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時空魔竜騎アースガルンプロット.  作者: 一ノ元健茶樓
アースの章
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56/129

河川敷

 


 悟の脳は、収縮していた。

 そして悟自身も、衰弱して行く。


 病院では、もはや手の打ち所は無く、ルーナとズルワーンは、悟を自宅で看る事にした。


「…悟…私…私のせいだわ…あんな…」


「いや、僕が悪かったよ。ルーナ…こんな…」


 ルーナとズルワーンは、互いが自分を責め、互いで慰め合う。

 そして2人は決断する。

 悟を、保管する事を。


 ルーナとズルワーンに、この縮小を止める事は出来なかった。

 現代の医療では、解決出来ない事も分かっていた。


 しかしミアの時の様な、過ちを犯す訳には行かない。


 そして2人が下した決断が、電子脳内に悟の完全な移植、魂を作る事だった。


 2人の作業は、徹夜が続く。

 タイムリミットは近かった。

 この作業を初めてから、悟の脳の縮小スピードが早くなって行ったのだ。


 それは作業を進めれば進める程、早くなる。


「…ごめんなさい…ごめんなさい…悟…」


 ルーナは、ほとんどの時間、涙を流しながら作業をしていた。

 ズルワーンは、それを何とか助けようと、全力で協力する。


 その間、フォルは1人で居る時間が増え、そしてフォルの脳は、飛躍的に発達して行く。それに比例し肉体的な成長も、早くなっている事に2人は気づかなかった。


「…悟…悟…悟…」


「ル、ルーナ。少し、休んだ方が…」


「…」


 その優しい言葉すら、もうルーナの心には届かない。


「ねぇ、パパ…私…何だか、身体が…痛い…」


 フォルが、2人の作業部屋へ突然やって来る。


「ん?大丈夫かフォル?どう痛いんだ?パパと一緒に病院…へ…」


 その時ズルワーンは、フォルを見て、時間が止まる。

 それはフォルの時間が急速に進んでいたからだ。


 フォルの服は、窮屈そうになり、見た目は7歳くらいにまで成長していたのだ。

 この作業を進めだして、まだ3日しか過ぎて居ないのに。


「…ズルワーン、フォル…が…」


 ルーナも大切なフォルを心配し、画面から2日ぶりに目を離す。

 そしてルーナの時間も止まる。


 2人は、作業に集中したかった。

 しかし、この様な状態のフォルを放っておけるはずも無く。

 ルーナは、ズルワーンにフォルの事を任せ、1人で作業する事になる。


 しかしズルワーンは、困惑する。

 この様な状態のフォルを、普通の病院へ連れて行ける訳も無く。

 自身で原因を調べるほか、無かった。


 原因不明。


 悟もフォルも、ルーナとズルワーンの愛によって、この世界の中で歪められてしまった存在になってしまった。


 フォルの成長。

 悟の脳縮小。


 天秤が傾くように…2人は反比例する。


 そして、その日は来てしまった。

 悟に心拍数は無く、ルーナの涙は枯れ、ズルワーンは、ルーナをベットに運び、フォルはただそれを見ていた。


 そしてフォルは、悟へと近づき、頬を撫で。


「ごめんなさいね…」


 と、呟いた。


 悟の葬儀が終わる。

 祖母は、


「あんな男と居るから!悟はっ!悟…っ」


 と、ルーナを責める。

 しかし、ルーナの目にはもう、光も、涙も無かった。表情も変わらず、ルーナの父は、それを見て何も言えなかった。


 祖母と父は、実家へ帰って来ることを、ルーナに強く勧めたが、ルーナは、


「私には、まだ悟が必要なの…」


 と言い残し、2人から去って行った。


 ズルワーン、フォル、ルーナ。

 3人は朝食を食べていた。


 そして机には、1台のノートパソコンが置かれている。


「おはよう、ママ」


「おはよう、悟。少し待っててね。これ食べたらお散歩行きましょう」


「はぁい!今日は、僕、川が見たいな」


「分かったわ、一緒に川へ行きましょう」


「やったぁ!」


 この異様な光景を、ズルワーンは笑顔で眺め、フォルは無関心だった。


 2日前、眠りから起きたルーナは、10台に増えたPC群の中央へと進む。


(もう…悟の身体は、脳は、この世界には存在しない。なら、悟の魂…心を…私は…)


 ルーナは、PCから電子脳内に保存されていた、電子脳から脳へ電気信号を送る移行システムデータを削除した。


 そして、必死の想いで、集めた悟の電気信号、魂を、PC1台へと収縮して行く。


 それを電子脳を使い、PCの中で再構築し、具現化する。


「…出来たわ…戻っ…て…来て…悟…」


 ルーナは、震える指で、マウスを操作し、


【Re.Soul】


 という、ボタンを押した。


 すると突然、全てのPCの電源が切れ、部屋が闇に包まれる。

 ルーナは、愕然とした。

 失敗してしまったのだと。


 そしてルーナの目には、もう枯れ果てたと思われていた、涙が湧き出す。


 その時だった。

 正面のPCのみ、画面が点灯する。

 そして中では、悟が笑っている写真が表示される。


「ママ…おはよう…」


 悟の声だった。


「ここ…何処?ちょっとせまい…」


 ルーナの涙は、歓喜の涙へと変わり、ズルワーンの部屋へ、そのノートPCを抱え、走り出す。


「悟よ!悟がっ!」


「どうしたの?ママ?」


「ん…ルーナ…どうし…」



 次の日ルーナは、ノートPCを持ち、散歩へ出かける。

 そしてノートPCを抱え、悟とよく行った、公園や、スーパー、電車の見える河川敷などへ、足を運んだ。


 ノートPCのカメラ、マイク機能を使い、PC内で補強され、外の世界が認識出来る様になっているからである。


 その間ノートPCの画面を、外に向け、悟に外の世界が見えるようにしていたルーナは、ずっと悟と話をしていた。


 周囲からの目など、気にもせずに。


 そして、その日ルーナは確信した。

 間違いなく、悟なのだと。


 そして、これは悲しみを抱く、全ての人に、有効である事を。


 ズルワーンとルーナは、それぞれ、別の形で愛する者を、この世界に引き止めておく事に、成功したのだった。


 逃れられぬ運命の深い悲しみの末、最高の結末が、待っていたのである。


 そして今日は、ズルワーンと、行きたがらないフォルも連れて川へ行く事となる。


「あ、でんしゃだ!」


「ふふ…悟は電車が好きね…」


「…凄い…ホントに、悟なのね…」


 それまで無関心だったフォルも、これに驚く。


「フォル…これからは、お前がお姉ちゃんになるかもしれない。悟を、頼んだぞ…」


 そう言われたフォルの顔は、不服そうな顔をしながら、少し照れくさそうだった。


 4人は、河川敷をのどかに散歩する。

 人は居ない。

 好奇の目で見られる事も無い。


 平和で、天気は良く、4人は笑顔だった。


 この時までは。


「…な、なんなの…」


「…フォル、ルーナ…悟と下がって…」


 ズルワーンは、3人を守ろうと前方へと出る。


 4人の目の前の、何もない空間が、ヒビ割れていたのだった。

 それは大きなガラスが割れるような音を立て、割れていく。


 縦2メートル、横1メートル程に、空間が割れ、その中は、真っ暗な闇が広がっていた。


「…な、何なんだ…」


 ズルワーンは、驚きながらも、観察を続けてしまう。ルーナも同じだった。

 しかし、フォルが叫ぶ。


「逃げましょう!パパ!ママ!悟も!!」


 フォルは、2人の腕を持ち引っ張る。


 そのチカラに、ルーナとズルワーンは、正気に戻り、その場から逃げようとした時だった。


「待てよ、テメェら…!」


 その黒い空間から、手が現れる。そして足、そして白い髪に、つり上がった目、青年だった。


「何処へ行くんだよ…逃げれると思ってんのか?このヒック様から」


 3人は恐怖以外、何も感じなかった。

 悟は、状況把握が出来ていなかった。


「ママ…どうしたの?ママ!」


「悟、少し!眠ってて!」


 ルーナは、悟が帰って来てから初めて、ノートPCを閉じた。

 逃げる事に、集中する為である。


(も、もう、誰も…誰も欠けてはダメよ…私も、悟も、ズルワーンも、フォルも!)


 3人は、手を引き合い、全速力で振り返らずに走った。


 しかし、目の前がヒビ割れて行く。

 そして、またガラスの様に割れ、先程の青年が、目の前に現れる。


「テメェら!逃げてんじゃねーぞ!!」


 全速力で走っていた3人は、その青年の近くまで、近づいてしまう。

 そしてまた、反対側へ逃げようとした時だった。


 フォルの腕が、その青年に掴まれる。


「へへ…捕まえたぜ…ん?お前と思ったが、少し…違うな…。お前も、対象だが…じゃ、どこに、んなもん…」


 そして青年ヒックは、ルーナが持っているノートPCを見る。


「ま、まさか…そんな所に、隠してんじゃねぇだろうな…」


 フォルを手放し、一瞬でルーナの目の前に移動する青年。


「おい、お前。それ、開けて見ろよ…」


 青年は、ノートPCを指さし、ルーナに指示する。


「な、何なのよ!これはPCよ!普通の!!」


 ルーナは、そう言うと、また逃げようと走り出す。


「待てよ!」


 そう言って追いかけようとする青年の腕を、ズルワーンが掴む。


「ルーナ!逃げて!!」


 そして、フォルがその青年目掛けて走って来たと思ったら、背後から飛び蹴りをする。


「フォルも!逃げなさい!!」


 ズルワーンは叫ぶ。

 フォルの飛び蹴りを喰らっても、青年はピクリともしない。


 そして、また瞬間移動の様に、ルーナの前へと移動する。


「待てって言ってんだろーが!ったく、テメェらなんなんだよ!!」


「あなたこそ何なの?!」


 離れた場所で、ルーナと青年が話している。

 ズルワーンとフォルは、ルーナの元へと走る。


「俺はなぁ、この世界、全てのバランスを直す者だ!!テメェらが何かしたおかげで、この世界全てが変わっちまった!!何してくれてんだよ!!!」


「…なっ…私たちは…何…も…」


「嘘つくんじゃねぇ!!魂だ!!お前らは運命にヒビを入れて割り、その中から取り出しただろ!!!亡くなった何かを!!!」


「…ッ」


 ズルワーンとフォルは、ルーナの前へと出る。


「いいか?このままだとな、お前らだけのせいで、この世界、全ての法則が変わっちまうんだよ!!何様だ!テメェら!!!」


「…わ、私は…ただ…」


「ただ?なんだよ」


「悟が…悟に…私は…」


 その時だった。青年は瞬間移動し、ルーナのノートPCを奪う。

 先程まで居た位置と変わらないのに、ノートPCを手に持っている青年を見て、ルーナは驚く。


「じゃ、コイツを破壊して、調整し直したら終わりだ。良かったぜ、こんな低レベル文化の世界で起こって。いや、逆にすげぇな…」


 ルーナの眉間にどんどんとシワが寄って行く。そして、その目は鋭く釣り上がり、目は血走る。

 そして、ルーナは青年へと走り出す。


 続けてズルワーン、フォルも走り出す。


「悟をっ…悟を”っ…がえじなざいよっ!!!!!!!」


 青年は、瞬間的に移動する。

 ルーナは、飛びついたが居なくなった青年の場所へ、転ぶ。


 しかし、すぐに立ち上がり、また青年を追う。


「む、無駄に決まってんだろ?!バカか!?」


 しかし、ルーナは諦め無かった。

 その時だ。


 青年が、移動した先に、フォルが居た。

 フォルは、青年からノートPCを取り上げる。

 そして走る。ルーナに向かって。


 突然の事に、動揺した青年は、移動し、ノートPCではなく、フォルの腕を掴む。


「ママっ!これ!!」


 そしてフォルは、青年の腕を逆に掴み、離さないようにし、ノートPCを投げる。


 しかし、ルーナへは届かず、地面に落ちてしまいそうな時だった。

 ズルワーンは、それを拾い、ルーナの傍へと近寄り手渡す。

 すぐに、フォルの方へと走る。


「フォルを離せ!!」


 ルーナは、叫んだ。


「もう!!!!なんなのよ!!!!私が何をしたというの!!!!ただ!!!ただ悟をっ!!!!悟を愛しただけじゃないっ!!!!!!」


 そしてルーナは、その場に、しゃがみ込み、誰からもノートPCが見えないように、顔を地面に着け、手と足で、ノートPCを抱え込む。


 その叫びは、その場、全員に聞こえた。


 そして、青年の腕を振り切り、フォルはルーナの元へと、ズルワーンの元へと走る。


「絶対に、絶対に渡さないわ…私の悟っ…私が…守るの…絶対、絶対…に…」



 ルーナの涙は、大地へと、すぐに染み込んで行った。




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