手のニアであった。
Prof.ロランは、光の線で書かれた、モニターの様なものを見つめながら、ニアの方は向かずに語る。
「このアースガルンが、完成すれば。どうにか、この次元を保てるだろう。我々の存在が、無くなることになろうとも…。経過は、順調だ。プロットだとは言え、必ず本当になる…」
それを聞いていたニアは、少しだけ目を下へ落としながら、悲しそうな表情を見せる。
「だけれど私たちは、本当にこんな事をしてまで、保つ必要が、あるのですか?ロッシーお姉様は、そう仰られておりました。それを聞いて、私は、少しだけ戸惑いを感じてしまいました」
Prof.ロランは、それを聞くと手を止め、後ろに居るニアの方を向き、優しく微笑む。
そしてニアの頭に、自らの手の平をかざす。
「ニアよ、我々は、存在しているようでしていない。その反対もしかりだ。けれど存在する以上、それを保ちたいと思う事は、それ以上の意味を持たない。正しいも悪いもないさ」
そう言われ、手をかざすProf.ロランの顔を、ニアは見る。
Prof.ロランは、とても優しく微笑んで居た。
それを見たニアも、優しく微笑む。
「それでは、私も、Prof.ロランへと、導きを施します。あまり根を詰めると良くないですわね。お茶にしましょう。ロッシーお姉様も、そろそろお戻りになります」
Prof.ロランは、眉をひそめ、呆気にとられた様な表情を見せると、小さく笑った。
「行きましょう」
ニアに導かれ、その後を歩いて進むProfロラン。
その先には眩い光が、煌々と照らされていた。
「んも!2人ともおっそぉい!私待ちくたびれたわ!早くしないと、お茶冷めちゃう!」
ロッシーは、机に突っ伏しながら2人を睨む。
そこは雲の上の様な場所であり、白い柱が4つ。その上には装飾が施された、白い屋根がある。
暖かい光に満ちた、その穏やかな空間の真ん中には、小さな机と椅子があり、ロッシーは、そこで1人。
待っていた。
Prof.ロランは、それを見ると微笑みながらロッシーへと話しかけた。
「ごめんごめん。少し根を詰めすぎたかな?時間が惜しいから、つい…」
それを聞いてロッシーは、更に膨れっ面になる。
「確かに、私がそれを作りましたけど、まさか本当に、時空魔竜騎アースガルンなんてのを作り始めるなんて、本当!ロランって…!」
するとロッシーの目の前に、お茶が入ったカップが差し出される。
「はい。ロッシーお姉様。お茶ですわよ」
差し出されたカップと、ティーソーサを手に取り、感謝の言葉をニアへと告げる。
「ありがとう。ニア。でも、これは私が淹れたお茶よ!さも自分が淹れた様に振る舞わないでよね!でも頂きまぁす!」
それを聞いたニアとProf.ロランは、笑う。
「お菓子もありますよロッシーお姉様」
ニアは、お皿に盛られた色とりどりの美しい菓子を、皿ごとロッシーへ差し出す。
「だから、それも私が焼い…あっつううううううううううううううぃっ!!!!」
ロッシーは、そう叫ぶとカップとティーソーサを投げ出して、後方へと椅子ごとひっくり返る。
が、すぐに起き上がってニアへと瞬時に近づき、顔面スレスレまで真っ赤にした顔を接近させる。
「なんなのよ!この灼熱の茶は?!私の口を溶かす気なの?!なんなの?!何が目的なのよ!」
するとニアは、舌を出して頭をコツンと叩く仕草をする。
「えへへ。ニアは、お茶が冷めちゃったのではないかと思い、お茶を沸かしなおしましたの。どうですか?ロッシーお姉様?」
「天然か!?ニアちゃんは、天然なのね?!どうですか?じゃないわよ!毎回毎回!殺人的な料理や、お菓子ばっかり!しかも絶妙のタイミングで出して来るから毎回、知らない内に、口へ入ってくるのよ!なんなの、その才能!」
ニアは、それを聞いて頬を赤くする。
「…もう、ロッシーお姉様たらっ…ニアの事、ほんとに好きなんだから。そんなに褒めてくださらなくても…」
「天然よ!ニアは天然なのよ!」
ロッシーは、目を手で覆い、空を仰ぐ。
「まぁ、冷めたら美味いし、菓子も疲れた頭に染み渡る。いつもありがとう、2人とも」
いつの間にか、飛んだカップとティーソーサを割らずに回収し、椅子に座って2人を眺めながら、お茶とお菓子を楽しむProf.ロラン。
それを見てロッシーとニアも、席へ着き、3人は談笑しながら、時を過ごす。
するとロッシーは、自分の脇に置いていた鞄から、分厚い紙の束を取り出す。
そして、何も書いていないページを開き、羽付きのペンで、文字を書き足す。
「今日は、何処へ行ってらしたのですか?ロッシーお姉様」
それを見ていたニアが、ロッシーへと尋ねる。
「今日は、魔導という技術が発達した世界へと行って、少しだけお手伝いをしてきたの。戦争が、絶えない世界ではあったけれど、それも理由がある事の1つだと思わされたわ。それを書きたいの」
そしてロッシーは、そのペンを紙へと当てる。すると、ロッシーの背中から大きな白い羽が、浮かび上がる。
その羽は、光を纏い、どんなものをも照らす力強さがあった。
それを見たProf.ロランは、苦笑し、ロッシーへと声をかける。
「根を詰めすぎるなよ。ロッシー」
Prof.ロランとニアは、そのまま、その場を立ち去る。
ロッシーは、2人が立ち去った事には目もくれず、ただ必死に文字を書いていた。
それは魔道時空魔竜騎の書。魔術や時空を操る事と、魔竜騎の操作、魂の関係などが書かれた書物。
世界の真理が、書かれる本。
それを書くのは、ロッシーなのである。
一心不乱に、世界を書き上げるロッシーの元へ、2つの影が、近づいて来る。
その眩い光から見える2つの影。
1つは、大きな杖を持った女性の様に見える。
そして、もう1つは、大柄な男性の様に見えた。
光の中から現れたのは、ゼウスとアルテアだった。
しかしロッシーは、その事を全く気にも止めず、一心不乱にペンを走らせる。
2人は、そっとロッシーの後ろへ近づき、その本を除き込もうとするが、ロッシーの後ろにある羽が邪魔して、なかなか見えないのか、右往左往していた。
「んもう!だからワシ、この羽キライ!」
ゼウスが、突然見るのを諦め、怒り出す。
それを女神アルテアが、宥める。
「ゼ、ゼウス様…落ち着いて下さい…」
アルテアにそう言われ、ゼウスは正気に戻る。
「ワ、ワシとした事が…すまぬな。アルテアよ。どうもロッシーちゃんが絡むとつい、ムキになってしまってだな…」
「孫を持ったおじいちゃんみたいですね…」
アルテアがそう言うとゼウスは、渋い顔をする。
「女神アルテアよ…。転生管轄区域は、もう疲れたのではないか?ワシには分かる。そろそろ、天使の輪っか磨き工場に赴任してみてはどうだろうな?」
それを聞いた女神アルテアの顔は、蒼白になり、ゼウスの気を逸らそうと、ロッシーの書く文章へと促す。
「わ!ロッシーちゃんたら、今回はこんな事を見て考えてたんですね!私たちの行く末も安泰ですわね!ゼウス様!」
「な!なに?!見えたの?ロッシーちゃん何書いてるの?!ワシも見たい!ワシにも見せて!」
アルテアは、目を細めて、片方の口角だけを上げる。
(何も見えてなかったけど、ゼウス様チョロい…)
「アルテア。聞こえてるから…」
「ンギヒイイイイイイィィィィッ!」
アルテアは、白目を剥いて立ち尽くして居た。
気を取り直した2人は、遂にロッシーの羽を下へ押し下げながら、両方から覗き込む形となっていた。
- 魔術 髪の毛を1本抜いて、空中へ放り投げ、床に落ちる前に、精神統一をし、空間をイメージして、目を開く-
- 闇は、人を飲み込む。しかし人は、闇を作り出す。闇の中に居ることは、悪い事では無いだろう。けれど、その闇に飲み込まれ無いように注意が、必要 -
それを書き終えたロッシーは、突然上体を起こし、本から顔を上げる。
するとロッシーの羽は、消えた。
「…ふぅ。こんなもんかな…って、うっわああああああああぁぁぁっ!ゼゼゼ、ゼウス様!アルテア様まで!てか、近っ!何してるんですか!2人とも!?」
それを聞いた2人も突然の叫び声に驚いて叫んだ。
3人は、落ち着きを取り戻し、お茶とお菓子を囲み、話をする。
「どうだ?ロッシーよ。そなたが求めるものは、その目に映っておるのか?」
ゼウスは、先程とは違う表情で、ロッシーへと語りかける。
「ど、どうでしょうか?ですが、私の我儘を聞いて下さった事を、私はとても感謝しております…。アルテア様にも、お礼を申し上げなければ…」
ロッシーは、下を向くと膝の上に本を置き、それを撫でる。
「良いのですよ。ロッシー。私達は、あなたに感謝をしているのです。全てにおいて、私たちもまた、何かの思念がなければ存在しない存在。次元と時空を超えてでも、何かに対象とされなければ、いけないのですから…」
それを聞いてロッシーは、顔を上げる。
「ありがとう、ございます。それに…」
そう言ってロッシーは、後ろに顔をやりながら、自身の手を、前から肩にやる。
すると、また羽が開く。
「この羽も…本当は、取らなければならない筈なのに…」
するとゼウスは、微笑みながらロッシーを見つめる。
「いいのだよ。ならない、事などは無いのだ。ただ我々は、それが普通だと思っていただけなのだから…。我々も君に与えられたのだ…」
ロッシーは、羽を閉じてゼウスへと、手を向けて狼狽する。
「そ、そんな!やめて下さい!私はただ全ての事を知ったのなら、それに抗う事も無くなると思っただけです。それなのに、こんな本とペンまで頂いて…」
ゼウスとアルテアは、顔を見合わせる。
その顔は、心配そうだ。
「ロッシーちゃ…いや、ロッシーよ。その事なのだが、本当に良かったのだろうか?責任は、感じておらんか?」
「そうですよ。何も、あなたが、1人。この世界を担う事は無いのです。我々と共に、また復活の時を見つめるだけでも…その為に羽を…」
心配そうな2人の顔を見て、ロッシーは笑顔を作り出す。
「そんなに心配なさって下さるのは、私を想ってくれているからでしょう。そして私もまた、ゼウス様とアルテア様を想います。だからこそ、羽を取らず。この身を世界に捧げると決めたのです」
心配そうな2人の瞳は、次第に柔らかくなる。
そしてゼウスは、口を開く。
「羽を取れば、永久の間を、彷徨う事が出来よう。そして永遠に、時空を彷徨う。誰かが我々を求める時、それは意味を持ち。我々は、存在する事になる。しかし、誰も居なくなれば、我々は求められる事も無く。そして、また円へと導かれる…」
アルテアは、それに続く。
「ロッシーちゃん。これは、私たちだけの問題では無いわ。確かに。でも私たちは、それを受け止めても良いと思っているのよ?」
ロッシーは、目を瞑り考える。
「私は、もし、この世界を変えてしまったとしても、全てを忘れてしまったとしても、失くしたくないんです、愛を…。今の愛も、過去も未来も、愛は永久不滅なのですから」
ロッシーは、胸の前で手を組み祈る。
するとロッシーの頭の上に、光る輪が浮かび上がる。
それはとても優しい光を放ち、辺りを照らす。
ロッシーは、目を開けてゼウスとアルテアを交互に見る。
そして立ち上がり、腰に手を当て、胸を叩く仕草をし、大きな声を出す。
「全ては、私が叶えます!」
そして。
その穏やかな場所へ、ロッシーが、帰る事は、無くなってしまった。
- なぁ、ロッシー。今もお前に、愛はあるのか? -





