転校生
登校時間の道すがら男子生徒達が、ざわめいていた。
「おい、見ろよ、あの子…」
「か、可愛いな…」
「あんな可愛い子、うちの学校に居たか?転校生かな?」
聖天翔学園の制服を見に纒い、颯爽と歩く1人の少女が居た。
その少女は、前を歩く3人組のグループを発見すると、駆け足になり、1人の少女へと後ろから抱きつく。
「ロッシーお姉様みーっけ!」
朝、寝ぼけながらヒックとグレイに連れられて歩くロッシーは、突然後ろから抱きつかれた事で驚き、前方へと転ぶ。
抱きついた少女も、ロッシーの背後から覆い被さるように倒れ込む。
「きゃあ!」
「わわわわわ!」
2人は、登校中の学生達から笑われている。
「ちょ、ちょっと!な、なんなのよ!だ、誰?!」
そう叫んで、地面から顔を上げ、後ろの人物を見るロッシー。
「…え?本当に誰なの?」
見知らぬ少女が、ロッシーの背中に乗って微笑んでいた。それを見たロッシーは、困惑する。
それを見た背中の少女は、起き上がりロッシーに手を差し出しながら微笑みかける。
「あら、嫌だわ。ロッシーお姉様。ニアですよ?お忘れになられたの?双子の妹なのに?まぁ、ちょっとロッシーお姉様が知ってるニアっぽく無い気がするかもですけど、見た目はそんな変わってないし、分かるんじゃなくて?外では、なかなか元気が出ないんですもの!」
そう言われながらロッシーは、ニアの手を取りながら立ち上がって、ニアの顔を見つめている。
その時、何か別の世界に居るような、不思議な感覚に囚われる。
「た、確かに…似てはいるけれど…。え?新手の詐欺?なんなの?」
少しぐらつく頭で、ロッシーはそう答える。
すると学校の方から鐘の音が聞こえてきた。
周りを見ると誰も居なかった。
ヒックとグレイすら居ない。
我に返り、慌てるロッシー。
「え?!ちょっ!なんなの?!てか置いてく普通?!遅刻する!遅刻!!」
そう言って学校の方へと猛ダッシュで駆けて行く、ロッシーの後ろ姿を見ながらニアは、微笑み、そこに佇んでいた。
「待っていてね。ロッシーお姉様。私が必ず…」
そう呟くとニアの表情は、少し暗くなった。
教室に着いたロッシーは、ヒックとグレイに息を切らして詰め寄る。どうやら遅刻は免れたようだ。
「ちょっと!あんた達!なんで置いてくのよ!?」
ヒックとグレイは、顔を見合わせて驚いた。そしてグレイは、ロッシーを見つめて口を開く。
「突然消えたのは、ロッシー、君の方だよ」
驚いて呆然とするロッシーに、ヒックも口を開く。
「そうだぞ!突然、視界から消えたかと思ったら、どこにも居ねぇから俺たち置いてかれたのかと思って、慌てて教室に来たんだぞ!心配してたんだぞ!だぞ!」
2人が、何を言っているのか分からない。というような表情のロッシーは、とりあえず自分の席に着いて、何もなかった事にした。
ヒックとグレイは、それを見て、何も言わない。
事などなかった。
「いやいやいや!どこ行ってたんだよ!なんか説明あるだろ!」
「そうだよ、ロッシー。どうしたのさ?何かあったなら言ってよ?」
2人の方を少し見たロッシーは、口を開こうとしたが、始業の鐘が鳴り担任の先生が、教室へと入って来る。
「…また、昼にでも話すわね…」
ヒックとグレイは、仕方がない。と諦めて教卓の方を向く。
担任の先生が、出席を取り始め、ホームルームを開始する。
「今日は、突然だが転校生を紹介する」
教室内が、生徒達の騒めきで、少し賑やかになる。
するとグレイが、誰にも聞こえない様な声で呟いた。
「転校生?こんな時期に…誰だ?」
しかし、それはロッシーの耳へと入る。少し不思議に感じたと同時に、何か嫌な予感がしたが、教室のドアが開き、入って来た少女の姿を見て驚愕する。
先程ロッシーに、双子の妹だと名乗った少女、ニアだったからである。
教卓の横に立ち、自己紹介を始めるニア。
「どうも、皆さん。ごきげんようですわね。私は、ロッシーお姉様の双子の妹。名前はニア・ロットバニル。いつもお姉様がお世話になっております。お見知り置きを…」
そう言って、制服のスカートの裾を指で掴み、頭を下げるニア。
教室には声が飛び交う。
「ロッシーに双子の妹がいたのかよ!?」
「え?!双子なのに似てなくないか?!ニアちゃんの方が可愛いだろ!」
「お上品だなぁ…」
「てか、何処に今まで居たんだ?」
そこへ。
「おーい!静まれお前ら!話は休憩中にでもしろ。授業始めるぞ!ニアは、そこの空いている席に座ってくれ」
そう指さした先は、ヒックの右隣の空席だった。
こうして、窓側から横並びに。
グレイ、ロッシー、ヒック、ニアとなった。
座席に着く間際、ニアはグレイを横目で見た。
グレイも横目でニアを見ていた。
その間に挟まれて居たロッシーとヒックは、呆然としていて、2人の事など考える余裕などなかった。
ロッシーは、自分に双子の妹が居たことに驚いて。
ヒックは、ロッシーに双子の妹が居たことに驚いての事だった。
授業間の休憩は、クラスメイトがニアの傍を陣取って、近寄れなかった。二席隣りだというのにロッシーは、ニアとの距離がとても遠くに感じて居た。
昼休み。
ヒックが、ロッシーに声をかける。
「売店、行こうぜ…」
ロッシーは、ヒックの様子を少し不思議に思ったが、いつもの事だと思って答える。
「…うん、行く。グレイは?」
グレイは、何か考え事をしていたのか、驚いた様な表情をしたが、すぐに同行の返事をした。
3人は、教室を出て売店へと向かう。
すると後ろからニアが、声をかけて来る。
「私もご一緒しますわね。ロッシーお姉様!」
そう言ってロッシーの腕を掴み、自分の腕を絡めて、胸を押し付けるように腕を組む。
3人は、少し戸惑っていたが、断る理由もないので、それを認める。
(この子、一体、なんなんだ…)
ヒックは、無意識的にそう考えたが、すぐに何故そんな事を考えたのかを不思議に思った。
売店へと行き、昼食を物色する4人。
「あら、ロッシーお姉様。ここにはパピコがありませんね。私、パピコ好きなのに。よく2人で食べましたよね。銭湯の帰りとか…」
それを聞いたロッシーは、驚く。
「え!?わ、私、銭湯なんて…」
そう言ったロッシーの目が、少し虚ろになり、ニアの胸を揉みしだいている光景がフラッシュバックする。
「そ、そうね…銭…湯…に、よく…2人で…」
それを見ていたグレイが、2人の会話を遮る。
「ロッシー。今日はどこで食べる?屋上?中庭?」
会話に入って来るグレイを見つめるニア。
そこへヒックも会話に入って来る。
「今日は、天気も良いし、屋上にでも行こうぜ!な?ロッシー?」
ロッシーは、少し間を置いて答える。
「…ええ。え!?あ、そ、そうね!屋上で、みんなでパァっと!ニアちゃんが帰って来たお祝いしましょ!」
「ロッシーお姉様、ありがとう!」
そう言って2人は、屋上へと向かい歩き出していた。
残された2人は、呟き合う。
「ロッシーに双子の妹なんか居たの知ってたか?グレイ…」
「いや、僕にも、そんな記憶は…」
そう言いながら、2人も屋上へと歩き出す。
学校が終わり。
4人は、帰宅していた。
いつもの分かれ道。
別れの挨拶をしてヒックとグレイは、別々の道へと進む。
ニアとロッシーは、2人で同じ道を進んで行く。
「ねぇ、ニアちゃんは、今、何処に住んでいるの?」
帰り道、ふと疑問に思ったロッシーは、ニアへと尋ねる。
ニアは、快活に笑って答える。
「もう!ロッシーお姉様ってば、ご冗談がお上手ですわね!私たち、一緒に住んでいるじゃないですか!」
そう言ってニアは、いつもの帰り道へと進むロッシーの手を引っ張り、いつもと違う道へと進み始める。
ロッシーは、それを止めようともせずに、腕を引かれるまま進む。
「なぁ、ロッシーのマンションって、あっちか?」
「いや、そんな筈はない…あっちは…」
ニアという少女の事を、不審に思っていたヒックとグレイの2人は、かなりの距離をとりながら、ロッシーとニアを尾行していた。
距離がある為、会話は聞こえない。
しかし急に、進路を変更した事を不思議に思ったヒックが、思わずグレイに話しかけたのだ。
「あのニアって奴は、どこに住んでるんだ?双子って事は、ロッシーの家か?」
もう質問の意味も考えず、事実だけを元に会話をするヒック。
それにグレイは、答えなかった。
少し歩くとニアとロッシーは、足を止める。
「おかえりなさい。ロッシーお姉様!」
笑みを浮かべ、スカートを靡かせ、回転しながらロッシーの方を見て、両手を差し出すニア。
ロッシーは、また虚ろな目で、その建物の表札を眺める。
「ともしび…荘…私の、家…」
そう言いながらロッシーは、ニアの両手を掴む。そして2人は、片手で手を繋ぎながら、ともしび荘の2階の部屋へと入って行く。
「うふふ。今日はニアが!特製のお鍋をご馳走しますわね!ロッシーお姉様!ちゃんとスーパーへの買い出しも済ませてありますのよ!さ、どうぞ!」
そう言って部屋の鍵を開けて、中へと入るように促すニア。
そして、そのまま部屋へとロッシーは入って行く。
するとロッシーの顔は、いつもの表情に戻り。
「ただいま。ニアちゃん」
とだけ言う。
そして部屋の扉は、閉まる。
そのドアが、閉まる隙間から見える、ニアの片目が、ヒックとグレイを見ているように思えた。
2人は、その一瞬。
身体が、硬直したように動かなかった。
「おい、あそこは、なんなんだ…あのニアとかいうやつの、家か?あんなお上品な感じなのに、あんなボロいアパートみたいな所に住んでるのか?てかロッシーも入ってったぞ?あ、双子だから別にいいのか…てか、双子の妹なのか?本当に?」
ヒックは、そこまで言って頭を掻きむしっている。
「ヒック。無い頭をそれ以上使うな。ただでさえ馬鹿なのに、取り返しのつかない事になるぞ…」
グレイも、ともしび荘を見ながら、ヒックに声をかけたが、いつもと様子が違う。
(何故、こんな事に…)
グレイは、この世界では見せたことも無い、鋭い顔になり、自分の指を噛んでいた。
ヒックとグレイは、仕方がないので、それぞれの家へと帰る事にする。
その帰り道、ロッシーが住んでいるマンションへ、2人は寄り道してみる。
「ロッシーの、マンションは…そこを曲がった所だったよな?」
「ああ、そうだよ。合ってる。僕は間違えない」
そして2人は、道の角を曲がった。
しかし、そこにマンションなどは無く。
駐車場になっていた。
2人は、辺りを見渡す。
道を間違えたのかと、何度かその周辺を探索するが、ロッシーのマンションなど存在しなかった。
「お、おい…ロッシーは、何処に住んでたんだ?」
「な、何を言ってるんだよヒック…」
「俺、何だか…」
そう言ってヒックは、頭を振る。
グレイは、それを見て何かを確信する。
「ヒック。あの女には気をつけよう…僕らのロッシーを守るんだ…」
「…グレイ。ああ、分かった。何がおかしいのか、もう分からないけど、俺は、ロッシーを守るんだ。それに、お前との約束だって…」
それを聞いてグレイは、少し笑った。
「そうだね、ヒック」
2人は、その場で別れて家へと帰った。
グレイとの約束の期限まで、あと3日。
- エリア88消滅まで あと27分 -





