告白
ギルバート、サラン、ズルワーンに、2人のルーナ、3人のラケシス達らは、戦艦ロズウェルの艦橋で、赤く燃える大地と空。
東京の街を、見下ろしながら、何も話さなかった。
突如として、灰色の魔竜騎達が、動きを止めたのだ。
戦闘をする必要が無くなった者達。
しかし、依然として時空フィールド、エリア88は輝きを放っている。
外からは中で起こっている事は、確認できない。
それがまた、この者達の心を揺さぶるのだ。
そして1人。
ロズウェルの外。
艦の先端部分に立ち、腕組みをしてエリア88の輝きを睨む者が居た。
フォルヒックトゥーナである。
「イライラしてるわね。私…」
そう呟いて微動だにせず、瞬きだけをする。
「あと、25分程ですよ。本当にあの時空フィールドというのは、どうにかなるんでしょうか?」
ギルバートが、沈黙の中、口を開く。
「てかマヂでぇ~、なんでアイツら動き止まったんだっつーの?ワケわかんないっしょ?!不気味ぃみたいなぁ?」
サランの後に、ルーンシティのラケシスが続ける。
「そうよねぇ…。一体、この世界に今、何が起きているのかしら…ラケシスも、不安、みたいなぁ?」
一同は、思った。
(なんで今、サランの口調真似したの?)
と。
- エリア88 内部-
あの日からロッシーとニアは、2人で同じ家から登校して来る。
「おっはよお!グレイ!ヒック!」
いつも通り元気よく声をかけて来るロッシー。
しかし2人は、今まで通りを装うしかなかった。
ヒックとグレイは、あの日からロッシーの異変に気づいてはいるが、取る手段が無いのだ。
「あーあ、またこの2人の顔を朝から見てしまって、ニア、飽きましたわ!ロッシーお姉様!」
そして、このニアという少女の存在。
2人は、このニアという少女が、とても不快で仕方なかった。
それはニアも同じ様子で、日に日にその溝は、深くなる。
「うるせえぞ!このお嬢様気取りの貧乏人めが!」
ヒックが、ニアにつっかかる。
ニアは、それを鼻で笑う。
「はんっ!あの家の良さが分からないなんて、まだまだですわね!あの家にはね!なんてったって、ロッシーお姉様がいらっしゃるのよ!この世界中で、あの!家にだけ!ロッシーお姉様が存在するの?!分かるかしら?そこの馬鹿2人!?」
まさか自分まで一緒にされるとは思っていなかったグレイが、言い返そうとするヒックの顔を、涼しい顔で押しのけて反論する。
「いやいや、これは恐れ入りました。何を突然どうしたのか知らないけれど、ロッシーが突然、君と暮らす事になるとは驚いててね。僕らは、それが不愉快なのさ…」
突然、ここ数日の鬱憤を晴らすかの如く、グレイが確信に迫る話をし始めて、ヒックと、流石のニアも狼狽する。
しかし、ここに1人。
全く話を理解していない、主人公が居た。
「ねぇ、ケンカするほど仲が良いって言うでしょ?私、知ってるのよ。みんなが、私に内緒で何かコソコソしてるって!でもね。私の誕生日、まだ数ヶ月も先なのよ。気が早過ぎない?」
3人は、逆に何の話をされているのか理解するのに時間がかかった。
昼休み。
グレイとヒックは、2人だけで屋上へ来ていた。
「なぁ、お前との約束の期限…今日なんだけど…」
「あ、あぁ…そうだね…」
ヒックの問いに、少し上の空で答えるグレイ。
「なぁ。ロッシー、大丈夫かな?」
「どうだろう。以前と特に変わった所は、無いんだけど。何か、不思議と不安に思うんだ…」
「俺もだよ。あのニアって奴、やっぱりおかしい。変だよな…。なんであんな奴を素直に受け入れちまえるんだよ、ロッシーは」
「ま、それが彼女の良さでもあるんじゃないのかな…」
そう言ってグレイは、少し微笑む。
「それもそうだな…」
そう言いながらヒックも、微笑んでいた。
夕刻、ヒックとグレイは、ロッシーを公園へと呼び出した。
こっそりロッシーだけを呼び出した筈だったが、何故かニアも着いて来ていた。
(なんでコイツも…)
グレイとヒックは、苦虫を噛み潰したような表情だ。
約束の時だった。
呼び出されたロッシーは、知るはずもない。
こんな状況でもロッシーは、ロッシーなのだと確信した2人は、気持ちをぶつける事にしたのだった。
「ねぇ、ロッシー。この間の、返事を聞かせてもらえないかな?」
グレイは、話を進める事にした。
突然の事に、どぎまぎとしてロッシーは、返事をする。
「え?!ええええっと!こ、こ、こないだの事ってぇ?えぇっとぉ?」
(な、なんでこんな、みんなが居る前で突然そんな事を言い出すのよ!?なんなの?!)
ロッシーは、パニックだった。
「お、俺からも、話があるんだ。ロッシー。じ、実は…。お、俺もお前が好きだ!ロッシー!俺と付き合ってくれないか?!よろしく頼む!」
「びええええっ?!!」
突然のヒックの告白に、顔を赤くして、辺りを何故か見回すロッシー。
その時に、ニアと目が合う。
するとロッシーは。
「ニ、ニアちゃんにはまだ早いわ!見ちゃダメよ!」
と言い、何故かニアの目を両手で覆った。
(い、一体ぜんたいな、なんなワケェ?!あ、ド、ドッキリかしら、そ、そうよねぇ…私ったら真に受けちゃって、恥ずかしい…ドッキリかぁ。はぁ…ビックリした…)
グレイが、ロッシーに真剣な眼差しを向けて言い放つ。
「ロッシー、これはドッキリじゃない。僕からも、もう一度、あえて言わせてもらうよ。君の事が、好きだ。この間と気持ちは変わっていない。ヒックと話して、僕らは正々堂々と、君に告白し、答えをもらうことを決めていた。今日、この日に」
赤い照れ顔のヒックも続ける。
「今更、なんて思わないで、素直な気持ちを聞かせてくれよ。お前の、事を、俺は…大事に思ってんだ。急で悪いけど、今、返事が欲しい」
2人は、ロッシーの目を見つめている。
ロッシーの瞳には、夕暮れの公園と、ヒックとグレイの2人が、映る。
ヒックとグレイは、目を塞がれたままのニアを不思議に思っていた。
何も言い出さない。
この状況で。
人形にでもなったかのように、目隠しをされたまま、一言も発しない。
不気味であった。
「そ、そんな…急に、い、言われても…私は…」
戸惑うロッシー。
そこへ。
「ロッシーお姉様。返事は少し、お待ちになって下さいますか?」
黙っていたニアが、口を開く。
「え、ニ、ニアちゃん?!」
突然ニアが、口を開いたので驚いて、目隠しの手を離そうとするロッシー。
しかしニアは、その手を掴み、目の位置に置いたままにする。
そして、こう続けるニア。
「ねぇ、ヒック。私、ニアは、あなたの事が好きなのよ。だから、もし、ロッシーお姉様が、グレイを選んだとしたら、私とお付き合いして下さらないかしら?」
「…っ?!」
3人の目は、見開いた。
(い、いったい、な、何を言い出してるんだ…そんな事を言えば、ロッシーは…)
グレイは、その言葉の意味を瞬時に理解した。
(え?!ニ、ニアちゃん?!そ、そうだったの?!お姉ちゃんなのに、ニアちゃんのそんな気持ちも気が付かないなんて!私のバカバカバカァ!)
ロッシーは、いつも通りだった。
(えええっ?!な、なんで俺ぇ?!てか今?!いま言う事ですかぁ?!それぇ?!てか、いつから?!知り合ってまだ数日だぞ?!しかも少し下から来てんじゃん。ロッシーが、俺を選んだら自分は身を引くのかよ?!なんなの?!不思議もここまで来たら宇宙だな!?)
ヒックは、錯乱していた。
そしてニアは、その目隠しされた手を、ロッシーの手と共に、自ら開き、言い放つ。
「さぁ!答えて下さいますか!?ロッシーお姉様!」
主導権と流れが、完全に、ニアのものとなった。
「お、おい!待ってくれ、ロッシー!これはドッキリなんだよ!答えなくて良いんだ!」
グレイの額から流れる汗が、頬を伝う。
「え?!ド、ドッキリなのかよ?!」
ヒックが、慌てふためいていた。
「馬鹿か!お前は!少し状況考えろよ!」
ヒックとグレイの口論が始まる。
「お姉様、これはドッキリでも何でもありません。私たちの気持ちは、本物です。だからこそ、ロッシーお姉様の、本当の気持ちを、私たちにお聞かせ下さい…」
ニアは、ロッシーの方を振り返り、目を見つめながら真剣な眼差しを向ける。
「わ、私は…そ、その…」
目の前に居る3人を、見つめるロッシー。その表情は、なんとも形容し難い、複雑なものだった。
「グレイの事が、気になるわ…。ううん。好きよ。グレイ。この間、告白された時、嬉しかったの。けど、私、こういうのに鈍いから、自分の気持ちに気づけなくて。私なりに色々考えたのよ…ちゃんと…あれから…」
3人は、微動だにせず、ロッシーを見つめている。
「それにヒックが、最近、前と少し違うのも分かっていたわ。もしかしたらグレイとの事が、何か関係あるのかな?なんてのも考えてたの。私が自分でも気づかないうちに、グレイへの気持ちを外に漏らしていたのなら、ヒックも少し戸惑うんじゃないかな?って。けど、今日、その正体が分かった。でも、ごめんなさい。今の私では、ヒックの気持ちに答えられない。だって、もう私は決めていたんだもん…揺るがないわ。そんなに簡単に…」
そう言ってロッシーは、グレイだけを見つめる。
「そ、そんな…」
ヒックは、膝から崩れ落ちる。
そこへ、ニアが手を差し出す。
「ごめんなさい。私も焦ってしまいましたわ。今は、あなたに手を差し出して、握ってもらうだけでも嬉しい。なんて言うと、少し感じが悪いかしら?」
そう言ってニアは、ヒックへと困ったような笑みを向ける。
ヒックは、泣いていた。
滲む視界の向こうでは、ニアのその表情は、読み取れなかった。
しかし、差し出された手を繋ぎ、立ち上がる。
「わ、悪い。泣いたりなんかして。お、俺は、大丈夫だ。ニ、ニアも、悪いな、俺、今は、無理っぽい、んじゃな!」
そう言い残しヒックは、走り去ってしまう。
「それでは、ロッシーお姉様。ニアは、先に家へ帰っています。門限は、9時ですよ。ちゃんと家までナイトに送ってもらって下さいね。プリンセスロッシー」
ニアも、そんな事を言いながら公園を後にする。
なんとも言えない空気が、残された2人を包む。
「少し、そこのベンチにでも座ろう、ロッシー」
「そ、そうね…」
2人は、目に付いた近くのベンチへと向かう。
「なんか疲れたし、喉乾いたね…そこの自販機で何か買って来るよ、何が良い?」
「え、えっと?…ま、任せるわ…」
(ロッシー…)
グレイは、ロッシーの態度を見て気付く。やはり、何か気持ちを隠しているのだと。
グレイは、ロッシーの好きな炭酸飲料を買って来て、それを手渡し、ロッシーの隣へ座る。
「ありがとう…あ、これ飲みたかったんだ。嬉しい」
そう言って、微笑みながらグレイを見る。
すると笑顔の目に、涙が溢れて来ていた。
「わわ!な、何これ!?目にゴミかな?!」
それを見たグレイは、ロッシーを突然抱きしめた。
(?!)
「ごめん!ロッシー…こんな事…」
ロッシーは、何も言わず、そのままグレイの胸で声を出さずに、泣いていた。
少しの時間を置いて、落ち着いた2人は、空を眺めていた。
日は落ち、空には星が、ちらほらと顔を出している。
「ヒックの事、好きだったんじゃないのかい?」
夜空を見上げながらグレイは、ロッシーへと質問を投げかけた。
「んー、分からないわ、そんなの…」
同じく、空を見たまま答えるロッシー。
「僕は、ロッシーに好きだと言ってもらえて幸せなんだ。ありがとう。けど、もし、本当の気持ちが、変わってしまった時は、教えて欲しい」
そう言ってグレイは、自分の右手を、ロッシーの左手へと重ねる。
少しビックリしたように、体を震わせたロッシーだったが、その手を、握り返していた。
「グレイの事が、好きだし、素敵だって思ってるの。嘘じゃないし。別に、ニアちゃんに気を使った訳でもないし。私は、私なりに答えを出して、今、あなたの隣に居て、こうやって手を繋いでる」
「そうなんだ。安心した」
ロッシーの素直な顔を見てグレイは、ロッシーの気持ちに嘘は無いのだと思う。
「ねぇ、ロッシー。知ってるかい?あの星の光は、すごい昔に星が放った光なんだよ。それを僕達は、今こうして2人で見ている。その瞬間の、今しか無い光を。僕は、この一瞬の時を、君とこうして居れる事が、本当に幸せなんだな。って思うんだ。だから、この先に、何があっても、僕の傍を離れないで欲しい。約束、してくれないかな?」
そう言ってグレイは、ロッシーへ手を繋いでいない方の手の小指を差し出す。
それを見てロッシーは、微笑んでグレイの小指へと、自らの小指を繋ぐ。
「約束するわ。でも、これ…なんだか、子供みたい」
そう言いながら笑うロッシー。
「そう?僕は、好きだけどね。これ。そうだ、合言葉…。知ってる?」
「…合言葉?ゆびきりげんまん~ってやつ?」
「いや、そうじゃなくて…僕も、何だか、いつ知ったのか知らないんだけど…人と人を繋ぐ、合言葉なんだ。離れてしまわないように、2人が、一緒に居られるように作られた…」
「へぇ、そんなのがあるんだ。ロマンチックね。なんて言うの?」
グレイは、ロッシーの目を見て、こう言った。
「ユニリンク…」
と。





