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時空魔竜騎アースガルンプロット.  作者: 一ノ元健茶樓
アースの章
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54/129

修復

 



 慌てて家に戻ったルーナは、自室へと走り、電子脳を探した。


(…ないっ!ズルワーン、あなた!)


 ルーナは、そのままフォルが居る病院へと急いだ。


(…早まらないで…待って…)


「運転手さん!早く!!お願い!」


 ルーナは免許が無く、何も考えずタクシーに飛び乗ったが、車の進みは遅かった。


(ダメだわ!)


「ここで下ろして!」


 ルーナは無理だと言う、運転手の言う事を聞かず、メーターの金額以上を置いて、ドアを無理矢理開けさせ、道路の真ん中で車を降りる。


 電車を使い、病院まで急ぐ。

 病院へ着くなり、病室まで走る。


 フォルは、集中治療室に1人で寝ているはずだった。

 看護師が、呼び止めるのも、ルーナの耳には入らない。


 そして部屋に辿り着くと、フォルの姿は無かった。


「す、すみません、こんな夜に、困ります」

「あなた!何をしてたの?!男が来たでしょ?!ここに居たフォルは!?フォルは何処なのよ?!」


 病院は騒然となったが、ルーナは騒ぎを大きくしてしまった事を後悔する。


(しまった!くそう!)


「フォル…まだだ、君を…死なせはしないんだ。僕は…まだ、君に…」


 ズルワーンは、ルーナと暮らす家へ、フォルを連れて帰っていた。


「さぁ、フォル、君は完全なるフォルになるんだ…あの時の君に…そして、また…その笑顔を…僕に…」


「何してるの?パパ?」


 悟が起きて、ズルワーンの部屋へと入って来ていた。


「ん、ああ、悟か。見てごらん…今から、本当のフォルが帰って来るんだ…」


「本当…の、フォル?」


「そうだよ。僕が大好きだった、僕を1人だけ置いて行ってしまったフォルだ」


「フォルは、ここに居るよ。一緒に暮らしてたよ」


 それを聞いて、ズルワーンの動きは止まる。悟は続ける。


「フォルが帰って来たら、僕の妹のフォルは何処に行くの?」


「…何を言うんだ悟。どっちのフォルも、このフォルの中に残るのさ…」


 ズルワーンに、その確証は無かった。

 そして、悟の言葉はズルワーンの決意を揺るがす。


 しかし。


「フォルとまた遊べる?また、遊べるようにしてくれる?」


「…ああ、お前をもう泣かせたりはしないさ…」


「僕、嬉しいな」


「ああ、パパもだよ…ありがとう、悟」


 悟は、その無邪気さから、ズルワーンの背中を押してしまう事となる。

 ズルワーンは、寝ているフォルにヘッドギアを装着し、銀色の箱の中へと、コードを繋ぐ。


「さぁ、フォル…戻っておいで…」


 そう言って、コードの束が何本も繋がった、PCの画面を操作し、STARTのボタンを、押す。


 ヘッドギアのランプが点滅し、小さなモーターが駆動する音が聞こえる。

 すると、寝ているフォルの体は、小刻みに震えだす。


「…フォル、我慢してくれ…フォル…」


 ズルワーンは、異常を何も見逃すまいと、瞬きをするのも惜しんで、PCの画面へと集中する。


「パ、パパ…僕、こわい…」


「大丈夫だ。すぐに終わるさ…後は、脳のパルスを…フォルに」


 ヘッドギアの発光が強くなる。

 フォルの体の揺れは大きくなっていく。


「パパ!やめてよ!パパ!」


 悟は泣き出し、ズルワーンの肩を掴み揺らす。


「少し黙っててくれ!繊細な作業なんだ!」


 ズルワーンは、悟の事など、気にしている余裕は無かった。

 その時だった。


 玄関の扉が開く音がする。


「ズルワーン!あなた!!」


 ルーナの声が、部屋に響き渡る。


 そしてズルワーンが、ルーナに気を取られている時だった。

 フォルを心配するあまり、悟がフォルに着けられている、ヘッドギアを外そうとする。


「悟!?なにしてるの?!」


 ルーナが、ズルワーンの部屋へ、駆け込むのと同時だった。


 ヘッドギアは、大きな音をたて、スパークする。

 そして悟は、その電流に触れ、意識を失ってしまう。


「悟!悟!!」


「フォル!フォル!!」


 ルーナは、悟を、ズルワーンはフォルを抱きかかえる。


 悟とフォルは、同じ病室にいた。

 隔離され、体には多くのコードや、管が通されていた。


 その数日後だった。


 悟は、目を覚ます。


「…マ…マ…」


 ルーナとズルワーンは、喜びあった。

 しかし依然として、フォルは目を覚まさない。あの事件で、もう1人のフォルの鼓動は止まった。


 ズルワーンにとって残されたフォルは、この幼いフォルだけなのだった。


 悟が目覚めた後、ルーナは実家へ帰り、ズルワーンとは別居となる。


 しかし。

 回復したと思われた悟は、少し様子が変だった。時々、目を開いたまま意識が、何処かに行ってしまっている様な時があった。


 ルーナは、心配し色々な病院を回るが、原因は不明だった。

 だがルーナには、その原因が分かっていた。電子脳の副作用である。


 電子脳を使用すると稀に、その脳内シナプス構造のパルス流が逆流しかしなくなってしまうのだ。

 それにより脳に負担がかかり、他の動作を後回しにしてしまう副作用が出ることがあった。


 あの日、悟はヘッドギアを外す際、フォルとヘッドギアの間に指を入れ、指の先から全身へ電流が走った影響だろう。


 そしてルーナは、信じたく無かったのだ。フォルと、もう1人のフォルと、悟の脳の信号が入り交じり、電子脳の中へと保存されている事を。


 ルーナは、実家へ帰ったが、電子脳の解析ばかりをしていた。


 何故なら電子脳で、複雑化、もしくは変化された脳は、電子脳でしか元に戻す事が出来ないからだ。

 ルーナは、様々な病院へ悟を連れて行き、それが最後の方法だと思い知らされた。


(私のせいだわ…私が…こんな物を…)


 ズルワーンからの連絡は、あれから無かった。しかし、ある日の事だった。病院から、フォルの意識が戻ったとの報告を受けた。

 病院へ駆けつけたルーナだったが、ズルワーンが反対するのを拒み、自宅へ連れ帰ったと言う。


(もう…私には、関係ないわ…)


 ルーナは、もう疲れていた。あの2人に関わる事を。


「出来たわ…!」


 そして、その数日後。

 ルーナは、電子脳の解析に成功する。

 だが、やはり悟に電子脳を使用する事を迷ったルーナは、苦悩の日々を送る。


 そんな日々を送っているルーナのもとに、1本の電話がかかって来る。

 ズルワーンからだった。

 ルーナは、迷ったが電話に出ると衝撃を受ける。


「ママ…久しぶり、私よ。フォルよ…」


「…え、フォル…なの?」


「そうよ、パパに代わるね」


「どうだいルーナ?驚いたろ?」


「え…ええ、本当に、フォル、なの?」


「そうだよ。フォルだよ。僕の祈りが神様に通じたのさ。いや、君の作った電子脳のおかげかも知れない…」


「…そんな、なんで…急に…」


「それは、君の方が詳しいだろ?あれさ、脳が急速に発達して意識が目覚め無かったのさ。そしてある一定まで急成長し、目覚めた…そうだろ?」


「た、確かに…それは、ありえるわ…ね」


 そしてルーナは、悟を連れてズルワーンの住むマンションを尋ねる。


「やぁ、おかえり、ルーナ」


「おかえりなさい、ママ、悟お兄ちゃん」


 ルーナは、不信感を抱かずには、いられなかった。それは悟も同じだったのかも知れない。


(電話の時も思ったけれど…5歳にしては…なんだか…)


「フォル…なんだか変」


「あら?悟お兄ちゃんの方が変なんじゃないの?」


「僕が、変なの?」


「きっとそうよ。ママに治してもらったら?」


 2人の会話を聞いていてルーナの不信感は、確信へと変わる。


「ズルワーン…あなた、何も思わないの?」


「何を?ちょっとマセてるとは思うけど、男の子より、女の子の方が成長早いって言うじゃないか、気にする事無いさ」


「…そんな…」


 しかしルーナは、この時、この世界を揺るがす鍵を、鍵穴に入れる決断をしてしまう。

 いや、もう既に、このフォルという存在が、この世界をゆっくりと、揺らし始めて居たのかも知れない。


 ルーナは、またズルワーン、フォル、悟と一緒に暮らす事となる。


 少し違和感があるものの、今までの事が嘘のように、何事も無く平穏に過ぎて行った。


 しかしルーナは、電子脳の微調整を繰り返していた。完璧を目指して。


(絶対、悟を元に戻すの。フォルがあれだけ成長して、何事もないんだもの。悟の脳を元に戻すだけなら…絶対に…)


 そして、その日はやって来る。


 ルーナは、時おり来る、悟の意識が無くなるタイミングを待っていた。

 1度この状態になると、30分はそのままの状態が続く。


 その時が、決断を下す時だと考えていた。


 そしてズルワーンとフォルは、外出し、ルーナと悟、二人きりの時に、そのタイミングはやって来た。


(悟…ごめんなさい。私の責任よ。だから私が…あなたを…)


 そう思い、悟の頭にヘッドギアを装着する。

 ルーナは、PCを操作し、STARTのボタンを押すのを躊躇していた。


 しかし意を決して深呼吸し、そのボタンを押す。


(2人のフォルのパルスは消去したわ。そして、今なら悟の何処に、負担がかかっているのか判別出来る…)


 そう思いルーナは、パルス送信と解析を始める。その画面を見てルーナは驚愕した。


 負担箇所が、脳の全体に及んでいたのである。これはルーナの予想を遥かに超えていた。


「嘘よ!直接着けたわけでもないのに!」


 あまりの衝撃に、声を出し荒らげてしまうルーナ。


(嘘でしょ、嘘でしょ…こんなの…保管も修正もしきれないじゃない…)


 しかしルーナは、諦め無かった。

 出来うる限り、修正し、悟の脳内電気信号を、電子脳へと保存して行く。


(ダメだわ!)


 そう思ったルーナは、ズルワーンの部屋へ走り、ノートPC2台と、デスクトップの大型PC本体を部屋へ運び、作業を続ける。


(ここで変に治したら、また悟がおかしくなっちゃう!絶対に諦めないわ!悟っ!待ってて、今ママが治すから!!)


 電子脳から脳にかける負担は、開発当時よりも減ったものの、その負荷は危険なもので、まして子供の悟にかかる負荷を考えると、ルーナはもう後に引くことも出来なかった。


 方法はただ一つ。


 異常箇所の全修復と、悟の脳内電気信号を暗号化し、保存する事だった。万が一の場合に備え。


(容量も足りない…これだけあっても、子供の悟を保管しきれないと言うの…いえ、私が甘かったんだわ…なんて事なの…間に合わない)


 電子脳の使用時間が、伸びれば伸びる程、脳への負担は多くなる。

 悟に使用出来る時間は、長くても45分。眠っている場合、もしくは脳に集中している場合、その負荷は減る。


(まだ、目を覚まさないで…悟)


 その時、玄関の扉が開く音がする。

 ルーナは、もう1人では限界だった。


「ズルワーン!ズルワーン!!お願い!こっちへ来て!!」


「どうしたんだ!ルーナ!」


 ズルワーンは、帰って来るなり、呼ばれルーナの部屋へと走って行く。


「…ルーナ…君は…何を…」


「説明は後よ!手伝って!!修正は私がする!あなたは悟の信号を、手作業で暗号化して、保管し続けてちょうだい!自動暗号化だけじゃ間に合いそうにないの!!」


 ルーナの顔は、困惑と悲しみ、真剣さ、そして、強い意志を感じさせた。


 ズルワーンは、すぐ作業へと入る。


「パパ、ママ、何してるの?悟、どうしたの?」


「フォル、すまない。少し作業が終わるまで、静かにしててくれないか」


「分かったわ…あっち行ってるね」


 ルーナとズルワーンの作業は、15分程だったが、2人にとって、それは永遠にも感じられた。


 残り5分。


「こちらは終わった!君は?!」


 ズルワーンが、悟の現時点での、脳内信号暗号化を完了させた。

 自動化で処理した暗号を縮小し似た配列は重ね、その容量を減らし、再構築出来るプログラムをシステムに流したのだ。


「こっちも後ちょっとよ!!」


「僕も手伝おう…」


 残り2分…


「ありがとう…ごめんなさい、悟。辛い思いをさせて…」


 そして、電子脳の電源はオフになる。

 2人は時間内に、全てを終えたのである。


 ルーナはズルワーンに抱きつき、キスをする。


「ありがとう、ズルワーン…私一人じゃ間に合わなかった…ごめんなさい。勝手な事をして…」


「いいんだ…これも、僕のせいだからね…謝るのは僕の方だ…本当に…」


「私…自分が、こんなにも恐ろしい物を作っていたなんて、思わなかったわ…これは、もう…」


「いや、君は素晴らしい物を発明したんだ。僕らは少し使い方を間違えたんだ…科学は悪にも、正しい事にも使える。僕の過ちを、君が正してくれた…僕は感謝してるんだ。君に…」


「…そうね。でも、やっぱり、これはまだ、人に使うべきものではないわ…それに悟も…」


「…そうだね。祈ろう…2人で…」


 そして2人は、小指と小指を絡ませた。


 しかし、そこへフォルがやって来る。


「ママ、私のパパにあまり近づかないで」


 そう言われ


 驚いて振り向き


 ルーナは何も言えずに居た。




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