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あの日から、悟は目覚めなかった。
あの後、1度正気を取り戻した悟だったが、すぐに眠りについてしまう。
「大丈夫、フォルと一緒さ…」
「…そうね…」
その夜の2人の会話は、これだけだった。
悟を病院へ預け、フォルとズルワーン、ルーナの3人で暮らす事になっていた。
悟以外の事も、考えることが出来るようになって来たルーナは、あの日のフォルを思い出す。
(あれは…私の聞き間違いだったのかしら…疲れてたのよね…)
そう思う事にするルーナ。
しかしフォルは、それを許さなかった。
「ねぇ、ママ?パパは私とママ、どっちの事が好きだと思う?」
「ねぇ、パパ?ママと私のどっちが好きなの?」
「ママには悟、パパにはフォルだよね?今は悟が居ないから、ママは1人ね」
ルーナは、理解する事が出来なかった。
フォルに何が起こったのか?
いやフォルは、フォルなのだ。
(また…私の…電子脳の…せい…)
ズルワーンは、そんなルーナを見かねて、相談する。
「なぁ、ルーナ。最近フォルの様子、どう思う?」
意外だった。ルーナは、ズルワーンが喜んでばかりいるものだと、思っていたからだ。
「え?ええ…そうね。ズルワーンの事が大好きみたいね…私が家を出たり、したからかしら…」
「それが原因かな?」
「また、1からフォルとの関係を築いて行くわ…ズルワーン、あなたも協力してね」
そう言ってルーナは、ズルワーンに微笑みかける。
ズルワーンは、ルーナの手を握り、小指に指を絡ませる。
「ねぇ、ルーナ覚えてる?2人で決めた、約束の合言葉…」
「フフ、そりゃ覚えてるわよ…」
「それじゃ答え合わせだ。行くよ、せーの」
『ユニリンク』
そして2人は、抱き合い声を出して笑った。
それをフォルは、扉の間から、黙って見ていた。
悟の意識は、戻らない。
フォルの時よりも、完全な形で電子脳を使用した。2人で協力もし合い、納得の形で成功を収めた。
なのに。フォルの時よりも、目覚めるのが遅いのである。
2人は考えた。
何が原因なのか?悟とフォルの年齢、体格、精神構造まで、出来うる限りを調べる。
しかし、その原因は分からない。
可能性は低いが、病院の精密検査での結果にも、希望を持つがその光はすぐに消える。
ルーナは、落ち込み食事もしなくなり、どんどんとやせ衰えて行く。
ズルワーンは、以前の自分自身を見ている様で、心を痛ませた。
常にルーナへと寄り添い、励ます。
それを良く思わない人物が居た。
フォルである。
「ねぇ、パパ?ママは死ぬの?どんどんと細くなって行くわ。ママが死ねばパパと私の二人きりね」
「な、何を言うんだ。ルーナは元気だよ。ただ、少し疲れてるのさ…それに、悟も居るんだ。大丈夫さ」
「ずっと寝てるんでしょ?起きないわよ」
「なんて事を言うんだ!フォル!待ちなさい!フォル!」
フォルは、ズルワーンとルーナ。2人が一緒に居る時は、部屋に閉じこもるか、外へ行ってしまう様になっていた。
とても5歳の子がとる行動とは、思え無かった。
次第にズルワーンも、心に曇りが見え始める。大変な時とは分かっていたが、ズルワーンはルーナへと相談する事にした。
「ルーナ、少し聞いて欲しい。フォルの事なんだが…」
「…フォル、どうかしたの?最近、あたし嫌われてるみたいなんだけど。それでも私は大切な家族だと思っているわ。話してちょうだい」
「結論から言うと、フォルの精神レベル…いや、心の成長が早すぎる気がするんだ。僕はあまり、小さな女の子がどの程度の早さで、嫉妬心の様なものが、生まれるのか知らないんだけれど。少なからず、僕が幼い時にはそんなもの無かったし。調べても分からない…」
「それは、少し私も気にはなっていたの。悟に構い過ぎたのかしら?私たちって、兄弟が居ないじゃない?もしかすると、どちらかに愛情が偏ると、そういった心の芽生えが早いのかも知れないわね。だけど…」
「どうしたんだい?」
「こんな事、言いたくは無いんだけど、あの子は一般的な子供とは、生まれも、そしてこの間の事も…普通の子供では無いわ。でもあなたの愛で、あの子は変わった。どんどん人らしくなって来ている。って事だし、もしこのまま解決の方法が見つからなければ、みんなでセラピーでも行きましょ。私たちみたいに、ロジックで考えてしまう様な人間には、必要なのかも…」
「ルーナ…君は…」
ズルワーンは、そっとルーナを抱きしめる。
「安心して、もう、あなたも私も、1人では無いわ…いいえ。あの日から、私たちは…」
『ユニリンク』
それをフォルは、また覗いていた。
その次の日だった。悟が目覚めたのは。
「…悟!悟!!ママよ?分かる?」
「ルーナ、落ち着いて…」
「…マ…マ…パパ、フォル…」
「ふーん、起きたんだ」
母と子、そして父と子が、4人揃った。
悟は、家に帰って来ても、あの症状は出なくなっていた。
悟の問題が解決した。
が、フォルの問題に今度は、悩まされる事になる。
「ママは、私と何も繋がりがないわ。悟もよ。ママと悟は私の事、好きじゃないんでしょ?」
4人で夕飯を食べている時だった。
突然、フォルがそう言い出したのは。
「ぼくは、フォルの事、好きだよ」
悟は、笑顔でフォルに答える。
「私もよ、フォル。私たちは血では無く、心で繋がれている家族なの。だから、そんな事言わないで。それにパパとママだって、血は繋がってないのよ?」
「そんなの知らないわ。邪魔なのよ、2人とも。私はパパと2人がいいの」
「フォル、そんな事を言うんじゃない。僕はママと、悟。そしてフォルを愛して居るんだ…フォルもそうじゃ無いのかい?」
「そんなの無いわ。私はパパだけが好きなのよ」
その時、フォルを見るズルワーンの目に、フォルとミアが重なる。
「…お前、隠れているのか?」
フォルは、自室へ行き、部屋に鍵をかけて閉じこもってしまう。
その夜ズルワーンは、ルーナに相談する。
「フォルの様子がおかしい原因が…分かった…」
「え?!本当なの?…何が…」
「ミアだ。僕が悪かった。フォルは、ミアの魂を受け継がせる為に、僕が作った子供だ…勝手かもしれないが、今は…」
座り、下を向いたままのズルワーンに、ルーナは寄り添う。
「ねぇ、ズルワーン。私と、ミアと…どっちの事が好きだった?」
ルーナは、優しく微笑んでいる。
「そんなの…」
「ふふ、ごめんなさい。少し、聞いて見たかったのよ。分かってるわ…。確かに、それなら、あの態度も、成長の早さも、理解出来るわ」
「も、もし、フォルがミアに乗っ取られたら…どうする?」
「ねぇ…ズルワーン。ミアの魂は、あの日、あなたから去ったのよ。でもね、まだ…あなたのここに、生きている」
そう言ってルーナは、ズルワーンの胸に手をあてる。
「あああ…僕は…僕は…」
ズルワーンは、咽び泣く。
「2度も、ミアの死を…」
「大丈夫、きっと上手く解決する方法があるわ。私も居るの…信じて。私と、ミアを…そしてフォルを…」
その夜、ルーナはずっと、ズルワーンへと寄り添う。
「あの、言い難いのですが…脳が…収縮しています。急速に。こんな事、我々も初めてで…ルーナさん、あなたなら、何かお分かりになりますか?」
ルーナは、病院へ呼ばれ、1人で医師の元へ来ていた。
「い、いえ…私でも…少し、データを見せてくださいますか?」
(…本当だわ…凄いスピードで…脳が縮小して行っている…な、何なの、これ…)
そしてルーナは、ある項目に気づく。
『フォルス』
「あ、あの…何ですか?この、フォルスっていう項目は…」
「あ、ああ、それなんですが…脳内で枝分かれしたシナプスに電子信号を送る時、正常な方向とは真逆の方へ信号が送られ、正常な電子信号と、その間違った電子信号がぶつかり合い…」
「そんな事…嘘よ…」
またデータを見直すルーナ。
(このままの、スピードと、それが本当なら…悟の脳は…1週間と、もたないわ…)





