ヒック
ルーナ達は、カプセルに入った少女が、娘だと聞き、驚愕する。
しかしルーナには、その気持ちが少し分かった。
「し、失礼な事を聞くけど…こ、この子は…生きているのかしら…?」
ルーナは、聞かずにはいられなかった。
「い、いえ…この子は、私たちが作り出した子供です…外見だけを…」
「お前らの魂って、何処でもそんな事するんだな!!こっちの身にもなれよっ!!」
ヒックは、叫ぶ。そして。
「嫌な予感ってこれかよ。さ、ずらかるぞ、こんな場所、ぜってぇ良い事なんて起きねぇよ!!」
と言ってルーナ達を、部屋から押し出そうとする。
「ま、待ってください!!お願いします!話だけでも聞いてください!!」
フードのルーナは、扉の前へと走って来て、ヒック達を止める。
「…チッ。話だけだからな!」
息をつくズルワーンとフード姿のルーナ。
ズルワーンが話だす。
「私たちには、フォルという娘がいました。しかしフォルは、ある日突然、急成長しだしたのです」
「私達は魔学者と科学者、フォルを研究し、何とかその成長を止めようと思ったのです。ですが…」
そう言ってフード姿のルーナは、悲しい顔をする。そのルーナの肩に、手を置くズルワーン。
「止まりませんでした。そしてフォルは、そのまま年老いて、息を引き取りました。私たちは、その悲しみに暮れ、決意したのです。フォルを取り戻そうと。私たちは研究所を抜け、2人で研究を重ねて来ました。そして見つけたのです。バニル細胞を…」
ルーナは、聞きなれない言葉に、不思議な顔をする。それを見てズルワーンは続けた。
「バニル細胞とは、亡くなったフォルの一部、心臓を調べて分かりました。その細胞は、他の細胞を包み込み、急成長させるのです。調べたところ、脳や、身体など、様々な部分から見つかりました…」
「そして、それを元に…この…」
「はい。ロッシーを作りました。私たちは当初、この子にフォルという名をつけていました。しかし…全く目を覚まさない、フォルを、フォルと呼ぶことは辛かったのです」
「だから、私たちは…失うかもしれない。でも、失わないかもしれない。という希望と不安を込めて、この子をロッシーと、名付けたのです…」
「そんな…じゃぁ…この子の元々の細胞は…フォル。だと言うの?」
何度も名前を呼ばれていたフォルは、首を傾げていた。
「ですが身体的異常は見つからず、目を覚まさないまま…成長をしています…どうか、私たちに、その技術を分けてはいただけませんか?!お願いします!」
「お願いします!ルーナさん!」
ルーナは、今まで事を、走馬灯の様に思い返していた。
「で、でも…あなた、私たちが来ることが分かっていたみたいだったけれど…」
「ルーナが…夢を見たんです…」
そう言って、フード姿のルーナが話す。
「それは昨夜の事でした。私に不思議な能力が昔からあり、夢に起きた事が現実でも起こる事が度々あったのです。そして昨夜見たのは、あなた方が何処かの街へと降り立つ夢でした。しかし、辺りはボヤけ、それは何処の街かは分かりませんでした。それに…そんな夢は現実的では無く、助けを求めた私が見た、本当の夢だと思っていました」
「だが、僕はルーナを信じてました。ルーナのチカラを。それが神に通じたのだと、僕はあなた方を、いえ、ルーナさん。あなたを見て思いました…」
そう言われたルーナは、何も言えなかった。
「お願いします!私たちは、ただフォルに帰って来て欲しいだけなんです。いえ!フォルで無くてもいい。このロッシーに命、いいえ。心をあげたいんです!」
「お願いします!ルーナさん!」
また頭を下げられるルーナ。
過去の自分たちを見ているようで、胸が痛む。
しかし、その想いは胸が弾け飛びそうなほど、痛いくらいに分かるルーナが、何かを言おうとした時だった。
「分かった。俺の魂を半分、分けてやる」
ヒックが、沈黙を破る。
大人の3人は、一斉にヒックを見て驚き、言った。
「え?!」
と。
何を言っているのか分からなかった一同は、ヒックに問う。
「な、何を言っていんだ、君は…」
「そうよ…」
「ヒック、こんな時に冗談言わないでちょうだい…私たちは本気なのよ?ギルバートさん、ルーナさん。私も、協力します!」
そう言ったルーナへ、ヒックは叫ぶ。
「バカぁ!!お前は!!また世界のバランスが崩れんだろうが!!!やめろ!!」
「だって!気持ちが分かるんですもの!!世界なんて知った事じゃないわ!」
「じゃぁ、お前は、今まで通って来た世界の事、忘れるって言うのかよ…」
「それは…」
ルーナは、心の中で葛藤を続けていた。
しかしズルワーンが、提案する。
「ルーナさん、話。だけでも聞きましょう…」
「私たちも先程、聞いていただいたので…」
フード姿のルーナも、答える。
ルーナは黙って話を聞く事にする。
「いいか?お前ら、俺は世界のバランスを正す者ヒック様だ!でもな、俺の魂をやるって事は、そのバランスを正す事が出来なくなるって事だ!」
「なら、尚更…」
ルーナが、すぐに口を割った。
「黙って聞け!俺たちの、その存在は不確かだ。何処にも縛られていないし、今までの記憶もねぇ。けどな、心と魂はある!」
「ヒックお兄ちゃん、優しいものね!」
ノートPCから、悟が喋る。
「いい事言うじゃねぇかガキ!だからだ。お前らの、その…気持ちも…分か…る」
ヒックは、少し顔を赤くしていた。
それを見たルーナが笑う。
「ふふ、あなたでも、そんな顔するのね…」
「うるせぇ!黙って聞いてろ!!そこでだ、そのロッシーとかいう奴に、俺の魂を半分くれてやる。でもな!そうすると、俺の魂は足りなくなって、俺は眠っちまう。というか、俗に言う、死ぬってやつかな?」
「ええ?!」
それを聞いて、今度はルーナ達だけでなく、フォルも、ロランも。そしてノートPCの中の悟も驚く。
「まぁ、聞けよ。問題はそこじゃねぇ」
「いや!問題よ!あなたが居なくなるなんてダメよ!!それに悟だってまだ…せ、世界は、どうなるの、よ?」
「それだぜ!良い所に気づいたな!テメェは頭だけはいいもんな!」
「だけって何よ!だけって!」
「ル、ルーナさん落ち着いて…話が進まないよ…」
ズルワーンが、興奮しているルーナをなだめる。
「続けるぞ。その悟ってガキで、俺の足りなくなった魂を埋めて、俺の役目を引き受けてもらうんだよ。な?いい考えだろ?悟の命は、俺の中に入っちまえば特異点となり、世界と切り離されるんだぜ!そうすりゃ世界のバランスは、保たれるっつーわけよ!どうだ?丸く収まったろ?」
「な、何よ、それ…じゃ、じゃぁ、悟は、ヒックになるって事なの?」
「まぁ、そういう事になるな」
「それで…どうなるのよ。いまいち理解しがたいわ…」
ルーナや、ギルバート達も、まだ疑問に思う顔をしている。
「悟って存在は、この世界から居なくなる」
それを聞いたルーナは、何も言えなかった。





