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時空魔竜騎アースガルンプロット.  作者: 一ノ元健茶樓
始まりの章
9/129

そして君は旅に出る。

 

 ― そして現在 ―


 巨大なドラゴンに乗った少女の攻撃を防ぎ、ヒックとロッシーは赤い服の少女から逃げていた。


 森を走っている途中で、ロッシーの小指に、ヒックが小指を引っ掛けて来た。


(こ、こんな時になんなのよ!?)


  とロッシーが思っていると、ヒックが


「アレだよ!アレ!」


「アレ!で分かるほど私たちの関係は深くないわよ!」


  と言う。


 それを聞き、黙って困惑しているロッシーに続けて


「本!読んだんだろ?!小指の!2人で!」


  とヒックは叫ぶ。


 そう言われてロッシーは、また頭の中で検索を始める。昨日読んだばかりの本なので、すぐに一致するものがあった。


「あっ!アレね!」


 と、ロッシーが言うと、ヒックが続く。


「そう!アレだ!」


 そして2人は、小指にチカラを込めて、タイミングを合わせる。


「行くぞ!」


「うん!」


  2人は走るのを止め、少女の方を向き、目を瞑って小指に力を込めて、同時に叫ぶ。


「「ユニリンク!!」」


  すると2人は、白と黒の光に包まれ、小指を離し、別々に宙へと浮かび上がる。


  ヒックの身体は白く輝き、その光は巨大な人型となる。


  その中心から光が消えて行くと、中からは巨大な白い騎士のような姿が現れた。


  ロッシーは、黒い光に全身が包まれ、黒い帽子に黒い服で、ミニスカートの姿へと…


  『変身』


 をした。


 そして巨大な騎士の姿になったヒックは、こう叫ぶ。


「白き不死の魂よ!我が、主を守るチカラを我が拳に!」


 その一瞬だけ騎士は動き、マントを靡かせ両手を広げる。


 そして、不動となる。

 空に浮く黒い姿となったロッシーも、続いて叫ぶ。


「黒き幼き魂よ!世界に抗うチカラを我らの為に!」


 右手の人差し指を空へとかざし、片方の手は腰に。

 そして2人は、両手を胸に当て、2人は叫ぶ。


「我は魂を捧げる!白き魔竜騎ヒック!」


「我は全ての絆!黒き魂の片鱗!ロッシー!」


 そして両手を同時に前へ出す。


 その決めポーズをした瞬間、2人の背後でキラキラとした光が、爆発する。

 突然の光と爆発で、ロッシーは驚く。


「うきゃあっ!!!」


 そして姿が変わった事と、謎にポーズを決めて叫んでしまった事に、恥ずかしさを覚えたロッシーは、空で照れながら狼狽する。


「な、なんなのよぉ…これぇ…」


 ロッシーは、ミニスカートの裾を下げるのに、必死だった。


「ん、、、んもう!嫌ぁ~~~っ!!!」


 姿が変わり、慌てふためくロッシーは、ヒックの胸前辺りで、状況を見守る形となっていた。


 赤い服の少女が、森の中を颯爽と駆けている。

 木々の間から、巨大化したヒックを見て叫ぶ。


「ちょっ!私がズルワーンを降りてからユニリンクするなんて卑怯じゃない?!しかもこんな森の中で!てかっあの女なんなの?!ロランとユニリンクしてた、あのオバサンはどこ行ったのよ!もう~!全然話が進まないわっ!こっちの都合も考えてよねっっっ!」


 と叫ぶやいなや、上空にあの青く輝く鉄の塊で出来たようなドラゴンが停止した。


「行くわよ!ズルワーン!こっちもナイトモードよ!」


 そうすると、蒼いドラゴンから声が聞こえて来る。


「分かっているよ。フォル。」


 ギギギッと音が聞こえると、ダンッ!ダンッ!

 と蒼きドラゴン ズルワーンのあちこちが轟音と共に駆動し始め、あっという間に、人型の騎士タイプへと変形する。

 森の中に2つの巨大な鎧が、少しの距離を置いて、向かい合う形となっている。


 それを、巨大な騎士となったヒックの、胸前で見ていたロッシーは、またもや度肝を抜かれた顔をして、唖然としていた。

 が、次の瞬間、ヒックの声が聞こえて来る。


「来るぞっ!戦えっ!!」


 ヒックの声はするが、姿は見えない。


「え?戦えって?!」


 現在の状況整理が、全く出来ていないロッシーにとって、その声が放つ言葉の意味を、受け取る余裕は無い。


 ズルワーンと呼ばれた巨大騎士は、こちらに距離を縮めて来ていた。

 気が抜けていたロッシーは、慌てて何も出来ない。

 ズルワーンの右パンチが、ヒックの胸部に直撃し、ヒックはそのまま後方へと吹き飛ぶ。

 胸前に居たロッシーは、途中で身体が発光し、そのまま宙に浮いた状態でズルワーンの攻撃を回避する。


「え、飛べるんだ、私…」


 ロッシーは、自分の体を眺めていた。

 そして視線を、赤い少女へと向ける。


 よく見ると向こうの赤い少女もフワフワと、宙に浮いてファイティングポーズをとっている。

 ヒックの声が、聞こえてきた。


「おい!早く起き上がらせてくれ!俺は今、自分のチカラでは動けない。俺は今、お前のナイトだ。相手のナイトから、お前を守れるだけのチカラはある!だけど戦うのはお前だロッシー!」


 ドシンッ!と巨大な音がしたと思って、ズルワーンの方を慌てて見るロッシーだったが、その姿は無くなっていた。


 不思議に思っていると、目の前が暗くなる。

 森には大きな影が、出来ていた。


「上だっ!!」


 ヒックにそう言われ、空を見るが遅かった。


 ズルワーンの巨体が、ヒックの上へ足からのしかかる。

 森は沈み、ヒックは地中へ、腹部から埋もれていく。


「ぅっぐぅっ...ッ!!」


 くぐもったヒックの声が、頭に響く。


 ガンッ!ガンッ!!

 その後もズルワーンは、片足でヒックを何度も踏みつけている。その都度、聞こえて来るヒックのうめき声。

 そしてロッシーにもまた、腹部に鈍い痛みのようなモノが伝っている。


(なんなの、これ、私はどうすればいいの。何を望まれているの。なんなの、これは。私は何をすればいいの。やめて、もうやめて。、、。怖い。痛い。訳が分からないわ...)


 ロッシーの目からは、急に涙が。

 だが攻撃が止む事はない。

 ヒックのうめき声は、強くなっていく。


 滲む視界の先には、馬乗りでヒックを殴っているズルワーンと、赤い服の少女の姿がぼんやり見える。

 そして赤い服の少女が、口を開く


「どーしたの?!ロラン!さっきは驚いたけど、あの女は飾り?!これで貴方の魂を頂いて完璧な時空魔竜騎を作り出せるわ!!世界は、、、いいえっ!!万物創世、全てが、このフォルヒックトゥーナちゃんとズルワーン!そして、あの人のモノになるっ!!!」


 (何を言っているの?あの子は?どうして普通にそんな事が出来るの…?)


 ズルワーンが、ヒックの顔を、両手で交互に殴る度、ロッシーの顔にも少し痛みが伝わる。ヒックの呻き声は、弱くなって行っている気がした。


「め、、、て、、、、もう、、、、や、めて、、、」


 フォルヒックトゥーナと名乗った少女の高笑いが、辺りに響いている。

 ロッシーの涙は止まらない。

 痛みで泣いている訳では無かった。

 何も出来ない自分に震え、状況が常識を逸してしまっている事への混乱。そして何より、ヒックのうめき声と、戦えという言葉の意味が、ロッシーには理解出来なかった。


(何故、私が戦わなければならないの…?)


 いや、理解しようとしていなかっただけかもしれない。

 産まれてから特に、誰かと争う事も無かった。

 数年前に『本』という人生を楽しむ存在を知った。

 1ヶ月ほど前までは田舎で生活し、街の事も知らずに農作業だけをしていた。独りで。本を楽しみに生きていただけの少女。


 昨日、突然、変な本を渡されて、遊び半分で魔法を使い、とても怖かった。

 数分前まではヒックとお茶をして話をしていただけだった。


 それでもロッシーは、良かったと思っていた。

 少し不思議な事が、現実に起こる気持ちの昂りと、ヒックと過ごす日々に。

 胸は熱くなっていたのに。

 その少し不思議なだけの日常は、突然、割られてしまった。


 そしてヒックに言われるまま、また魔法を使い、この状況となる。


 怖くて普通だろう。

 本当なら何日もかけ、心の整理をし、それから満を持して挑むようなこの状況の中。

 ロッシーの物語は、本人を置き去りにして、急速に進んで行く。


 ロッシーは考えた。

 今の、この状況を、打破する為に、

 今、自分が、出来る事。。。

 震える手を、震える足を、身体を、自分で、少しだけ

 抑えて。


「ロッシー!頼む!戦ってくれ!」


 ヒックからの願いを、ロッシーは受け入れようと…必死で。

 そして、1つの答えに辿り着く。


(私が…頑張らないと、ダメなんだ…今、この時を変える為には…っ!)


 目の前にある光を掴むために、出来ることを考える。

 視界と心がボヤけている。

 涙を拭いて、一生懸命に、今の自分を、周りの状況を考えた。


 あの黒い本の事も思い出し。

 全てを1つに重ねて行く。


 その小さな光へ、重なる様に。


 ...その結果。


 ロッシーは。


 飛ぶ。


 ただ、思いのまま真っ直ぐに。


 飛んだのだ。


 (今の私には飛ぶことしか出来ない。

 速く、、、もっと、、、、速く速く速く速くっ速くっ!)


「速くぅっっっっっっ!!!!!!!」


 ロッシーの身体は、黒く大きな光に包まれて、とてつもない速さで、赤い服の少女に向けて真っ直ぐに、黒い雷光の尾を引いて突進する。


 その姿は、黒き流れ星と言ったところだ。

 それに気づいたズルワーンが叫ぶ。


「フォル!危ない!!」


 振り返る暇も無く、ロッシーがフォルへ激突し、2人共に森の近くの山へと衝突し、土埃を上げる。


「フォルッ!」

「ロッシーッ!」


 魔竜騎の2人は、操縦者を心配するが動け無い。


 どちらの声も聞こえて来ない。

 少しの沈黙が辺りを包む。


 そして…

 土煙の中に立ち上がる影が、見える。

 その煙の中から出てきたのは、、、


「ロッシー!無事か?!」


 ヒックは、嬉々として思わず叫んだ。

 土埃の中から出て来たのは、ロッシーだけだった。

 ロッシーは、倒れ込んでいるヒックへと向かい、走っている。


「ええ、何とか、それよりもヒックは?!大丈夫?!私、、、わたしっ!」


 泣き顔のロッシーが、ヒックを見ながら叫ぶ。


「ごめんなさいっ!!」


 目からは大粒の涙が、止まらずに流れ落ちる。


 ズルワーンが


「フォル!フォル!!」


 と何度も叫んでいる。

 ヒックがロッシーに問いかける。


「ロッシー、ユニリンクからドラゴンモードへチェンジ。そして時を翔ぶ、、、」


 ロッシーは


「分かってるわ!昨日、読んだばっかりだから!私をナメないで!」


 と答えて叫び、そのまま詠唱する。


「時を超えし龍の叫びよ!今!この時を揺さぶり!転空の輪を生み廻せ!リンク、フレアッ!!!」


 すると


 ヒックの身体が、轟音と共に形が変わり、大きな翼を広げたドラゴンのようになる。

 ドラゴンモードのヒックは、宙を飛びながら円を描く。


 大きなゴオォォォッという、鳴き声のような叫びを響かせると、その円の中がひび割れ、クルクルと光輝く何かが渦巻く空間が現れた。

 空を飛びロッシーは、ドラゴンとなったヒックの口の中へと飛び込む。


 魔竜騎ドラゴンとなったヒックは、翼をはためかせ、その渦の中へ上昇し姿を消した。



 ロッシーは、思った。


 本を読んでいる時は分からなかったけれど、でも今なら分かるような気がする。

 もっと早く気づくべき事が、沢山あったのだと。

 もっと本を沢山読んでおけば良かったと。

 落ち着いた状態でないと、物事を思い出せない癖は直さないとダメかもしれない。

 どれほどの事を、思い出せるのだろう。


 そして私は、まだ大切な事を忘れているような気がする。


 ロッシーは物語に少し追いついたのかもしれない。

 だけれども。


 そして

 時と世界を巡る旅に出る。


 しかしロッシーはまだ

 これが自分の物語なのだと

 夢にも思わなかったのだった。


 そして…また来たいと思っていた場所へ。

 行けないというのは、辛い事なのだと知る事となる。













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